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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
613/856

608階 最終決戦②

王城4階



《おい小僧・・・俺に手加減とはいい度胸してるじゃねえか》


「手加減ではありませぬ・・・これが今のワシの精一杯なのです!」


激しい打ち合い・・・傍から見れば手加減などしているようには見えなかったがハクシの実力を知るベリトにしてみれば手を抜いているようにしか見えなかった


突きも蹴りも重く鋭い・・・それでも尚本来の実力からは程遠い


《そりゃお前・・・取り込んだ核が弱いってか?》


「・・・どうでしょう・・・取り込んだ後の事は分かりかねますので答えようがありません

・・・ね!」


《・・・》


ハクシの渾身の回し蹴りを簡単に防ぎながらベリトは考える。魔人になった者は殆どがその自我を失う。しかしハクシはハクシのまま・・・その理由を考えハクシの言葉と結び付ける


《お前・・・耐えてるのか?》


「・・・ええ・・・既に八割がた侵食されておりますが・・・何とか支配はされておりませぬ」


《抗いながら俺の相手を?・・・てかそのまま耐えられるなら戦う必要ねえんじゃねえのか?》


「無理でしょうな。必死に抗っても侵食は止まりませぬ。だから都合が良いのですよ」


《都合?》


「師がここに来たのは僥倖・・・師ならば魔人になる前でも魔人になった後でもワシを殺す事が出来る・・・ワシは人を傷付けず済み師は不肖の弟子を始末出来る・・・こんなにも都合の良い事はありません」


《小僧てめえ・・・俺に後始末を押し付ける気か?》


「師以外の身寄りがないもので・・・それにこれまで酒の買い出しに何度行ったか分かりませぬ・・・これくらいの我儘は聞いてもバチは当たりませぬぞ?」


《ぬかせ・・・調子に乗りやがって・・・》


開いた手の先から伸びる爪が鋭利さを増し力が入るとメキメキと音を立てる


床が削れるほど力強く蹴ると一瞬で間合いを詰め再び激しい応酬が始まった


攻めるベリトに受けるハクト


だがその表情は真逆だった


辛そうにするベリトに微笑むハクト


その状況が更にベリトの怒りを募らせる


《小僧ぉ!!》


「はい師匠」


その返事を聞いてベリトはある事を思い出す


それは遠い過去の話



ベリトにとって能力『錬金』はどうでもいい力だった


使い途と言えば水を酒に変える程度・・・その他の使い途は特になく戦闘で活かす方法もない・・・創造主であるインキュバスに忠誠は誓っているが『錬金』だけは唯一納得の出来ない力であった


なぜこのような力が存在するのか・・・他の魔族なら上手く活用出来るのか・・・そんな事を考える日々もあったが生を繰り返す内にどうでも良くなり酒を作る能力としてだけ使用する日々が続いた


そんなある日、錬金で作る酒に飽きたベリトは住んでいた山から降り人間の住む場所へと向かう。酒を好むようになったのも元を言えば人間が作った酒を飲んだ事がきっかけでありその味を求めての下山だった


ところが最寄りの村に訪れると村は壊滅しており酒も残っていない・・・怒りで周囲を吹き飛ばそうかとした時、人間の子の泣く声が聞こえた


見るとそこには人間の子が親と思わしき人間の前で泣いていた


周囲に生きている人間の気配はない


放っておけばこの幼き人間も死ぬだろう


ベリトは自分には関係ないとその場を立ち去ろうとするが泣き声が離れて行く程に小さくなるにも関わらず心の中で大きくなるように感じた


そして・・・なぜかベリトは人間の子を連れて帰る事に


同情や憐れみなどではない。魔族であるベリトにはそのような感情は備わっていないはずだから


連れ帰る最中ずっとなぜこのような行動をとったか考えていたが元来考えるのが苦手なベリトは住処に到着する頃には考えるのをやめていた


それよりも考えるべきと思ったのが今後どうするか


インキュバスが復活すれば招集に応じなければならない。その時に人間の子を連れて行く訳にはいかない。そこで考えたのが『鍛えて1人で生きていけるようにする』であった


そして始まる奇妙な共同生活


ベリトは少年ハクシを鍛え続けた


ある程度人間の知識があったベリトはこれが人間で言う師弟関係である事に気付くと自らを師と呼べと言いハクシを人間の子ではなく弟子と認識するようになった


ある時水を錬金して作る酒に飽きたベリトがある程度強くなったハクシに下山して酒を買ってくるように命じた


ハクシは命じられたまま下山しベリトは、久方振りの1人を味わう事に


このままハクシが戻らなくてもいいと思っていた。下山して人間に触れ自分が居るべき場所はここではなく人間の住む場所だと思えばそれでいいと


しかしハクシは戻って来た


渡した金と釣り合わない酒の量・・・どんな高価な酒を買ってきたのかとベリトはハクシから酒を受け取り飲んでみると顔を歪める


自分の作った酒より不味い・・・何より薄い


どうやらハクシは騙されたようだった。改めて見れば服は所々が破け汚れも酷く体も洗ってないせいか臭いもする。そのハクシを見て店の者は騙しても問題ない相手と判断したのだろう


怒りがふつふつと湧き上がる・・・が、その時にある視線に気付いた


ハクシが上目遣いでじっとべリトを見ていたのだ


その視線の意味が分からず首を傾げるベリト。するとハクシの視線が細かく動いている事に気付く


不味くて飲むのを途中でやめた酒とベリトの顔・・・それを交互に見ていたのだ


意味が分からずおもむろに再びハクシの買って来た酒を一口飲もうとすると表情が明るくなり、口を離すと心配そうな表情をする・・・それを繰り返しているハクシを見てようやく彼が何を考えているか気付く


おそらくハクシは自分が買ってきたものが正しかったのか心配なのだ


怒られるのか褒められるのか心配しハラハラドキドキしながらベリトの一挙手一投足を見つめていた


だがベリトはどうすればいいのか分からない


正直に不味いと言えば良いのかそれとも・・・


頭を悩ませているといつの間にか酒瓶は空に・・・自分でもこんなに早く飲みきってしまった事に驚いているとハクシが少し嬉しそうにしている事に気付いた


美味いから全て飲んでしまった・・・そうハクシは考えたのだろう。今更不味かったと言うのも気が引けベリトは思わず嘘をつく


『美味かった』と


ハクシは喜び笑顔を見せた


人間同士の争いで親を失い魔族に育てられる少年・・・その運命を恨むことなく受け入れ些細な事で喜ぶ少年を見て不思議な感情を覚えた


そしてその時の笑顔と・・・現在のハクシの笑顔が重なる



《っ!》


死を受け入れているハクシにベリトの爪は届かなかった


核を狙った一撃は砕く直前で止まり最悪の結果をもたらす事に


「どうしてです!・・・もう・・・」


ハクシの体が変貌していく


その姿を見てベリトは呟いた


《どうして?そんなの決まってんだろ?お前が買いに行かなきゃ誰が買いに行くんだ・・・あの美味い酒を買って来いハクシ!!──────》





王城5階



実の親子と知り日は浅いが確かな血の繋がりを感じていた


粗暴なジルバと実直なディーン


似ても似つかぬように思える2人だがその根底は似ていた



強くなりたい



強さを渇望するのは血か性格か・・・2人の共通点はその果てしなく強さを求めるところにあった


満足などするはずもなく2人は強さを求め続けた


そのやり方に違いはあれど・・・


「言ったはずだ。強くなりたければ戦え、と」


「修練は無駄ではありません・・・着実に強くなる唯一の手段です」


ジルバは強くなる為に戦い続け、ディーンは強くなる為に剣を振る


ディーンはいずれは高みに辿り着けると信じ、ジルバはそれを否定する


互いに譲らぬ主張は戦いの中で結果を示す他なかった


「ぐっ!」


ジルバの掌底がディーンの胸を貫くと衝撃が白銀の鎧を通過しディーンにダメージを与える


足が力を失い沈みそうになるがディーンは気迫で耐え両手で構えた剣を突き出す


ダメージを受けた直後に見事な返しが出来たのはディーンの言う正しく修練の賜物・・・しかしジルバは数多くの戦いの経験からその返しを腕に付けていた篭手で難なく受け止める


「これが経験の差だ・・・ディーンよ!」


「単なる歳の差でしょう?剣気一閃!」


体を回転させ剣を薙ぐ・・・が


「技名は言葉の通じない魔物に使うべきだな」


「・・・通じるとは思わなかったもので」


剣を振り始めたところで手首を抑えられ剣気一閃は不発に終わる


ジルバの言葉は的を得ていた。技名を言えばそれがどのような技か容易に想像出来てしまうものであれば対処されてしまう。人間の言葉を理解出来ない魔物なら特に問題はないが人間相手では技名は言うべきではない・・・手合わせならまだしも実戦では悪手に他ならなかった


「聖光破山剣!」


だがディーンはやめなかった


剣気一閃が防がれても尚一旦間合いを取り技名を叫び剣を振る


剣に纏っていたマナが放たれるとジルバに一直線に向かっていくがジルバは体を横に向けるだけで簡単に躱した


「目上の者の言葉は聞くもんだぜ?クソガキ」


「有難い言葉も貴方の口から出ると酷く陳腐なものに聞こえてしまうので・・・」


「あん?そりゃ一体どういう意味だ?」


「母と子を捨てやりたい事をやる貴方のような人の言葉など何も響かない・・・という意味です」


「母と子を捨てた?バカを言うなお前の母だった女が強い子種を欲しがり俺に抱かれ子を宿した・・・ただそれだけの事。律儀に子が出来たと報告に来たが感情のゆらぎなど一切なかった・・・『それで?』って感じだったな」


「っ!ならばなぜ私を探した!!」


「お前を?違うな。強い奴を探し辿り着いたのが俺の血を引く奴だった・・・ただそれだけだ。まあそれも変に育っちまったから期待外れだったがな」


「・・・」


「おっいいねぇ・・・いい殺気だ。どうした?今までは父と子の戯れとでも思っていたか?それが違い腹を立てたか?だが・・・」


ジルバがディーンの視界から消えた


「力に振り回されているようじゃ俺にすら勝てねえぞ・・・ディーン」


背後から声が聞こえ振り向こうとした瞬間に背中に衝撃が走る


双掌底を背中に食らい息が出来ずその場に沈むディーンを見下ろしジルバは拳を振り上げる


「ここまで来れた血に感謝し己の未熟さを呪い死ね・・・ディーン──────」

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