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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
608/856

603階 ナージ・カベイン

ロウニール達を待つ城の最上階にいるウロボロスは目が回るほどの忙しさだった


テラスにて城の外にいる魔人を操りながら水晶に映るロウニール達を見て会話をし配下に命令を出す・・・その慌ただしさを呆れるように眺めていたアバドンはふと何かに気付いた


《ウロボロス・・・何を企んでいる?》


《あーもう今更!?今忙しいんだけど・・・私は楽しみたいだけ・・・人間が・・・魔族が魔物が死力を尽くして戦う姿を見たいだけよ。前にも言わなかったっけ?》


《ならばその企みは脆くも崩れ去った訳だ》


《はあ?それってどういう・・・っ!・・・何この光・・・》


城の外のちょうど中央付近の頭上に凄まじい光を放つものが突如として現れた。それはウロボロスの目を眩し戦場にいる者達を照らし出す


《・・・へえ・・・夜目の利かない人間が対策したってこと?準備万端みたいだけど別にこれでダメになる訳じゃ・・・》


《我が言っているのは外ではない》


《え?・・・あー!!》


アバドンの視線を追って見てみると水晶の中に映し出されるロウニール達が2階へと上がっている姿だった


《なんで??まさかもう・・・違う・・・そういう事ね・・・ハア・・・こんな事なら細かいルールを決めとくべきだった・・・》


《やはり目論見と違ったか》


《ええ・・・本当は・・・上がる度に強くなっていく敵!それに対するは人間と魔族で構成されたパーティー!一人一人と傷付き倒れていく仲間の屍を越えて辿り着き現れた最凶最悪の敵アバドン!決着は如何に!?・・・ってのが見たかったの》


《なるほどな・・・だが実際は戦うものだけを置いてさっさと上がってしまったという訳か》


《ぐぬぬ・・・このままだと同時に色んな所で戦いが始まっちゃう・・・物見の水晶は各階に設置しているけど同時に戦われちゃうとじっくり観れないし・・・ああ!!》


《頭を抱え絶叫するほど後悔するくらいなら初めからきちんと練っておくべきだったな。今からルールを課すか?それとも・・・()()()か?》


《・・・いえ・・・どちらでもないわ。このまま続ける・・・六次元中継?上等じゃない・・・全てそつなく楽しんでみせるわ!》


《・・・呆れてモノも言えぬわ・・・まあいいもう少しでお遊びも終わる・・・終われば玩具の後片付けをするのみだ。今は好きなだけ散らかせウロボロスよ・・・後片付けは我がやろう》


《まだ遊ばせてくれるの?てっきり『時間切れだ』とか言われるかと思ったのに・・・》


《ここまで待たされたのだ最後まで付き合おうと思ってな。それに》


《それに?》


《いや・・・何でもない》


《・・・》


これまでウロボロスのやる事に興味を示さなかったアバドンが見つめていた先には水晶に映るロウニールの姿があった


それに気付いたウロボロスは笑みを浮かべ動き出す


《忙しくなりそうね・・・私も・・・アナタも──────》





城外戦場中心地


「将軍!あの玉は??」


頭上にて眩い光を放つ玉・・・その玉は先程ケインが懐から取り出し投げた物だった


何も聞かされていなかったジェイズが隣に立つケインに尋ねるとケインは顔を顰めてポツリと呟く


「『太陽サン』・・・らしい」


「太陽サン?ですか?なぜ太陽をさん付けで?」


「・・・敬称を付けているわけではない。それがあの玉の名前だ。ちなみに太陽は別の呼び名でサンと言うらしい」


「・・・つまり『太陽太陽』・・・それがあの玉の名前ですか・・・」


「そういう事になる・・・ロウニールめふざけた名前を・・・」


「それで何の為に・・・」


「役割は太陽と同じだ。もう既に日が暮れているからな・・・暗闇で同士討ち・・・はないだろうが見えなくて困る者がいるだろう?」


人間相手ならいざ知らず魔人相手ならある程度の暗闇でも同士討ちとはならない。人間に3mを越す大男はおらず人間側はとにかく大きいものを相手にすればいいだけ


ただ離れた場所から状況が分かりづらくなる為にどうしても明かりが必要であった


そこで用意したのが『太陽サン』


ロウニールが発光する核を何個も注ぎ込み、浮くように飛行の核を組み込んだ玉。それをロウニール達が城に突入したタイミングで使うよう指示されていた


「他にも意味はあったが・・・それは残念ながら意味をなさなかったようだ」


「と言うと?」


「おそらく魔人を操ってる奴は城の上から命令していると踏んでいた。あの玉が光れば逆光となり戦場は見えなくなると考えていたが・・・」


「っ!」


ケイン達後方部隊と城に到達したジーク達先鋒部隊の間に魔人が雪崩込む。突破だけを考え伸びきった軍は横からの攻撃に弱く容易く分断されてしまう


それを防ぐ為に魔人を操るものの目を奪おうとしたが結局は分断されてしまった


「・・・将軍・・・」


「まあ想定内だ。ここからだろ?・・・軍師」


〘はい。力押しはここまでです。ジーク殿達は通信などする暇もないと思い道具は渡しておりません。つまり先陣を切られた方々を助けるのはケイン将軍・・・貴方をおいて他にいません〙


「能書きはいいからさっさと命令しろ」


〘命令ではなく指示です・・・では退いて下さい〙


「おい!」


〘理由はいくつかありますが最も重要な理由としては『相手の出方を知りたい』のです。伸びきった軍を分断するのはセオリーではあります。なので将軍が分断を嫌い合流しようとすればセオリー通り半数を将軍に当て合流を阻止しようとするでしょう。ですがもし退いたら?追ってくるかそれとも全魔人をジーク殿達に差し向けるか・・・〙


「もし追ってこなかったらどうする?賭けているのは盤上の駒ではなく命だぞ?」


〘重々承知しております。追ってこなければすぐに引き返してもらいます。但しそのまま引き返すのではなく攻める場所は変えてもらいますが〙


「攻める場所?」


〘分断の為に中央付近にかなり投入しております。その分群れのサイドが手薄になっています。なので回り込み手薄になった箇所を攻めれば合流も早まるでしょう〙


「なるほどな・・・しかし相手も見えてるぞ?こちらが移動すれば魔人も・・・」


〘ご安心を。先手を打つのは常にこちらであれば問題ありません〙


「心強いこって・・・で、追いかけて来た時はどうする?そのまま逃げても状況は変わらないぞ?」


〘その時はそのまま左右どちらかに回り込みジーク殿達を囲む魔人に切り込んでもらいます〙


「・・・俺達の尻に火をつけるか・・・」


〘挟み撃ちに合う前に合流点出来れば勝ちです・・・悪い賭けではないと思いますが?〙


「簡単に言ってくれる・・・向こうがどう出るか見ものだな・・・撤退だ!俺に続け!」


ケインの号令で兵士達は魔人との戦いを止め撤退を開始する


すると魔人達の一部がケイン達の後を追い動き出す


「チッ!どうする軍師!」


〘・・・敵側の右陣が左陣より若干薄くなっています。将軍達は右に回り合流を目指して下さい。但しそのまま向かうと追ってきた魔人達は将軍達の前に出ます。なるべく大回りで右に向かい常に魔人達を背後に位置するよう調整して下さい〙


「簡単に言う・・・こちとらずっと走って来たっていうのに・・・」


文句を言いながらもケインは先頭に立ち大回りで魔人の群れの右側を目指す。が・・・


「しょ、将軍!」


「・・・おい・・・この場合は?」


〘・・・そのまま先程の指示通りにお願いします〙


「分かった・・・死ぬなよ軍師」


〘ええ、ご安心を・・・と言っても戦うのは私ではありませんが・・・〙


ケイン達を追いかけて来ていた魔人達は右側に向かったケイン達を無視してそのまま後方に待機するナージのいる本陣を目指し突き進む



本陣にはタンカー部隊と魔法部隊、ヒーラー部隊が控えていたがそこを狙われた形となった


「そういう性格ですか・・・安心しました」


ナージは通信を切り全てが見渡せる崖の上で一人呟く


戦場は魔人の動きにより拡大するがナージは慌てることなく次の行動に移る


「シーリス様聞こえますか?」


〘ええ聞こえるわ〙


「魔人の一部がそちらに向かっております。予定通り処理をお願いしたいのですが」


〘ええ見えているわ・・・でもいいの?やると多分戻せないけど・・・〙


「構いませんのでお願いします」


〘・・・分かったわ〙


ナージの指示によりシーリスは魔法部隊に命令する


それは単純な魔法で作る・・・誰でも思い付くような単純な罠だった




《ちょっと・・・バカなの?人間を指揮している者は》


《どうした?》


《・・・人間が再生する魔人に対して生き残るには全ての戦力を集結させて少しずつ倒していくしかない・・・だから私は集結させないように魔人を操っていたのよ。けれど人間は・・・自ら集結を拒むような行動に出た・・・》


《ほう・・・どんな行動だ?》


《落とし穴・・・よ。戦場を囲むように深い溝を作り出した・・・魔人なら越えられるけど人間ではとても無理な幅のね》


《見捨てたか・・・戦場に残る人間共を》


《・・・その可能性はあるけど・・・確かに魔人なら越えられるけど飛び越えられると言うよりは一度溝に落ちて這い上がるか向こう岸の側面にへばりつき上がれるって感じ・・・だから時間稼ぎにはなるから逃げる時間は稼げるわ。私もここを離れる訳にはいかないから逃げられたら追うつもりはない。全滅を避けるには効果的だけど・・・》


《賢いではないか。魔人の強さと再生能力を見極め無理に倒そうとせず半数以上を見殺しにし残りは確実に生かす・・・なかなか出来るものではない》


《ええ・・・でも面白くはないわ。戦場に残った人間を嬲り殺すのは容易いし逃げた人間とはここでお別れなんて・・・全然楽しくない・・・》


《ならば期待するのだな・・・これ以上何かある事を》




「シーリス殿よろしいのですかな?これはあくまで合流した後の脱出用にと考えられていたものかと・・・」


「アタシもてっきり・・・」


バウムとシーリスなど土魔法使いが総力を集め作り出した広範囲に及ぶ落とし穴・・・人間ではごく一部の者くらいしか飛び越えられないほどの幅があり落ちたら無事では済まない深さがある


約10mにも及ぶ幅と深さの溝を見て作り出した本人達も困惑の色を隠せずにいた


「一体どういうつもりなのかねぇ・・・軍師殿は。まさか迫り来る魔人の迫力に日和ったとか?」


バウムとシーリスの所にアネッサが現れ巨大な穴を見て呟く


「アネッサさん・・・それはないと思いますよ?何せあのバカ兄貴の信頼する軍略家らしいですから」


「説得力ない言葉だね・・・まあお手並み拝見といこうかね・・・ここからどう反撃に移るのかそれとも・・・」


戦場に残っているジーク達を見捨てて逃げるのか・・・口には出さなかったがそう命令されれば撤退する他なかった。土魔法を使って溝を埋める事も出来るがそうすれば魔人達は大挙する・・・そうなればタンカー部隊がいるので守りはともかくとして火力は魔法部隊のみ・・・その魔法も巻き添えを避ける為に迫って来てタンカー部隊と接触した魔人を狙い撃ちにするのは難しく混戦には向いていないのは火を見るより明らかだった


「一体何を考えてるのやら・・・信じてもいいのよね?・・・バカ兄貴」


崖の上を見上げながらシーリスは呟く


恐れをなしたか作戦の内か・・・今はまだ誰にも分からなかった・・・この男を除いては



「どういうつもり?ナージ・カベイン」


「・・・これは奥様に女王陛下・・・戦時中の為ご挨拶は省かせて頂きます」


崖の上で一人戦況を見つめるナージの元に訪れたのはサラとフレシアだった


ロウニールにより後方部隊に回されフレシアの個人的な護衛を買って出たサラだったが現在の状況に納得が出来ず作戦を立てたであろうナージの元までやって来た


「どういうつもり?」


すぐに答えないナージに苛立ちを隠さずもう一度問う


するとナージは視線を戻し懐に手を入れた


「丁度頃合です・・・お二方も見ていかれますか?我が軍の勝利の瞬間を」


「なんですって?まだ始まったばかり・・・しかも魔人は再生しているからかほとんど減ってない状態で・・・勝利?」


「ケイン将軍が魔人をかなり引き連れて来てくれました。そのまま将軍を追われるとかなりの犠牲を覚悟しなくてはなりませんでしたが幸い魔人はこちらに向かって来てくれた・・・兵力を分断させるのは余程の事がない限り悪手です。例えば私達が閣下を城に送り出す為などの理由がない限りは軍の分断は愚策と言えるでしょう」


「・・・今正にその愚策を目にしたから来たのだけど・・・」


「ではご覧下さい・・・これが私の愚策です」


ナージが筒状の物を懐から取り出し底に付いている紐を引くと先端から光の玉が飛び出した


その光の玉はけたたましい音を立てて空高く上がるとそのまま下へと落ちていった


「・・・ナージ?あれは・・・」


「信号弾です。通信道具ではなかなか全員に伝えるのは困難・・・かと言ってケイン将軍の時のように将軍に指示を伝えて向こうで指揮を執って頂くには少し騒がし過ぎますので・・・全員に分かりやすく伝えるにはこれが一番です」


「いやだから・・・え?全員?」


「はい・・・分断された勇者殿や二ヶ国の軍全体に指示を出しました・・・『右を攻めよ』と」


「右・・・ケインさんの・・・」


サラは目を細め城壁近くを見るとナージの言う通り取り残されてしまっていたジーク達が一斉にケイン達のいる右側を攻め始めた


「もうすぐ分断された軍はひとつとなるでしょう。そこからが本番です・・・敵は閣下に『力を示せ』と伝えたとか・・・ならば示しましょう・・・ロウニール・ローグ・ハーベス閣下の力を──────」

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