表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
607/856

602階 突入

魔人の大きさは大体3mほど


先頭を走るジークは半分とは言わないが体格差はかなりあった


それに魔人の腕は丸太のように太く得物を持ってないにしてもその体格差から繰り出される一撃は死を予感させるには充分なもの・・・ひとつのミスが、少しの油断が死に直結する


その魔人の群れに一番最初に突っ込むにはかなりの勇気が必要だ。俺でも躊躇しそうな状況で臆することなく一歩が出せる人間・・・それは・・・


勇気ある者・・・勇者ジーク


彼はケインの号令が聞こえると魔人の群れへと駆け出した


それに合わせてシアとヴァンパイア・・・それに従う魔物達が一斉に駆け出し、少し遅れて両翼が動き出す


「さて・・・俺達もそろそろ動くか」


中央にジーク達、両翼にラズン王国軍とリガルデル王国軍が道を切り開く。そのすぐ後ろを俺達が通り、俺達の後ろをケイン達フーリシア王国軍が守る


俺達の左右にも兵士は配置されているがあまり厚くはなく突破されれば陣形は崩れてしまうだろう


だからこの陣形を保ちながら城まで到達するには何よりも突破力が必要となる


ジーク達中央が立ち止まれば瞬く間に魔人に囲まれ立ち往生してしまうし両翼が崩れたら中央のジーク達は横から魔人の襲撃に合うことに・・・そうならない為にも先鋒の三部隊は足並みを揃え最速で城まで走り抜けなくてはならない


これまで大人しかった魔人達は俺達の突撃に合わせて動き始めた


「道を・・・開けろー!!」


聖剣『魔王殺し』に走りながらマナを溜めたジークは魔人の群れにぶつかる寸前にそのマナを解き放つ


「大した威力だ・・・今のジークなら魔王に勝てるかもな」


城までとはいかなかったがジークの一撃は魔人の群れの中央付近まで届いていた


その一撃を食らった魔人は溶けるように消え去り城への道が開かれる・・・が、しかしその道も一瞬にして左右にいた魔人が埋めてしまい閉ざされてしまった


「そう簡単にはいかないよな・・・やっぱり。けど・・・」


閉ざされてもこじ開ければいい


ジークは怯むことなく勢いそのままに魔人の群れへ


更にシアや魔物・・・そして両翼の軍が道をこじ開けていく


魔人の群れとぶつかった時は進む速度が若干落ちたけど三部隊の活躍により徐々にその速度は上がっていった


「・・・手を出せないのは歯痒いな」


「ですね・・・しかし城の中がどうなっているか分からないので温存しなくてはなりません」


「・・・ちょっとだけ手伝うってのもダメかな?」


「ダメです・・・ナージ殿から止めるようきつく言われてますので」


チッ・・・ナージの奴ディーンに余計な事を・・・


魔力が無限に近いほど漂っているから使っても何ら支障がない・・・けど魔力は問題なくても体力は消耗してしまう。シャリファ王国で魔力を使いまくってスタミナ切れを起こした事を思い出し手を出すのはやめた


すると・・・


「おっ!魔法部隊か!」


ジーク達の行く手を阻む魔人の群れに様々な魔法が降り注ぐ


ここに集まった全ての国の魔法使いで編成された魔法部隊・・・ケイン達の更に後方で待機していたその部隊が放った魔法だ


魔法部隊はシーリスが率いており少し離れた場所からジーク達を援護する


仲間に魔法が当たらぬよう調整するのはかなり難しいと思うけどそつなくこなしている。さすがは我が妹


ちなみに魔法部隊の隣にはセシーヌ率いるヒーラー部隊が待機しており魔法部隊とヒーラー部隊を守るようにシャス率いるタンカー部隊が二つの部隊の前に陣取っている


魔人の群れを突き進む3ヶ国の部隊と後方支援を目的とした能力に応じて分けた三つの部隊・・・俺達が城に入るまではほとんど作戦らしい作戦はなく城に入ってからどのように部隊を動かすか聞かされていない。魔人の動きによって変えるのだろうけどその辺はナージが上手くやるだろう


「思った通りだな・・・向こうさんも下手に動いたりしてねえようだ」


陣形こそ道を切り開く為に工夫しているがやっている事は単純に力と力のぶつかり合いに持ち込んでいる。その為魔人の群れも俺達を撃退すべく動き出したがキースの言うように特別な動きは見せていない


その為か思惑通りに事が進み徐々に城へと近付きつつあった


しかし・・・


「右翼左翼が少しずつだが押し返されて来ているな。それにケイン率いる後方部隊との距離が開いて来ている・・・先頭部隊が城に到達する頃には完全に分断され孤立してしまうな」


「そんなの分かってた事だろ?レオン。横からの攻めに弱い突破のみを考えた陣形だ・・・後は残った奴らが踏ん張るしかねえ」


「そうだな。私達はただ城に突入してからの事だけに集中するのみ・・・もしかしたらここより魔人が集中しているやもしれぬしな」


「魔人だけならいいけどな・・・」


そうなんだよな・・・城から湧いて出て来た魔人も打ち止めなのか出て来なくなりいつの間にか城門は固く閉ざされてしまっていた


ゲートが使えないから中の様子を見る事が出来ないのでどうなっているか分からない・・・もしかしたら城の中にも魔人がうようよといるかもしれない


城の中はアバドンとウロボロスだけってのが理想だけど・・・


「門はまだ見えねえがかなり城に近付いて来た!てかもうすぐ日が暮れるぞ?真っ暗になったらどうすんだ?」


「その辺は対策済みだ!それより門が開いたら一気に突入する・・・準備はいいか?」


門が開く・・・と言うより破壊しこじ開けたらジーク達と入れ替わるようにして俺達は城の中へ・・・ジーク達はその入口を塞ぐように今度は城に背を向けて魔人達と戦う事になる


きっと多くの人達が犠牲になる・・・けどやらなければ人間は滅亡する・・・どちらを選ぶかなんて言わずもがなだが出来れば誰も死んで欲しくない


「ロウニール様・・・開きます」


「ああ・・・行くぞ!」


ジークが魔人に対してではなく門に向かって行くのが見えた


手にはマナを込めた聖剣を持ち空高く飛び上がると門に向かって振り下ろした


轟音が鳴り響き門は破壊され城壁に阻まれていた城がその姿を現す


「ロウニール!!」


「ジーク!・・・死ぬなよ!」


「お前もな!」


着地したジークとすれ違い俺達は破壊された門を通り城へと向かい、ジークは体を反転させ城に背を向けた


ここからが本当の勝負だ・・・勝つか負けるか生きるか死ぬか・・・全てはこれからの勝負にかかっている──────




城の周りをぐるりと囲む城壁の内部に魔人はいなかった。これは崖の上から見た時に確認済み・・・まあどこから湧いているか分からなかったのでいつの間にか魔人が溢れていた・・・なんて事も考えられたけどどうやら魔人も品切れのようだ


「ロウニール様お気を付け下さい。魔力の流れが強引に捻じ曲げられており使用が困難になっています」


「王都に張っていた結界のようなものと一緒か・・・まあ城の中は平気なはずだ・・・自分達にも影響のあるものだろうし」


前に来た時は手入れの行き届いた中庭だった気がする・・・けど今は草木は枯れ地面は荒れ放題となっていた。そんな中を走りながら眺めているとあっという間に城の入口へと辿り着く


「この中にアバドンがいるのか」


「玄関で迎えてくれればいいけどな」


「約束を違えたとか言って出掛けでないといいけどね」


この作戦は結構ギリギリなんだよな・・・魔人は城を守る為に配置したのではなく俺達の力を試す為に配置した。全滅させろとは言われてないけど力を示せと言われているからこの強引な突破が果たしてお気に召してもらえたかどうか・・・もし城の中がもぬけの殻だった場合、アバドンと対峙するのはいくつかの街・・・もしくはくにが灰燼と化した後かもしれない


力を示せと言われてギリギリ許容範囲だろうと考え抜いたのがこの作戦だが果たして凶と出るか吉と出るか・・・


「・・・開けるぞ」


キースが扉に手をかけこちらに振り向く。俺は無言で頷くとキースはゆっくりと扉を開けた


「・・・王城にしちゃえらく殺風景だな・・・こんなもんか?」


違う・・・以前来た時と造りが全く違っている


確か入ると広間があり奥に2階に上がる階段が左右にあったはず・・・その階段を上がると謁見の間に通じる道がありそこを通って謁見の間に行った記憶がある


けど今目の前に広がる光景は殺風景な部屋・・・奥にあった階段もどこに通じているか知らないけどいくつかのドアも無くなっている・・・ただただ広い空間が広がっていた


「フーリシア王国の王城とはかなり違うな」


「違い過ぎるだろ・・・清貧でもアピールしてんのか?」


絨毯が敷かれていた床も絨毯がなくなり削られた石床が露出している。綺麗に削られておりこれはこれでありだとは思うけどフカフカの絨毯が敷かれている時を知っているからか物足りなさを感じてしまう


〘やってくれたね〙


「っ!?」


何もない部屋に突然声が響く


女性の声?あのアバドンの姿からこの声が発せられるとは想像出来ないな・・・となると・・・


「ウロボロスか?」


〘正解!初めましてだね・・・ロウニール・ローグ・ハーベス〙


どうやら姿は見えないが会話は出来るらしい。通信道具を使っているのか?


「初めましてと言うなら声だけじゃなく姿を見せろよ」


〘ごめんね色々忙しくてそっちに行けないから上がって来てくれるかな?〙


「あったはずの階段が見当たらないが?」


〘あー、そうだった。上がる為の階段ならその部屋の奥に行けばあるよ。そこからじゃ見えないだろうけど奥に行けば分かると思う〙


「・・・城の中身を変えたのはお前か?」


〘そうだよ。暇だったからね・・・実際に手を加えたのは人間だけど・・・なかなかいい感じでしょ?〙


「どうだろうな・・・ところでさっき言った『やってくれたね』ってのはどういう意味だ?」


〘そのままの意味だよ。てっきり魔人を全て処理した後に入って来るかと思いきやまさか強行突破するなんて・・・〙


「ダメだったか?」


〘うーん・・・ダメじゃないけどあまりに予想外だったからびっくりしただけ・・・もう少し遊びたかったのになぁ〙


「遊びたきゃ直接遊んでやるから出て来いよ」


〘・・・まだ遊び足りないんだけど・・・かと言って表を放ってはおけないし・・・〙


「ならどうするんだ?今から外に出て魔人を蹴散らして来るか?」


〘・・・うーん、それはいいわ。せっかくだからこの状況を楽しむ事にするわ〙


「楽しむ?」


〘私は今手が離せないから上って来て欲しいの。けど簡単に上って来てもつまらないから催し物を用意したからそれをクリアしながら上って来て〙


「・・・それを聞くとでも?」


〘別に聞かなくてもいいけどその場合はアバドンが動き出すわよ?今は私との約束で動いてないだけ・・・アナタが私の頼みを聞かないのなら私もアバドンとの約束を破棄する・・・それでも聞かないのなら勝手にして〙


アバドンが動いてない理由はウロボロス?


なんで・・・いや、今は理由を考えている場合じゃないか・・・


「分かった。そこで待っててくれるなら聞いてやる」


〘なんだか偉そうね。簡単なことよ・・・私達は城のてっぺんに居るのだけどそこから数えると6階になる・・・階ごとにボスを用意したから倒して進んで行く・・・ただそれだけよ〙


「・・・まるでダンジョンだな」


〘ええ着想はアナタの・・・いえインキュバスのダンジョンから得たものよ。おあつらえ向きにアナタ達は6人いるから1人1体のボスを倒せば見事クリア・・・アバドンへの挑戦権獲得ってわけ。ちなみになんで6人で入って来たの?〙


「・・・別に理由はない」


〘・・・そう・・・まあいいわ。細かいルールは特にないわ・・・ただ一つ・・・私を楽しませて〙


「お気に召さなきゃどうなる?」


〘アバドンがこの世界を滅ぼすだけよ〙


「・・・何でも『アバドン』なんだな」


〘仕方ないでしょ?私は戦いに不向きだもの・・・それとも不毛な戦いが好み?〙


「不毛な戦い?」


〘私死ねないの・・・てか私の事は置いといて早く上がって来てね。アバドンもそうだし外にいる人間もどうなるか分からないわよ?いい事教えてあげる・・・私が本気を出せば魔人の再生能力はもっと上がる・・・それこそ不死身と言えるくらいに・・・その魔人を相手にどれだけ耐えられるかしらね・・・外にいる人間達は〙


『再生』のウロボロス・・・アバドンのオマケみたいに考えていたが思ったより厄介だな


魔人を操っているのはアバドンではなくウロボロス・・・そしてウロボロスが本気になれば再生能力はこれまで以上に上がる・・・そうなるとただでさえ多い魔人の数は減らずに体力だけが消耗していきいずれ・・・


とっととケリを付けないとみんなが危ない・・・


「ならすぐに上がってやるよ・・・首を洗って待ってろ──────」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ