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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
605/856

600階 崖の上のケイン

切り立った崖の上で総勢5万の兵士を眺める3人の姿があった


「壮観ですね。各国1万ずつ・・・しかも率いるは各国きっての実力者達・・・それを束ねるお気持ちはいかがですか?ケイン将軍」


「・・・悪くはない。一夜限りなのが惜しいな・・・数では負けるが歴史上最強と言っても過言ではないだろう」


「そうですね・・・この軍を率いて負ける事はないでしょう・・・相手が人であった場合に限りますが」


「その軍がやるべき事が人を送り届ける事とは・・・」


「人ではなく希望を届ける・・・そう思えば些かマシなのでは?」


「まあな・・・それで本当にあの作戦通りに動くのか?先頭集団に死ねと言っているようなものだぞ?」


「ロウニール様が仰ってた事が事実ならそうせざるを得ません。希望を安全に最速で届けるには他に方法がありませんので」


「分断された先頭集団を助けには?」


「もちろん考えています・・・が、その辺は二の次三の次です。将軍はあくまでロウニール様達を城に送り届ける事に集中して下さい。あ、それとロウニール様に作って頂いた耳に取り付けられる通信道具は必ず忘れないで下さい」


「分かった・・・他には?」


「死なないで下さい」


「・・・」


「勘違いしないで下さいね?将軍は指揮官です。命令系統の混乱を避ける為にあえて指揮官はケイン将軍お一人となっています。軍を分断されようが将軍だけなのです。そこをお忘れなくようお願い致します」


「・・・理由を聞いても?」


「その時が来れば分かります。ああ、それと中央からやや後方に陣取って下さい。決して中央より前には行かぬよう気をつけて下さればそれで・・・後はこちらで何とかします」


「余計な事は考えずとりあえずロウニールを送り届けろ・・・そう言いたいのか?」


「はい。次策が頭に入っていると無意識に行動に移してしまう可能性がありますので・・・」


「お前の指示に従え、と・・・まるで操り人形だな」


「戦地での視野と離れた場所からの視野は違いますのでご容赦ください」


「分かっている・・・馬にでも跨っていれば視野も広くなるが戦地から見えるのは魔人と周辺の味方のみ・・・戦局すら理解するのは難しいだろうからな。味方の位置や魔人の動向が見えるお前が指示するのは当然だろう。思ってたのと多少違ったから出た愚痴だ・・・許せ」


「私もですよ。幼い頃から戦争というものに憧れを抱いていました・・・私ならこうするああすると妄想を繰り返し私ならもっと上手くやると・・・ですが実際は上手くいかないものですね・・・」


「最善の手と思われる策が多くの犠牲を伴う・・・妄想の中では誰一人として犠牲になることなく完勝だっただろうな」


「ええ・・・もしかしたら妄想の中でも何人か犠牲になっているかもしれませんが所詮妄想の中の人・・・現実とは違います」


「・・・だが考える限り最善の手なのだろう?」


「はい。最悪を避ける為の最善の手となります」


「その最善の手が賞賛されるか非難されるかは犠牲の数によって決まりそうだな」


「そうですね・・・ロウニール様の勝利が前提ですが」


「勝つさ・・・アイツは」


「なぜそう言い切れるのですか?」


「何度も見て来たからな。何の取り柄もない小僧が魔王を倒し今や公爵だぞ?それ以上の奇跡があるなら教えてくれ」


「確かに・・・そう考えるとアバドンを討伐する事など容易く思えてしまいますね。何の取り柄もないは少し言い過ぎのような気もしますが」


「アイツを以前から知っているからな・・・まだエモーンズが村だった頃に門番をしていたアイツをな」


最初にケインとロウニールが会ったのはディーンと共に村の中に出来たダンジョンを調査する為にエモーンズに訪れた時だった


ヘクトに言われて馬車の中を検めようとするロウニールを見てケインは『使えない奴』という印象を持った。しかしケインがエモーンズに配属されると部下となりあれよあれよという間に立場が逆転しケインはロウニールに仕える事に・・・初めて会った時には想像もつかなかった奇跡が起きていた


その奇跡に比べればアバドン討伐など造作もないとケインは笑う


「・・・そうですか・・・!・・・それでは私は後方に編成された部隊の様子を見て来ます。ジェイズ殿行きましょうか」


「へ!?・・・あっ!・・・はい!」


突然言われて驚いたジェイズだったが何かに気付きナージが言わんとしていることを理解し慌ててナージの後を追う


残されたケインは2人がこの場を去った理由には気付いていたがあえて見て見ぬふりをして崖下に広がる兵士達へと視線を戻した


するとその理由となった人物はケインの横に立ち同じように崖下を見下ろすと口を開く


「息災だったか?」


「・・・ええ」


「まさか久しぶりの再会がこうなろうとは思いもよらなかった」


「・・・国の守護たる貴方がこのような場所にいて平気なのですか?王国騎士団長殿」


「女王陛下は聡明な方だ・・・この戦争に敗れれば国を守っても意味がないことを理解されている。凡夫な王なら理解したとしても我が身可愛さに口が裂けても王国騎士団長の私を他国になど向かわせはしなかっただろう」


「それは前国王の批判と受け取っても?」


「構わない。忠誠はあくまで王国に捧げていた。今も変わらぬが女王陛下は王国そのものと言えよう・・・前国王と違ってな」


「随分とはっきり仰るのですね」


「苦労させられて来たからな・・・鬱憤も溜まるというものだ」


「その苦労の中には家庭を顧みなかった事も含まれますか?」


「・・・どうだろうな・・・いや・・・前国王のせいではなく私の性分だろう・・・恨まれても仕方ない」


「恨む?誰が誰をですか?」


「恨んでいるのだろう?家庭を顧みなかった私を・・・家族よりも王国を選んだ私を。だから王国騎士団ではなく第三騎士団に入団したのだろう?」


「まさか。第三騎士団に入ったのは『意地』です」


「意地?」


「知っての通り俺の同期にはディーンそしてランスがいました。一応は俺も成績は良かったのですがいつも3番手・・・2人には卒業までの間ずっと勝てずにいました。それでも王国騎士団に入ろうとしてました・・・ある一言を聞くまでは」


「何を言われた?」


「講師に言われたのですよ・・・『ディーンやランスがいなければトップだった』と・・・講師は悪気があって言った訳ではありません・・・むしろ慰めや励ましの意味で言ったのでしょう。しかしその言葉は『どうせ2人は別の道に進む』と逃げていた事に気付かせてくれる言葉でした。だからあえてディーンと同じ道を歩む事に決めたのです・・・そこでトップとなり晴れて王国騎士団に入る為に・・・なので王国騎士団に入らなかったのは当てつけではありません・・・単なる『意地』です」


「・・・ではいずれ王国騎士団に?」


「はい・・・まあ結局騎士団に入っても負けて辺境の地に飛ばされてしまいましたが・・・それに今はその気持ちも薄れています・・・いや、もうないかもしれません」


「・・・何故だ?」


「王国騎士団長の・・・父上の気持ちが分かったからです。責任ある立場になりようやく・・・長になるというものがどういう事なのか・・・分かったからです」


ケインは崖下から視線を隣に立つ王国騎士団長ジュネーズに向けた


「なるほどな・・・子の成長を喜ぶべきか別の道を歩むのを悲しむべきか・・・」


ジュネーズも視線を隣に向ける


そして2人は微笑むと再び崖下に視線を戻した


「・・・少し背が縮みましたか?」


「お前が大きくなっただけだ・・・見上げるほどにな」


「そうでしたか・・・久しぶりにお会いしたので分かりませんでした」


「皮肉か?」


「事実を述べたまでです」


「・・・事実か・・・そうだな・・・久しく家にも顔を出していない・・・この戦いが終わったら顔を出してみるか」


「引退しゆっくりされたらどうですか?」


「そこまで老け込んではない」


「そうではなく需要がなくなるからです。この戦いが終われば世界は平穏を取り戻します・・・王国騎士団の仕事も激減するでしょう。なのでそれを機に後進に譲るというのもありかと思いまして」


「団長の座をか?」


「ええ。聖騎士団団長も務めた事のあるランスなら上手くやるかと・・・」


「・・・公爵の将軍で満足したのか?この戦い如何ではお前も充分・・・」


「公爵閣下にはまだまだ俺が必要なようで・・・それに王国を護る騎士よりも大陸を護る騎士の方がやり甲斐がありますし」


「言いよるわ」


「憧れは目指すものではなく超えるべきものであると気付かされました・・・目指し追いついた時には目指したものは成長を続け更なる高みにいる・・・なので追いかけるのではなく抜き去る為に努力すべきでした」


「もう抜いたつもりか?」


「まさか・・・ですが明日には抜いているやもしれません。この戦いに勝てば世界を護った騎士となれますので。王国を護ったより箔が付くと思いませんか?王国騎士団長殿」


「・・・そこまで嘯くなら見せてもらおう・・・私をお前の隊に編成しろ」


「王国騎士団は聖女率いるヒーラー隊の護衛では?」


「それはランスに任せる。私個人として隊に入れてくれればいい」


「・・・分かりました。軍師にそのように伝えておきます」


「下手な指揮を執れば取って代わるぞ?」


「肝に銘じます」


ジュネーズはその返事を聞き微笑みを浮かべその場を後にする。2人は再び視線を合わせることはなかったがケインもジュネーズと同じくその場で笑みを浮かべる


「・・・沢山の人を見下ろして笑うなんて・・・支配者気分を満喫しているのか?」


「・・・そうだな・・・これだけの人数が俺に従うと思うと自然と笑みが溢れた・・・で、何の用だロウニール」


ジュネーズと入れ替わりでロウニールが来てケインの横に並び立つ


「うへぇ・・・改めて見ると凄い人数だな・・・横から見るのと違って凄い迫力だ」


「ロウニール・・・()()()()


「・・・さっきナージが俺の所に来てな・・・『出陣する前に兵士を鼓舞してくれ』って・・・」


「出陣前に演説し士気を高めるのは聞いた事がある・・・それがどうした?」


「いやほらさ・・・俺って人見知りじゃん?」


「知らん。そもそも門番は人見知りで務まるのか?」


「少人数なら発動しないけどこれだけの大人数を前だと発動しちゃう訳よ・・・人見知りが」


「・・・で?」


「代わってくらない?」


「何をだ?」


「だから演説」


「貴様が頼まれたのだろう?やれ」


「そこをなんとか」


「くどい。これから人類を救えるかの戦いに挑む男がそんなものに怖気付いてどうする・・・やれ」


「ぐっ・・・それとこれとは違うだろ?・・・頼むよケイン終わったら何でもひとつ言う事聞くからさ」


「何でも?」


「聞ける範囲ならだけど・・・」


「・・・いいだろう」


「よっしゃ!頼んだ!ナージには俺から言っとく」


ロウニールは相当嬉しいのか飛び跳ねて喜びケインの気が変わらない内にとすぐさまその場を立ち去ろうとした・・・が、ひとつ気になる事があり立ち止まると振り返りその場に佇むケインに尋ねる


「そういえばさっきすれ違ったオッサン・・・誰だっけ?見覚えがあるようなないような・・・」


あまり関わり合いがなかったジュネーズの事をすっかり忘れてしまっていたロウニールが首を捻るとケインはロウニールを見ることなく笑みを浮かべた


「オッサンか・・・そうだな・・・ただのオッサンだ・・・ただし『フーリシア王国最高の』が名前の前に付くがな」


「フーリシア王国最高のただのオッサン・・・なんだそりゃ」


「さあな──────」



風が吹く


それは向かい風か追い風か


決戦の火蓋は今まさに切られようとしていた──────

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