598階 アバドン討伐作戦
俺が用意した天幕の中に錚々たるメンバーがズラリと並ぶ
シャリファ王国国王フレシア・セレン・シャリファ
同国将軍シャス・クーデリ・アンキス
同国バウムにアネッサに聖女マーナ
ラズン王国国王ワグナ・ザジ
同国アホ息子ギリス・ザジ
同国コゲツにアッシュと護天を代表してリュウダ
リガルデル王国将軍アルオン・マダスト・エシリス
同国将軍だったが今や奴隷に近いオルシア・ブークド・ダナトル
アーキド王国海将ネターナ・フルテド・アージニス
同国人将バベルに地将ソワナ
フーリシア王国将軍ディーン・クジャタ・アンキネス
同国宮廷魔術師我が妹シーリス
勇者ジーク
そして俺の陣営として俺ことロウニール・ローグ・ハーベス
同陣営クールビューティサラ・ローグ・ハーベス
同陣営キースとレオン
そして同陣営ケインとナージ
・・・20人くらいと言ったからその人数は収容出来るような天幕を探して引っ張り出したがギチギチやんけ!もっと大きい天幕とテーブルを持ってくれば良かった・・・
「茶も出ねえのか?この国は」
ここはファミリシア王国です。しかも敵陣真っ只中です。黙れ殿
「後程準備させるので今暫くご勘弁を・・・それではこれより『アバドン討伐作戦』の概要を説明致します」
「その作戦名はどうにかならないの?もっとこう・・・ファミリシア上陸作戦とかさ」
上陸作戦って・・・もう既に陸地ですが?
「・・・ネターナ将軍・・・作戦名につきましては後程検討致しますので先ずは作戦の内容を話させて下さい」
検討するんかい
「この狭さはどうにかならないの?暑いのだけど・・・凍らせていい?」
何を!?
「今暫くお待ちを・・・」
と言ってるそばから他の連中もあーだこーだ言い始めた。初めは比較的穏やかだったナージの顔も次第に視線が鋭くなり眉間に皺が寄った段階でナージの横に座っていたケインが突然立ち上がった
「黙れ」
おおぅ各国の要人・・・しかも王様までいる中で『黙れ』の一言を放つとは・・・
「おいお前の配下だろ?ヤバくねえかアレ」
と俺の隣に座るギリスが耳打ちしてきた
うん、ヤバいね・・・お前も相当だけどな
みんなも遠慮のないケインの一言に思わず黙るとナージはここぞとばかりに咳払いをし早口で作戦の内容を話し始めた
「ご挨拶は省かせてもらいます。先ずは今の状況ですがファミリシア王国王都ファミリシアは見た通り壊滅しており城を残すのみとなっております。そして城の前には無数の魔人がおり愚かにもとある方は少数でこれに挑んだ訳ですが・・・」
ん?今何か悪口言われなかった?
「現在魔人達は撤退した軍を追うことなく城の前で待ち構えている状況・・・ですので魔人を配置した目的は『城の守備』だと考えられます」
まあそうだろうな・・・魔人を無視して城に行ければいいのだけど城は妨害されててゲートは使えないし城の入口にゲートを開こうものならゲートに魔人が殺到しそうだし・・・それに魔人がゲートを通って来なくても入口付近は魔人だらけ・・・魔人に囲まれたらひとたまりもない
でも魔人の群れを全て倒すのに一体どれくらいの日数がかかるやら・・・時間がかかればかかるほどアバドンが出て来る可能性が高まる・・・ずっと城で待ってくれるって確約があれば別だけどそんなものはない。あまり時間をかけると『実力不足』と判断され動き出してくるかもしれない
「城の守備か・・・だったら無理して突っ込まないで奴らが動くのを待ってた方がいいんじゃねえか?戦争は攻めより守りの方が有利だ・・・ここに要塞でもこさえて気長に待ってた方が得策に思えるがな」
「ワグナ国王陛下の仰る通り守備側の方が有利です。ですが向こうにはアバドンいます。要塞など建ててもすぐに壊されてしまうでしょう」
「ハッ、そのアバドンってのも眉唾もんなんだがな・・・本当にロウニの言うように人類を滅亡させる程の力があるのならさっさと出て来てもおかしくないだろ?何故城に篭っている?」
「それは分かりかねます。城で待っているとロウニール閣下に伝言があったようですが・・・」
「実はあんまり強くなくて今頃城の中で怯えてんじゃねえのか?それかアバドンってのは実際はいなくてエギドの野郎が魔人を操り・・・」
「ではワグナ国王陛下はエギド国王が自らの手で王都を壊滅させたと?」
「・・・それはだな・・・」
「それに城に篭っているからこそ攻めなくてはなりません。外に出て来て私達に向かってくればいいのですがその確証はありません。もしアバドンがこちらに向かってこず街や他の国に向かったら?その向かった先もファミリシア王国の王都と同じように灰燼と帰すでしょう」
「・・・確かにな・・・悪ぃ・・・話の腰を折っちまったな」
「いえ、ちょうど共有しようとしていたところです」
「共有?」
「皆様の中でまだどこか『何とかなる』などと考えられている方がいらっしゃるようで・・・私もここに来るまでは心の隅でそう思っていました・・・が、ここに来てそのような考えは一切捨て今この場に立っています。共有して下さい・・・ここが人類の正念場である事を」
「・・・私達の覚悟が足りないと?」
「そうではありませんフレシア国王陛下・・・いくら覚悟しようとも1人の命は儚いものです。ですがそれを積み重ねれば彼の者に届くやも知れません」
「どういう意味だ?もう少し噛み砕いて言ってくれ」
「皆様は既に死ぬ覚悟は出来ておられるかと・・・しかしながらそれだけでは足りません。戦って死ぬ覚悟ではなく捨て石になる覚悟をして頂きたいのです」
「なっ!?捨て石だと?」
「・・・何の先入観もなくこの光景を見たのならそこまでの考えには至らなかったかもしれません。広い敷地に城がポツンと建っている・・・見たままの光景に何も疑問は持たなかったでしょう。しかし私は知っている・・・城の周りを取り囲むように街があり人々が住んでいた・・・規模は王都ということもありそこそこあったでしょう・・・その王都が跡形もなく消えてしまっている。人の手で同じ事をしようとしたら一体何人必要でしょうか?何日かかるでしょうか?この王都の惨状がこれまで明るみになってなかったということは生き延びた者がいない事を示しています・・・つまりこれはアバドンが1人で、一瞬で、建物も、人も滅ぼしてしまったと考えられないでしょうか?・・・私はその考えに至り絶望しました。人の手では余りあるモノ・・・小手先の策ではどうしようもないモノ・・・人はアバドンの前では無力に等しい。そう思ったのです・・・ある方を除いては」
「ある方?それは勇者か?それとも・・・」
全員が俺を見る。勇者であるジークさえも
「まあ・・・コイツだろうな。てか人かすら怪しい」
おいワグナ
「それは言い過ぎ・・・ではないかもしれませんね」
フレシアまで
「勇者殿の実力は存じませんがこの場にてアバドンに対抗しうる事が出来るのはロウニール・ローグ・ハーベス閣下以外存在しない・・・違いますか?閣下」
クソナージ・・・そこで俺に振るか普通・・・
「あーえっと・・・多分俺だけしか倒せない・・・と思う」
「えらく弱気じゃねえか」
「当たり前だ。本来勝てるような相手じゃない・・・アバドンは」
「ならその『多分』の根拠は?」
「・・・魔王を倒した時の方法を試してみる・・・魔力とマナをぶつけて衝撃を生み出す・・・その衝撃は計り知れない力だから多分アバドンにも通じるはず・・・逆にそれ以外は通じないと思う」
「魔力とマナを・・・」
「そう・・・基本的には人間はマナしか使えない・・・魔力を使う人間もいるけど体の負担が大きく細かい制御が出来ない。かと言って魔族はマナを使えないしそれが出来るのは俺だけだ」
シークスなんかも魔力を使うことは出来るがおそらく魔力を使っている時はマナを使うことは出来ないだろう。いや、魔力を制御する為にマナを使っていると言った方が正しいかな?暴れる魔力を何とかマナで制御して利用する・・・それが普通の人間の限界だろう
けど俺は魔力を使いながらマナを使える。ダンコが俺の中にいる限り
「聞いての通り閣下にはアバドンに対する手段があります。それが通用するかしないかはやってみなければという不安要素もありますが他に手がないのならその手を活かす方法を取るまで・・・その為には我らが捨て石になる必要があるのです」
「・・・具体的には?」
「城への道を開きます」
「なに?」
「閣下と他数名が城に無傷で入れるよう魔人達を押し退けるのです」
「何故だ?それなら魔人共を全部ぶっ倒してから堂々と城に入ってもいいんじゃねえか?無理して道を開こうとすれば犠牲はかなり出るぞ?」
「アバドンが動く可能性があるからです。ワグナ国王陛下の仰る通り時間をかければ犠牲少なく魔人は攻略出来るかもしれませんがかなりの時間を要するでしょう・・・今ここで話し合いをしている最中にも動き出す可能性もあるのです。ですので私達がやるべき事は閣下を迅速に無傷でアバドンの前に立たせること・・・どんな犠牲を払ってでも」
「・・・ロウニに賭けるって訳か・・・俺達の命を」
「いえ・・・私達の命ではありません。賭けるのは・・・全人類の命です」
「っ!・・・なるほど・・・俺達の命はあくまでロウニを城に行かせる為の捨て石・・・守るべき命はここにいない全ての者って事か」
「そうです。皆様の命は賭けるのではなく使うのです」
流石にナージの今の言葉にはここのいる人達も言葉を失った
ナージが立てた作戦は俺達が生き残る為の作戦ではなく人類の為の作戦・・・そこに俺達への配慮は一切無いと宣言しているようなものだ
作戦が成功しても生き残れる可能性は低い・・・いやないに等しいのかもしれない
「・・・言うじゃねえか・・・どうやって使うつもりだ?」
「その前にまず閣下に共に城へと突入する方達を選んで頂きたいのですが・・・それによって少しばかり作戦も変更しなければなりませんので」
「俺に?・・・何人くらいだ?」
「城の内部はこちらからでは分かりませんので何とも・・・しかし大人数では身動きが取れなくなる可能性もありますので10名かそこらが妥当かと」
「おいおいちょっと少な過ぎやしないか?魔人が城の中にもいるかもしれねえんだぞ?」
「ごく一般の城の構造から申しますとその可能性は少ないかと・・・城の中も外も魔人を制御出来ると言うのならば話は別になりますが」
魔人を操っているのはおそらくウロボロスってダンコは言ってたな。で、そのウロボロスは城の外にいる魔人を操っているからもし城の中に魔人がいても相手にするのは容易いだろう・・・操られていない魔人は操られている魔人に比べて数段劣る・・・ただ闇雲に暴れ回るだけだし下手したら同士討ちとかも始めるかもしれない
ウロボロスが魔人を配置した理由が俺の実力を計る為なら城の中にまで配置するとは考えにくい・・・全部倒すか城の中に入った時点で証明されたと思っていいはず・・・多分
なら俺だけで入るか?でももし他に敵が居たら?・・・アバドンに当たる前に出来るだけ消耗は避けたい・・・けど連れていく人数が多ければ多いほど外にいる人達に負担が・・・
あーもう!どうせ作戦立てるなら城に突入するメンバーも決めてくれりゃいいのに・・・俺に選ばせるところがナージらしいっちゃらしいけど・・・
もういい!勘で決める!・・・どうにでもなれっていうかどうにかする!
「・・・連れて行くのは──────」
 




