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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
601/856

596階 カウントダウン

ランス・ロット・アージスト・・・最年少で聖騎士団団長を務め聖女セシーヌの護衛を務めていた騎士。聖騎士団は聖者聖女撤廃にあたり解散となり王国騎士団に吸収される形となった。その実力からランスは吸収されるやいなや王国騎士団副団長となり次代の団長と言われている


ディーンやケインと同年代でありディーンがいなければ至高の騎士はランスだったと囁かれる程の実力者でありある分野においてはディーンをも上回る


それは対象を護る能力


総合的な強さはディーンの方が上回る・・・が、こと護衛に関してはランスの上を行く者は少ない。フーリシア王国では間違いなくトップであろう


その理由は彼の剣技にある


マナの操作と強度を組み合わせた剣技は守りに特化しており未だに彼の鎧に傷をつけた者はいない


剣を振ることによりマナの壁を作る・・・それはシュルガットの結界のように硬くどんなに大きな盾よりも広く自由自在に展開できる


ツァーガが弾き飛ばされたのもランスの剣技によるものだった


「『護国の騎士』か・・・厄介な奴が来たな」


「おいボクを無視するな!」


「・・・『ダンジョンキラー』シークス・ヤグナーか・・・一時は名を馳せていたが最近では鳴りを潜めていたようだが?」


「耳が遠くなって聞こえなかっただけじゃないか?」


「そうだな・・・取るに足らない情報は小さ過ぎて聞こえなかったかもしれんな」


「・・・老人には優しくがモットーのボクだけどあの爺さんは別だ・・・ボコボコにしてフガフガにしてやる」


「・・・フガフガとは?」


「全部の歯を折ってフガフガしか言えねえ状態にしてやるって事だよ!!」


ランスとシークスがツァーガに襲いかかる


フーリシア王国内で実力は上位に位置する2人が同時に迫ってもツァーガは特に慌てた様子もなく迎え討つ


「・・・」


「おいエミリ・・・まだビビってんのか?」


「貴方と一緒にしないでジャック・・・おかしいと思わない?」


「なにが?」


「ランス様はセシーヌ様の暗殺依頼をギルドが受けたと仰ってた・・・」


「うん?・・・ああ、それがどうした?」


「なぜそれを知っているの?」


「なぜって・・・そういやおかしいな・・・ツァーガの野郎が依頼を受けたのは他の奴は知らないはず・・・俺も突然ツァーガが暴れ出して皆殺しに・・・俺だけが腕を差し出すだけで助かったが他の連中は細切れになって殺されちまった・・・となるとランスはツァーガがどんな依頼を受けたとかは分からねえはずだ」


「そうなのよ・・・そこが引っかかって・・・」


「ツァーガが情報を漏らすなんてミスをするはずはねえ・・・となると何か裏が・・・」


「それかわざと漏らしたか・・・」


「漏らす理由なんてあるか?」


「・・・陽動?こっちに注意を引き付けて狙いは別とか・・・」


「ランスが知ってるって事は国も・・・セシーヌを守る為に人数を割けば王都は手薄になる・・・狙いは王都?・・・いや女王か・・・」


「ありえる・・・けど」


「けど?」


「女王陛下にはまだ王国騎士団長がついている・・・ランス様が来たのも狙ったにしてはお粗末過ぎる・・・女王陛下ならセシーヌ様が狙われていると知れば誰かは送ってくれると思うけどそれが誰なのかは分からないわけだし・・・」


「女王を狙う為にジュネーズかランスもしくは両方を女王の傍から引き離そうとした・・・その為に情報をわざと漏洩させたって考えた方が辻褄が合わねえか?お粗末なのは別として」


「・・・いえ、そのお粗末な策を誰が考えたかより誰が実行したかが問題・・・貴方は師匠が・・・あの鏖のツァーガがそんな穴だらけの策に乗ると思う?女王陛下なら人を送るだろう・・・その送る者はジュネーズ様かランス様だろう・・・そんな不確かな策に乗るとは思えないわ・・・それにその策はこの状況だからこそ有効だけど普段ならこの街には彼がいる・・・ロウニール・ローグ・ハーベス公爵様が」


「・・・確かにアイツがいたら全てが無駄だな。てか女王もランスを送らなかったはずだ・・・となると・・・なんで漏れた?」


「・・・陽動ではないのなら・・・まさか・・・」


「何か分かったのか?」


「・・・もしそうなら私達が・・・」


「あん?そうならってどうならなんだよ」


「・・・戦えば分かるわ・・・師匠の技を受け継ぐ私達が、ね──────」




ランスとシークスのコンビは意外にも上手くハマっていた


ランスは防御に徹しシークスがツァーガを攻める・・・位置取りも完璧でなるべくツァーガに足を使わせないよう接近戦で攻め立てていた


完璧な守りと怒涛の攻撃・・・ツァーガの表情は次第に余裕がなくなってきていた


俺も何か2人を援護出来ないかとゲートを開いて短剣を取り出す。そしてマナを流して・・・


「チッ!・・・お前!余計な事するな!」


どうして分かったのかシークスは俺を見ると舌打ちし怒鳴り散らす


なんで分かったんだ?そこそこ離れているのに・・・


「奴の言う通りやめとけケン・・・シークス・ヤグナーは目じゃなくてマナの流れを見てギリギリのところで戦ってる・・・他のマナの流れは今の奴には邪魔にしかならねえよ」


「マナを・・・けど離れてるし援護するくらいは・・・」


「それだけ集中してんだよ・・・些細な動きも見逃さないようにな。それでいて攻撃してんだ・・・大したもんだ」


「・・・じゃあ俺達は見てるしかないってことすか?」


「そうだな・・・少なくともお前はな」


「師匠は?」


「エミリが思わせぶりな事を言うから・・・ちょっくら攻めてみる・・・暗殺者らしくな」


「暗殺者らしく?」


「ああ・・・マナが邪魔になるなら消せばいい・・・気配も何もかも消して背後に忍び寄る・・・せっかく戦ってくれてんだ利用しない手はないだろ?」


「なるほど・・・なら俺も・・・」


「だからやめとけって・・・死にたいなら止めはしないがな」


「うっ・・・」


正直死にたくない


せっかくシルがOK出してくれたのにその日に死ぬのは勘弁だ


けど他の誰かが死ぬのを黙って見てるのも・・・


「・・・流れが変わった・・・動くぞ」


師匠の言葉通りツァーガが動き出す・・・かと思いきや動いたのはランスだった


何故か突然駆け出すとセシーヌ様の前に立ち剣を構える。別にツァーガはセシーヌ様に向かって行ったとかはない・・・ただチラッと見たような気はしたけどそれ以外は・・・


「ランスの野郎は自ら動いたんじゃねえ・・・動かされたんだ」


「・・・詳しく」


「てめえ・・・いいか?よく聞け。ランスは根っからの護衛騎士・・・相手を倒すより対象を護る事を優先する。その習性を利用する為にツァーガはセシーヌに殺意を向け た・・・当然ランスは護る為の行動を取るって訳だ」


「なるほど・・・じゃあツァーガはセシーヌ様を狙ったって事っすか?」


「いや・・・フェイントと同じだ。狙うフリをしただけ・・・けど護衛にとっちゃ対象者が狙われたなら護らねえとってなるからな・・・たとえフリと分かっていても動かざるを得ない。優先すべきは倒す事よりあくまで護ることだからな」


そっか・・・ランスにしてみれば護衛対象であるセシーヌ様がやられてしまったらたとえその後ツァーガを討ったとしても負けになる・・・俺だってシルに殺意を向けられたらそれが嘘だと分かっていても守ろうとするだろうし・・・


「チッ・・・やるしかねえか・・・」


「え・・・でも・・・」


「ツァーガは冒険者で言えばSランク冒険者・・・Aランク冒険者にゃちとキツイ・・・シークスが殺られたら次は誰だろうな?」


Sランク・・・キースさんや姐さんレベルってことか・・・俺じゃとてもシルを守る事は出来ない・・・この先誰かが助っ人に来てくれるとは限らないから今ここにいる人達でツァーガを倒さないとダメなんだ・・・1人でも欠けたらその分戦力が落ちるし勝てる可能性も低くなる・・・それに今のシークスは嫌いじゃないし・・・


「やっぱり俺も・・・」


「だからクソ邪魔だからここで黙って見てろ・・・ツァーガがシークスを殺った瞬間・・・その瞬間に一撃で決めてやる・・・」


「え!?助けるんじゃないんっすか!?」


「バカヤロウ・・・お前も冒険者なら分かるだろ?いくら強くても急造のパーティーで上級魔物に勝てるか?足引っ張り合って実力の半分も出せずに殺られちまうよ。だからこういう時は使うんだ・・・使えるものが命だろうとな」


師匠の言っていることは分かる・・・けど・・・


「さあ・・・その瞬間が来るぞ」


ランスがセシーヌ様の所に行きシークスは攻めあぐねていた


ツァーガの攻撃は俺には見えないけどシークスはマナの動きを見て攻撃が来る前に何とか身を引いて躱す・・・で、攻撃しようとしてまた引いての繰り返しだ


「・・・やりにくい野郎だね・・・」


「恐れては何も得られないぞ?シークス・ヤグナー」


「だね・・・そんなに欲しけりゃくれてやるよ」


「ほう?」


「っ!シークスさん!ダメです!!」


シークスに駆け寄ろうとするセシーヌ様をランスが止める


明らかにこれまでと雰囲気が違う・・・シークスは一体何を『くれてやる』と?・・・まさか・・・命・・・玉砕覚悟で攻める気か?


シークスはこれまでのように引かず拳を突き出す


当たったかと思ったけどいつの間にかツァーガの姿は消え次に現れたのはシークスの右前・・・


「利き腕はどっちだ?」


「・・・さあね・・・っ!」


突き出した拳をそのままにシークスは突然体を回転させ転がるようにしてツァーガから距離をとる


結局今までと同じかと思ったが・・・


「やるな・・・10」


カウントダウンが・・・始まった


「なんだ?今のは・・・」


「・・・うそ・・・シークスさん!動かないで!!」


「あん?」


「8」


「おいなんだその数字は」


「ランス!離して!・・・シークスさん!貴方の右腕はもう・・・」


「もう?」


「6」


「・・・かなりの回数切られて・・・あと数秒で・・・」


「切られ?・・・へぇ・・・」


「4」


「チッ・・・その数字ウザいな・・・数えるの止めろよ」


「3」


「・・・聞き分けのない爺さんだ・・・聞こえないのか?」


「2」


「あーウザ・・・止めろって・・・言ってんだろ!!」


シークスが動く


ツァーガに向かって駆け出し右腕を突き出した・・・細切れにされたであろう右腕を


まだツァーガに届く距離ではない・・・間合いを見誤った?・・・違う・・・これは・・・


シークスが右腕を突き出すとカウントダウンの途中にも関わらず腕に無数の傷が生まれる。だけどそのまま崩れ落ちるのではなく突き出した勢いで腕の破片がツァーガに向かって飛び散った


「自分の腕の破片を礫として使うか!だがその程度・・・」


「くれてやる・・・さっさと殺れ」


『くれてやる』その意味がようやく分かった


命や腕をくれてやるのではない・・・その言葉はツァーガに向けた言葉ではなくエミリさんと師匠に・・・()()作ってくれたのだ


その意図を理解してかエミリさんと師匠はいつの間にかツァーガの元へ・・・エミリさんが先に着き攻撃を仕掛け反対側から回った師匠がツァーガの背後をつく


ツァーガはシークスの腕の破片を左右どちらかに躱そうとしていたのだろう・・・一瞬エミリさんの方に行きかけて反対の師匠の元へ・・・


互いに立ち止まり甲高い音がいくつも聞こえる


師匠とツァーガが斬り合ってる?たまに見える火花がそう俺に教えてくれた。互角?・・・いや・・・


「チィッ!クソジジイが!」


「その程度か?ジャック」


師匠の肩から血飛沫が上がる



このままじゃ・・・負ける?あの師匠が?



咄嗟だった・・・咄嗟に持っていた短剣を振り上げ師匠を援護する為にツァーガに向かって・・・え?


「動いたな?隣人の命も背負って死ね」


さっきまで師匠と斬り合っていたツァーガが目の前に


隣人?死?背負ってって・・・


全身の毛が逆立つ


恐怖と怒りが溢れ出るが動けない


俺は死ぬ


それはいい・・・けどシルは・・・シルだけは・・・



ツァーガの動きが手に取るように分かった


短剣を指で転がしながら腕を振る


多分そのまま振り抜くと俺は細切れになって・・・それを何度か繰り返しバラバラにしちまうんだろうな・・・


器用な爺さんだ


「ケン!!」


シルの声


もう聞けなくなるのは寂しいけどせめてシルだけでも・・・


その想いが通じたのか短剣を持つ手が動いた


そのままツァーガに向けて・・・・・・・・・あれ?


「おい・・・殺す気か?」


ツァーガではなく目の前にいたのは師匠


何が起こった?なんで・・・


「ジジイ・・・潮時だ」


そう言うと師匠は振り返りざまに短剣を投げた


師匠の背後にいたツァーガはそれを首を傾けるだけで躱し・・・


「命ではなく腕を差し出したのはこの為か・・・それよりあれほどキツく言ったはずだ・・・得物は投げるなと・・・10」



カウントダウンを始めた──────

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