592階 参戦
ラナを中心に円陣を組んでいたコゲツ達
一旦は崩れるも何とか態勢を立て直したが時間が経つにつれて円は狭まり中心にいるラナとの距離が詰まる
「ジリ貧だな~アッシュもう一度アレ出来ないか?」
「無理難題・・・苦無不足」
一度円陣が崩れた時、アッシュの技で窮地を脱していた
持っている苦無全てにマナを流し放つ大技『流星苦無』
強力な技だが難点は苦無を全て使う為に一度しか使えないことだった
「チッ・・・いよいよヤベェな・・・ジークは何をやって・・・おぉう?」
相手が密集しているにも関わらず考え事をしていた為か無駄に動きが大きくなり足を掴まれてしまったコゲツ。反対の足で即座に足を掴んだ魔人の頭を粉砕するが死後硬直で足を掴んだ手は離れず動きが制限されてしまう
「あ・・・マジい・・・クソッタレ!」
すぐに魔人は動きを止めたコゲツに群がる。死を覚悟しながらも両拳にマナをありったけ込めて抵抗しようとした時・・・目の前の魔人が次々に倒れていく
「もうへばったの?これだからオジサンは・・・」
「ジーク!遅せぇよ!・・・メターニアは?」
「・・・終わったよ・・・」
「そうか・・・」
「うん・・・それよりかなり後退したね」
ジークが辺りを見渡すと最初に戦っている場所よりかなり後ろに下がっている事に気付く
「なるべくお前さんから離れないようにしたつもりだがな・・・群れの勢いは留まる事を知らない。しかもさっき気付いたんだがかなりの速度で再生してやがるっぽい。トドメを刺さねえとキリがねぇってわけだ」
「再生・・・厄介だね」
「どうする?一旦ロウニール達と合流するか?このままだと・・・」
「いやロウニールから合図があるまでここで踏ん張ろう」
ジークはロウニール達がいる方向を見ながらコゲツに言うと剣を構え魔人と対峙する
未だ勢いが衰えない大量の魔人に対してロウニールなら何とかしてくれるだろうと希望を持ちジークは円陣の輪に加わった
「・・・なあこれ・・・今日中に終わるのか?」
「無理だろうな~・・・1日どころか数日かかるぜこりゃ」
マナはマナポーションを飲めば回復するが体力はそうもいかない。今は均衡を何とか保っているが時間が経つにつれて不利になるのはどちらの陣営か目に見えていた
「これは想定内なのか?」
「さあな・・・けどそうでなかったら城に辿り着くどころか魔人にやられてお陀仏だ・・・何か手がある事を祈るしかねえな」
「・・・何か手はあるんだろ?・・・ロウニール──────」
ああ・・・ヤバい・・・完全にお手上げだ
全体を把握する為に土を盛り上げ高台から戦況を常に確認しているが芳しくない・・・
ベル達もいるから何とかなるだろって軽い気持ちだったのを今物凄く反省している。無策で挑むもんじゃないな
実際ベル達はよく戦ってくれている
魔法もどき主体のベル、肉弾戦で突っ込むベリト結界で自らの身を守るシュルガット・・・一人役に立ってない奴がいるがこの周辺は魔力が飽和状態だから魔人がいなくなるまで戦えるだろう
シアとサラも善戦はしているがやはりずっと戦うのは厳しいだろうな
最初の方こそ順調に減らしていたが今は魔人の攻撃を受ける回数も増えてきている・・・このままだと致命傷をくらうのも時間の問題・・・セシーヌに都度回復してもらっているけどそろそろ限界だろう
「一旦ヴァンパイア達の所に戻すか・・・いやいっそ屋敷に戻して一眠りしてもらってもいいかもな」
長期戦になる・・・てかさっき見たら城からまた魔人が追加されてたのだけどもしかしてまだまだ出て来るのか?さすがにそれは想定外だぞ?
ただでさえ再生能力なんて想定外があったにも関わらず増員ありはいくらなんでもあんまりだ
「ジーク達の方は・・・おぉ・・・だいぶ後ろに下がったな・・・けどコゲツ達と合流しているって事はメターニアは倒したか・・・サラ達で手一杯であまり見てやれなかったが・・・大したもんだ」
本当は向こうもサポートしたいのだけど手が回らない・・・魔人の強さはバラバラだが元が冒険者や兵士だからかシアの言うようにダンジョンの下層にいる上級魔物と遜色ないレベルだ
ヴァンパイアが操る魔物達もよくやっているが徐々にその数を減らしてきている
何か打開策はないのか・・・やっぱりこの辺をダンジョン化して魔獣を・・・
〘ダメって言ったでしょ?〙
〘うっ・・・でも力を温存している場合じゃ・・・〙
〘力の温存だけじゃない・・・ダンジョン化して魔獣を出してもおそらくアバドンかウロボロスに奪われる・・・魔人に言霊を使って分かったでしょ?〙
〘魔獣が従うのは創造主ではなくより強い者・・・か〙
〘力が均衡していれば創造主が有利になる・・・けど今のアナタでは・・・〙
〘みすみす相手の戦力を増やすようなものか・・・でもやってみなければ分からないだろ?〙
〘これ以上場が混乱すれば困るのはアナタよ?そして犠牲になるのは・・・〙
〘分かった分かった・・・くそっ・・・どうにかして・・・〙
「うっ!」
「サラ!!」
しくじった!
ダンコと会話している間にサラが魔人に囲まれていた
一体の魔人がサラの頭を鷲掴みにすると持ち上げ・・・
〘ロウ!〙
「あ、ああ・・・大丈夫だ・・・」
思わず口に出してダンコに返事をしてしまう
サラの周りにいた魔人はあらかた片付けた・・・どうやってかは記憶にないけど
「サラ大丈夫?」
「え、ええ・・・でも少し・・・」
どうやら今ので足を怪我したみたいだ。頭を鷲掴みにされて持ち上げられた時に後ろから襲って来た魔人か・・・既にそいつは死体になってるがもう少し痛い思いをさせて殺せばよかった・・・
「今セシーヌに・・・ゲート」
セシーヌのいる場所にゲートを繋げる
これですぐにゲートの向こうからセシーヌがヒールを使ってくれる・・・はずだった
「・・・セシーヌ?」
取り込み中?いやそんなはずは・・・今日は教会を閉めてこちらに専念してくれるって言ってたし何かあったとしても連絡が入るはず・・・なのに反応がないってことは・・・まさか何かあったのか?
「どうしたの?」
「いや・・・ヒール」
とりあえず俺がサラの怪我を治しておこう・・・問題はこれからだ
「サラ・・・一旦シアと共にヴァンパイアの所まで下がってくれ」
「え?」
「セシーヌに何かあったかも・・・シークス達がいるから大丈夫だと思うが・・・」
一旦全員退く事も視野に入れて考えよう
ヒーラーがラナだけでは足りない・・・俺も使えるがそれだと更に魔人を狩るのに時間がかかる・・・完全に勇み足だったな・・・行き当たりばったり過ぎた
「セシーヌに?だったらエモーンズに・・・」
「うん・・・それも含めて考えてみる」
問題は果たしてアバドンが待ってくれるか、だな
一時撤退が逃げたと思われたらアバドンが動き出すかもしれない・・・そうなれば王都を一瞬で更地にするような奴だ・・・近隣の街は・・・
・・・知り合いなんて作るもんじゃないな・・・大して親しい訳でもないのに顔が浮かぶ・・・撤退はなしでこれからどう攻めるか考えよう
「サラは先にこのゲートで戻っててくれ!」
「え、ええ・・・気をつけてロウ」
「ああ!」
サラはすぐにゲートを通りヴァンパイア達がいる場所へ・・・その後シアの元へ行き同じくヴァンパイア達の元へ行かせた
ベル達は・・・もう少し頑張ってもらおう・・・先にジーク達の状況を確認して・・・
《ロウニール様》
「うん?ベル・・・どうした?」
シアを送り考え事をしながら魔人を狩っているとベルが近付いて話しかけて来た
《魔人共を操っている者を先に何とかしなくてはこのままでは・・・》
「厳しい・・・か?」
《はい。魔人を操っているとの事ですが命令と言うよりその都度指示を出しているようです。動きが魔人の割に緻密過ぎます》
魔人は元人間だけど完全に自我を失っているはず・・・単純な命令なら聞けるかもしれないけど緻密な動き・・・ましてや他の魔人との連携などは無理だろう
俺も見ていてそこは気になったが・・・
操っているのはウロボロスの可能性が高い・・・って事はウロボロスを先に倒さないとダメって事か?・・・いや、倒さないまでもその指示を妨害すればいいのか
けど一体どうやって?
ウロボロスは魔人達に『あいつらを攻撃しろ』と命令しているのではなく『お前は右に回れ』『お前は左に回れ』都細かく指示を出している・・・となると実際にこの戦場を見ている?なら見えなくすれば・・・例えば壁や煙幕を張ったりすれば指示は出せなくなるはず
じゃあ一体どこから見ているのか・・・戦場を見渡すのは高い所から・・・俺みたいに土を盛って高台を作ってる奴はいない・・・となると・・・
「・・・ベル・・・」
《はっ》
「・・・後は頼んだ・・・」
《・・・は?ロウニール様一体・・・っ!?》
見上げると目が合った・・・アイツだ・・・アイツが・・・
「アバドン!!待ってろ!今から行ってやる!!──────」
「ロウ!?なんで・・・」
ヴァンパイア達の元へと辿り着いたサラはひと息ついた後、ロウニールを見た
するとロウニールは突然魔人の元へと突進し暴れ始めていた
セシーヌと連絡が取れなくなり態勢を立て直すとばかり思っていたサラは慌てて暴走にも近い行動をし始めたロウニールの元へと向かおうとする
「ぬぉ!?サラ待て待て!いきなりどこに行くつもりじゃ!?」
勢いよく走り出したサラの手を掴み止めるシア。止められたサラは泣きそうな顔で振り返る
「だってロウが・・・」
「はあ?・・・何をやっておるのだあやつは・・・」
「分からない・・・けどこのままじゃ・・・」
その勢いは凄まじく既に魔人の群れの中心まで辿り着いていた
中心に行けば行くほど魔人の密度は上がり誰も手助けは出来ない状態になってしまう。今ならまだ間に合うとサラが行こうとするがシアは掴んだ手を離そうとはしなかった
「冷静になれ・・・ロウニールは危険と分かればゲートで戻って来れる・・・お主は無理であろう?」
「でも・・・」
「それにお主が行ったところでどうにもならん・・・あそこまで辿り着けはしないだろう」
「・・・」
「しかし何を考えておるのだ・・・一旦退くと言っておったのに・・・」
「・・・まさか・・・」
心当たりがあるサラは何かを探すように辺りを見渡した
そして・・・
「・・・アバドン・・・」
血が出るほど唇を噛み締め鋭い視線で城の頂上付近のテラスにいるアバドンを見つめ声を捻り出す
「アバドン?・・・あやつが・・・」
「・・・ロウはギリギリだった・・・普段通りを演じているけど・・・もうずっと・・・限界だった・・・」
「ロウニールが?ではあの暴走は・・・」
「アバドンの特徴は話していたの・・・白髪で長髪・・・多分ロウはアレを見て・・・」
「暴走したか・・・マズイのう・・・しかしどうする事も・・・」
「私が行く・・・私が行って止めてくる!」
「だから無理じゃと・・・・・・何じゃお主は」
「え?」
シアがサラではなくサラの背後に視線を向け訝しげな表情を浮かべた
「来るのが少し遅れたかしら?それともタイミング的にバッチリ?」
聞き覚えのある声
振り返るとそこには微笑みを浮かべる女性が立っていた
「・・・なんで・・・」
「なんでって友の窮地に駆け付けるのは当然の事でしょ?・・・まあ本当は代わりにって思ってたのだけど・・・そう考えている人は私達だけじゃなかったみたいね・・・後は任せて」
ここにいるはずのない人物
その人物がサラの肩を二度ほど軽く叩くと振り返り叫んだ
「これより進軍を開始する!目標は城の前にいる魔人!シャリファ王国軍出陣!!」
シャリファ王国軍・・・参戦──────




