588階 戦場の中心で
《ウロボロス》
《なーに?私今凄い落ち込んでるの・・・くだらない用事なら後にしてくれない?》
《・・・貴様のおもちゃがあっさりと壊されたからか?》
《違うわよ!邪魔されたの!・・・せっかく舞台は整っていたのに・・・もう最悪・・・》
《ならばもういいだろう?つまらぬお遊びはやめて滅ぼしてしまえばその気分も晴れるだろう》
《そりゃアンタはそうすれば気分はいいだろうけど・・・》
《フン・・・本音を言え。本当は邪魔されたからではなく足りぬかったからであろう?》
《・・・》
《輪廻を紡ぐには同程度の力がなくてはならない・・・件の人間の力が予想より低かったのだろう?》
《・・・ええそうよ・・・期待して見てたのに・・・私の最高傑作は確かに一撃で倒した・・・けど何よあれ・・・お話にならないわ!あんなのアナタの前に出た瞬間に・・・》
《フン・・・所詮人間・・・我と同等の力を持つなど不可能だ。そんなもの分かりきっていたであろう?》
《それでも期待したのよ・・・アナタと唯一渡り合える可能性があったのは彼だったから・・・》
《それももう終いだ。それなのに何故魔人を外に出した?必要が無くなったから廃棄したのか?》
《・・・人間はね試練を与えその試練を乗り越えれば乗り越えるほど強くなる生き物なの》
《この期に及んでまだ期待すると言うのか?》
《最後の足掻きよ・・・もしこの試練に打ち勝てなかったり打ち勝っても足りなければもう好きにしてちょうだい・・・私の希望は潰えたと思って大人しく余生を過ごすわ》
《余生・・・か。永くつまらない余生になりそうだな》
《くっ・・・そうならない為にも・・・期待してるよ偽インキュバス──────》
「遅い!」
「すまん遅れたシア・・・ってだいぶ減ったな・・・」
「通用しなそうなものはエモーンズに帰したからのう・・・上級者・・・それも上位の通じるもののみ残した」
「それほどか?」
「うむそれほどじゃ・・・さすがに大規模な戦に駆り出されるのは想定外じゃったからのう・・・こうなると分かっておればそのように訓練したものを。まあ今更言うても仕方あるまい・・・とにかく連携が取れぬ分個の力で劣っているのは邪魔になるだけじゃ」
人間の軍隊のように連携が取れればいいが魔物は対冒険者として鍛えてたからな・・・大群の魔人・・・しかも上級の魔物と遜色ない強さの魔人に対してだといても邪魔になるだけか・・・にしても・・・
「よく集めたもんだあれだけの魔人を・・・ファミリシア王国はこうなる事を予想していたのか?それとも魔人を作って戦争を仕掛けようとしていたのか?」
見るだけで気が滅入る・・・一体何体いるんだ?てか一体どこにいた?これだけの魔人をどこに隠して・・・うん?
大量に発生した魔人を見つめていると誰か我こちらに向かって歩いて来ていた
よく見るとその人物は・・・
「自殺願望でもあるのか・・・メターニア」
待っていると目の前まで来たので死にに来たのか尋ねてみた。殺気を発してないから戦いに来たと言うより話に来たみたいだけど・・・
「酷いわね。アッチをあんな目に合わせてまた同じ目に合わせるつもり?」
「・・・なぜ生きてる?」
「死の間際に救ってもらったのよ。いやもしかしたら死んでいたかも・・・まだあの方にとってアッチは利用価値があるってことね」
「そりゃ良かったな・・・で、何しに来た?」
「・・・あの方からの伝言を伝えに来たの・・・『実力を証明せよ。城の頂上で待っている』・・・ってね」
「なるほど・・・俺も利用価値を証明しないとアバドンに会えないってわけか」
「そうなるわね。アッチは生きる為に・・・貴方はあの方達に会う為に・・・互いに価値を証明しなくてはならない・・・」
「それであの魔人の群れか・・・準備するのは大変だったろ?」
「そうでもないわ。彼らには別の役割があった・・・その役割は終えたからもう用済みになっただけ」
「役割?」
「魔力供給の為・・・と言えば分かるかしら?」
「アバドンを動かす為の魔力か・・・それと魔人がどう関係しているんだ?」
「・・・あの方はアバドン様を復活させるには多大な魔力を要すると国王に告げたの。そしてその魔力の作り方も・・・」
「魔力の作り方?魔力は人間の負の感情によって生み出される・・・魔人とは関係ないはずだ」
「いえあるわ」
「なに?」
魔人と魔力にどんな関係が・・・
〘・・・ダンコ先生〙
〘・・・そういう事ね・・・魔人は核が壊れた元人間・・・魔力に支配され自我を失い攻撃的になり暴れ回る人間・・・言い方を変えれば『魔力を出し続ける人間』とも言えるわ〙
〘魔人が・・・じゃあまさか・・・〙
〘この国の王はそれを知り魔人を大量に作り出し魔力を大量に得ていた・・・それでとうとうアバドンが行動出来る程に魔力を得て・・・〙
盲点だった
てっきり魔力を集めるのに人間を恐怖に陥れたり戦争を起こして得るものだとばかり・・・まさか魔人を作りその魔人から魔力を得ていたなんて・・・でもどうやってあそこまで大量の魔人を・・・
〘デュポーン〙
〘え?〙
〘魔核と人間の核を融合させていた・・・成功すれば人間で言うギフトを得られ失敗すれば・・・〙
〘魔人となる・・・じゃあ王様はギフトを与えるフリをして実際は・・・〙
「魔人を作る為にギフトを与えていたのか・・・」
「へえ察しがいいわね・・・その通りよ。だからある意味彼らは成功者・・・役目を果たした成功者なの」
「ギフトを与えても魔人にならなかった者は・・・」
「失敗者ね。まあギフト持ちになったからある程度の役目は与えてあげてたけど・・・例えば融合する為の魔核を取らせたり、ね」
運良く魔核と融合しても魔人にならなかった人間は魔核を確保する為に上手く利用したか・・・ギフト至上主義とギフトなしを煽りギフト持ちを上手く利用する・・・成功しても失敗しても国としては利益となる・・・腐ってるなファミリシア王国・・・
「でも結局王様も利用されていただけか・・・アバドンが動けるようになったら用済み・・・殺されたのか?」
「いえまだ生かされてるわ。けどそれも・・・」
「アバドンが動けるくらいの魔力が確保出来たから用済みってか?そんなんでいいのか?利用し利用される関係で」
「当たり前でしょ?人は利用価値があるから生きられる・・・利用価値がなければ死んで当然だし・・・それとも他に何かあるの?」
「あるだろ」
「へえ・・・是非教えて欲しいわね」
〘ダンコ先生〙
〘あのね・・・困った時に私を先生と呼ぶのやめてくれる?・・・利用価値ね・・・まさしくその答えは『人間』かしらね〙
〘・・・うむ〙
〘ウロボロスはジーク達に人間は魔物のエサ・・・そう言ったらしいわね?それは真実と異なるわ。インキュバスが人間を創った理由は・・・〙
〘理由は?〙
〘『ない』わ〙
〘???〙
〘魔族や魔物は明確な理由があり創られた・・・けど人間を創った理由は『ない』の。偶然魔力を生み出したけどそれは意図したものではないわ〙
〘え?じゃあなぜインキュバスは人間を・・・〙
〘それは──────〙
《何を見ている?》
《あら?アナタも興味湧いた?》
《人間に興味は無い。何を見ているか気になっただけだ》
《そう・・・私は興味あるわ・・・人間》
《所詮ヤツが魔族や魔物を使役する為のエサであろう?それのどこに興味が湧くと言うのだ?脆くすぐに死ぬ魔力を出すしか取り柄のない人間のどこに・・・》
《まあね・・・私もそれは充分理解しているわ。アナタよりずっと・・・けど引っ掛かるのよね・・・》
《何がだ?》
《インキュバスが人間を創った理由・・・本当に餌としてなのかしら?》
《貴様が直接聞いたのではないのか?ヤツから直接》
《ええそう聞いたわ・・・その時は『そっか』としか思わなかったけど・・・》
《何が引っ掛かる?他に役目を与えたとでも?》
《役目・・・役目ね・・・ねぇ私達の役目ってなに?》
《それを我に聞くか?》
《破壊・・・よね・・・私は再生でインキュバスは・・・》
《創造であろう?》
《そうよね・・・じゃあその役目は何の為にあるの?》
《何の為?そんなものが必要か?とっくに諦めたかと思ったぞ?答えのない答えを求めるのを》
《・・・諦めたわよ・・・とっくの昔にね。突如生み出された私達三人・・・『破壊』『創造』『再生』・・・初めは何の為にって考えて考え抜いて・・・どっかの誰かさん達が早々に考えるのを諦めた後も私は考え続けた・・・けど答えは出ないしたとえ出たとしてもその答えが合っているか教えてくれるものはいない事に気付いた・・・》
《・・・結局同じように諦めたのだ・・・早々に諦めた方が賢いというものだ》
《まあそうね・・・無駄な時間だったかも・・・けど私より諦めの悪い人がいたら?》
《なに?》
《インキュバス・・・アナタと争いながらも考えるのを諦めなかったとしたら?》
《ヤツは諦めたはずだ。だから我を倒す為に創造の力を使い・・・》
《魔族と魔物・・・それに人間を創り出した・・・私も直接インキュバスに聞いたからそれは間違いではないと思うわ・・・けど・・・》
《けど?》
《おかしくない?魔力を発生させるだけなら形はどんなでも良かったはず・・・例えば魔力を発生させる箱とか・・・持ち運べて便利そうでしょ?そっちの方が》
《ただ単純に出来なかったのではないか?》
《ええそうかもしれない・・・ただ餌の割には効率が悪過ぎる・・・インキュバスならもっと他の方法を思い付いたんじゃないかって思うのよね》
《バカな・・・ヤツは我との戦いに備えただけ・・・効率よりも戦力を重視しただけの事・・・ヤツがそんな・・・》
《本当にそう思ってる?》
《なに?》
《アナタにとってはほんの些細な遊びだったかもしれない・・・けど普通に考えて『創造』我『破壊』に敵うと思う?創っても創っても一瞬で壊されるだけ・・・けど彼は諦めなかった・・・その諦めの悪い彼が私より先に諦めた?》
《・・・》
《もしかしたら諦めてなかったのかも・・・諦めず考えて考え抜いて出した答えが・・・》
《まさか人間とでも言うのか?》
《・・・さあね。答えてくれるものはいない・・・けどもしかしたら──────》
〘それは?〙
〘分からない、わ〙
〘おい〙
〘仕方ないじゃない・・・答えを持つインキュバスはもういない・・・だから想像で話すしかないの〙
〘まあそりゃ・・・そうか。でもそう思う理由があるんだろ?〙
〘ええ・・・理由が『ない』からよ〙
〘なんだ?なぞなぞか?〙
〘違うわよ・・・いい?インキュバスが人間を創る理由・・・それが『ない』のよ〙
〘いやだから魔力を生み出す為だろ?〙
〘ならどうして核があるの?〙
〘そりゃ魔人にならない為に・・・あ〙
〘そうよ。魔力を生み出す為なら魔人でもいいの。いや魔人の方が遥かに効率がいいのよ。でもインキュバスは魔力を生み出す効率がいい魔人にならないよう人間に核を与えた・・・矛盾していると思わない?〙
〘矛盾・・・しているな・・・〙
〘魔力を生み出す為なら核は要らない・・・なのに核を与えてまで人間を創り続けた・・・本当に理由は『ない』と思う?〙
《理由は『ある』・・・けどそれを知る術はない・・・その理由を知る唯一の人物がもうこの世にいないから・・・うん?だとしたらメターニアに対する答えが何故『人間』なんだ?》
《利用価値という事なら『人間』は無に等しいからよ。魔力を生み出すエサとしてならまだしもそのエサとしての役割すらないのなら何の役に立つと言うの?つまり人間の存在自体が無価値なのに存在している時点で利用価値が存在理由とはなり得ないの・・・分かる?》
〘・・・うむ〙
〘ハア・・・もういいわ。目の前の利用価値さんにはこう言ってあげて──────〙
「ねえまだなの?勢いであるって言っちゃっただけなら謝れば許してあげなくもないわよ?」
くそっ・・・何が・・・覚えてろよダンコ!
「・・・それは」
「それは?」
「愛だ──────」




