586階 いざ決戦の地へ
《来た・・・来たわよアバドン!ほら見て!そろそろ来るとは思っていたけどまさかあんなに引き連れて来るとはね》
《・・・引き連れて?》
《もう!ちゃんとこっちで見てよ・・・何かに使えると思って魔人にしといた人間を勇者の尻に火をつけようと街に向かわせたのよ・・・そしたら勇者が予想外に弱くてね・・・あーこりゃ街は全滅ねって思った矢先に現れたの!魔物を引き連れて!彼が!》
《・・・魔物を?》
《そう!魔獣じゃなくて魔物よ!あー本当に・・・興奮させてくれるわ!まるでインキュバスの再来・・・どうかしら?やる気が出てきたんじゃない?》
《・・・我は破壊出来ればそれでいい・・・来たという事は約束は果たしたという事だな?》
《まだよ》
《ウロボロス!》
《そう慌てないでよ・・・アナタにはアナタの役割があるように私にも私の役割がある・・・分かるでしょ?》
《・・・まだ足りぬと言うのか?》
《それを見極める為に少し待ってって言ってるの・・・それとももしかして私と・・・》
《・・・見極めたら呼べ・・・》
《照れちゃって・・・てか少しは見たら?面白いわよ?》
《・・・》
《あっそ・・・楽しいのにもったいない・・・ねえ?ロウニール──────》
「あー、つかぬ事をお聞きしますが・・・街は?」
ここ・・・王都だよな?いつの間にか更地になっているんですけど・・・
「・・・あの方から何も指示がないって事はこのままやれって事ね・・・」
「いやだから・・・聞いてる?人の話」
「倒しちゃっていいのかしら?とても強いように見えないのだけど・・・でも・・・」
「おいジーク・・・話の通じないお方か?コレ」
「ちょっと精神が不安定かも・・・色々あったみたいだからね」
『ちょっと』?『だいぶ』の間違いだろ
にしても斬新な服装だな・・・両手両足の袖が破けている・・・ファミリシア王国で流行ってんのか?
「・・・アッチの名はメターニア・・・貴方は?」
「アッチ?」
「アッチはアッチよ・・・名前は?」
「どっちだよ・・・ロウニール・ローグ・ハーベス・・・一応フーリシア王国の公爵で『大陸の守護者』やってる。ものは相談なんだけど・・・ここは退いてくれないか?用があるのはオタクじゃなくて多分城にいるアバドンって奴なんだ」
「なぜ?」
「なぜって・・・もしかして俺に用事があったりする?」
「ないわ」
「なら退いてくれない?」
「なぜ?」
「・・・ジーク」
「いちいち僕を呼ぶな!退く理由がないんだろ?退かない理由もないけど」
なんだそりゃ
つまり退く理由が欲しいって事か?退く理由がないからジーク達と戦ってた?んなバカな
「ジーク達とは命令されたから戦ってたわ。アナタと戦えとは言われてない・・・けどだからと言って退く理由はないわ」
「ああそうです・・・か?・・・俺声に出して言ってた?」
「いえ・・・ちなみにこれはファッションじゃないわよ?こうすると破けちゃうの」
お、おお・・・右腕がいきなり大きくなったぞ?・・・てかまさか・・・
「俺の心が読めるのか?」
「ええ便利でしょ?」
「便利と言うか恥ずかしいと言うか・・・」
マジか・・・こりゃ下手なこと考えられないぞ・・・下手に胸の谷間がセクシーなんて考えてそれを言われたら・・・
「・・・」
メターニアは何故か大きくした右腕で胸を隠すような素振りを見せた・・・いや何故かじゃなくて当然か・・・今俺が考えていた事を読んで・・・
「ロウ?」
「ぶっ!サ、サラ違うんだ!決してやましい事を考えていた訳じゃ・・・」
胸を隠すメターニアを見てジーク達にマナポーションを配っているサラが反応した・・・ヤバい・・・これは強敵だぞ・・・心を無にしろ・・・じゃないとサラに告げ口されてしまう・・・
「しないわよそんなこと・・・てか何をしているかと思ったらマナポーションを配ってたのね。もしかして勇者達を回復させてみんなで寄って集ってアッチを攻撃するつもり?」
「?・・・いや必要ないだろ?なんでお前ごときに他人の力を借りる必要があるんだ?」
「・・・凄い自信ね・・・勇者が仲間と共にアッチと戦ってどうなったか状況を見ても分からなかった?」
「分かった上で言ってる」
「・・・そう・・・ちなみにアッチを倒せると言うのなら早めに倒した方がいいわよ?もうそろそろ街に着く頃だから・・・一万を越える魔人が、ね」
「街に着く?そりゃ無理だろ」
「なに?」
「意外とシアはスパルタでね・・・鍛えに鍛えまくった魔物がきっちり処理してくれているはずだ。んでそろそろ・・・」
振り向くとタイミング良く現れた
シア率いる魔物軍団・・・前に戦った事のある魔人に比べてえらい弱かったからすぐ終わると思ったけど予想より早かったな
「・・・は?・・・魔物軍団?・・・なにあの数・・・」
「安心しろアイツらも手を出さないから・・・さっきも言ったように他人に力を借りる必要はない・・・お前ごとき俺一人で充分だ」
俺の本命はお前じゃない・・・アバドン・・・待ってろ・・・すぐに・・・ん?メターニアの様子が・・・
「・・・奪わせない・・・アッチの『今』をお前なんかに・・・奪わせはしない!!」
いきなり叫んだと思ったら見上げるほど巨大化したメターニア
服は全て破け全裸になっているがこれは・・・
「サラ・・・これノーカン・・・だよね?」
「・・・浮気ね」
「嘘だろ!?不可抗力だし!いきなり脱がれたらどうしようもなくない!?」
「ロウニール!冗談はそれくらいにしてメターニアに集中しろ!彼女は・・・」
「12個のギフトを持っている・・・だろ?さっき聞いたしそれに・・・」
巨大メターニアが動き出す
大きくなったから一歩踏み出すだけで距離を一瞬で進めてくるけど・・・
「ゲート・・・んで暗歩!」
足を踏み込み俺に拳を振り下ろそうとするメターニアの背後にゲートを開き潜った先で暗歩を使い更に高く飛ぶ
空中で更にゲートを開きカミキリマルを取り出すと鞘から抜き魔力を纏わせ落下しながら上段に構えた
「こっちだメターニア!!」
「いつの間に!?」
気付いた時にはもう遅い
人間だろうが何だろうが・・・邪魔するなら・・・斬ってやる!
「剣気一閃改め・・・剣魔一閃!!」
それはカミキリマルの斬れ味のせいなのか魔力を纏っているせいなのか何の抵抗もなく刃はメターニアの頭をかち割るとそのまま落下する速度を落とさず地面まで到達した
「返すのが惜しくなってきたな・・・まあアバドンを倒したら必要はなくなるけど」
放り投げた鞘が落ちてきたので受け止めるとカミキリマルを振り着いた血を飛ばしその鞘に納めゲートにしまう
そう言えばここ王都だった場所だよな?ゲートが使えるって事は魔力は乱れてないのか・・・てかどうして更地になってんだ?・・・まさかジーク達が暴れ回って・・・はないか。それなら建物の原型くらいは残ってるだろうし・・・うーん謎だ
「・・・ロウニール・・・お前・・・」
「あ、ジークは知ってるか?街がこんな状態に・・・うぉ!」
ジーク達なら何か知っているかと思い尋ねようとした時、背後でいきなり大きな音が・・・見ると縦に真っ二つに割れた巨体が左右に分かれ倒れた音だった
「ビックリした・・・ところでジーク・・・」
「『ところで』じゃないって!・・・何者なんだ?お前・・・」
「名乗ろうか?」
「・・・いや・・・いいや。で、ところで・・・なんだよ?」
「街がなんで・・・てかジーク達が知ってることを教えてくれ──────」
「・・・なるほど・・・そんな事が・・・」
「あ、ああ・・・実際に見た訳じゃなくて聞いただけだけどね・・・」
「嘘をつく理由はないし・・・事実だろうな。ファミリシア王国の国王は殺されたかそれとも・・・」
アバドンに魔力を与えたらどうなるか身をもって知ったか・・・にしても『破壊』のアバドンか・・・街を一瞬で更地にしてしまうとは・・・奴が動けば確かに人間は滅びてしまうかも・・・けどなら何故動かないんだ?
それに人間が魔物の食糧ねぇ・・・ダンコはそんなこと言ってたっけ?
〘言ってないし事実と異なるわ〙
〘だよな・・・もし本当にそうなら核が異物なのはおかしい・・・魔力をマナに変える核・・・確かに魔力を人間が発生させるけどその魔力をマナに変える核は矛盾している・・・その女?はなんでそんな嘘をついたんだ?〙
人間を絶望させ魔力を発生させる為?けどジーク達に話したところで広まるには時間がかかるしジーク達を殺そうとしていたからそれはないか・・・となると・・・
〘本気でそう思っているかそう聞いていた〙
〘誰に?〙
〘創った張本人・・・インキュバスよ〙
〘何の為に?〙
〘さあ?別にいいんじゃない?食糧だろうと何だろうとやる事は変わらないでしょ?〙
〘まあ、ね・・・〙
気になるけどダンコの言う通り関係ない・・・俺がやる事はひとつ・・・アバドンを・・・
「なあロウニール」
「うん?どうしたジーク」
「そりゃあそこに留まる理由はないけど・・・決死の覚悟をして行ったから・・・その・・・」
考え事をしているとジークが何か言いたそうにしていた
「『その』・・・なんだ?」
まだ言ってない話があるのかと足を組み湯気の出ているコーヒーカップを傾けると突然ジークはソファーから立ち上がり俺を指さした
「それ!それだよ!とりあえず話をって事で一旦引くのは分かるけどリラックスし過ぎじゃないか!?緊張感がないって言うか・・・」
「ジーク様お飲み物のおかわりはいかがですか?」
「あ、はい、いただきます・・・じゃない!おかしいだろどう考えても!」
気持ちは分からんでもない
俺も実際覚悟を決めてファミリシア王国に行ったからな・・・そこで魔人の群れを見て待機場にいるシアと魔物達を呼んで魔人達を任せ何が起こっているか王都に見に行ったらジーク達がいた・・・メターニアは倒してジーク達に話を聞く事になったんだけど城から何も出て来る気配がなかったからシアにその場を任せて屋敷に戻ってきた訳だが・・・まあ気は抜けるわな
「ジーク達は決死の覚悟で挑んだみたいだけど俺達は久しぶりに行くから元々偵察のつもりだったんだ。もちろんアバドンがいれば戦う覚悟はしてたけど・・・まさか王都があんな状態になってるとは思わなかったし魔人が大量発生してるとも思わなかった・・・」
それに魔人が王都に住んでいた人達だったとは・・・大して強くなさそうだったのは元が一般人だったから・・・もし兵士だったり冒険者だったら厳しかったかもな
「久しぶりに?今まで何やってたんだ?確か周辺の街で調査を続けるって・・・」
「・・・色々あったんだよ・・・色々とな」
「?・・・ふーん・・・色々、ね」
今頃サラは別室でラナとアネッサに話しているはずだ。2人はすぐにサラの変化に気付いたみたいだし・・・だからジークもいずれ知る事になるだろう
「そう言えばアバドンと遭遇したって言ってたよな?よく無事だったな」
「ん?ああ、あの白髪か・・・確かに強そうだったけどそこまで強さは感じなかったな・・・それよりも後から来た奴の方がヤバかった」
「後から・・・斬っても再生した奴か」
「うん・・・アレの方がヤバい気がする・・・」
ジーク達に名乗らなかったみたいだが十中八九ウロボロスだとダンコは言う
『再生』のウロボロス・・・なぜアバドンと?まさか組んだり・・・してないよな?
「次はいつ行くんだ?もし時間が結構あるならそれまでに鍛えて何とか奴らを・・・」
「出来れば奴らが動き出す前に仕留めたい・・・どうせ人を集めても王都を見る限りじゃ無駄っぽいから準備が出来次第・・・」
〘ロウニール!〙
シア?
ファミリシア王国に置いて来たシアから通信が入る
その内容はあまり芳しくない内容だった
「旦那様・・・でしたら本日のご予定はどう致しますか?ジーク様達がお泊まりになるのでしたら食事と寝床の準備を致しますが」
「あーその準備は必要ない」
「と申しますと?」
「これからまたファミリシア王国に戻る」
「本日は偵察だけだったのでは?」
「予定が変わった・・・これから行ってくる・・・人類の存亡を賭けた戦いにね──────」




