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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
590/856

585階 VSメターニア

三能の一人メターニアから語られたのはファミリシア王国という一見豊かで広大な大地が広がりのどかで慎ましい国に見えるが内側はどす黒い欲望が渦巻く国であった


その証拠にフーリシア王国が聖女聖者を『毒』と呼び各国に配置していたのと同様にファミリシア王国も『毒』を巻いていたのだ・・・食糧という名の毒を


無論直接的な毒ではなく食糧は食糧であり各国はお金を出してファミリシア王国が自ら買っているものであった。しかしそれこそがファミリシア王国の狙いであり、その為に国内で餓死者が出ようとお構いなしに食糧を売りさばく


その理由は『大陸の胃袋を掴む』こと



「胃袋を掴む?」


「そう・・・食糧が安定して外部から供給される・・・しかも安価で・・・するとどうなると思う?他の国で農業をする人が減ってくるのよ・・・苦労して作っても自分達が作った物より出来が良く安い作物が外から入って来たらそりゃあ当然よね。割に合わないと分かれば止めるのは道理・・・そうなれば各国は依存せざるを得なくなるわ・・・ファミリシア王国に」


「・・・なぜこの国はそこまでして・・・」


「作物は簡単に・・・一朝一夕で出来るものではないわ。大地を耕し、種を撒き、水をやりながら育つのを待ち、収穫出来るのは作る作物によっても違うけどかなりの期間がかかるのよ・・・なのに突然頼っていた外部からの供給が途絶えたらどうなると思う?」


「・・・食糧不足に・・・けどそんな事したら・・・」


「そうね・・・わざとしたらファミリシア王国は各国の怒りを買い滅ぼされてしまうでしょうね。けど作物を安定して作るのって難しいのよ?『天侯爵』と呼ばれていたウルティアが有り難られる理由・・・日照りが続いてもダメ、雨が降り続けてもダメ、気温が上がりすぎても下がりすぎても・・・天候によりかなり収穫量は左右される。だから天候を操れる程の魔法使いであるウルティアは重宝されていた。利用価値があったからね。で、ウルティアは最後の大仕事をしたってわけ。有名な天候を操る『天侯爵』が死んだとなれば今年は凶作だったって言っても信じられるでしょ?初めからウルティアの運命は決まっていたのよ・・・凶作の理由となって死ぬってね」


「・・・お前ら人をなんだと思って・・・」


「あはっ、言うと思った。逆に聞くけど貴方は人をなんだと思っているの?この世界で最も尊く偉大な人間様?他の生物は死んでもいいけど人間は天寿を全うすべき存在?笑える・・・ただ少し賢いだけの非力な生物なのに・・・」


「・・・別に人間様なんて思ってない・・・僕が言いたいのは・・・その・・・人間同士助け合うべきだって・・・殺し合ったり足を引っ張り合うのではなく・・・」


「綺麗事を・・・だから甘ちゃんは嫌いだよ。極寒の中明かりもなく餓死寸前の状態で手探りで妹だった肉を・・・弟だった肉を求める事になったとしても同じ事が言えるかい?餓死寸前の妹を・・・弟を見て貴方は何をする?助け合うんだろ?腕でも差し出す?『たんとお食べ』ってね」


「・・・」


「孤児で運が良かったね・・・黙ってても食事が出て来るのだから・・・アッチ達のような生まれた時から死を望まれる事なんてないのだから・・・・・・・・・少し話が逸れてしまったね・・・まあそういう訳でウルティアの死は必要だったんだよ・・・凶作の理由として。まっ、それも今となっては必要なくなっちゃったけどね」


「・・・アバドン・・・」


「そう・・・あの方は凄いのよ?一瞬で華やかだった街をこんなにしちゃって・・・言葉には言い表せないほど感動しちゃった・・・人間にとって必要なのはこの方だったのだと」


「・・・アバドンが必要?」


「そう・・・あれは紛れもなく救済・・・生きるという苦しみから解放してくれる救済よ。嫌いな服を着ても美味しいと言われる料理を食べても・・・何も感じないし味もしない・・・アッチが感じる事のないのに対してここで暮らす人間は喜び感動する・・・不公平・・・アッチがここに来てずっと思っていたこと・・・生きるということは不公平の上で成り立っている・・・そう諦めかけた時に現れたあの方は人間を公平に扱われた・・・老いた者、幼い者、男、女、身分一切関係なく与えたのよ・・・公平で平等な『死』を、ね。そこで気付いたの・・・生きているだけで苦しい人間もいれば何の苦労もしなくても楽をしている人間がいる・・・そんな不公平な世界を救ってくれようとしてしているのだ、と・・・あの方・・・アバドン様は」


「・・・」


メターニアの話に言葉を失うジーク達


そんな中、コゲツが頭を掻きながら一歩前に進み出る


「・・・黙って聞いてりゃなんだ・・・ただの嫉妬か~?お前さんの境遇には同情するが恨むなら全人類じゃなく国を恨め。国の政策如何でどうにでもなる話なのはお前さんも分かるだろ?」


「なぜ?」


「なぜってだから・・・ファミリシア王国がしっかり管理してれば良かった話だろ?戦争の下準備か知らねえがそんな事せずに食糧が自国に行き渡ってから余剰分を他国に売れば良かった話だ・・・違うか?」


「違うそうじゃない・・・アッチが聞きたいのはなぜ国を恨まないといけない?そもそもアッチは全人類を恨んではいないしその代わりに国を恨めと言われてもな」


「いやだって普通恨むだろ?国がまともならお前さんはそんな目にあってないはずだ」


「そうかもしれない・・・けどもう既に起こった事を責めても意味はないだろう?国を恨めば何か変わるのかい?」


「・・・変われば同じような目に合う奴はいなくなるかもしれないだろ?」


「だから?それでアッチに何の得がある?」


「・・・お前さんにだって子供を持つ事もあるかも知れないだろ?その子供達の未来の為って思えないか?」


「アッチが子供を?・・・話にならないね・・・アッチが子供・・・何とも割の合わない作業だね・・・一食分にしかならないのに妊娠して出産しろって?」


「お前っ!」


「餓死寸前の時に食べたモノは何でも美味しく感じるのかもね・・・あの味が忘れられないんだよ・・・何を食べてもアレは超えられない・・・久しぶりに食べたから火がついてしまったみたい・・・やっぱり筋張った男よりも・・・」


メターニアの視線がラナに向けられるとジークは咄嗟に間に入り剣を構える


「ダメだこりゃ・・・完全に壊れてやがる」


「・・・うん・・・話せば分かるなんて考えない方がいい・・・」


「壊れてるって酷い言い草だね・・・てか色々と話してあげたのは元からこっちの都合だし」


「都合?」


「飲み飲んだ核が馴染むまでの時間稼ぎ」


そう言い終わるとメターニアは口をパカッと大きく開けた


すると喉の奥から垣間見えたのは炎・・・メターニアが何をしようとしているのか理解したジーク達は避けきれないと悟りその場で防御の姿勢をとる


『ファイヤーブレス』


ダンジョン奥深くにいるドラゴンが得意とする炎の息は一瞬にしてジーク達を飲み込んだ


「ふぅ・・・スッキリ・・・どれどれこんがり焼けたかな・・・って、あら?」


ファイヤーブレスによって発生した煙が晴れてくるのをワクワクしながら見つめていたメターニア・・・しかし煙が晴れてくるとその表情は一変する


「ちょっと・・・それはズルくない?」


煙が晴れ確認するとジーク達は無傷であった


炎に包まれたはずなのに無傷の理由・・・それはラナ


ジークに守られていたラナがブレスが終わったタイミングで全員に回復魔法をかけていた。火傷を負った部分は瞬時に治りメターニアにはジーク達が無傷に映る。当然メターニアもその無傷の理由を理解し視線をジークの後ろにいるラナに向けていた


「ズル?12個もギフトを持っているそっちの方がズルだろ?」


「それがそうでもないのよ。12個もあるとなかなか使いこなすのが大変でね・・・練習台になってくれる?」


「お断りだね」


「そう・・・残念。まあいいわ・・・貴方達も時間ないから仕方ないわよね・・・あと半日もせずに魔人は街に到着する・・・それまでにアッチを倒して魔人を止めなければならない・・・あら?もしかして詰んでる?」


「いや詰んでないさ・・・さっきの無駄話より短い時間で終わらせてやる」


「無駄話って・・・結構自分で言うのはなんだけど重い話だと思ったのだけど・・・お子様には難しかったかな?」


「ああ難しいね・・・そんな目に合っても元凶の犬に成り下がるなんて難しくて理解出来ないし・・・理解しようとも思わない!僕ならそんな目に合わせた奴を許せない・・・復讐したって過去は変わらないけど・・・それでも!」


「村が飢饉に陥った元凶である王を討ち復讐を成し遂げる・・・それから?自分が王になり圧政に苦しめられた人達を救う?それとも復讐を終えて満足だからあとはよろしくって?」


「それは・・・その時になって考えるさ」


「・・・ならアッチと同じじゃない・・・自分のことしか考えてないのでしょ?『その時になって考える』?考えている内に死んでいく人の事など考えずに?それでよく正義ヅラ出来るわね・・・感心するわ」


「何もしないよりマシだ!」


「あっそ・・・まあ後先考えずは勇者の特権よね・・・人類の存亡を賭けた戦いに行く人があれこれ悩んでたら人間滅びちゃうしね。あら?その勇者と対峙しているアッチって何なのかしら?」


「そんなの決まってるだろ?魔王の手先さ──────」





それは絶望そのものだった


考えてみればすぐに分かったのに・・・なぜ僕は『勝てる』と思っていたのだろう


ファーロンに自分達が勝った気になっていたから?


顔見知りで話が通じそうな相手だから?


今の僕ならこの国で初めて遭遇した魔族にも勝てるだろう・・・それだけの経験を積んで来たし


その自信がいつの間にか過信になっていた?


だから根拠もなく『勝てる』と思い込んでしまったのか・・・ざまあないな


実際はファーロンを倒したのはメターニアでバウム達が繰り出したあの魔法も倒すには至っていなかった


そしてその勝てなかったファーロンの核を飲み込み力を吸収したメターニア・・・なぜ僕は『勝てる』と思ってしまったのだろう・・・()()なる前に気付いていれば・・・


「アハハ・・・どうしたの?さっきまでの威勢はどこに?」


体がふらつく


視線が定まらない


それでも立ち上がらなきゃ・・・みんなを守る為に!


「良かった・・・立ち上がってくれて。もし立ち上がらなかったらそこに転がってる人を齧っていこうかと思っていたところよ?あんまり食べると太っちゃうから今食べたいのはラナだけなのよね・・・本当良かった・・・」


攻撃は一切通じない・・・剣も拳も技も魔法も


何のギフトか分からない・・・ファーロンのギフトだったのかメターニアが元々持っていたギフトなのか・・・


三能の一人だったんだ・・・元々かなり強かったのにそれから5つに増えて更に12に・・・冷静に考えれば勝てるはずなんてなかったのになんで僕は・・・


「あらあら戦意喪失?勇者が弱気になってどうするの?それじゃあ勇者じゃなくて弱者じゃない・・・何かないの?とっておきの技とか切り札とか・・・もう結構時間経つけどそろそろ街の人達も魔人の存在に気付いてんじゃない?一体何人生き残れるかしらね・・・下手すりゃ全滅かも・・・何せあの数だもん・・・どれぐらい保つか考えた方が早そうね」


「・・・心は・・・痛まないのか?」


「アッチの?どうして?アッチには何の関係もない人達だし生きても死んでもどうでも・・・街の人達だってアッチが生きようが死のうが気にしないでしょ?なんでアッチだけが気にしないといけないの?」


「三能の一人だろ?民を守る立場じゃないのか?」


「違うわ。国王の命令を受けて行動する・・・そして安全と安心が確約される立場よ。まあ今は・・・自らの存在意義を証明し生き残らないといけない立場だけどね」


「なるほどね・・・生粋の犬ってわけか・・・」


「さっきから犬犬うるさいわね・・・その犬畜生にも劣る貴方はなに?・・・ああ、そうそう弱者様だったわね」


そう・・・僕は弱い


これからメターニアを倒して街に向かい魔人を倒して・・・そしてアバドンとアイツを倒さないといけないのに・・・


「・・・あの方のアテが外れたわね・・・追い込めばもっと必死になって頑張ると思ったのに・・・結局貴方も他人がどうなっても気にしないんでしょ?だからがむしゃらに向かって来ない・・・『心が痛むか』ですって?貴方にそっくりそのままお返しするわ・・・守れなくて心が痛まないの?」


「・・・」


もうみんなは立ち上がれないだろう・・・ラナはマナが枯渇しコゲツ達は瀕死の状態・・・せめてマナを回復出来ればもう一度立ち上がれるのに・・・


自分の甘さに反吐が出る


僕なら何とかなると簡単に考えていた・・・僕より強い存在がいる事を知っていたはずなのに・・・


「・・・ハアガッカリ・・・これじゃあの方も・・・・・・?」


メターニア?何を見て・・・


メターニアが見上げた先には城の上の方で佇むアイツがいた。そこから見下ろしこの結果にさぞかしご満悦した顔でもしてるのだろうと思いきや・・・アイツは僕達を見ずずっと遠くを見ているようだった


「・・・もしかして魔人達を?・・・でもいくら高い所からとはいえ特に面白い光景は見られないはず・・・少なくともこの場より面白くは・・・あら?」


僕達の戦いを面白がって見られるのもムカつくけど見られないのもムカつく


まるで眼中に無いような素振りに腹を立て何気なく後ろを振り返る


すると遠くの方で土煙が舞っていた


あの土煙は一体・・・


「おかしいわね・・・何かあったのかしら?」


そう呟きメターニアが再度アイツに視線を移す


僕もつられてアイツを見上げると何故かアイツはニヤリと笑いここからじゃ聞こえたいけど確かに何かを呟いた


キ・・・タ?


口の動きからアイツが呟いた言葉を予想する


キタ?・・・来た?


一体何が来たって・・・


「こいつがアバドン?」


「いえ違うわ」


「うわぁ!・・・・・・お前!?」


突然背後から声が聞こえ振り返るといつの間にか2人が立っていた


「立てるか?ジーク・・・てかボロボロだな」


「う、うるさい!・・・遅いんだよ・・・」


「今日行くって知らなかったからな。通信道具渡してたろ?連絡の一本くらい寄越せって・・・まあいいや、後は任せておけ」


そう言って彼は僕の肩にポンと手を乗せると通り過ぎメターニアの前に立つ


僕がやらなきゃいけないことをいつもコイツは・・・


「ちょうど連戦で疲れてたところだったから・・・少しの間任せた」


「一生休んどけ・・・勇者の出る幕じゃないからな。ここからは俺の出番だ・・・そうだろ?・・・えっと・・・何さん?」


「三能のメターニアだ・・・ファーロンの核を飲み込んで力を吸収しやがった・・・そいつのギフトは12だそうだ」


「12?・・・それは凄いな」


「気を付けろ・・・僕達は手も足も出なかった・・・疲れてたから」


「微妙に自尊心出すな。まあいいや・・・メターニアだっけ?こっからは俺が相手だ」


そう言ってメターニアと対峙する


悔しいけどそれを見たら足に力が抜け地面に座り込んでしまった・・・ハア・・・情けない・・・本当は僕の役目なのに・・・この背中を見たら頼りたくなっちゃうじゃないか・・・


「頼んだ・・・ロウニール!!──────」

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