56階 Eランク対Aランク
ケン達はEランクパーティーである
冒険者としては新人を少し出た中堅未満の冒険者
その冒険者が最高峰に位置するAランク冒険者に勝てるはずもなく・・・突然の結果が待機部屋で出ていた
「あぐ・・・あ・・・」
「偉いねぇ・・・仲間を守る為に自分だけ突っ込んで来るなんて・・・君にはこの言葉を送ろう・・・『身の程知らず』」
「くっ!・・・ケ、ケンからその汚い足を退けなさい!」
震える手を握り締め、精一杯声を張り上げるマホ。だが体は言うことを聞かずいくら勇気を振り絞っても足は一歩を踏み出せない
目の前で・・・大事な仲間がボロボロになり頭を踏みつけられていても
「汚い足?・・・ああ、彼の血で汚れてしまったから確かに汚いね。・・・この汚れてしまった足を君の舌で綺麗にしてくれるっていうのはどうだろう?そうすればこの足は彼の頭を踏み砕くことなく上がりそうなんだが?」
「はあ!?何を言って・・・」
「なんだ所詮仲間のフリか・・・君達にはガッカリだよ・・・せっかく彼が命を賭して君達を助けようとしたのに、その仲間達は彼が死ぬのをただ見ているだけなんて・・・」
シークスは心底ガッカリした様子を見せ、その背後で彼のパーティーメンバーである3人はニヤニヤと笑みを浮かべる
ケンは逃げろとマホ達に向けて叫ぶと単身シークスに向かって行った。剣を抜き少しでもマホ達の逃げる時間を稼ごうとシークスに斬り掛かるが、シークスはそれを避けもせずケンの一撃を受ける・・・が、刃はシークスの肌を1ミリも傷付けることなく止まり、そこから一方的な暴力が始まる
腕は折られ足は砕かれ立つことも出来なくなり倒れたケンを踏みつけるシークス
その戦いとも言えない一方的な暴力の間、マホ達は立ち尽くし見ている事しか出来なかった
「・・・逃げ・・・ろ・・・あがっ!」
「まだ喋れる元気があるの?なかなかしぶといね・・・頭を踏み潰しても動けるか試してる?」
地面に押し付けられた頭を少し上げて必死にマホ達を逃げるように声を振り絞るケン。そのケンに対してシークスは無情にも踏み付ける足に力を入れ言葉を遮る
ミシミシと音が聞こえる
本当に頭を踏み潰されるかもしれないという恐怖が後ろで見ている事しか出来なかった者を突き動かす
「や、やめろてめぇ!」
恐怖に友を助けるという気持ちが打ち勝ち、スカットが前に出る
自分では瞬時に間合いを詰めシークスに一撃を加えてケンを助ける・・・つもりだった。しかし一歩踏み出し叫んだだけで次の一歩がなかなか出ない・・・マナを使い身体能力を上げようとしてもそれすらままならない
「君が舐めて綺麗にしてくれるのか?・・・うーん、男の舌じゃ余計に汚くなりそうだ・・・君か君なら考えなくもないが・・・どうする?」
叫ぶだけで身動きの取れないスカットを鼻で笑いシークスはマホとヒーラを指さす
それを聞いてスカットは更に一歩進み出るがそのスカットの肩にマホが手を乗せた
「・・・本当に・・・舐めたらケンを助けてくれるの?」
「マホ!」
スカットがマホの名を叫ぶがそれを無視して彼女は未だケンの頭を踏み付けているシークスを睨み続ける。その様子を見てシークスが下卑た笑いを浮かべるとケンの血が付いた靴を少し浮かせる
「ほら・・・この通り。ただ早くしないと再びこの足は彼の頭を踏み付ける・・・もしかしたらその勢いで頭が潰れてしまうかも・・・急いだ方がいいよ?」
ここで不意打ちで魔法を放っても恐らく状況が悪化するだけ・・・それならばとマホは覚悟を決め進み出るとそれと同時にヒーラも歩み出る
「ヒーラ?」
「2人でやった方が早いと思います」
驚いた表情で見るマホに振り向かずヒーラは真っ直ぐにケンの元へとマホに歩調を合わせた
「・・・それもそうね・・・さっさと終わらせましょう・・・」
2人揃って歩み寄る姿を見て征服感を刺激されたのかシークスは更に笑みを深め足を真っ直ぐに2人に向ける
この足を掴んで押してやれば倒れるのでは?そう一瞬考えたがそうはしなかった
もし成功したとしてもケンを担いで逃げる暇などないだろう。そしてもっと悲惨な目に合うのは目に見えてる。マホ達はグッと堪えシークスの前に立つと膝をつきケンの血の付いた足を見つめる
「どうした?とっとと綺麗にしてくれ」
「・・・約束して。綺麗にしたらギャッ!」
シークスの足が動く
約束を取り付けようとしたマホは顔面を蹴られ壁際まで飛ばされてしまう
「マホ!!」
「ハア・・・君達はまだ状況が飲み込めてないみたいだな。君達が出来る事といえばボクの言う通りにする事とダンジョンナイトが来てくれるよう祈るだけ・・・早く来てくれれば簡単に死ねるけど遅ければ遅いほど苦痛を伴う・・・例えば・・・」
「きゃあ!」
「こうやって辱めを受けたり、ね」
シークスがおもむろにヒーラの服を掴むと一気に引き裂いた
胸が露になり反射的に隠すヒーラ。それを見て後ろで立っているだけだった3人がもっとやれと囃し立てる
「・・・てめぇ・・・マホを蹴りヒーラを・・・このっ・・・」
「おお?口だけは動くみたいだね・・・で、何か?」
「・・・実力はAランクかも知れねえけど性根は腐ってんな・・・殺るなら俺をやれ!この腐れ細目野郎!!」
「あ?」
「あーあ、言っちまった」「禁句だぞ?それ」「女は生かしておいて欲しいな・・・」
シークスの目は細い。笑うと糸のように細くなりそれを小さい頃から気にしていたシークス・・・それをただのダンジョンナイトのエサと思っていた者から指摘され浮かべていた笑みが消え目が僅かに開かれる
後ろで野次を飛ばす3人はこれで終わったと肩を竦め死体の処理をどうするか考え始める
「・・・いやいやいや、後ろで何をごちゃごちゃ言っているんだ?・・・ボクはそんな事で怒らない・・・ああ、怒らないさ・・・ただ贄のくせに生意気だって思う・・・うん・・・」
シークスは仲間の言葉に反応すると自分に言い聞かせるようにブツブツと呟き、スカットを睨みつける
「・・・生意気な君に罰を与えよう。何がいい?手足の指を全て切り落とす?その生意気な舌を引っこ抜く?目をくり抜いて間違ったものを見ないようにする?それとも使い道のない生殖器を切り落とすか?それを食べさせるのもいいかもな」
「・・・な、何を言って・・・」
「少しずつ少しずつ痛みを与えてやる。いずれ君の口から『ごめんなさいもう言いません他の奴を痛め付けて下さい』って言葉が出るまで少しずつ・・・言うまで止めないから・・・それとボクが君を痛め付けている間、君の仲間は暇だろうから・・・」
「やっていいのか?」
「ああ、好きにしろ。だけどこの男から目を離すなよ?結構痛め付けたけどまだ反抗的な目付きをしてる・・・適当にそっちで痛め付けておいてくれ」
「了解・・・ならジャンケンだな」
「マジかよ・・・天国と地獄じゃねえか・・・」
「勝った2人でもう1回ジャンケンだな。で、勝った方が好きな方の相手するってのはどうだ?」
「いいなそれ!」
シークスの後ろに立ち、吐き気がするような内容を平気で口にする者達を睨みつけ、スカットはようやく足を動かす
「おお・・・なんだ?今更何かしようっていうの?でも残念・・・遅いよ」
そう言うとシークスはヒーラの腕を掴み強引に引っ張るり後ろの3人の方に投げ飛ばす
「やあお嬢ちゃん・・・楽しくやろうぜ?」
「い、いや!はな・・・」
「黙れよ!・・・さて、ジャンケンだ」
暴れようとするヒーラを殴り、黙らせるとジャンケンを始める3人
その様子を見てスカットは怒りが頂点に達しスカットではなく3人に向かって走り出す
「うおおおぉぉぉ!!!」
「おいおい、君の相手はボクだって言っただろ?」
横を通り抜けようとするスカットの前に立ち塞がり腹部に一撃を放つ。激しい痛みでその場にうずくまるスカットを見下ろしシークスは再び笑みを浮かべる
「さあ君達にとっての地獄、ボク達にとっての天国の始まりだ。キミ達が楽に死ねる方法は一つだけ・・・ダンジョンナイトの降臨だ!さあ願え!涙のひとつでも流しながら叫べが早く来てくれるかも知れないぞ?なあ?・・・!?」
風が鳴る
シークスが突然屈むとその上を風の刃が通り過ぎ、とうとう来たかと風の刃が放たれた方向を見ると望んでいた相手ではなく肩を落とした
「・・・ダンジョンナイトの正体が君だった・・・って事はないよな?サラ・セームン」
「生憎だが違うな・・・私はダンジョンナイトではない・・・」
待機部屋に現れたのはシークスが待ち望んだダンジョンナイトではなくサラだった
サラは部屋の中を無表情で見回し現状を把握するとスタスタと歩き出す
「なら邪魔だよ・・・それともこの遊びに参加したくなったか?」
「・・・遊び・・・だと?」
「ああ、遊びさ。いや儀式かな?ダンジョンナイトを呼び寄せる儀式・・・まあ半分遊びみたいなものだね」
「・・・そうか・・・ならばその遊びとやらに参加させてもらおうか・・・シークス・ヤグナー!!」
無表情だったサラは怒りを滲ませ風牙扇を取り出す
閉じたままの鉄扇は最も威力を発揮し殺傷能力が高い
「もっと賢いって印象だったけどな・・・お前ら!そっちで遊んでないで手伝え!この女から遊ぶぞ」
ジャンケンでの勝負がつき喜んでいたのも束の間、パーティーリーダーに呼ばれた3人は渋々とそれに従う
「ヒーラ!!」
殴られ気を失ったヒーラの元にスカットが腹部を押さえながら歩み寄る。それを3人が阻もうとするがシークスに睨まれた為に道を開ける
「ハア・・・そそり立つこいつをどうにかしてくれよシークス」
「全部終わったら好きにさせてやる。ちょうど女は3人だ・・・全員に行き渡るだろ?」
「そういやそうだな!じゃあ負けた俺が『風鳴り』か・・・興奮するぜ!」
「ちょっと待て!選ぶ権利は勝った奴だろ?なら俺が『風鳴り』だ!」
「落ち着けヤット、サムス、レジー・・・まずはこの女を黙らせるのが先決だろ?この女の風は少々うるさいからね・・・黙らせた後は好きにすればいいさ・・・ダンジョンナイトが来るまでは、ね──────」




