584階 最高傑作
《これで分からなくなったわね》
《・・・嬉しそうだな。自らの最高傑作が破壊されてもいいのか?》
《勘違いしないで・・・私は相手を破壊する事しか考えてないアナタと違ってコレが見たかったの。強大な敵に挑む人間・・・圧倒的な差があるにも関わらず、もがき、足掻き、苦しみながら挑みそれを越えて行く・・・この瞬間が堪らないのよ》
《・・・理解に苦しむな。どうやって圧倒的な差を埋めると言うのだ?相手の油断を誘うのか?》
《違うわ・・・戦いの中で成長するの・・・進化とも言えるかも・・・とにかく人間はほんの瞬き程度の時間で強くなる・・・変わらない私達と違ってね》
《・・・もし仮に成長するとしても限界はあろう・・・ならば結局は・・・》
《ところがどっこいそうでもないのよね。インキュバスが創り出した魔族・・・その魔族の因子を受け継いだとしても所詮は創造主と創られたモノ・・・本来なら敵うはずもない力の差があるにも関わらず人間はその差を越えてきた・・・》
《それは有り得ぬ。我ですら我の力を超えるモノは破壊出来ぬように創られた側が創ったものを破壊する事など・・・》
《実際見て来たのに何言ってんの?インキュバスがその創られたモノにやられたの知ってるくせに》
《あれは奴の戯れだ・・・現に・・・》
《なら彼は?輪廻の内側ならたわむれで済むけど外側ならどうなるかインキュバスも充分理解していたはず・・・なのに・・・》
《・・・それを確かめる為に貴様の甘言に乗り待っているのだ》
《あっそ・・・だからそれ以外に興味はないって事なのね》
《・・・》
《・・・まあいいわ。楽しい事はお裾分けしたいけど強要は良くないものね。けど後悔するわよ?・・・人間って本当面白いんだから──────》
ウロボロスが上から見つめる中、ラナの光を浴び全員が立ち上がる
ファーロンに有利であった戦況は少しだがジーク達側に傾き始め絶望に一筋の光・・・希望が射した
「いいね・・・やっとこさ傷ひとつ・・・されどダメージはダメージだ」
「私達全然役に立ってないけどね」
「言うな・・・血が見れたからこれからが本番だ」
「あんたはタンカーしなさいよタンカーを」
バベル&ソワナ
「情けねえ・・・守るつもりが守られて・・・こりゃ帰ったら殿に大目玉だな・・・なあアッシュ」
「・・・残念無念・・・捲土重来・・・」
「ああ・・・やられたらやり返す・・・ラズン魂の真骨頂をみせてやるか」
コゲツ&アッシュ
「ラナ!大丈夫?」
「ええ・・・大丈夫よ。ジークは?」
「全開バリバリ・・・負ける気がしない」
「そう・・・治してあげるけど出来るだけ怪我しないでね」
ジーク&ラナ
「私に本気で勝てると思っているのか?瀕死になりながらたかだかかすり傷程度を負わせた程度の実力で?」
VSファーロン
「完全に蚊帳の外だな」
「だからこそ完成させられた・・・だろう?」
「まあな。ちょうど頃合か・・・」
「そうだね・・・やっちまいな」
「言われずとも・・・帰って孫を抱かんとな!」
バウム&アネッサ
ファーロンと対峙する6人・・・その後方で人知れず準備をしていた2人
バウムとアネッサの2人で組み上げた魔法が今、完成した
かつて地仙と呼ばれたバウムと灼熱の魔女と呼ばれたアネッサの合作魔法・・・バウムが巨大な岩の塊を作り出しアネッサがその岩の塊を燃やす・・・上空で煌々と照りつけるそれはあたかも地上を照らす太陽のようだった
「・・・なんだ・・・あれは・・・」
照りつける第二の太陽の存在に気付いたファーロンは言葉を失う
これまで無警戒だった2人の魔法使いが密かに作り上げた魔法に脅威を感じ初めてその余裕の表情を崩した
「おいおい・・・コソコソ何してるかと思いきや・・・えげつねえなおい」
「くっ!離れるぞ!!」
ジークの声に反応し全員が一気に標的となるファーロンから離れる
するとそれを見届けたバウムは掲げていた杖をゆっくりとファーロンに向けた
「どれだけの威力かワシにも分からん・・・だからその身をもって知れ・・・『サンフォール』!!」
バウムの叫びに応えるように太陽は狙いを定めて降り注ぐ
「ぬう!!」
逃げ切れないと判断したファーロンは両腕を体の前で交差させ防御の構えを取る。自身の体より遥かに巨大な燃える岩・・・小さな太陽を防ぐ為に
その小さな太陽とファーロンが接触した瞬間、地面を揺らす程の爆音がジーク達の耳に響いた。そして辺りは土煙に覆われ視界も塞がれる・・・結末は見るまでもないと脅威が去ったと肩を撫で下ろし功労者の2人に振り返る
「いつから準備してたんだ?あんな魔法」
「コゲツ殿の攻撃が効かぬのを見てな・・・やり過ぎかと思ったが時間をあまり掛けられぬであろう?」
「そうだった・・・てかまだもう1人・・・」
「メターニアさん・・・けどファーロンさんのすぐ後ろに居たしもしかしたら・・・」
ファーロンが8対1と言った時点で三能の一人であるメターニアは一歩後ろに下がり戦いを見つめているだけだった
バウム達が放ったサンフォールは広範囲に衝撃を与えている為にもしかしたらメターニアも巻き込まれファーロンと同時に倒した可能性もある
メターニアがファーロンと同じくらい強いと仮定したら苦戦は必至・・・もう既に先頭は見えなくなっている魔人の群れを倒すには時間がいくらあっても足りない
ジーク達はどうか巻き添えを食らっていてくれと期待しつつ土煙が晴れるのを待つ
すると・・・
音が聞こえる
固いものを噛み砕くような音
その音が咀嚼音である事に気付いたのは土煙が少し晴れた時だった
「・・・」
言葉を失うジーク達
彼らは何を見させられているのか理解出来ずにいた
倒れるファーロンに覆い被さり顔を近付けるメターニア・・・顔を上げると口元は血で真っ赤に染まっていた
「・・・これは見苦しいところを見せちまったね・・・見えてない隙に全部食べてしまおうかと思ってたのに・・・」
「食べっ・・・お前・・・人間を・・・」
「別に・・・死んだら肉でしょ?人間も。まあファーロン・・・死んでないけどね」
「え!?」
メターニアの言葉通りファーロンは絶命していなかった
「あの魔法・・・サンフォールだっけ?それを全身を巨大化させ耐え抜いた・・・が当然無傷では済まず動けなくなっているところをパクッとね」
「・・・メターニア・・・貴様・・・」
「ほ、本当に生きてるぅ!!」
仰向けに倒れているファーロンが手を伸ばすとメターニアはその手を払い除け再び顔をファーロンの胸に埋める
「ぐあぁぁ!!や、やめろ!!」
「プハァ・・・遠いわね・・・まだなの?」
そう言うとまた顔を埋めるメターニア・・・そして・・・
「・・・あった・・・」
「や、めろ・・・」
「残念ね・・・これでアッチが最高傑作よ」
顔上げたその口には玉が咥えられていた
人が人を喰らう光景を見て固まっていたジーク達はその玉を見て気付く・・・メターニアの目的はファーロンを食べる事ではなく・・・
「核を!!」
「そうよ・・・これでアッチは『12』・・・誰もアッチには勝てない・・・」
「12?な、なんだその数字は・・・」
「・・・知りたい?なら教えてあげる・・・ファーロンが取り込んだ魔核の数が『6』・・・アッチが『4』・・・元々のギフトを足すと合計『12』・・・今のアッチは『12』のギフトを持っているの・・・凄くない?アッチもファーロンと同じくらい取り込もうとしたけど限界が来ていた・・・悔しいけど元々の才能の差ってやつ?本当いつも自分が一番強いからって偉そうにして・・・」
「や・・・め・・・」
「だーめ。要らないでしょ?核を失った抜け殻なんて」
「や、やめろー!!・・・っ!?」
メターニアは立ち上がり足を巨大化させるとファーロンの頭を踏み潰す
ジーク達はあまりの凄惨な光景に目を背けた
「なんで・・・仲間だろ?それを・・・」
「仲間?ハッ、仲間ねえ・・・コイツがアッチをどう思ってたか知らないけど少なくともアッチは仲間なんて思っちゃいない。こんな変態野郎」
「変態?」
「変態だよ変態・・・玉座を狙ってたのか知らないけど幼い王女を狙ってたんだよ?隙あらば体を触ったりして・・・あー思い出すだけで寒気がする・・・権力の為なのか嗜好なのか知らないけどどっちにしてもアッチはそんなヤツを仲間とは思いたくないねぇ」
「・・・僕は人間を喰う同僚も勘弁だけどね・・・」
「孤児院育ちでもアッチより裕福な暮らしをしてきたみたいだね」
「どういう意味だ?」
「この国の北部の惨状を知らないのかい?土地が枯れろくに作物が育たない状況でやっと出来た作物は税収として取り上げられる・・・寒さと貧困の中、狩りも出来ない弱い者は淘汰される・・・自然と強き者にね」
「淘汰?」
「弱った者、幼く働けない者、ギフトのない者・・・そいつらは全員いざという時の食糧・・・飯もろくに与えられず馬車馬の如く働かされられ死んだら強き者の胃袋に収まる・・・アッチは何とかギフトがあって生きられたけど妹や弟は・・・・・・・・・アッチの胃袋に喜んで入ってくれたよ」
「っ!?・・・まさか喰ったのか?・・・自分の兄弟を・・・」
「おかしい?・・・いやおかしいんだろうね・・・その時は死んじまった事が悲しくて泣きながら食べたけど食べる事には少しも疑問を持たなかった・・・その後アッチのギフトがレアなギフトって分かって王都に移り住む事になった時も・・・2人の死の原因である政策を打ち立てている国王に会っても怒りは湧かなかったな・・・」
「原因が国の政策だと?」
「あら知らないの?この国は大量の食糧を他国に輸出している・・・シャリファ王国を始め各国にね・・・その理由が分かる?」
「・・・さあな」
「まっ、勇者が知らなくて当然よね・・・孤児だったラナも他国の人達も知らなくて当然・・・貴方達孤児で良かったわね・・・下手に親が居てアッチと同じ境遇だったら食うか食われるかだったはずよ?何せこの国は・・・どの国よりも貪欲で欲望渦巻く国なのだから──────」




