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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
588/856

583階 覚醒

《あらま・・・さすが出来損ない・・・あんなにもアッサリとやられるなんて》


ウロボロスが城の頂上に位置するテラスに戻り振り返った瞬間にダンテの首が刎ねられた姿を目撃する


《残当と言えば残当だけど・・・もう少し・・・ねえ?》


《・・・さあな》


同じくテラスでジーク達を見ていたアバドンは興味なさげ気に踵を返す


《あら?見ないの?》


《なぜ人間同士の戦いを見る必要が?》


《楽しいわよ?》


《楽しい?興味ないな》


アバドンはそう言い残すと部屋へと戻って行ってしまった


残されたウロボロスはその背中を見送るとため息をつきジーク達へと視線を戻す


《興味ない・・・か。インキュバスの最高傑作と私の最高傑作の戦いが?・・・本当に自分がやらないと気が済まないんだから・・・せっかく最高の戦いがこれから繰り広げられるって言うのに・・・ねえ?元勇者ジーク──────》





「コゲツとアッシュ・・・それにバベルとソワナはメターニアを!バウムとアネッサは僕達とファーロンを叩く!」


ダンテを始末して残りは2人・・・三能と呼ばれ強さはウルティアやエメンケを凌ぐと言われているくらいだ・・・弱いはずはないだろうな


戦力を分散させるのはよくないのは分かってる・・・相手の実力やどう出るかが分からない内に二手に分けるのもあまり褒められたものではないだろうな


けど・・・大量の魔人達は脇目も振らず街を目指し歩いている・・・時間を掛けていては魔人が・・・魔人が街に・・・


「バランスより慣れを取ったか・・・正解だな」


コゲツの言うようにバランスより慣れている編成を選んだ。同じ国同士・・・気心の知れている同士の方が戦いやすいはず・・・本当はバランスを考慮して編成するべきなのに・・・


コゲツの方は近接アタッカー2人にスカウトとタンカー


僕の方は近接アタッカーにヒーラーと遠距離アタッカー2人


向こうの近接アタッカー1人とこちらの遠距離アタッカーを1人交換するべきなのだろうけど・・・


「悩むなジーク・・・とりあえずやってみようや。なるべくすぐに倒して魔人を止める・・・だろ?」


「うん!そっちは任せた・・・僕は僕で全力でファーロンを倒す!」


コゲツは強い・・・他のみんなも・・・だから大丈夫・・・きっと上手くいく!


「そうか・・・君達にはこの状況が2対8に見えるか・・・残念ながらそれは間違いだ・・・実際は1対8・・・私1人で充分なのだよ」


分かれて各個撃破を試みようとしたけどその前にファーロンが動く


話終えると同時にメリメリという音がして服が裂け肥大した腕が顕になる


「さて・・・やろうか!」


「チッ!何なのよコイツ!」


左腕だけ巨大化させたファーロンはエターニアに向かおうとしていたソワナに近付くとその巨大な腕を下から突き上げた・・・ソワナは槍で受け止めるも巨大な拳を受け止められず宙を舞う


「ソワナ!・・・てめぇ!!」


ソワナがやられバベルは鞭を振るう・・・先っぽに刃がついたバベル特製の鞭・・・その鞭の先がファーロンを捉えたように見えたけど先っぽの刃を躱し鞭の部分を掴むと手繰り寄せファーロンは再び拳を振るう


バベルは物凄い速さで吹き飛んで行き地面に激突すると動かなくなってしまった


二振り・・・たった二振りで仲間が・・・ソワナとバベルが戦闘不能に・・・


「・・・そう言えば洞窟で見た事があるな・・・ビックアームだったか?それに似ている」


動揺する僕とは違いコゲツは冷静だった


バベルを吹き飛ばして隙が出来たファーロンの懐に入り込むと手のひらをそっと奴の腹部へと当てた


当身ではなく手のひらからマナを相手に流し込み衝撃を与える技・・・僕も食らったことがあるけど体の全ての骨が砕かれたような衝撃にしばらく身動きが取れなかったのを覚えてる・・・あの技が決まればファーロンだって・・・


「暴れ龍」


「ぐっ!!」


ファーロンの体が揺れる


これで形勢逆転・・・後は畳み掛ければ・・・


「・・・なるほど」


っ!?


ファーロンは呟き右腕までも巨大化させてコゲツに殴り掛かる。コゲツは反撃を予想していたのか腕を固めガードして反撃を試みようとするが巨大な拳に打たれた瞬間体は浮きそのまま押し飛ばされた


「コゲツ!・・・・・・ファーロン・・・お前・・・」


「死を免れる為に得た力だったがどうしてどうして・・・感謝するぞ勇者ジークとその仲間達よ・・・」


「なに?」


「破壊力に耐久力・・・以前の私にはなかった力をようやく実感出来た・・・後は勇者・・・お前に勝つ事が出来れば証明される・・・私がこの世で・・・一番強い人間だと──────」




戦いは熾烈を極めた


部分的に手足を巨大化させるファーロン・・・巨大化する事により全ての能力は向上し圧倒的な力を見せた


ジーク達も応戦するも初っ端の3人の脱落が響き苦戦を強いられる


もはや大勢は決まったとファーロンが確信した時、元の大きさに戻していた腕に鞭が絡みつく


「・・・貴様・・・」


「ハッ!死んだと思ったか?ただ単に自分の血に興奮していただけだ化け物野郎!」


既に戦闘不能状態になったと思っていたバベルの不意の攻撃に驚いていると死角から槍を突かれギリギリで躱しはしたが頬が弾け血が飛び散る


「アタシの事も忘れないでよね?」


「・・・なるほど・・・力に溺れ貴女の事を忘れてましたよ・・・ラナ」


ソワナまでも復活したのを目の当たりにしようやくヒーラーであるラナの存在に気付いた


今も必死にファーロンの攻撃を防御した際に腕の骨が折れ戦線を離脱していたコゲツの治療にあたるラナを見て納得の表情を浮かべると共に殺意を彼女に向けた


「慢心・・・経験不足・・・それらをここで解消しておく!」


慢心によるヒーラーの存在の失念、人間のパーティーとの戦闘の経験不足による失態・・・その二つをこの戦いにてなくそうとするファーロンの貪欲な牙がラナに向く


「ラナに近付くな!この変態野郎!!」


()()は引っ込んでいろ」


「なっ!?このっ!!」


ラナを守る為にファーロンの前に立ちはだかるジーク・・・しかしジークは既にファーロンに対する障壁とはなり得なかった


戦いが始まる前まではジークが人類最強であると思っていた。だからこそジークを超えれば怖いものがないとさえ思っていたのだが・・・いざ戦いが始まると8人の中で最も警戒すべき者は警戒する必要がない者となっていた


3人が倒れた際に見せた多彩な攻撃手段を持つアッシュ、様々な魔法で妨害してくるバウムとアネッサ、そして倒れた者を再び立ち上がらせるラナ、鞭で動きを拘束するバベルに先程頬を抉る鋭い突きを見せたソワナ・・・そして隙をつき懐に入り以前なら勝負が決していたと思われる威力の攻撃をして来たコゲツ・・・さすがは十二傑に選ばれた者達とファーロンは内心感心していた


しかしジークだけは違った


突然3人の仲間を失ってしまった状況であたふたする様、威力は高いが単調で工夫が見られない攻撃、必死に仲間に指示を出してはいるが遅く的を得ていない状態・・・パーティーの足を引っ張っているとも思えるそのジークに心底ファーロンはガッカリしていた


越えるべき壁があまりにも低かったから


「周りから倒して最後に・・・そう思っていたが貴様から始末してやろう・・・元勇者ジークよ!」


ラナを守るように立つジークに容赦なく降り注ぐ巨大化した拳


ジークは何とか受け止めるが徐々に後退していく


「どうした?勇者の力とはそんなものか?」


期待外れの勇者に落胆しながらも攻撃を続けるファーロン


ジークはそのファーロンの表情を見て顔を顰める


自分でも分かっていた・・・自分がパーティーの足を引っ張っている事も・・・なぜ足を引っ張ってしまっているかも


ジークの不調の原因はウロボロスにあった


自分は神に選ばれた勇者・・・そう思っていたにも関わらず女神の声と思っていたがその声が魔族であると知り、更に勇者の力の源が魔族のものであると知ってしまったからだ


ジークは自分の力が人類の為にあると信じて疑わずこれまで勇者を演じてきた。しかしその力が魔族・・・つまり人類の敵の力と知り疑い始めてしまったのだ


自分の力を


「ほらほらどうした?どんどん当たって来てるぞ?」


上手く剣で捌いていた拳も徐々に捌けなくなり始め打撃を食らうとその度に後ろに下がりコゲツを治療しているラナに近付く


「こ・・・のっ・・・」


「2人仲良く葬り去ってやろうか?元勇者よ!」


「・・・舐めるな・・・僕は・・・僕は・・・」


疑念が力を阻害する


「ジーク!!」


勇者本来の力を出せば防げたはずのファーロンの拳がジークの腹部にめり込みその体を吹き飛ばす


「・・・ラ・・・ナ・・・」


宙を舞いながらジークはラナに向けて手を伸ばす・・・が、その伸ばした手は無情にも彼女から遠ざかっていく


「っ!・・・ファーロン・・・様・・・」


ラナの周りが急に暗くなり振り返ると目の前にファーロンが立っていた。壁となっていてくれたジークは後方へと吹き飛ばされ壁となる者は居ない・・・コゲツに回復魔法を掛けながらファーロンを見上げるとその見慣れた優しい瞳を見て体を震わす


「ラナよ・・・終わりなき戦いも興味深いが些か飽きた・・・この辺で終わりとしよう」


拳に力を込めながらファーロンは言うと明確な殺意を彼女に向けた


「・・・え?コゲツさん!?まだ・・・」


「俺達の娘に何手を出そうとしてやがんだ変態野郎」


ヒーラーであるラナが離脱すればジーク達は勝機を失う・・・それが分かっているからこそコゲツはラナから受けていた回復魔法を中断してファーロンの前に立ちはだかる


「力の差は歴然・・・それでも諦めないか・・・」


「勇者パーティーのキモはジーク・・・そしてラナだ。失う訳にはいかないんでね・・・たとえ俺の命が尽きようとも!」


先程ファーロンの拳を受けた左腕はまだ折れたまま・・・それでもコゲツは圧倒的な力を持つファーロンに立ち向かう


「アッシュ!」


「承知千万!!」


「意味分かんねぇぞ!」


反撃の機会を伺っていたアッシュがファーロンの背後に忍び寄る


正面からコゲツ、背後からアッシュの2人同時攻撃はこの上なく完璧に決まったかのように思えた・・・が


「・・・なかなか・・・だな」


「チッ・・・化け物め・・・」


ファーロンは慌てる事無く前後の同時攻撃に体を巨大化させ受け切ると笑みを浮かべ2人に向けて同時に拳を放つ


「コゲツさん!アッシュさん!」


呆気なく吹き飛ばされる2人を見て叫ぶラナ・・・彼女の前には何も存在せずファーロンとたった1人で対峙する


「遺言を聞こうか」


「・・・」


絶体絶命・・・ラナに抗う術はなかった


「・・・何も無しか・・・それもいいだろう」


右腕が更に巨大化する


ファーロン自身よりも巨大となったその腕が振り上げられるとラナに影を落とす


「ラナ逃げよ!・・・ぬうまだか!?」


バウムが叫ぶがラナの耳には届かない


絶対的な死を目の前にして彼女は静かに目を閉じ両手を胸の前で組んだ。まるで祈りを捧げるように


「さらばだ・・・ラナ」


死を覚悟したのかラナは振り下ろされようとする巨大な腕の前から一歩も動こうとしない。離れた場所から逃げよと叫ぶ仲間達・・・誰も助けられる距離にはいない・・・誰もが諦めかけたその時・・・



《これだからやめられないのよね》


城の最上部に位置するテラスから戦いを見つめていたウロボロスが上機嫌に呟く


《・・・何をだ?》


《あら?少しは興味あるの?ならこっちに来て一緒に見ましょうよ・・・ただたまたま・・・勇者の傍に居たってだけで世界の命運を賭けた戦いに駆り出された人間の少女が・・・()()になる姿を》


ウロボロスは部屋に戻ってしまったアバドンに向けて言うと再び視線を戻す。その視線の先には絶命必至の状況の中、光り輝くラナが居た



「光?・・・何をしても無駄な足掻きだ!」


「大丈夫・・・私には・・・ジークがいる」


「なに?」


彼女はヒーラーとしては優秀だった


しかしそれはあくまで一般的なヒーラーとして・・・とても十二傑の者達と肩を並べられる程ではなかった


それでも彼女がこの場にいるのは勇者であるジークがいたから・・・勇者ジークが望んでいたから


周りはそれを理解しラナ自身もそれを受け入れていた


勇者のおまけ・・・それが自分の立場だと


しかしジークはおまけとして彼女を傍に置いていた訳ではなかった。ヒーラーとして劣るながらも支えとして共にいて欲しいと願っていた


その願いは彼女も気付いていたが応えられないと思っていた


所詮自分は何の取り柄もないただのヒーラー・・・勇者パーティーに加わり人より少しだけ経験豊富なただのヒーラー・・・とても勇者であるジークを支えることが出来る才能はない・・・そう思っていた


だが・・・


「私はジークの期待に応える・・・だから貴方も・・・私の期待に応えて!ジーク!!」


彼女が放っていた光はやがて周囲に向けて放たれる


すると今しがたファーロンに吹き飛ばされたコゲツを、アッシュを、全ての者を包み込み、傷口を塞ぎ折れた骨さえも治してしまう


「バ、バカな・・・偶然勇者の傍に居たというだけの存在が・・・」


「偶然?違うね・・・フーリシアには聖女と呼ばれる人がいるけれど・・・僕にとってはラナが唯一無二の聖女だ!」


「ジーク!!」


ファーロンの攻撃をまともに食らい吹き飛ばされていたジークがラナを飛び越えファーロンに斬り掛かる


「っ!?・・・おのれ・・・ジーク!!」


ジークの手に持つ聖剣はファーロンの腕に深く食い込み傷口からは血が流れ出る


これまで傷一つ付けられたかったファーロンに対して僅かに付けた傷・・・致命傷には至らないまでもその僅かな傷が勇者パーティーに勇気を与え希望をもたらす


その勇気と希望をもたらしたのは傷を与えた勇者ジークではなくただの勇者のおまけだった・・・


「みんな安心して・・・傷付いても・・・私が何度でも治してあげる!」


()()ラナであった──────

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