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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
585/856

580階 勇者ジークと愉快な仲間たち

「なん・・・だこれ・・・」


長い旅を終えようやく目的地のファミリシア王国の王都に辿り着いたと思ったら・・・王都はすっかり無くなっていて荒野の中にポツンと城が建っているのみとなっていた


信じられない光景に絶句しているとラナが僕の裾をギュッと掴んだ


「ここに居た人達はもう・・・」


そうだ・・・建物がないだけじゃない・・・そこに住んでた人も・・・


「これは酷い・・・一体どうしたと言うんだ・・・」


「・・・人の仕業とは思えないね」


シャリファ王国から共について来てくれたバウムとアネッサ夫婦は顔を顰める


「あ~・・・帰っていいか?」


「・・・諸行無常・・・」


ラズン王国からはコゲツとアッシュ


「血は・・・ねえな」


「大地には染み込んでいるかもね」


アーキド王国からはバベルとソワナ


それに僕とラナの8人でファミリシア王国に乗り込んだらこの状況だ


城以外何も無い・・・大きな外壁・・・門・・・宿屋、教会、お店に家まで・・・建物全て・・・何も・・・


「予定ではウルティア殿に危害を加えたダンテを断罪しそのダンテに命令したであろう国王を追求するという話だったが・・・一度出直した方がいいのでは?」


バウムの提案に僕は頭を悩ませる


逸る気持ちを抑えて何とかここまで辿り着いた。それなのにここに来て足踏みしないといけないのか?・・・でも・・・ここに一緒に来てくれた人達はウルティアが裏切るつもりだったと理解した上で来てくれた人達・・・ウルティアの為もあるけど僕に力を貸してくれる為に再び僕と共に冒険の旅に出ると決意してくれた人達だ。この状況で無闇に突っ込めばその人達に危険が及ぶかもしれない・・・なら・・・


「・・・そうだね・・・一旦近くの街に・・・っ!ラナ!!」


強烈な殺気を感じた


僕は迷わずラナの前に立ち剣を抜き去ると殺気が放たれた方向を睨みつける


「あそこか!」


見つめた先には唯一残った建物である城の頂上付近


そこに視線を向けた瞬間、何かが光りこちらに向かって伸びてくる


「ぐっあ!」


余裕で捌けると思ったのに剣が弾かれる


魔法?いやその前にあの距離からこの威力!?ならもし近くで・・・


《2人目だな》


全身が粟立つ


そこに居なかったものがいつの間にか現れ僕達を見下ろしていた


白い髪を靡かせるソレは特に構えもせずただ目の前に立っているだけ・・・それなのにまるでダンジョンの最下層の魔物を相手にしているような・・・


《前の人間のように力試しか?そうならば暇潰しに遊んでやろう》


コイツ!・・・こっちは8人いるってのにそんなのお構いなし?・・・まさか全員相手にしても勝てる自信があるっていうのか?


《ちょ、ちょっとちょっと!そいつら違うから!ここで潰しちゃうと面白味が・・・》


今度は女・・・だよな?見た目は女なんだけど何となく・・・て言うか・・・どこから湧いてきた!?


《・・・企みのひとつか・・・》


《そそ・・・出演者もだいぶ集まって来てるみたいだし・・・そろそろ始めるとしましょうか》


《ならば・・・》


《いやだからいきなりアンタが暴れたら盛り上がりに欠けるって言ってんの!》


《ではどうしろと・・・》


《アンタは城で待ってて!約束でしょ?》


《自然の流れとは違うようだが・・・》


《私がやる事が自然の流れなの!いいから行った行った!》


《・・・》


結局白髪の奴はあとから来た女?に追い返されるようにして去っていった


今の会話の意味は全く分からなかったけどひとつだけ分かっている事がある・・・この2人は・・・魔族だ


《?・・・あらいい顔しているじゃない・・・それでこそ・・・へ?》


「悪いけど敵か味方かなんて聞いている暇はないんでね」


不意打ちの一撃


油断して隙だらけだった魔族を袈裟斬りにすると魔族の下半身はそのままで上半身は斜めの切り口に沿って地面に滑り落ちうつ伏せに倒れ込む


「城から魔族が出て来るなんて・・・もしかしてコレも魔族の仕業か?ファミリシア王国が魔族と手を組んだのかそれとも・・・」


「ジーク!」


みんなに意見を聞こうと振り返るとラナが僕の背後を見て叫んだ


まさかさっきの奴が戻って来た!?


慌てて後ろを振り向くと・・・


《酷いじゃない・・・いきなり斬るなんて・・・》


絶命したと思った魔族が上半身を起こしそして下半身を()()()立ち上がる


《あらヤダ・・・私の古い下半身が残ったままね》


そう言うと上半身を失ったまま立っていた下半身に触れると砂状になり崩れ去った


ヤバイ・・・ヤバイぞコイツ!・・・これまで戦って来た魔族と格が違う・・・手応えはあった・・・いや、確実に死んだと思ったのに何事も無かったように元通りになってしまうなんて・・・コイツは一体・・・


《さて・・・これでよし!・・・ああ、自己紹介がまだだったわね。私は・・・まあいっか、さっきまでここないたのがアバドン・・・アナタ達人間を滅ぼす『破壊』のアバドンよ》


唐突に・・・しかも明るい声で言われて一瞬頭の中が真っ白になる


あれが・・・アバドン・・・『破壊』のアバドン・・・


《一度動き出したら止まらない・・・全てを破壊し尽くすまではね。そうやって何度も終わらせて来たの・・・悪い子でしょ?》


「・・・」


《ところがぎっちょんなんと私がその悪い子に約束させたの・・・ここでしばらく待ってなさい、と!》


「・・・話が見えないのだけど・・・」


《・・・ハア・・・察しの悪い子・・・いい?アバドンは人間にとって言わば天敵・・・動けば人間なんて簡単に消し飛ぶわ・・・ここにあった街のようにね。それを一時的とはいえ抑えているのよこの私が。何の為にそんな事をしているかって言うとね・・・アバドンが動くとこれまたつまらない展開が待ってるのよ。行く先々で破壊を繰り広げて最終的に動くものがいなくなったらお終い・・・やり遂げた本人はその後寝ちゃうし見てる私としてはクソつまんない展開をグダグダ見せつけられているだけなのよね・・・本当イヤになる》


「・・・」


《しかも今回はインキュバスがもういないときたもんだ。盛り上がりに欠けるし輪廻も途切れちゃってるから待ってるのは虚無・・・虚無なのよ!分かる?》


すげえ・・・全然全く分からない


もしかしたら僕だけかもと思ってラナ達を見るけど彼女達も分からないのか首を振るだけ・・・それを見て少し安心してしまった・・・僕だけが分からないのかと思ったけどみんなも分かってなかった


でもひとつ気になることがある・・・この声・・・聞いたことがあるようなないような・・・でも会ったことないはず・・・他人の空似?


《でね!新たな輪廻をって思ってるんだけど実際どうなるか私にも分からないんだよね・・・失敗したら終わりだし・・・ああ・・・この緊張感・・・クセになりそう・・・あ、そうそう・・・アナタにもチャンスあるかもね。『勇気ある者、勇者たれ』ってね。まあ力不足感は否めないけど・・・》


・・・え?


「い、今なんて・・・」


《ん?だから力不足感は・・・》


「違う!その前!」


《勇気ある者、勇者たれ?》


そうだ・・・聞き覚えあるはずだ・・・この声・・・このセリフ・・・あの時の・・・


「女神・・・様?」


ラナと孤児院の外に居る時・・・突然頭の中に響いた声・・・僕を勇者だと言うその声は確かに・・・この声だった・・・


《女神?》


「僕に勇者だって言った・・・あの時の・・・」


《ああ・・・確かにそれ私だわ。インキュバスが早めに復活しちゃったから慌てて探してたのよね・・・で、見つけて気付かせてあげたけど・・・まあ時すでに遅し?彼に倒された後だったの。ショックだったわ・・・永久とは言わないけどもっと続くと思ったのに・・・》


あの時の声の主が目の前に・・・


あの声が聞こえた時から始まったんだ・・・僕とラナの冒険の旅・・・勇者としての冒険が


他の人に話した時、その声は神の啓示と言っていた・・・その声の主は女神なのだと・・・でも目の前にいるのは魔族・・・だよな?


《軌道に乗ってたと思ったら終わる時は意外とあっさり終わった・・・そう言えば一度アナタと彼で輪廻を紡ぐ事が出来るか試したけどすぐに解除されちゃったのよね・・・まあぶつかり合った力が弱過ぎたから仕方ないのだけどね》


「もう訳が分からな過ぎて頭痛くなってきたよ・・・お前の声が女神の声ってだけでも混乱してるのに・・・」


《理解しなくていいわ。とりあえず言える事は今の状態で人間が滅亡したら次はないってことよ。アバドンの気まぐれがない限り・・・まあそれこそ起きることのない無意味な希望だけど》


ダメだ・・・僕の頭じゃ理解が追い付かない


いま分かったのはあの白髪の男がロウニールの言ってたアバドンって事とこの女が言う『彼』とはロウニールの事だろうってだけ・・・


「ひとつ聞きたい・・・ここに城を囲うように街が存在していたはずだが・・・」


バウムが僕の後ろから尋ねると彼女は視線をバウムに向け面倒臭そうに頭を搔いた


《アバドンがやったに決まってるでしょ?これでも感謝してもらいたいぐらいだわ・・・これぐらいで済んでいる事にね》


「いや責めている訳では・・・ただこのような状態になって日が浅い訳でもなさそうだ・・・それなのになぜこの事が外部に知られていないのか不思議に思ってな」


《人類の命運を前にそんな細かい事が気になる訳?・・・小物らしいこと・・・こっちにはアバドンと人間の王がいるわ・・・細かい事は省くけどその2人のお陰で情報は漏れずに済んだ・・・ただそれだけよ》


どうやって・・・それも気になるところだけど今僕が気になるのは『人間の王』


それってつまりファミリシア王国の国王エギドの事だよな?


あの命令を下した・・・エギドの・・・


《あら?またまたいい顔するじゃない・・・どこに引っかかったの?あ、待って当てるから言わないで・・・うーん・・・人間の王?・・・もしかしてアナタ達・・・アバドンを討ちに来たんじゃなくて人間の王を?・・・でもなんで?助けに来たって感じでもないし・・・》


「黙れ!王様を・・・エギドを差し出せ!ついでにさっきのアバドンって奴も斬ってやる!」


《プッ・・・やめてよ・・・アハハハハ!ついでにアバドンを?・・・本人が聞いたら喜びそうなセリフね。そっか・・・王を呼び捨てにするって事は恨みね・・・ふーん・・・私が知らないところで面白いことになってんのね。いいわ・・・呼んで来て・・・あ、まだ無理かも》


「なに?どういう事だ!」


《安定してないから魔力が足りない所に行くと壊れちゃうの・・・でも城の中はまだ早いし・・・》


「ごちゃごちゃ言ってないでエギドを出せ!アイツが・・・アイツがダンテに命令してウルティアを・・・くっ・・・」


抑えていた怒りが湧き上がる


ラナと旅をして久しぶりに仲間に会えて一時的に薄れていた怒りが・・・


《ダンテ?・・・ふーん・・・面白そう。ねえ人間の王は無理でもそのダンテなら連れて来れるわよ?》


「なに!?」


《まだ時間はあるし余興って形で連れて来てあげてもいいわ。ただしアナタ達が余興に付き合ってくれるって事ならね》


「・・・余興ってなんだ?」


《余興は余興よ。少しは楽しませてよね?元勇者さん──────》

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