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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
584/856

579階 ハクシ

屋敷に戻り彼はお風呂に入る前にベルフェゴールを部屋に呼び出した


メイド達も下げ今は私達3人だけ・・・ロウは改めてハクシさんの最期を聞こうと覚悟を決め座っていた


跪くベルフェゴール・・・ロウが上げていいと言うまで頭を下げ、じっと主の言葉を待つ


「一度話してくれた話をもう一度させて悪いが・・・全く覚えていないんだ・・・最初から話してくれるか?」


「はい・・・あれは再度調査に行った時です・・・ファミリシア王国ダージスク・・・三能と呼ばれる人間の内の一人と交戦した場所でもあります」


「三能のチーだったか・・・最初に戦った時はベルが勝ったんだったよな?」


「はい。然程強くはありませんでした。少なくとも最初の時は」


「・・・で?」


「着いてしばらくは問題なかったのですがどうやら向こうもワタクシ達を捜していたようで・・・出会うなり囲まれてしまったのです。そして・・・ワタクシは魔力を封じられてしまったのです」


「魔力を?一体どうやって・・・」


「封じられたと言うより乱されたと言った方がより近いでしょうか・・・魔力をコントロール出来なくなってしまったのです」


「・・・ロストフラワー・・・」


「え?ロストフラワーって確かダンジョンで道を惑わす魔物でしょ?スカウトの天敵だから知っているけどその魔物が?」


「うん・・・ファミリシア王国の王都も同じ状態だった。魔力が安定しないと言うか乱れていると言うか・・・だからゲートを繋げる事が出来なかったんだ」


魔物仕業と言うよりその魔物の魔核を使って道具を作った?けどロウなら作れそうな気がするけどファミリシア王国がその道具を?優秀な魔道具技師がいるって事かしら?


「・・・原因は不明でしたが魔力をコントロール出来ず本来の力が全く発揮出来ないワタクシは完全に足でまといに・・・何とかハクシ殿が応戦していたのですが──────」




「・・・これは厳しいのう・・・他はどうとでもなるが彼奴・・・以前とはどうやら違うようじゃ」


「ええ・・・明らかに・・・」


ベルフェゴールは答えながら魔力を手の上でコントロールしようと試みるが失敗し魔力は霧散してしまう


「アハハ・・・無理無理・・・アンタには見えないの?・・・魔力がほら・・・しっちゃかめっちゃかに・・・」


「変わったのは強さだけではないようですね」


「アハハ分かるー?・・・チーねえ・・・人間やめて来たのー・・・アハハ」


首をカクンと傾け目が虚ろな状態で笑うチー


その様子を見て思わずハクシは後退る


「面妖な・・・それに人間やめたじゃと?」


「うんそう・・・アンタらのせいで・・・アンタらのせいでチーもうめちゃくちゃだよー!!」


チーは叫ぶと首が引きちぎれ背骨が伸び頭を天高く押し上げる。そして同じように両腕と両足もちぎれて中から骨のようなものが伸び異様な物体へと変化する


体から四方に伸びる骨・・・その先にはチーの頭と手足・・・二つの足では立っていられなくなったのかチーはその姿で四つん這いとなり不気味な笑みを浮かべる


「・・・確かにめちゃくちゃじゃのう・・・」


ハクシは髭を触りながら呟き、チーを注意深く観察する。そして周りを見ると・・・


「どうやら驚いているのはワシらだけじゃないようじゃぞ?」


「そうですね・・・配下の者も動揺しております・・・その前に・・・あの姿は機能的にどうなのでしょうか?」


ベルフェゴールが疑問に思うようにあまり機能的には思えない形態にハクシも頷く・・・しかしチーはその言葉を聞いてか聞かずか動くのに支障がないことを証明して見せた・・・自らの仲間を使って


「ヒィ!!チー様!!?」


右手を少し浮かすとその手を更に伸ばし近くの者に巻き付ける。そして縛り上げるとその者はバラバラになり命を散らせた


「何故仲間を?」


「・・・なるほど・・・ワタクシが魔力のコントロールを失っているようにあの人間?もコントロールを失っているようです」


「それはまた間抜けな話しよのう・・・じゃが・・・」


「ええ・・・あの人間?にとって周りの者は獲物に過ぎません・・・捕食者と獲物・・・ワタクシ達も例外ではなく」


「じゃのう。・・・参ったのう・・・この歳になって相手を前にして震えるなんだ思いもよらんかったわい」


近くにいる人達を切り刻み高笑うチー・・・その姿を見てハクシは震える。それは武者震いではなく恐怖からくるもの・・・それを否定せず受け入れられたのは無駄に歳を重ねていない証拠だった


「さて・・・ハクシ殿」


「なんじゃ?」


「逃げる準備をしておいて下さい」


「なぬ?逃げるじゃと?・・・それが出来れば苦労せぬ・・・あの手足はかなりの距離伸びている・・・そして動くものを鋭く狙う。いつもの調子のお主とワシなら何とか逃げれるかもしれぬが・・・」


「両手両足同時には動かせません。片手片足ずつの2本同時が限度・・・そうでなくてはバランスを崩し倒れてしまうからでしょう」


「ふむ・・・だからと言ってそう簡単に逃がしてくれるとは思えぬが・・・」


「ええ。ですからワタクシが少しの間注意を引きます」


「お主・・・囮になると言うのか?」


「隙あらばワタクシも離脱するつもりです・・・まあ難しいでしょうけど」


「ならばワシが・・・」


「ワタクシの方が魔力のコントロールが出来ないだけで幾分マシです」


ベルフェゴールの視線でハクシは見透かされている事に気付いた


足や手の震え・・・おおよそ戦える状態じゃないハクシを見越しての提案・・・ベルフェゴールの言葉を否定出来ない不甲斐なさに目を閉じ唇を噛み締め悔しがる


「どちらかが生き残り情報をロウニール様にお伝えする・・・それが最優先事項です。どちらがなど些細な問題です」


「・・・何よりもロウニールを優先する・・・そういう訳か」


「はい。魔力の乱れを起こす魔道具か力の存在に急激に力を増した人間・・・このふたつは必ず伝えなくてはならないものと判断します。この命にかえても」


「・・・それ程ロウニールが大事か?」


「何を今更・・・当然です。お仕えすると決めた以上は・・・」


「ならばその命無駄にするでない」


「ワタクシの命よりも重き情報だと・・・」


「そうかも知れぬな・・・が、老い先短いワシとお主・・・どちらが生き残った方がロウニールの為になるかのう・・・」


「・・・それは・・・」


「考えるまでもなかろう?・・・行け・・・もう残り2人じゃ・・・あの者達がやられたら次はワシらぞ?」


目の前で起きている殺戮は既に終わりを迎えようとしていた


本能か習性で近くの者、動く者を狙っているのは間違いなく残りを始末した後は2人の元に向かって来るのは明白・・・ハクシは震える手を後ろ手に組むと一歩だけ前に出た


「どうした行かんか・・・行って情報を伝えるのじゃ!」


ついにチーの周りに人は居なくなった


次の標的に選んだのは最も近くにいるハクシだった


しかしまだベルフェゴールは悩んでいた


未だ自分が残るべきかハクシが残るべきか悩み動けずにいたのだ


ハクシはベルフェゴールに振り返らず更に一歩出て呟く


「・・・息子を・・・頼んだ」


「っ!・・・畏まりました」


その言葉に突き動かされるように振り返り走り出すベルフェゴール


それと同時にハクシはチーに向かって行った──────




「・・・その後ハクシ殿がどうなったかは分かりません。ワタクシはひたすら街の外を目指し駆け抜けようやく魔力が安定した場所でロウニール様に連絡を取るも・・・」


「もしかしたらちょうど俺が王都に居る時かもな・・・連絡しようとしたが繋がらなかった・・・」


「はい。そこでロウニール様のいらっしゃるフェルカトと呼ばれる街にお伺いするも王都に行かれたと聞きやむなくこの場所まで戻って来た次第です」


確かファミリシア王国の王都は魔族を見極める人がいるとか・・・もしロウが王都にいる時にベルフェゴールがそこに行けば中にいるロウに迷惑がかかるかもと思ったのね


「そうか・・・済まなかったな・・・俺の見通しが甘過ぎた」


「いえ・・・とんでもございません」


誰の責任でもない


ベルフェゴールは最善の行動を取ったまで・・・ロウだって同じ・・・前に彼はベルフェゴールの事を『魔族で一番強いのはインキュバスを除いたらベルフェゴールかも知れない』と言ってたくらいだ。人間に負けるなんて思いもよらなかったはず


「師匠の・・・ハクシの最期は見てないんだな?」


「はい・・・ですが自らの味方も殺めるほど錯乱しているようでした。敵味方関係なく襲い命を奪ってしまうほど・・・なのでおそらくは・・・」


「・・・分かった。そのチーって奴がどうやって力を得たか謎は残るがよく報告してくれた・・・ちなみに万全のお前ならそのチーに勝てたか?」


「・・・何とも・・・ですがあの人間は必ずやワタクシが責任を持って処理いたします」


「・・・そうか・・・下がっていいぞ」


「はっ!」


プライドが傷付けられたから?それとも・・・いや考え過ぎかな?まるで仇は自分が討ちたいと言っているように聞こえたけど・・・魔族は人間を魔力を出す道具程度にしか思ってないはずだし・・・


ベルフェゴールが退出するとロウは椅子に体を預け天井を見上げる


私は何も言わず見つめていると彼は徐ろに立ち上がり振り向いた


「さあ風呂に入ろう!」


「・・・ロウ?」


悲しめとは言わないけれど・・・ちょっと・・・ねえ?


「ベルは戦いを最後まで見ていない・・・師匠が倒れた姿も・・・つまりまだ全然可能性があるって事だ」


「・・・そうだけど・・・」


「あの師匠だぞ?俺の師匠がそんな簡単にやられると思うか?きっと大丈夫・・・うん・・・大丈夫だ!」


「そうよね・・・うん・・・そうね・・・きっと・・・」


もう大事な人を失いたくないって思いが強く現実を直視出来ないでいる・・・けどそれでいいのかも・・・今は


僅かな希望に縋りたとえその希望が叶わなかったとしても私がいる。その為に私がいるのだから・・・


「なら尚更早く行かないとな・・・明日には旅立たないと・・・その為にも・・・先ずは風呂だ!──────」





ファミリシア王国王都・・・があった場所の王城内



《あれからどれだけ経つと思ってるの?まだ治らないの?》


「っ!・・・一生懸命やってるの!でも壊れた精神はなかなか戻らないの!」


《はいはい・・・いやね・・・人間は脆くて。体が強くなってもそれを制御出来なきゃ意味ないじゃない。こっち人間はかなり制御しているみたいだけど・・・》


「チーは魔力が不安定な場で使ったから・・・」


《あっそ。じゃあこっちの人間を連れて行くわ・・・だいぶ老けているけど壊れたオモチャよりはマシでしょうから》


「・・・どこに連れて行くの?」


《招かざる客が来たのよ・・・他で足りるとは思うけど・・・まあ念の為にね。相手が相手だし・・・》


「招かざる客?それは誰なの?」


「アナタも知っている・・・勇者と愉快な仲間たちよ──────」

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