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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
581/856

576階 それぞれの明日

フーリシア王国エモーンズ訓練所


その一室で激しい手合わせを終えた2人が大の字に寝ながら天井を見上げていた


「なあ・・・アバドンってのはそんなに強いのか?」


「戦った事はないから分からないが・・・強いのだろうな」


「どんなに鍛えても届かないほど?」


「私に聞くな」


「・・・じゃあ聞くしかないな」


「死ぬぞ?」


「死ぬかもじゃなくて断言かよ・・・やっぱり知ってんじゃないのか?」


「知らん・・・だが私より強い者が確実に負けると言っていたのだ・・・君が負けるのは道理だ」


「?・・・おい、お前が負けるからってなんで俺が負ける事になるんだ?」


「手合わせの結果どちらが勝った?」


「引き分けだろ?」


「そういう事だ」


「・・・」


「理解したなら諦めるのだな。聞くところによればアバドンは大陸の生きとし生けるもの全てを破壊する者らしい・・・いつになるか分からないがそれまで家族と健やかに・・・」


「死ぬまで生きろってか!?」


「人間とはそういうものだろ?アバドンが来た時が寿命と思え」


「そんな生き方に納得出来るのか?死ぬまで生きるだと?他人に生き死に左右されて・・・てめえは納得出来んのかよ!レオン!!」


「・・・納得出来るわけないだろう?それを甘んじて受けるようなら『タートル』など作ってはない」


「なら・・・やるか?」


「・・・君には家族がいる・・・やるなら私だけでいい」


「格好つけんな・・・端からやられるとか言ってた野郎がよう」


「現実を直視したまでだ。諦めるつもりはない」


「・・・ケイン達が消えたのも・・・そういう事だよな?」


「多分な・・・君はここで待っていろ」


「お前は勝てないし俺も勝てない・・・けど2人なら?」


「キース・・・家族と共に過ごせ」


「ざっけんな・・・やっぱり諦めてるじゃねえか・・・答えろ・・・俺達2人ならどうなんだ?」


「・・・負ける気はしないな」


「だろ?今までもこれからもそうだ・・・お前だけでは勝てないかもしれない・・・同じく俺だけでも・・・なら2人でやればいい・・・そうだろ?レオン」


「勝てる気もしないがな」


「おい!」


「それでもやらないよりはマシ・・・だろ?」


「分かってんじゃねえか・・・じゃあボチボチ行くか」


「今から?」


「善は急げって言うだろ?それに・・・」


キースは起き上がると入口に向かい歩いていき突然扉を開けた


「うにゃ!?」


「他の奴らはやる気満々みたいだぜ?」


突然扉が開き耳を扉に当てる格好のままさらけ出された元『タートル』の面々・・・その先頭のニーニャはバツが悪そうに頭を搔く


「・・・それぞれ既に別の役割を持っているはずだが・・・」


エモーンズにてニーニャ達はそれぞれ仕事をしていた。と言ってもニーニャはメイドで他の者達は兵士として在籍しているが仕事はほとんどない状態であった


「暇過ぎて欠伸も出なくなっちまったところだ・・・それに頭もいなくなっちまったしよぉ・・・ちょっとくらい長めの休暇をもらっても差し支えねえだろ?」


「拙僧の希望・・・教会の横に教会を遥かに凌ぐ大きさの寺院を建てて貰わねば・・・その計画が頓挫しているのは非常に遺憾である・・・早急に問題を解決し工事を進めてもらわねば・・・」


「右に同じ」


「オード・・・ブル・・・ヘガン・・・」


「ニーニャは・・・ニーニャは貴方様のもの・・・たとえ奴隷の身から解放されたとて・・・貴方様の・・・」


「・・・ニーニャ・・・」


「・・・私は・・・」


「私とシルはパス!」


「ジーナ?」


「ごめんなさい・・・やり残した事があって・・・ね?シル・・・終わったら必ず駆け付けるから・・・本当にごめんなさい!」


言い淀んでいたシルの代わりにジーナが共に行けない事を謝る。その様子を見てレオンは微笑み入口に向かい歩き出す


「構わないよジーナ、シル・・・やり残した事があるなら終わらしてから・・・いや、終わったとしても気が向いたらでいい・・・やり残した事がない者は・・・共について来い──────」




シャリファ王国王都


「・・・行ったか?」


「はっ!」


「いいのか?行かなくて・・・」


「私は『女王の騎士』です。お傍を離れる訳にはいきません」


「勇者パーティーの一員として長い間離れていたであろう?」


「あれは仕方なく・・・」


「守る者が増えたから離れ難くなったか?妾だけならともかく今は妻がいるからな」


「そのような事は!・・・ありません・・・」


「まあ先にアネッサとバウムが行ってしまい、そなたまで行ってしまえば国は手薄になる・・・か。なあシャスよ」


「はっ!」


「国とは何だろうな・・・」


「と言いますと?」


「そのまんまよ。同じ大陸に境界を引き名乗れば国の出来上がりだ・・・そんなちっぽけなものを守る必要があるのか?」


「何を仰います!王が治め民が幸せに暮らす・・・理想を追い求め試行錯誤し皆で作り上げる・・・それが国ではありませんか?ちっぽけなど・・・」


「ならば今の国はどうだ?作物が育たぬ土地にかじりつき他国の援助を受けてようやく成り立っているこの国はどうなのだ?今も国の為と悲しむ友の肩さえ抱きに行けぬ・・・大陸が未曾有の危機に晒されているやも知れぬのに何も出来ぬ・・・妾は何から何を守っているのだ?何の為に・・・」


「・・・陛下・・・」


「お主には言っていなかったが兼ねてより妾は子に・・・ダカンに後を継がせる気はない」


「え?」


「そもそも血族でなくてはならないと言うのがおかしいのだ。もっと王に適した人材がいるはず・・・まあ妾にはどのような者が適しているのか分からぬがな」


「陛下っ!陛下は・・・失礼ですが陛下はご立派に王として・・・」


「ならばこの国の者は幸せなのか?」


「もちろんです!」


「ならばなぜ反乱が起きた?」


「それは・・・」


「反乱を起こした者も国の者だ。命令されて仕方なくの者もいれば進んで反乱に加わった者もいるだろう・・・もはや真意は分からぬが起きたのは事実・・・全ての者が幸せなら反乱など起きるはずもないであろう?」


「それは理想論であって・・・」


「もし仮に・・・妾ではなくあの者が王であったのならば・・・この国はどう変わるか想像してみよ。反乱など起きる気配は微塵もなく民は笑顔で暮らし見渡せば肥沃な大地が広がる・・・そんな光景を」


フレシアに言われてシャスは想像する


作物の育たぬ極寒の地に花が咲き乱れその中を妻のマーナと手を繋ぎ走る姿を


「はっ!?・・・いやしかし・・・その・・・公爵閣下はフーリシア王国の人間ですし・・・」


「誰もロウニールを王にとは言っておらぬぞ?」


「あ・・・いや・・・話の流れでそう仰りたいのかと・・・」


「ふっ・・・随分と幸せそうな顔をしていたな・・・何を想像したのだか・・・」


「へ、陛下!」


「妾にはその顔にしてやれそうにない・・・だがお主の想像した者はそれを実現出来る。もちろん責任を放棄する訳ではない。ゆくゆくは・・・妾が歳を取り玉座から降りる時、その時に・・・」


「それならば・・・いやでも・・・」


「お主はあの子にこの国を背負わせたいか?」


「・・・」


シャスの脳裏に産まれたばかりのダカンの姿が浮かぶ


そしてこの国の現状を思い浮かべる


決して平坦な道ではない・・・その道を歩むダカンを守る事が出来るか自問自答する。人間誰しも老いがくる。今はともかくいざその時になって自分は動けるのだろうか・・・その時には別の誰かが・・・例えばまだ見ぬ我が子がダカンを支えてくれるのだろうか・・・そんな事を考えてしまう


「私が不老不死ならばいつまでもお守りしますと答えるのですが・・・」


「であろう?妾も同じだ。それにダカン・・・夫がいるならいざ知らず妾だけ・・・しかも妾も若くはない。このままでは若年で王座を譲らなくてはならないのだ。産む前はそれも運命と半ば諦めていたがやはり産んでみるとこの子の自由にさせてあげたいと強く思うようになってな・・・引き受けてくれるか分からぬが託したいと思う・・・この国の未来を・・・ロウニールに」


「・・・配下としては情けない・・・陛下にそこまで言わせるのは私や他の者野力不足・・・」


「そうではない・・・このままでも力を尽くせばそこそこの幸せが得られるはず・・・だが最善では無いだけだ。何となくだがロウニールなら・・・事も無げに我が国の問題を解決してしまいそうな気がしてな・・・力を尽くしそこそこの幸せを得るか出来る者に託し幸せを得るか・・・」


「・・・相当買っているのですね?公爵を」


「それはお主もだろう?・・・で?どう思う?」


「・・・私は私の全力を尽くすまでです。どうなろうとも女王の騎士である事には変わりません・・・たとえそれが玉座を降りたとしても・・・」


「頑固な奴だ・・・まあいい。反対ではないのだな?」


フレシアの問いにシャスは無言で頷いた


王族が王位を継ぐ・・・至極当たり前であったことが終わろうとしている・・・その事実の重さに耐え切れそうになるが足を踏ん張り何とか耐える


「では早速準備をするか・・・」


「はっ!・・・は?」


「何を呆けておる。言ったであろう?ロウニール・ローグ・ハーベスを王にすると・・・つまりロウニールはもはや知人ではなく身内だ・・・その身内の家族が殺されたのだぞ?真相を究明し速やかに仇を討つべきであろう?」


「もしやその為に・・・」


「ふっ・・・それもある。が今言ったのは全部本心だ。それにファミリシア王国が食糧を売らなくなればどちらにせよこの国は先細り・・・いや瞬く間に滅んでしまうかもしれん。ファミリシア王国と音信不通の今、動かないで何が国王だ!」


「本心は?」


「子を持つ親として決して許さん!誰がやったか知らぬが妾自ら氷漬けにしてくれる!!・・・あ」


椅子から立ち上がり握り拳を突き上げるフレシアを呆然と見つめていたシャスは踵を返し部屋から立ち去ろうとする


「・・・準備してまいります」


「あ、いや・・・決して私情で動くのではなく・・・」


「・・・分かっております・・・いえ・・・どちらでも構いません・・・女王陛下の進む道が私の進む道・・・何せ私は」


「『女王の騎士』・・・か。てっきり妾自ら行くのを全力で反対してくるかと思ったぞ?」


「何処に居ようとも何処に行こうとも私の傍が一番安全ですので・・・逆に私が行くのに陛下を置いてはいけません」


「ふっ・・・吹きおるわ。妾にダカンがおらんかったら惚れているところだぞ?マーナに言ってやるか・・・今のセリフ」


「・・・それだけはご勘弁を・・・」


「鉄壁な盾にもとうとう亀裂が入ったか・・・マーナも共に連れてまいれ・・・お主の傍が一番安全なのだろう?」


「はっ!」


「だが天幕は別々だぞ?兵の士気に関わる・・・総大将が夜な夜な天幕から喘ぎ声を・・・」


「陛下!」


「なんだ?」


「行ってまいります!」


「うむ・・・妾も行くまでの間、ダカンと共に居よう・・・少しばかり離れ離れになるからな──────」

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