55階 狂襲
《アナタ・・・本気でサラって人間狙ってない?》
「ぶっ!・・・そんな訳ないだろ!」
サラさんと通信を終えた後、ダンコの第一声が思いがけない言葉を食らい噴いてしまう
《やり取り聞いてるとそう思えて仕方ないのよね・・・まあいいわ。ところで最近ダンジョンで変な人間がいるのだけど・・・》
「変な人間?」
《どうやら私を探してるみたいなの。最下層である27階をこれでもかってくらい調べ尽くしてるわ》
「ダンコを?・・・もしかしてサラさんの言ってた『ダンジョンキラー』?」
《そうかもね。まっ、こちらから行かない限りは安全だけど・・・一応気を付けておいた方がいいわね》
ダンジョンキラー・・・ダンジョンコアを破壊した経験を持つ冒険者でありサラさんよりも高ランク・・・Aランクの冒険者・・・
「僕がそいつらと戦ったら・・・」
《負けるわ・・・正直騎士団の人間より厄介よ》
「そんなに!?」
《騎士団はあのケインって人間以外なら平気・・・だからケインだけ注意すればいいわ。でもあの4人は全員強い・・・ロウ・・・アナタより遥かにね》
「4人全員?」
《ええ・・・だからあの人間達には近付かないこと・・・近付けば全てが終わるわ・・・アナタも私も・・・この街も・・・》
ダンコの言うように僕が死ねばダンコも死にダンジョンは消えてしまう。そうなればせっかく街になったエモーンズも・・・『ダンジョンキラー』か・・・気を付けないとな・・・
「スラミ、ダンコが言ってた・・・って、スラミには聞こえないか・・・えっと27階を彷徨いている4人組は分かるか?」
「はいマスター」
「その4人組の行動を逐一報告してくれ。鉢合わせないようにするから」
「はい」
スラミもどうやら『ダンジョンキラー』に目を付けていたらしい。まあ最下層である27階の魔物を倒してもずっと彷徨いていれば嫌でも目立つか・・・
組合長にもなったしそろそろカルオスから撤退してエモーンズに戻るか・・・普段からダンジョンには戻って来ていたからあまり遠征してるって実感が湧かないけど、長い間門番をドカート隊長に任せっきりだしなぁ・・・またいじめられると思うと少し憂鬱だけど・・・
翌朝、ダンジョンの拠点をカルオスの『人喰いダンジョン』からエモーンズに戻すべくカルオスの冒険者ギルドに赴きゲイルさんとギルド長であるダズーさんに2年後戻って来ると伝えた
ゲイルさんは笑顔で『ちゃんと鍛えておけよ』と僕に言う・・・最初の出会いの時から考えると対応の違いに思わず苦笑してしまった。ダズーさんも僕に期待してると言ってくれ、そうして僕はカルオスを後にする
そしてしばらくエモーンズに向けて歩いた後、ゲートを使いダンジョンの司令室へと移動した
「名残惜しいけどこれで『人喰いダンジョン』ともしばらくお別れだな・・・表向きは」
《そうね。まあゲートがあるからちょくちょく行くんでしょ?私は魔核さえ持って帰ってくれれば文句はないわ》
そう・・・人喰いダンジョンで戦ってもエモーンズのダンジョンには何も足しにはならない。だけど人喰いダンジョンで倒した魔物の魔核を売らずに持って帰りエモーンズで吸収すればマナは溜まる・・・一応それを条件にダンコから人喰いダンジョンでの冒険の了承を得た
《で?参考になった?》
「うん。さっそく28階は外みたいにしてみようかなって思ってる。『普通のダンジョン』からの脱却第一弾として」
《それなら環境に適応した魔物が必要ね・・・天井を高くするならあのダンジョンのように鳥系の魔物も良いかも・・・それと木を生やすなら木に登る魔物なんかもオススメね》
「ふむふむ・・・木を生やすって言うけど木も生きてるの?」
《いえ。直接持って来て植えたら生きてる木も生やすことが出来るけど作った物は当然作り物よ・・・私達が創れるのは魔物のみ・・・他の生物や植物は創れないわ》
「そっか・・・じゃあリアルに作る為に見ながら作った方が良さそうだね・・・作り物ってバレバレだと恥ずかしいし・・・」
せっかくだからリアルに作りたい。来た冒険者が本当に外に出たと錯覚するように
それから僕は28階に広大なフロアを作る
そしてカルオスに向かった時に記憶した森周辺にゲートを繋げ見ながら土、草、木などを次々に作り出した
これは・・・かなり時間が掛かるな・・・
土や草は範囲で作れるけど木は1本1本しか作れない
地面を石で出来た床から土に変えるのも範囲で出来るとはいえ広大なフロアからするとそんなに広い範囲ではない
「ハア・・・これは疲れる・・・」
とりあえず1m四方に土や草、それに木を生やしそこから徐々に拡げていく。木の間隔や地面の感触、草の高さなど拘っているとあっという間に時間は過ぎていく
「木を増やすとダンジョン内が暗く感じるな・・・人喰いダンジョンはもっと明るかったけど・・・」
《四方の壁と天井からマナでもっと光るように設定しないと・・・それと壁と天井は石の色じゃなくて空の色に変更すれば視覚的にも外っぽくなるわ》
「うへ・・・よく人喰いダンジョンはこれを何階も続くように作ったな」
《そりゃあアナタ、ダンジョンコアは人間みたいに休んだり寝たりしないからね。地道にコツコツとやってれば作れもするわ。ロウも頑張ってね》
「寝るなってこと?・・・まあコツコツ頑張るよ・・・28階のオープンは相当先だなこりゃ」
一応カルオスから歩いて戻ってるって設定だから1週間はダンジョンに篭ってダンジョン作りに没頭出来る
本当は誰もカルオスをいつ出たかなんて知らないからすぐにエモーンズに戻っても良いんだけど・・・気持ち的な問題?
「うっし!ちょっくら気合い入れて頑張りますか!」
より良いダンジョンにする為に・・・僕は28階のダンジョン作りに没頭した──────
「よし!今日は20階のボス・・・スモッグフロッグに挑むぞ!」
「ケン・・・スモークフロッグね。何よ急にやる気を出しちゃって」
ケン達はその日に何をするのか朝に決める
前の日の夜に食事をしながら決めるパーティーが多い中で朝に決めるのは少数派だ。ただケン曰く『朝の調子が悪ければ昨日決めた事が無意味になる』と持論を展開し全員に朝に決める事を納得させた
体調管理がしっかりするのも高ランクを目指す冒険者とって必要だろうとマホは思うのだが、自分も気分屋なのであえて反論せずパーティーリーダーであるケンの意見に従っていた
そして今日の朝、宿屋からギルドに向かう途中でケンが突然言い出したのだ・・・『20階のボスに挑戦する』と
「そう言えばこの前20階って誰か失敗してたよな?」
スカットが嫌そうな顔をしながら言うとケンは首を振り懐から青く光る石を取り出した
「当然一回でクリア出来るとは思ってない。スモークフロッグの情報は入ってるから後は実践あるのみ・・・で、役に立つのがこの簡易ゲートだ」
「失敗しそうになったら逃げる・・・つまり失敗したパーティーと同じ轍は踏まないって事ですね」
「ヒーラ正解!簡易ゲートがある内に一度挑んでみた方がいいと思ってな。もちろん倒せるに越したことはないけど」
「煙を出すのと舌を伸ばして攻撃してくるのよね?煙の対策は?」
「マホが風魔法を覚えたろ?それで煙を払う」
「・・・少しは考えてるのね。で、舌は?」
「出たとこ勝負」
「・・・前言撤回するわ・・・」
呆れるマホだったがケンの言葉にも一理あると考える。スモークフロッグの舌がどれくらいの速度でどれくらいの長さまで伸びるかは実際に戦ってみないと分からないのも事実。いくら情報が出ていたとは言え紙上と実戦では違うからだ
「まっ、私達は冒険者・・・冒険してこそってとこかしら?」
「いいこと言うなぁマホ。その通り・・・ってな訳で安全対策もしてる訳だしサクッと行こう!」
「簡易ゲートは確かに安全対策にはもってこいですがマナポーションも忘れずに。いざボス部屋の前に辿り着いたとしてもマナが少なかったら戦うだけ無駄でしょうし」
「確かに・・・じゃあマナポーションは補充して・・・他にいるものはあるか?」
「食い物!腹は減っては・・・って言うだろ?」
「そうだな。水と食料・・・なんか久々に『挑む』って感じがしてきた!」
「はいはい。私とヒーラでマナポーション買ってくるから食料と水はケンとスカットでお願い。買い物を終えたらギルドって感じでどう?」
「了解!じゃあギルドで」
マホの提案に乗り、4人は2組に分かれて買い物に出掛ける。そして買い物を終えると冒険者ギルドで待ち合わせてから入場料を払いダンジョンへ
ダンジョンに入りすぐさま左の通路にあるゲート部屋へと向かうと20階のゲートがある部屋に辿り着く
「用意はいいか?20階の魔物はファイヤースネイクにニードルラット・・・それにスケルトンナイトだったな・・・俺達なら余裕だが気を抜かないように・・・じゃあ、行くぞ!」
ケン達は何度か20階に訪れた事がある
その時はボスの手前の待機部屋まで行きボス部屋には入らずに戻っていた
今日は一番奥にあるボス部屋を目指す・・・そしてボスを倒し21階のゲートを使えるようにする事が目的だ
だが彼らは無理をするつもりはない
ボス部屋は本来、中に入ってしまうと生きるか死ぬか、倒すか倒されるかだが、簡易ゲートがあれば撤退する事が可能。他のダンジョンにはないエモーンズのダンジョンの最大の利点を使いやられそうになったら脱出するつもりだ
ケン達は危なげなく20階を進み待機部屋へ・・・だが、そこで予想外の状況を目にする
「あっ・・・先客がいたか」
待機部屋の扉を開けるとそこにはパーティーらしき4人がいた。当然この場合は先にいた冒険者がボスに挑む事になる
ボスは道中にいた魔物のようにすぐに湧いてこない。一説によれば一日経過しないと再びボス部屋は開かないとも聞いた
つまり先客がいたということは今日のボス戦は断念せざるを得ない
「仕方ないわね・・・また今度に・・・」
マホがまた今度にしようと言いかけた時、先客であった4人の1人が笑顔になりケン達に近付いて来る
「やあ待ってたよ」
「貴方は・・・シークスさん・・・」
『待ってた』・・・その言葉に警戒しながら呟くケン
サラよりこのパーティーの事は聞いている
Aランク冒険者のパーティーであり、『ダンジョンキラー』と呼ばれ要注意人物である、と
「ボクの事を知ってるのかい?それは光栄だね」
「待ってたって・・・俺達の事を?」
「いや?」
「?」
「誰かがここに来るのを待ってたんだよ」
友好的に話しているように見せかけて身の竦むような圧迫感を醸し出すシークス
ケンは手で3人に下がるよう指示し自分は1歩前に出る
「どういう事ッスか?」
「いやね、このダンジョンって不思議な事にダンジョンコアが見当たらないんだよ。いくら探しても。でね、ボク達は探すのを諦めて次の一手を考えた・・・それは冒険者の間で噂になってる『ダンジョンナイト』・・・そいつを探す事にしたのさ」
「・・・なぜダンジョンナイトを・・・」
「『ダンジョンの守護者』って名乗ってるのだろ?聞く所によると数多くの冒険者の命を救ってるとか・・・守護者・・・なんで『冒険者の』じゃなくて『ダンジョンの』って名乗ったのか気になってね・・・もしかして冒険者を救ってるのはたまたまで本当にダンジョンを守護する・・・それこそ魔物の類なんじゃないかと考えるようになった。それにダンジョンコアを持ち去っている可能性もあると。で、ダンジョンナイトに会いたいのだけどボク達はこのダンジョンでは窮地に陥る事などなくてね・・・結局会えずじまい・・・そこで更に考えた・・・ボク達が窮地に陥る事が出来ないなら他の冒険者を目の前で窮地に陥らせればいいってね」
「つまり?」
「察しが悪いね。つまりこの魔物が出ない待機部屋に現れた冒険者をボク達がボコボコにする・・・10階も考えたけどここより冒険者が多く来てしまうだろ?流石に大量虐殺をしたら問題になる・・・けどここ20階ならそんなに冒険者は来ないからね・・・うってつけなのさ」
「・・・気でも狂ってんの?そんな事したら・・・」
「そんな事したら?ここはダンジョンの中・・・適当にボコボコにした後で後ろの扉の奥に放り込めば誰も気付かないさ・・・ただ魔物に殺られた哀れな冒険者が完成するだけだからね」
「・・・狂ってる・・・どうしてそうまでしてダンジョンコアを・・・」
「君もダンジョンコアを破壊してみれば分かるさ・・・まあその機会は永遠に来ないだろうけどね」
身の竦むような圧迫感は殺気へと変わる
ケンはすぐに逃げれるよう準備していたが、その行動に移す事が困難になるほどの濃密な殺気・・・足が震え思ったように力が入らない
「さあ、いい声で鳴いてくれよ?ダンジョンナイトが助けに来れば助かる見込みはある・・・まっ、ダンジョンナイトも含めて生かしておく気はないけど、ね──────」




