571階 旅立ち
「復讐を手伝えって?・・・当たり前だ!そもそもラナを・・・それに僕を殺そうとした奴らだからな・・・言われなくてもやってやる!」
「あら嬉しい・・・けどわたしも貴方を殺そうとしていた側の人間よ?いいの?」
「ウルティアは・・・理由があっての事だろ?そりゃ許せないけど・・・元凶は指示したこの国の王だ!・・・それにダンテ・・・アイツも・・・」
「・・・ふふっ優しいのね・・・それとももしかしてお姉さんに惚れていたのかな?」
「バッ・・・そんなんじゃないって!・・・とりあえずここから出よう・・・もう大丈夫だろ?」
そう言ってジークは再びウルティアに近付こうとすると彼女は体をビクつかせ目を見開く
「・・・あはっ・・・ちょっとまだダメみたい・・・ジークと分かっていても・・・あ、でもこの腕輪は外してくれる?ずっと着けてるせいか痛くて・・・」
「あ、ああ・・・でも近付けないんじゃどうにも・・・」
「剣が届く距離まで我慢するから・・・お願い・・・」
「・・・分かった・・・」
これまで隣にいた仲間が近付く事を我慢と言う・・・その言葉に傷付きながらもますますダンテに対して怒りを覚えた
近付く度に悲痛な表情を浮かべるウルティアを見て心を痛めながらゆっくりと歩を進めようやく剣が届く位置まで来ると剣を抜き構える
狙いはマナ封じの腕輪・・・決してウルティアを傷付けないよう間合いを慎重に計り剣を振り下ろす
「ありがと・・・まだ腕は錆び付いてないようね・・・安心したわ」
「腕が錆るかよ」
「そう意味じゃないの・・・で、足が動かないしまだジークでも無理だからわたしを運べる物を持って来てもらえるかしら?街の人に言えば作物の運搬用の車輪付き荷台が借りれると思うわ」
「はいはい・・・復讐も荷台に乗ったままやる?奴の目の前まで運んでやるからさ」
「それは楽でいいわね。その時はお願いするわ」
「・・・また一緒に冒険出来るな・・・あんまり嬉しくない冒険だけど」
「そうね・・・また一緒に・・・ほら、いいからさっさと借りて来て!」
腕輪が外れ喜ぶウルティアだったがその額には脂汗が浮かんでいた。近付くだけでもこの状態ならとても抱き抱えるのは無理だろうとジークは頷き荷台を借りに部屋を出ようとする
「ちょっと・・・ラナを置いて行く気?わたしはもう慣れたけど流石にこの部屋に置いて行くのは可哀想じゃない?」
「でもウルティアさん・・・」
「わたしは平気よラナ・・・けどかなーりお腹が空いたから早目にお願い・・・ね?」
「・・・はい・・・すぐに戻ってきます!」
ラナはウルティアを置いて行くのは気が引けたがこの場に残るのも躊躇いがあった。なのでウルティアの提案を素直に聞きすぐ戻ると頭を下げる
ジークはラナを待ち、2人で部屋を出る間際、ウルティアが聞こえるか聞こえないかの声で呟く
『ごめんね』
それは手間をかける事に対してなのかこれまで騙していた事に対してなのか・・・分からないまま聞こえないふりをして2人は部屋を出てそのまま屋敷の外へ
すると・・・
「な、なに?」
「魔法だ!・・・くそっ!」
2人が出た瞬間に聞こえた爆発音・・・それは屋敷の中から聞こえた為に振り返り急いでウルティアの元へ
そして目にしたものは・・・開けたままにしたサロンの扉の奥から見えたのは炎に包まれた広間だった
「ウルティア!!」
「・・・あらもう借りて来たの?」
奥の方からウルティアの声・・・無事のようで安心したが炎の勢いは凄まじく一刻の猶予もなさそうだった
「ばかっ!今から行く・・・抱き抱えるけど暴れるなよ?」
「・・・来たら自分に魔法を打ち込んで死ぬわ」
「なっ!?」
「もう少し見送らせてよ・・・みんながちゃんとわたしの魔法で昇れるのを・・・見届けさせてよ・・・」
「分かったから!それなら屋敷の外からでも見れるだろ?今はこの炎から逃れるのが先決だ!」
「・・・もうね・・・疲れたの・・・きっとこれはこんなわたしに神様がくれた贈り物・・・ありがとう・・・ジーク・・・ラナ・・・それとごめんね・・・もう一緒に冒険出来ないや・・・」
「ウルティア!!」「ウルティアさん!!」
「正直最初は貴方達が嫌いで嫌いで仕方なかったわ・・・真っ直ぐで暑苦しくて融通の効かない勇者に臆病で引っ込み思案で何も出来ない勇者のオマケ・・・2人の評価はそんなものだった・・・仕事と割り切って付き合ってただけ・・・ただそれだけだった・・・」
「・・・」
「けどね・・・成長していく2人を見て考えが変わった・・・弟がいたらこんな感じかな?とか妹のステラもこんな悩みを持ってるのかな?とか考えたら・・・いつしか2人が本当の弟や妹に見えてきてね・・・だから辛かった・・・貴方達を殺せと言われた時・・・本当に辛かった・・・」
「・・・」
「・・・多分これは罰ね・・・弟と妹を殺そうとしたわたしへの罰・・・でもあまりに哀れに思ったのか最期に神様は贈り物をくれた・・・」
「弟?・・・だったらもう少し面倒見ろよ!まだ僕は・・・」
「ジーク・・・貴方は勇者よ・・・誰もが認める勇者・・・魔王を倒してないなんて関係ない・・・勇気ある者・・・勇者なのよ・・・真っ直ぐ自分の道を行きなさい・・・まあ寄り道させるわたしが言うのもなんだけどね・・・」
「・・・」
「ラナ・・・貴女は自分で思っているより遥かに強い・・・回復だってそんじょそこらのヒーラーより余っ程凄いわ・・・けどジークに寄り掛かりすぎ・・・貴女は強いんだから支えなさい・・・ジークを支えられるのは貴女だけなんだから・・・」
「・・・ウルティア・・・さん・・・」
「あと2人・・・さっさと付き合っちゃいなさいよ・・・見ていてイライラするわ・・・どうせ好き合ってるんだから・・・ね。お姉さんからの最後の命令よ」
「最後なんて・・・言わないでくれ・・・僕に・・・助けさせてくれよ・・・」
「だーめ・・・貴方が助けるのはこんな壊れた女じゃなくてもっと未来ある人達よ・・・さあ行きなさい・・・てか行って・・・最期にみんなと話したいの」
「みんなって・・・僕だってまだ沢山話したい事があるんだ!だから!っ!?」
中に入ろうとしたジークの足元に火球が飛んで来る
足を止めると手前で弾けるが直撃していればジークでさえ軽い火傷では済まない程の威力があった
「次は外さないわ・・・いえ・・・次は自分に向けて放つ・・・それでも?」
「くっ!・・・・・・・・・どうしても?」
「どうしても、よ」
「・・・」
長い沈黙
その間にも広間に広がるほのおは勢いを増していく
ジークは天井を見上げると大きく息を吐くと真っ直ぐにウルティアがいる方向を見つめた
「・・・必ずダンテはこの手でぶっ殺す」
「・・・ありがとう・・・」
「行ってくるよ・・・姉さん」
「っ!・・・行ってらっしゃい・・・ジーク、ラナ・・・」
「ジークダメよ・・・ウルティアさんを・・・」
ジークはラナの言葉に無言で首を振り彼女の腕を掴み外に向かって歩き出す
それでも抵抗するラナを力一杯引っ張り泣きながら引き返そうとする彼女を連れて外へと連れ出した
「っ!」
2人が外に出た途端に再び爆発音が・・・振り返るとサロンだけであった火の手は広範囲に広がり廃墟と化した屋敷を包み込む
「ウルティアさん!!」
「・・・ウルティア・・・」
もはや屋敷の中に戻る事も出来ず2人はただ屋敷が燃え盛るのを見ているだけしか出来なかった──────
「・・・行ったかしら?・・・本当にもう暑苦しいったらありゃしない・・・普通自分を殺そうとした人を助けようとする?それも姉さんなんて呼んじゃってさ・・・あら?妬いてるの?いいじゃない兄妹が増えたら楽しいでしょ?・・・そうね・・・そうかもね・・・ステラの言う通りかもね・・・・・・もう・・・行くの?みんなも?・・・そう・・・ならわたしもそろそろ行こうかな・・・ようやく待ち望んでいた時が訪れる・・・行こうか・・・みんな・・・あ、ちょっと待って・・・最期に、ね──────」
「な、なんだ!?・・・屋敷が・・・お前らが火を付けたのか!!」
街を巡回していた兵士が音を聞きつけ屋敷に駆けつけると屋敷の前で佇む2人を見て槍を構える
「・・・そうだとしてもそうじゃなかったとしてもどうだって言うんだ?・・・お前らはクソ国王の命令で屋敷に入れないんだろ?」
「クソ・・・国王陛下に対して何たる口の・・・・・・あっ・・・もしかして・・・勇者様?」
「今機嫌が悪いからさっさと行け・・・じゃないと魔王を倒したこの聖剣がお前らに向くぞ?」
「ヒィ!・・・し、しかしこのまま屋敷が燃え続ければ周りに被害が・・・」
「安心しろ・・・その時は僕が・・・・・・え?」
ポツリと頬に水滴が落ちる
ジークは空を見上げると屋敷の上だけ黒い雲が空を覆っていた
「・・・雨?」
初めはポツポツと・・・それから間もなく雨は激しくなる
それは偶然か気まぐれか・・・屋敷の火を消すように土砂降りの雨が降り注ぎ屋敷を包んでいた火を飲み込んでいく
「雨が・・・火を・・・あれ?ここだけ?他の場所は降ってな・・・い?」
「なぜここだけ・・・」
「・・・なんだお前らこの街の兵士のくせに知らないのか?この街は素敵なお天気お姉さんに守られてるんだ・・・ずっと・・・今までも・・・これからも──────」
「そうか・・・ウルティアが・・・」
〘うん・・・だからダンテには手を出すな・・・出来れば国王もだけど・・・まあ最悪国王は譲ってやる〙
「譲ってやるって・・・ダンテの事は周知しておく・・・てか手伝おうか?」
〘いや・・・これは僕の物語だ・・・ロウニールはロウニールの物語を進めてよ〙
「物語・・・ねえ。ダンテは国王と言いなりっぽいからダンテを相手するなら自然とファミリシア王国を相手にする事になるぞ?勇者なのにいいのか?ジーク」
〘構わない・・・勇者として魔王ダンテを討つ・・・邪魔する奴は全て敵だ・・・それが僕の勇者としての物語だ〙
「魔王ダンテね・・・お前が魔王と言うなら魔王なんだろうよ・・・なら尚更仲間がいるんじゃないか?」
〘仲間ならいるさ・・・今僕はどこにいると思う?〙
「ファミリシア王国だろ?」
〘厳密に言うと違う・・・ファミリシア王国であってファミリシア王国じゃない場所・・・海の上だ〙
「海の上・・・船か?」
〘うん・・・別れたばかりで悪いけどまた手伝ってもらう・・・勇者パーティー再結成だ──────〙




