570階 惨劇
「ここまで・・・遠かったでしょ?・・・ここは辺境の地・・・わたしの父は辺境伯だった・・・名ばかりのね。ファミリシア王国は他国から農王国なんて言われてるけど実際は能力至上主義・・・それも特殊な能力『ギフト』を持っていないとたとえ爵位を持っていようが国に・・・周囲に認められはしなかった・・・。わたしの先祖はギフトを持っていたらしい・・・それで爵位を得てそれなりに栄えていたと聞いている・・・けどいつしかギフトは受け継がれなくなり国からの支援は一切なくなり同じ貴族からも見放され領地は徐々に先細り・・・とうとう爵位まで取り上げられる寸前まで来てしまった・・・そんな時にわたしが生まれたの・・・ギフトはないけど魔法の才能はあったわたしが、ね」
「神童と呼ばれてたんだっけ?よく自慢してたもんな」
「ええ・・・全ての属性を高い水準で使える・・・しかも天候を自在に操り領地の作物は倍以上の収穫となり国への税も余裕で納められた・・・父も母も妹も・・・領地の人達もわたしに感謝した・・・これで爵位は取り上げられなくて済むと・・・裕福な暮らしが出来ると感謝していた・・・」
「なるほど・・・それで天侯爵か・・・」
「まあね。まだそう呼ばれてはないけど天候を操れる魔法使いはそうそういない・・・だから国もわたしに目を付けた・・・そして国王から話を持ちかけられたの・・・爵位を辺境伯から侯爵に上げる・・・その代わりにある事を手伝え、と」
「ある事?」
「勇者ジーク・・・貴方の殺害よ」
聞きたくなかった・・・ジークはギュッと目を閉じ唇を噛み締めた
テメントの口からは聞いていた・・・が、信じていたウルティアから聞くのとでは訳が違う。同じ仲間でもウルティアだけは違う目で見ていた。恋心ではない・・・姉のように・・・時には母のように見ていたかもしれない
そんなウルティアが自分を殺そうとしていたと知ったジークはここから逃げ出したくなる衝動に駆られるも必死に耐える
「・・・知ってた・・・」
「そう・・・言い訳になるけど最初は勇者の懐柔だったのよ?貴方の父親を使ったりして・・・でもある時から殺害に変更されたの・・・既に爵位を上げてもらっていたわたしは断れば父と母に妹・・・それに領民を悲しませると思って・・・その変更を受け入れた」
「・・・なぜ懐柔から変更に?」
「リガルデル王国がフーリシア王国に攻め入った話を知ってるでしょ?魔王・・・ロウニール・ローグ・ハーベス公爵がリガルデル王国軍10万を追い返したって話・・・その時公爵は10万の内その半数にあたる5万の兵士を・・・それを知った国王は考えを改めたの・・・勇者の力を借りなければ勝てないと踏んでいたリガルデル王国が恐れるに足らずと判断した結果、勇者である貴方の力を利用する作戦から他国の手に渡らぬよう始末する方針に変えたのよ」
「僕が味方したくらいで戦争の結果が変わるとは思えないけど・・・」
「変わるわ・・・確実にね。奇しくもそれを証明して見せたのがロウニール・ローグ・ハーベス公爵・・・たった一人の強者が何万もの軍を蹴散らかしたのよ?それに勇者には魔王を討伐したという功績がついて回る・・・民衆の心を掴むのなんて容易いはずよ」
「実際は討伐してないけど・・・まあでも表向きは討伐している事になってるしそれを疑う人はいないか・・・」
「そうよ。民衆は貴方の行動が全て正しいと思うでしょうね・・・つまり貴方の味方する国が正義で相手が悪・・・それがどれだけ戦争に影響するかは考えるまでもないわね。味方につければこれ以上なく頼もしく敵に回せば厄介極まりない・・・喉から手が出る程欲しい存在・・・だったのよ貴方は」
「必要とされるのも不要とされるのも勘弁して欲しいところだね・・・それで僕の殺害に失敗したウルティアは国王に・・・」
「失敗を咎められ殺されそうになったわ・・・でも今はその時殺されてれば良かったと心の底から思っているわ・・・あの時終わっていれば・・・」
「殺された方が良かった?一体何をされたんだ?」
「聞にくいことをズバッと聞くわね・・・そういうところよ?」
「うっ・・・ガキ扱いすんな!僕はもう大人だ!」
「そう・・・とうとうラナと・・・」
「そういう意味じゃない!何をされたんだ何を!ふざけてないで話せよ!」
「・・・少しくらいふざけないと話せる内容じゃないのよ・・・これからの話は、ね──────」
ウルティアが語るその内容は凄惨を極めた
初めはウルティアの凱旋に喜んでいたウルティアの家族や使用人達もウルティアの表情とマナ封じの腕輪が着けられている事で気付き始める
「あの・・・娘は・・・ウルティアは何かしてしまったのでしょうか?」
そう尋ねるウルティアの父にウルティアを連れて来た者達は下卑た笑いを浮かべ『任務に失敗したからこれから処刑する』と答えた
勇者と共に魔王を倒し凱旋して来た娘を処刑すると言う男・・・その男にウルティアの父は激高し異を唱えるがそれが不味かった
国によって決められた事に異を唱える・・・それは反逆罪ととられても仕方なくウルティアを助けようとして声を上げた者達は任務に失敗したウルティアより重い罪を着せられてしまう
そしてサロンに集められた屋敷の者達を・・・彼らは・・・ダンテ達は突然屋敷に務める兵士達を嬲り殺し始めた
「ダンテ!・・・アイツが・・・」
「そうよ・・・サロンの入口を封鎖して先ずは男達を・・・そしてその後で女達を犯し始めた・・・幼い妹まで!」
「・・・そんな・・・」
「先ずは抵抗しそうな相手を殺し残った女子供・・・それに力のなさそうな老人達は残した・・・そしてそこからが本当の地獄の始まりだった──────」
その時点で阿鼻叫喚の地獄絵図・・・しかし地獄はウルティアが言うように始まったばかりだった
ダンテ達は残った人間を今度は切り刻む・・・致命傷にならないように爪を剥ぎ足や手を切り取る・・・拷問よりも凄惨な光景にウルティアは耐え切れず自分を殺せと泣き叫ぶがダンテ達はそれを無視して人を虫けらを相手にするように切り刻み続けた・・・最大限に痛みを感じさせるように・・・
そして
「オレの二つ名を知ってるか?『不死身』・・・その意味を教えてやろう」
そう言うとダンテは切り刻み弄んだ人達の体を再生させていく
見る見る内に剥がれた爪が・・・切り取られた手や足が再生し元通りになる
だが
「もう取れる場所がなかったが・・・良かったなこれでまた取れるな」
元には戻ったがやられている際の激痛は脳が覚えている・・・またあの激痛が押し寄せると知ると全員が発狂したように暴れ始めた
だが所詮は女子供に老人・・・しかも相手は十二傑の不死身のダンテ率いる屈強な男達・・・瞬く間に抑えられ再び地獄が繰り広げられてしまう
中には痛みで精神が崩壊してしまう者や狂ってしまう者凱旋出て来たがダンテはそれすらも治してしまい逃げる事を許さなかった
肉体的に死ぬ事も精神的に死ぬ事も許されず与え続けられる痛み・・・しかしまだそれでも地獄の入り口に過ぎなかった
「殺して下さい!お願いですから殺して・・・」「嫌だ!もう痛いのは・・・嫌だ!!」「助けて・・・お姉様・・・たす・・・」
「うるせぇな・・・今後殺してとか助けてとか喚いたらもっと痛みを与えてやる・・・それが嫌ならもっと気の利いたセリフを考えて言え・・・なあウルティア?」
「・・・お願い・・・ダンテ・・・わたしを・・・わたしだけを・・・」
「だから・・・それがつまんねえって言ってんの!・・・ハア・・・よしこうしよう!つまんねえ事言った奴じゃなくて隣の奴に罰を与えよう・・・ウルティア、お前の場合は・・・妹だ」
「ま、待って!わたしに・・・お願い!お願いよダンテ!!」
「ダーメ・・・おい、妹ちゃんを切り刻め・・・犯しながらやってみろ・・・締まりが良くなるぞ」
「いやぁぁぁ!やめて!お姉様!お姉様たすけ・・・」
妹の断末魔の悲鳴を聞いても何も出来ない・・・悔しさと怒りで血は沸騰し涙は赤色に変わる
それは2人の両親であるウルティアの父と母も同じだった
「外道が!!今に外に居る兵士達が雪崩込み貴様達など・・・」
「バカか?勅命で何があっても屋敷に入るなと命令済みだ・・・まあこんな街にいる兵士なんざ何人来ようが関係ないがな。っと、つまんねえ事言ったから罰を与えないとな・・・当然お前じゃなくて・・・」
そう言ってウルティアの母の髪を掴むと一気に引きちぎる。痛みで転げ回る彼女を蹴り飛ばし近付く際にテーブルに置かれていたロウソクを燭台ごと手に取った
「いちいち抜くのは面倒だ」
そう言ってダンテはロウソクの火で彼女の髪を燃やした
絶叫し再び転げ回る彼女・・・それを見て笑うダンテ達・・・もはやウルティアはそのまま母が死んだ方がいいとさえ思うようになっていた
死こそがこの地獄から解放される唯一の手段と本気で考えていたのだ
しかしダンテがそれを許さない
母も見事に再生され元通りになってしまう
残ったのは炎に焼かれた記憶だけだった
「・・・んー?今度は黙りか・・・まあそりゃ口を開けば隣のヤツがやられちうんだから黙るわな・・・じゃあ次は・・・殴り合ってみようか?」
「・・・」
「おいどうした?隣同士で殴り合え・・・妹ちゃんは姉ちゃんを好きなだけボコボコにしていいぞ?それとな・・・負けたヤツはお仕置だ・・・それと相手を殺すなよ?殺したらもっと楽しいお仕置をしてやる」
恐怖が人を突き動かす
ダンテの言葉に憎くもない隣の者を本気で殴り始めた
「・・・ティア・・・ワシを殴れ・・・」
「・・・アナタ・・・」
「おっと感動的な場面だがそれはつまらねえ・・・自己犠牲なんてクソ喰らえだ。殴られなかった方は手足を細切れにしてやる・・・痛みは分かち合うもんだろ?」
「アナタ!!私を殴って!」
「あ、ああ・・・お前も・・・」
「イヤよ!私はもうイヤなの!!」
「おまっ・・・それだとワシが・・・」
「早く殴ってよ!この役立ず!早く殴りなさいよ!!」
ウルティアの母、ティアは脇目も振らず殴られようと必死になる。その様子を見て父は殴ろうとするが恐怖に震え思うように拳を出せなかった
それを見て罵倒するティア・・・他の者達も必死に隣同士で殴り合う・・・ただ痛みから逃げるために
「・・・お姉様・・・」
「ステラ・・・ごめんね・・・」
ウルティアの前には妹のステラ・・・ウルティアは最初に折られた足を引き摺り彼女の前に立つと殴らずその両手を首に伸ばした
「ごめんね・・・本当にごめんなさい・・・許してとは言わない・・・せめて・・・」
せめてこの地獄から解放してあげる・・・そう思い両手に力を込めた・・・が、その腕は呆気なく力を失う・・・ダンテの剣で切り離される事により
「ぎゃああぁぁぁ!!」
「オレは殴れと言ったのに・・・残念だが妹ちゃん・・・ステラって言うのか?お仕置決定だな・・・おっと腕輪の事をすっかり忘れてた・・・すぐに再生して着けてやるから待ってろ」
そう言ってウルティアの腕を再生させ切り落とした腕から腕輪を取り外すと再生したばかりの腕に取り付けた
そして振り返りステラに近付くとステラは腰を抜かしながらも後退る
「や、やめて・・・もう許して・・・もう・・・」
「恨むならお姉様を恨め・・・オレはステラちゃんに殴れって言ったのにお姉様が言う事聞かないから・・・だから痛い思いをするんだ・・・残念だったな」
「や・・・いや・・・いやぁぁぁ!!──────」
「もういい!・・・もう分かったから・・・もういいよ!」
「後悔した?聞いた事・・・だから言わなかったのにしつこく聞くから・・・」
「・・・その人達は・・・妹達は結局殺されたのか?」
「ええ・・・その後もっと酷い事されてね。ねえ・・・その時に床に転がってたものって何だと思う?」
「床に?」
「そう床に。答えはね・・・切り刻まれたわたし達の手足よ・・・それでね・・・アイツは何て言ったと思う?『お腹が空いただろ?オレが料理して食わしてやる』ってその床に転がっている手足を・・・」
「やめろ!もう・・・やめてくれ・・・」
「最終的にはみんな料理になっちゃった・・・父も母も・・・妹も・・・みんなみんな・・・」
「まさかテーブルの上にあるのは・・・」
「ええ・・・ああ、そこのテーブルはステラだったものよ」
ジークはギョッとしテーブルの上のものを見た瞬間に吐いてしまう
「失礼ね・・・まあそれが正常な反応かもね・・・。最後にわたしだけを残してアイツは言った・・・『復讐したければ生き残れ・・・その為にはちゃんと食わないとな』って・・・その意味が分からなかったけどアイツらが去った後に気付いたの・・・出て行く時に鍵を掛けていたって・・・鍵を開けなきゃ外に出れない・・・つまりこのまま餓死するかもしくは・・・」
「まさか!」
「あのねぇ・・・食べる訳ないでしょ?途方に暮れてたら貴方達が来たって訳よ・・・」
「そ、そりゃそうか・・・いや・・・ごめん・・・」
「謝らなくていいわ・・・それよりもう戻れないわよ?」
「え?」
「聞いたからにはやってもらうわ・・・わたし達の仇討ちを、ね──────」




