568階 調査再開
「旦那様、お客様がお見えです」
ようやくエモーンズに戻りファミリシア王国の調査をどのようにするか話をしようとした矢先に来客か・・・見えない何かがファミリシア王国を守ってんじゃないのかと疑いたくなるな
「誰だ?」
「グルニアス侯爵様です」
「グルニアス?・・・ああ、カレンか」
一瞬誰だか分からなかったが当主になったカレンの事だとすぐに理解した
一体何の用だか・・・まさか変な用事を押し付けられるんじゃないだろうな・・・
不安になりながらもわざわざ訪ねて来たカレンを放置する訳にもいかず、ファミリシア王国の対策は他の者達に任せてカレンの待つ応接室へと向かった
「入るぞ」
ノックをし部屋に入ると何故か落ち着かない様子のカレンといつもの2人・・・ダハットとアンガーが俺を見て頭を下げる
「あ、あっはー!お久しぶりですわ!」
「・・・そうでもないだろ・・・」
2人が頭を下げる中、座っていたカレンは立ち上がり何故かふんぞり返る。いつもと変わらぬ様子を演じているが明らかにおかしい・・・俺を見ているようで誰もいない俺の背後を気にしていた
「・・・それで・・・何しに来た?」
様子のおかしいカレン・・・気にはなったけどとりあえず彼女の対面のソファーに座り要件を尋ねた
「え、えっと・・・ちょっと手を貸して欲しくて・・・」
「手を?何かあったのか?」
「特に・・・」
「・・・おい、俺も暇じゃないんだ。冗談なら他所でやってくれ」
「冗談ではないですわ!その・・・何もないのが問題なんですわ!」
「はあ?」
「この街に比べて我が領地はあまりにも平凡・・・辺境一歩手前の場所ですし前領主であったお父様は領地経営よりも領地拡大を優先させていましたし・・・わたくしの代ではそのような事は致しませんが逆に何をすれば良いのか分からないのですわ・・・」
「・・・それは分かったが何で俺なんだ?そっちにも知恵袋的な人材はいるだろう?わざわざエモーンズまで来て・・・」
「お父様の性格をご存知でしょう?ああいう方ですので保守派の人材はほとんど遠ざけておりまして・・・探せばいるのでしょうけどその前にわたくしに代わってどのように変わったか示さないとなかなか集まってくれない気がして・・・」
「ファゼンのせいで埋もれた人材を探し説得しようにも現状じゃ説得力がないから先ずは実績を積みたいって事か」
「そういう事ですわ。ですのでこの街で実績のある方に手を貸してもらおうと・・・」
「分かった分かった・・・セイムを1回そっちの領地に行かせよう。現状を見た後なら通信道具のやり取りで充分だろうしすぐに返してもらうが・・・」
「え?」
「うん?」
「・・・セイム殿・・・ですか?」
「ジェファーさんが良かったか?」
「いえそのジェファー殿とは誰なのか存じませんし・・・あの目付きの悪い方は?」
「目付きの悪い?・・・ああ、ナージか。ナージなら今リガルデル王国だ」
「出奔された!?」
「してねえわ・・・色々あって貸し出し中だ」
「貸し出し・・・なぜ・・・」
「だから色々あってだって・・・まあカレンは知っておいて損は無いか・・・」
隠す理由もないしな
ってな訳でリガルデル王国の現状を簡単にカレン達に説明した。ほとんどの話がおそらく時が経てば聞こえて来るような内容だ
サシャがリガルデル王国の女王となった事、そのサシャと前国王と前宰相・・・それと実の兄達との内紛状態である事
そしてその内紛を収める為にナージを貸し出している事を説明した
「あのリガルデル王国国王がとうとう・・・」
「いい歳こいて玉座にへばりついていた奴だからな・・・剥がしたのはいいけどまだ執着しているみたいだ。いっその事息の根を止めてやろうかと思ったがそれだと禍根を残すと止められた・・・やるなら徹底的にやらないとってな」
前王と前宰相・・・それに2人の兄を始末すれば解決って訳でもないらしい。わざと泳がせて誰が誰に与するか確認し根絶やしにする・・・そうしないと内紛状態は長引き結果魔力は生み出され続けるのだとか
「そ、それは分かりましたけどなぜナージ殿が?」
「元々はアイツが考えた策だからな・・・その策通りに事が進んだけどもこの先は臨機応変に動かざるを得ない・・・さすがのアイツでも100手先は見えても1000手先は見えないからな」
味方がアルオンだけだし予想外の事が起きたら対応は難しいだろう
軌道に乗れば何とかなるだろうがそれまでは・・・
「・・・でしたらそれが終わったらこちらに貸してくださいませ」
「いやいや・・・貸す貸さない以前にナージは不向きだろ。アイツは軍略家だぞ?この街でもほとんど軍に関する事を手掛けてるんだからカレンが求めている人材と正反対と言うか・・・まあ器用だからやれと言えばやるだろうけど・・・そもそもお前の領地に行きたいとは言わんだろ」
「なぜですの?」
「なぜって・・・知らないのか?ナージは元々ファゼン・・・お前の父親の配下だぞ?」
「え?」
「それが嫌気が差してと言うか俺の方が面白そうだとか言って辞めて俺の元に来たんだ・・・そっちに行けば前の知り合いとかもいるだろうし居づらいだろうから行きたいとは言わないと思うが・・・」
王都で当然ファゼンの元を去り俺の所に来ているからな・・・今更短期間とはいえ戻りたいとは思わないだろう
「・・・そう・・・ですか・・・」
「?・・・ナージじゃないとダメな理由があるのか?俺としてはセイムの方が合ってると思うけど・・・」
「べ、別にありませんわ!そ、それよりもなぜリガルデル王国のその女王はわざわざエモーンズまで来て貴方を頼ったんですの?」
「ん?ああ、初めは前王が何か企んでいると教えに来てくれたんだ・・・けどその後に相談されてな」
「相談?」
これは言ってもいいのか・・・まいっか
「サシャ・・・女王はアルオンに惚れててな・・・どうにかしてアルオンを射止めたいから協力してくれと・・・」
「・・・それで?」
「そういうのは俺は疎いからどうするか悩んでいたらナージが『サシャ王女が王になれば容易いかと』とか言いやがって・・・」
「女王に?それはまさか手篭めにするとか・・・」
「いや・・・まあ何と言うか・・・脅迫?」
「脅迫!?」
「アルオンの忠誠心を逆手に取った作戦?」
「詳しく聞かせてくださいまし!」
「・・・引くなよ?先ずサシャが女王になる・・・んで反対勢力を根絶やしにするんだ。まあ自ら撒いた種だしそこは同情する余地はないけど・・・で、女王は全てが終わった後で宣言する・・・『結婚しない』と」
「???・・・それでどうやってアルオン将軍の心を射止めるのです?」
「『結婚しない』って事は世継ぎを産まないって事だ。そうなるとどうなる?」
「世継ぎを・・・あっ・・・王家の血が途絶える?」
「そう・・・まあ第一王子と第二王子には子がいるらしいしその子の命は奪うつもりはないらしいが王族として暮らす事は許さない・・・爵位も与えず一般人として生き長らえる事を許すらしい。となるとサシャの死後リガルデル王国は荒れるだろうな。一般人として暮らしていた第一第二王子の子供達が出てくるかはたまた新たな王が誕生するか・・・どっちにしろ国は荒れるだろう」
「忠誠心が高いアルオン将軍はそれを憂いて・・・まさか・・・」
「そういう事・・・荒れないようにするにはサシャが子供を産めばいい・・・例えばサシャがアルオンの耳元で『貴方との子なら産んでもいい』と囁けばアルオンはどうするかな?」
「国の安寧を望むなら・・・でも結婚はしないと・・・」
「結婚しなくても子は産めるだろ?国民には『神から子を授かった』なんて言えば有り難がられるしな」
「・・・それをナージ殿が?」
「なかなかだろ?しかもアルオンの奴結婚してて子供もいるんだぞ?俺ならよう言えんわ」
「・・・」
「とにかくアルオンに究極の選択を迫るって訳だ。『私と子作りするか国が荒れるのを指をくわえて見ているか』とね。どっちを選ぶかは・・・まあ決まっているだろうな」
アルオンの奴妾もいるみたいだし・・・一瞬でもディーンと似ていると思った自分が恥ずかしい
「・・・少し変更が必要ですわね・・・」
カレンがポツリと呟く。変更?
「何を?」
「あ、あっはー!なんでもないですわ!また作戦を・・・じゃなくて改めてお伺いしますわ!ダハット!アンガー!行きますわよ!」
「・・・」「はいはい」
突然立ち上がると呆れる2人を連れてカレンは去って行ってしまった・・・結局何をしに・・・あっ!
「おいセイムは?」
「いらないですわ!あっはー!」
助っ人はどうするのかと追いかけて尋ねるとカレンは振り返りもせずそそくさと歩きながら必要ないと言ってそのまま外へ・・・いやマジで何だったんだ!?
「・・・お帰りになられたようですね」
「ああ・・・多くの謎を残してな・・・サーテン、執務室にベルと師匠・・・それにケンを呼んでくれ」
「なるほど謎を解き明かすのですね」
「違うわ!やり残した仕事を終わらせないとな・・・調査再開だ──────」
ファミリシア王国王都ファミリシア・・・その王都にある城の地下奥深くからひと仕事終えたシンディは出迎えた国王であり父であるエギドを見上げ微笑んだ
「その顔は・・・成功したのか?」
「いえ失敗なの。でも今回はいい失敗なの」
「それは良かった・・・一応は貴重な戦力であるからな」
「うーんでも・・・もう必要ないの」
「なに?」
シンディのその言葉に疑問を覚えたエギドは首を傾げるがシンディは幼い容姿とは裏腹に微笑みを妖艶な笑みに変化させもう一度呟いた
「もう必要・・・ないの──────」




