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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
568/856

564階 仮初の王

『大陸の守護者』の存在は今回を機に一気に広まるだろう


覇王国であるリガルデルが手を出せぬ存在として・・・そして今回の件の結果次第ではその存在を確固たるものにするはずだ


「・・・よもや貴様がこのような行動に出るとは思いもよらなかったわ・・・『大陸の守護者』か・・・知っていればあの時全力で止めたものを・・・」


「止められてもやる事は変わりなかったさ。公認か非公認かの違いだけでやる事は変わらない・・・ただやり方は非公認の方が派手になっていただろうけどね」


「・・・」


「今は公認として動いてる・・・だからこうやって優しくしているだろ?話も聞くし」


「『話を聞く』・・・か・・・これ以上何を聞くつもりだ?会話は聞いておったのだろう?」


「会話は聞こえるけど胸の内まで聞こえないからな。暗殺を企てた理由は分かってる・・・大事なのは今後だ」


「今後?」


「悪巧みをしようとしている会話を聞けると言っても限度がある・・・それに度々こんな事されたら煩わしいし・・・だから今後一切このような事をやらないかどうか確かめたくてな」


「やらんと言えば信じるのか?」


「もちろん・・・それが本音だったらな」


本音など分かるはずもないのに・・・言葉だけで判断するつもりなのか?


「・・・フッ・・・もうこのような事は懲り懲りだ。無論やらぬ」


「本当に?」


「くどい。やらぬと言ったらやらぬ・・・朕も平和を常に望んでおる。このような事がなければ他国へ手出など・・・」


「嘘です!」


「なに?」


急に叫んだのは公爵が連れて来た正体不明の2人の内の1人・・・その声には聞き覚えがある・・・確かキースとレオンに連れて行かれたエモーンズの教会にいた・・・


「何が嘘だと言うのだ?朕は・・・」


「顔も晒さずご挨拶もしなかったご無礼をお許し下さい。私はセシーヌ・・・セシーヌ・アン・メリアと申します。国王陛下にご挨拶を」


フードを取り膝を折り曲げ深々と頭を下げる女性・・・セシーヌ・アン・メリア・・・かつてフーリシア王国で聖女と呼ばれていた女性だ


フードの中の顔がこれ程までに美しかったのかと兵士達はどよめくがその反応とは正反対に王は彼女の正体を知り顔を歪める


その美しい花には棘がある・・・しかも毒を含んだ棘が


「・・・『アン・メリア』・・・聖女の血統か・・・」


「はい。ご無礼かとは思いましたが必要と言うことなので見させてもらっておりました・・・国王陛下のお言葉が嘘か誠か・・・この『真実の眼』で」


『真実の眼』・・・その名の通り真実を見抜く眼が王の嘘を見抜いたという事か・・・だが嘘とは?王は特に嘘などついてはいないはずだが・・・


「して聖女セシーヌよ・・・何が嘘だと言うのだ?朕の言葉に嘘偽りなど・・・」


「『平和を望む』と仰いましたが望んでなどいらっしゃいませんね?私には聞こえました・・・『ほとぼりが冷めた頃またやる』と」


「デ、デタラメな事を言うでない!」


「デタラメではありません」


「このっ・・・っ!?」


王がセシーヌに詰め寄ろうとすると公爵がセシーヌの前に立ち立ちはだかり慌てて王は足を止めた


「てな訳だ。人はそう簡単には変われないか・・・分かっていたけど残念だ。王の座を退けフォーデム・・・それを貴様への裁きとする」


た、退位勧告だと!?


突然の爆弾発言に息をするのも忘れそうになる


裁きを下す為に来たとは言っていたがまさか退位を求めるとは・・・王の進退を決めるのは崩御以外は自らと決まっている・・・それなのに・・・


「バカな!内政干渉にも程がある!」


「なら強制的に退位させてやろうか?こちとら余計な仕事を増やされてはらわた煮えくり返っているところなんだぞ?出来れば混乱を避けたいからわざわざこうやって来て言っているだけ優しいと思え」


「何が・・・」


「陛下お待ち下さい!・・・ローグ卿、陛下が退位されればこの場は収まるのか?」


「ハム!」


「陛下・・・彼は力尽くでも事を成せる程の力を持っております。一度犯した過ちに対してはかなり重い罰ですがここは甘んじて受けた方がよろしいかと」


宰相であるハムナートにしてはあっさりと引き下がるか・・・これは何かあるな・・・


王と宰相は竹馬の友・・・共に同じ夢を追いここまでやって来た主従関係と言うよりも友人関係に近いものがあった。おそらく王が退位される事になればハムナートも宰相の座から身を引くだろう・・・それなのにこんなあっさりと・・・


いや、宰相だからこそあっさり引き下がったと思うべきか


今の状況はついさっきまでに比べて悪化している・・・耳打ちすら聞かれ相談する事も出来ずその上『真実の眼』を前にしては取り繕っても意味が無い。ごねれば更に要求が厳しくなるのは自明の理・・・ならば王が退けば収まるならばと判断したに違いない


王の身を守る為の苦肉の策とも言えるがそれ以外に手はないのだろう


「それでローグ卿・・・先程の質問に答えてもらえるか?」


「これで終わりかって?・・・もちろん終わりだ。俺はあくまでフォーデムを裁きに来ただけだからな」


「そうか・・・ならば退室願っても?陛下が退位されるとなれば次期王を早々に擁立せねばならない。国王不在などあってはならぬしなるべく早く貴殿の要望に応えねばならぬからな」


「・・・愁傷な事だ・・・その胸の内が知りたいところだがやめておこう・・・」


これで終わりか?


何とまあ呆気ない幕切れ・・・公爵は踵を返し出口に向かって歩いて行く


それに従いセシーヌと・・・結局フードを取らなかった謎の人物がその後を追う


「あ、それと次の王だけど第一第二王子を選んだ時はフォーデムにしたのと同じ質問をさせてもらう・・・変わっているといいな・・・人間性」


王と同じ質問・・・『二度と同じ過ちを繰り返さないか』


2人の王子の継承争いに公爵は巻き込まれている・・・質問したくなるのは当然だろう。となるとお2人は・・・


公爵は振り返らず手を上げそう言い残すとそのまま去って行った


残された私達はしばし無言になり公爵が去った部屋の出口をじっと見つめる・・・そして・・・


「人払いだ・・・ハムとアルオンだけ残れ」


「は、はっ!」


「ああ、待て・・・()()()()誰にも洩らすな。洩らした者は・・・分かっているな?」


「はっ!」


『この事は』か・・・具体的ではなく抽象的な範囲を口止めしどの事を言ってはいけないのか考えさせる・・・そうすれば下手な箝口令よりも効果的となる・・・安心した・・・いつもの王と変わりないな


冷静沈着であり人を使うのが上手い・・・智謀も宰相には劣るかも知れないが時々宰相も思い付かない事を思い付く・・・お年は召されたが今尚眼光鋭く玉座に座る


私の中では第一王子も第二王子もまだまだ王の域には達していない・・・だからこそ王位継承争いには参加しなかったのだが・・・


「・・・こうも簡単に終わりを迎えるとはな・・・」


その強き王が兵士達が出て行った瞬間に弱音を吐いた


以前なら公爵に対して恨み節でも呟き打開策を考えろと宰相を怒鳴りつけていたはずだが・・・公爵相手ならそれも仕方なし・・・か


「どんな要求をされるかと思いましたが・・・予想の範疇で助かりましたな・・・陛下」


え?


「フッ・・・奴としてはしてやったりなのだろうがどうせもうすぐ身を引く予定だった・・・最後に我が国を謀ったファミリシア国王を・・・と思ったが奴と揉めるくらいなら些細な事と諦めよう。それよりも人から引導を渡されるのがこれ程屈辱だとは思わなかったぞ?危うく本気で食ってかかりそうになった」


「聖女まで連れて来るとは思いませんでしたがその他は全て想定内・・・さぞかし彼奴は喜んでいる事でしょう・・・自分の思い通りになった、と・・・それがこちらの思い通りとも知らずに」


「・・・あの・・・宰相閣下?思い通りとは・・・」


「ああ、アルオン殿はいませんでしたからな・・・ちょうどアルオン殿が彼奴を迎えに行っている時に陛下と話していたのです・・・落とし所をどこにするか、と」


「落とし所?」


「彼奴がゲートを使えるのは周知の事実・・・にも関わらずわざわざ城ではなく王都入口から軍を率いて入って来た理由は力の誇示に他ならない。そしてそれが許されるのはフーリシアの公爵ではなく『大陸の守護者』とやらだけ・・・あらゆる者を裁ける権利を持つ『大陸の守護者』が力を誇示し城に向かって来たとあらば目的はただひとつ・・・他の誰も裁けぬ陛下を裁きに来たと推察したのだ。ならばあのロウニール・ローグ・ハーベスに逆らうのは得策ではないとしてどんな裁きを受けるか考え一番ダメージの少ない『退位』へと誘導するよう仕向けたのだ」


私がこの謁見の間で気付いた事をすぐに気付いたのか・・・流石は宰相といったところか・・・しかし退位に誘導とは?特にそれらしき言動はみられなかったが・・・


「『大陸の守護者』という枷がある以上朕を傷付ける事はしまい。脅しならまだしも実際に傷付け言う事を聞かせたとあらばその事実は他国にも知れ渡り彼奴の言う『アバドン』の復活とやらに一役買ってしまうからな。となれば彼奴がやれる事は少ない・・・まあ出来て退位勧告が関の山と思うておったがまさかそのままだとはな・・・浅いのう」


全て読み、そして全て演技だったと言うのか


「テメントとクーガを王にすればまた退位を迫るような事を言っていたな・・・完全に譲るならともかく言う事の聞かぬあの2人を王に据えるなど考えてもないわ」


「?・・・それでは陛下・・・誰に・・・」


「順当に第三王子のサシャとなろう。あの子には不憫な思いをさせた・・・王となりようやく日の目を見る・・・まあ自由はないが、な」


傀儡・・・そんな言葉が脳裏をよぎる


王と宰相はサシャを王にし裏から操るつもりだ


これまで王子として生きる為になるべく人目に触れないようほとんど城の中で生活してきたサシャ・・・誰もがその存在を知っているにも関わらず見た事がない者がほとんどだろう。だからこそサシャがエモーンズに出掛けても誰も気付かなかった・・・そのサシャを王に据え裏で操る・・・退位するが実質実権は2人のまま・・・


「何か思うところがあるかな?アルオン」


「いえ・・・私は『王国の剣』としてただ王国の為に剣を振るまでです」


この会話も公爵は聞いているかもしれない・・・だが2人を咎めはしないだろう。公爵の言う通りに退位する・・・これ以上は越権行為となるはずだ。それが分かっているから2人は余裕なのだろう


公爵より2人の方が一枚上手・・・結局この国の中身は変わらないと言うことか・・・


「さて日取りを決めようか・・・古き王が去り新しき王の誕生だ!・・・仮初の、な──────」

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