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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
566/856

562階 アルオンの決意

ぎこちないながらも同年代の子供と遊ぶ我が子を見てまた少し私の中が変化したように思えた


そう簡単に人は変われないはずなのだがそれは既に他の色に染まっている場合の話だ・・・私のように空っぽの容器に色付きの水を注げばその色になるのは道理・・・幼い子なら尚更だ


「父上!どうやら私は『すごい』らしいのです!」


遊び終えたシオンは興奮気味に話してくれた


遊びは単純なものだった


1人がオニと呼ばれ他の子を追いかける。捕まったらその場でオニとなり最終的には全員オニになれば終了という遊び・・・救いも何もない遊びだが王国で流行っているらしい


その遊びに加わったシオンは最後の一人となりとうとう捕まらなかった・・・オニ全員が前代未聞(らしい)の降参で幕を閉じた


挟み撃ちにしても取り囲んでも捕まらない塩は賞賛され私も誇らしく思えた


次にシオンが『オニをやってみたい』と言い2回戦が始まる


するとシオンは一人で他の子を捕まえてしまい呆気なく2回戦は終了・・・同年代の子の中では抜きん出ている実力を発揮ししらけさせてしまうのではと少し心配になったが子供達は素直にシオンを褒め讃えた


「また遊ぼう・・・と言われました・・・」


恐る恐る上目遣いで私に言うシオン


何を恐れているのか理解しその恐れを取り除く為に私は微笑み頭を撫でながら答えた


「次はもう少し手加減してあげろ・・・気付かれないようにな」


「は、はい!」


次がある・・・それが分かった瞬間にシオンの表情は弾けた


この経験が彼を強くするかどうかは分からない・・・が、少なくとも視野は広がるはずだ




屋敷に戻ると部屋に戻り登城の準備をする


その際に妻と会ったがシオンを連れ出した事に気付いているはずなのに彼女は何もその件に関して触れはしなかった


彼女は将軍の第一夫人になり、子を産み、その子を当主にするのが目的である。その目的もほぼ達成されたと言って過言ではない為私が何をしても興味を示さない


それでも妻としての役目は無難にこなす


貴族達の集まりでは良き妻を、子に対しては良き母を演じていた


その妻に対して何の不満もなかった・・・それが当たり前だと思っていたからだ


しかし・・・何か物足りなさを感じていたのも事実だ・・・だからこそ子種目的で近付く女性との情事にも積極的であったのは事実。それを続ける事により物足りなさが埋まると信じていた・・・結局埋まらなかったが


「出掛ける」


「はい」


短い会話・・・『どこへ?』とでも続けてくれれば会話も成り立つのだが・・・


そのまま部屋を出ようとドアノブに手を伸ばす・・・だが途中でその手を止め少しの望みを持って振り返り会話とやらを続けてみた


「先程シオンを遊びに連れて行った」


「そうですか」


「・・・同年代の子供と遊ぶのは初めてだが上手く溶け込めたようだった・・・社交的な面もあるようだ」


「そうですか」


私はともかく我が子にも興味を示さない・・・か


今更何を期待しているのやら・・・自嘲気味に笑うと再びドアノブに手を伸ばす


「・・・将軍の地位に社交性は必要ですか?」


不意に掛けられた言葉に伸ばす手を止め振り返る


「さあ、な。だが無駄ではないと思うぞ?」


「・・・そうですか」


僅かながらでも興味を持ったのかと思いきや彼女は興味なさげにいつもの返事を繰り返す


その表情から彼女が興味を持ったのはシオンが私の跡を継いで将軍になるのに必要かどうかだけだったらしい・・・それもそうかと一人納得し会話を終えて部屋を出た


彼女も私のように変われば私達の関係も何かが変わると思い話してみたが・・・恐らくそれは続けたとしても徒労に終わるだろう。それでも彼女は第一夫人に変わりない・・・それが結婚する時の契約だからだ


将軍である私の第一夫人という地位がどれほどのものなのか分からないが妻の家にとっては娘を差し出しても得たい地位なのだろう。妻もそれは納得済みであり子を産んだ事により役目は果たしたと考えている節がある


だから彼女にとって今現在は余生とも言えるかもしれない・・・その中で変われと言われても無理があるだろうな



屋敷を出た私はそんな事を考えながら城へと向かい何事も無かったように城内に入るとすぐに王からの呼び出しが・・・突然消えたのだから何が起きたのか気が気でないのだろう


王の執務室を訪ねると王と宰相が待ち構えており挨拶もそこそこに矢継ぎ早に質問された


何処に行き何をしていたのか、と


当然正直に答えるのだが一部だけ嘘をついた


それは聞かれた内容にどう答えたか


返答に関しては事前に公爵と申し合わせておりその通りに答えた


気は引けたがこれも王国の為・・・そう割り切り私は王と宰相を欺く


「・・・つまり・・・ファミリシアへの対応は知っていたがどこから洩れたのかは定かではないということか・・・」


私がついた嘘は『サシャが公爵に密告した』という事実と『私は聞かれたが何も答えていない』という2点だ


私はその通りに答えると王は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ宰相と何やら相談している


その時


「た、大変です!フーリシア王国軍が攻めて来ました!!」


ノックもせずに執務室へと入るなりそう叫ぶ兵士・・・普段なら処罰ものだが事が事・・・王も宰相ももちろん私もその事を咎めずにその事実だけを受け止める


「・・・まさかそこまでするとは・・・」


王の率直な感想だろう


まだ実際に行動に移した訳ではない・・・なのに警告ではなく実際に攻め入って来るとは思いもしなかったはずだ。しかし気になる事がひとつ・・・


「完全にやり過ぎですな・・・抗議すれば当然『大陸の守護者』とやらの権利は剥奪されるでしょう。その前に痛い目にはあってもらいますが・・・」


「ふむ・・・国境付近には誰がいる?」


「南には『鋼甲』のラムラが控えております。編成しすぐに向かわせれば国境を越えてすぐの場所で迎え撃てるかと」


2人が話を進める中、報告に来た兵士が何かを伝えようとしていた。多分それは私が気になっている事なのだろう


「ちなみに・・・()()()()()()()


私が兵士に尋ねると王と宰相は会話をやめ怪訝そうな顔でこちらを見つめる


だが・・・


「ここ・・・王都サーテルデールです!」


「なに!?」


座っていた王が腰を浮かせながら叫ぶ


今の状況でフーリシアが攻めて来たと言うなら十中八九公爵の軍だろう・・・その公爵がわざわざ国境から攻める必要はない・・・何故なら公爵は何処からでも攻められるからだ


「王都に・・・アルオン!」


「はっ!」


「すぐに兵を率いて迎え撃て!城に近付けさせてはならん!」


「よろしいので?」


「何がだ!」


「ここで迎え撃てば民にかなりの被害が・・・それに王都に滞在する兵な数ではロウニール・ローグ・ハーベス公爵軍には敵いません・・・敗北すると分かりつつ攻撃を仕掛ければ火に油を注ぐ事に・・・」


「それでも我が国の将か!死んでも近付けさせぬ気概を持ったらどうだ!」


「この命で足りるならいくらでも・・・ただこの命では足りないので申し上げているだけです。刺激し事態を悪化させない為にもこのまま迎え入れた方がよろしいのではないでしょうか」


「腑抜けが・・・」


憤る王・・・冷静になれという方が難しいのは分かるがひとつ間違えれば国が滅ぶ・・・ここは慎重に動かねば


しかし何故公爵はわざわざ城ではなく王都に?公爵がその気になれば大量の兵士や魔物を城内に送り込む事も可能・・・それをせずにわざわざ城から離れた場所に送り込んだ理由は・・・


「陛下・・・将軍の言が正しいかと・・・国境に現れたのならともかく王都に突然現れるなど普通なら考えられません。となると現れたのはローグ公爵と思って間違いないでしょう。そしてその者が過去に何をしたか・・・陛下も記憶に新しいのでは?」


レオンの口車に乗り10万もの軍で攻め入りたった一人の手により追い返される・・・そんな事態を覚えていないと言ったら痴呆を疑うレベルだ


「くっ・・・ならばそのまま通せと言うのか?我が物顔で王都を闊歩させ城へと誘えと?」


「抵抗するよりはマシかと・・・城に招き入れ言いくるめれば良いのです。その後は各国に連絡し彼の者の権利を剥奪すれば・・・」


「『大陸の守護者』か・・・あの時は後ろめたさもあり誰にも相談出来ず賛成したが今は違う・・・ラズンが反対に回っており我が国も反対に回ればたとえ残りの三ヶ国が賛成したとしても・・・いや現状を話せば他にも反対に回る国も出てくるやもしれん・・・そうなれば・・・」


「ええ。恐らく大した証拠もなく感情で動いた結果なのでしょう・・・そんな者に権利を与える愚かさを知れば他国も権利剥奪に同意する可能性は大いにあります。後は我が国が潔白であると証明すればいいだけの事・・・利はこちらにあります」


「こちらからは手を出さず迎え入れシラを切り通す・・・そして相手の不躾な行動を非難する・・・そうだな・・・その方が収まりがいい」


人は追い込まれると本性を出すと言うが本当だな。民の事など一切触れないとは・・・


いやそれは私も一緒か・・・これまで民の事など考えた事はなかった。国の為になれば兵士や民の犠牲など・・・?


突然だがふと疑問に思った



国とは何なのだろうか



王国の為と言いつつ国というものが何も分かってない事に気付く


国とは王なのか民なのか領土なのか


王・・・ではない。王は民を導く者・・・民がいなければ王も不要となる


では、民か?・・・民がいれば国が成り立つかと言えば成り立ちはしたいだろう。数に見合った領土がなければ存在すら出来ない


となると領土・・・だが住む者がいなければ意味を成さない


そう考えると国とは・・・王と民と領土・・・全てか・・・


王国の為に戦うという事は王を民を領土を守るという事・・・それに他ならない


だがもし・・・優先順位を決めないといけない時が来たとしたら・・・


全てを守る事など出来る訳が無い


窮地に陥った時に何を犠牲にし何を守るか選択しなければならない時が必ず来る


いやもう来ているか・・・今がその時かもしれない


王を取るか民を取るか領土を取るか・・・しかもその相手があの公爵・・・


彼が何を目論んでいるかはまだ不明・・・だが下手をすればこの国が失くなる可能性があるのは確か・・・


どうせなら全てを話してくれれば良かったのだが・・・意地の悪い方だ


「アルオン!彼奴を迎え入れる準備をせよ!決して兵士を城に入れるな・・・公爵だけを謁見の間に!」


「はっ!」


公爵が初めから攻撃を仕掛けて来るつもりなら城に直接攻め込んで来たはず


話し合いだけなら1人で来るし攻めるなら城に・・・


公爵の意図が掴めぬまま私は王の命令に従い公爵を迎えに行く


・・・国を賭けた駆け引きか・・・政とは無縁の私がどうする事も出来ないのは承知だがわたしが出来ることをやろう・・・王国の剣として──────

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