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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
565/856

561階 アルオンの受難

キースは愚直・・・力押し一辺倒


レオンは多彩・・・しかし力は弱い


対極にあるような2人がもし息の合う攻撃を同時に仕掛けて来たら・・・彼らの言うように私は一瞬でヒーラーの元へ行く羽目になっていただろう


キースは力押し一辺倒と言ったがその力が桁違いだ。私が憧れを抱く程に。その豪腕に溺れ剣技を疎かにしている訳ではなくあえて技を捨て全てを注ぎ込む事に集中しているようだ。彼が小手先の技を使うようになれば逆に弱くなるかもしれない・・・そう思わせる程の圧倒的な力


レオンは対照的に変幻自在な技を使う。虚実を上手く使い分け虚をついてきたかと思えば実であり、実と思えば虚である・・・まるで化かされたように物の見事に騙される。最終的には全てを実と思い対したがそうすると全てを防ぐ事は不可能だった


そんな対極にいる2人・・・なのになぜだか1人と相対している時ももう1人の幻影が浮かぶ


まるで2人で戦う事を前提にしているような・・・そんな感覚に陥った


1人相手に僅かの差で勝てる程度・・・2人同時相手にしたら負けるのは道理・・・結局彼らの言ってた事が正しかった・・・という訳か


「くそっ・・・負けてんじゃねえよレオン」


「負けた君からは言われたくないな」


「アホか・・・俺がやった後だから弱ってるに決まってるだろ?それでも負けるなんて恥を知れ恥を」


「君が程よく温めてくれたお陰で彼は最初から全力を出せたみたいだ。これこそ飼い犬に手を噛まれるという事か」


「誰が飼い犬だコラ」


「なるほど・・・そしてこれが負け犬の遠吠えというものか」


「・・・上等だ・・・負け犬同士どっちが上か下か決めようぜ」


「そうしたいのは山々だがいいなか?私とは何時でもやれるが彼はそうもいかないぞ?」


「・・・確かに・・・こんな機会は滅多にねえ・・・『王国の剣』か・・・戦争でも起きねえ限り戦う事なんて出来やしねえ相手だしな・・・この機会にたっぷり味わっとくか」


まだやる気か?勝ったとは言え僅差・・・体力は既に限界に近いと言うのに・・・


「キース」


「あん?」


ホッ・・・どうやらレオンは私の状態に気付きキースを止めて・・・


「さっきは君からだったんだ・・・次は私からだろう?」


「てめえ・・・そんな事言ったらてめえが2戦連続になるじゃねえか!」


コイツら・・・正気か?


「待ってくれ・・・せめて・・・」


「なあ、次は得物を変えねえか?」


「ふむ・・・私も剣は不得手だからな・・・そう提案しようと思っていたところだ」


なに?得物を変える?・・・それにレオンは剣士じゃないだと?


「じゃーん!ぬはははっやっぱりこれじゃないとな」


「この訓練所は壊れてもすぐ修復出来るとか・・・思いっきり暴れても問題はあるまい」


キースは首にぶら下げた飾りを手に取るとマナを込めてその飾りを巨大な剣に変えた。そう言えば彼の二つ名は『大剣』・・・これがその異名の・・・


それにレオン・・・彼が手のひらに浮かべたのは小粒程の小さな炎・・・それをピンと指で弾くと壁に当たった瞬間に爆発が起こり壁に穴を開ける。どれ程圧縮すればあの威力の炎を小粒程に出来るのだ?と言うか彼は・・・魔法使い?つまり私は魔法使いの使う剣に苦戦したと言うのか?


大剣を手にしたキースと剣を手放したレオン・・・2人がこちらを向いた瞬間に背筋がゾクゾクした


無理矢理連れて来られてあまり気乗りしなかったが2人の気勢に呼応するように心が滾る


王国の為ではなく1人の剣士として


「面白い・・・だが得物が変わった程度で私に勝てると思ったら大間違いだ・・・その勝負受けて・・・猫?」


疲れも飛びやる気は充分・・・だったがわたしと彼らの前に突然黒猫が現れて・・・


《誰にゃ壁に穴を開けたのは・・・》


ね、猫が喋っ・・・っ!?


キースとレオンの2人は猫の言葉に反応し何故か私を指差した。いや穴はレオンが・・・


《お前にゃ?この穴を直すのにどれだけマナが必要か分かってるにゃ?・・・ふん、まあロウの客だから殺さないでやるにゃ・・・但し壁を直す分のマナは頂く・・・絞り出してやるから覚悟するにゃ》


絞り出す?覚悟?・・・そもそも私では・・・


驚き過ぎて声が出ない


何とか弁明しようと声を振り絞ろうとした瞬間、更なる驚きにより声が引っ込む


猫が・・・女性に変化した・・・


《さて・・・どれだけ搾り取れるか・・・早速搾取開始にゃ!──────》





・・・石造りの質素な天井・・・所々に魔石が埋め込まれ常に昼間のような明るさを保っていた


この私が・・・『王国の剣』が手も足も出ず倒され天井を仰ぐ事になるとは・・・


「おーい、生きてるか?良かったな何も無い部屋に閉じ込められなくて」


「あれは地獄だった・・・しかもキースと2人きり・・・あれから私は常に簡易ゲートを持ち歩いているよ」


「それはこっちのセリフだってぇの・・・てか簡易ゲートか・・・俺も持っておくか・・・念の為に」


私の近くに立ち話す2人・・・どうやら心配してくれているようだがそもそも彼らが嘘をついて私に罪をなすりつけなければこんな事にはならなかったのだが・・・


「ダンジョン関連でサキを怒らすと怖いからな・・・ドラゴンが見たくて調子に乗ってダンジョンを荒らしまくってたら突然サキが現れて・・・」


「床が抜けて落ちた所が出口のない小さな部屋・・・もう二度と経験したくはないな」


どうやら過去にこの2人も先程の猫女にやられたらしい


ったく・・・どうなっているんだこの国は


キース、レオン・・・ディーンにサキ・・・それに勇者と渡り合った魔族もいる・・・極めつけは公爵ことロウニール・ローグ・ハーベス・・・もし王が再びフーリシアを攻め入ろうとしたならば全力で止めなくてはならないな・・・勝てる訳がない


戦争は個の力でどうにかなるものではないが個の力も軍の力もフーリシアは群を抜いている。それも公爵陣営だけでだ


なぜ私が彼・・・ロウニール・ローグ・ハーベスと友になろうとしたかようやく分かった気がする


王国の剣・・・つまり王国の道具である私には感情など必要ない


道具が感情に左右され判断を見誤るなど愚の骨頂・・・感情に左右されず誰が私を振るのに相応しいか判断する必要があった


時には王が・・・時には王族の誰かが・・・私を手に持ち振るう


私はそれに応えるだけでいい・・・誰の手に渡れば王国の為になるか判断した後はただその力を発揮すればいいだけだった


なので感情など不要・・・妻と子にすら特別な感情を抱いた事はない


私が国の道具であるように妻は子を産む道具であり子は私と同じ王国の剣となるだけ・・・ただそれだけの存在だ


それなのに私は彼と友になりたかった・・・その理由は・・・王国の剣としての本能が警告していたのだ・・・彼と敵対してはならない、と


感情という邪魔なだけの存在と思っていたものが必要不可欠と思い知らされたな


己の感情に従っていれば王に進言していたはずだ・・・止められるかどうかは別としても


「ん?やられたのに笑ってんのか?・・・実はそっちの趣味が・・・」


笑っている?私が?


「起きたんならさっさと続きやろうぜ?まさかこれで終わり・・・じゃないよな?」


抱いた感情は恐怖のはず・・・この国・・・公爵に手を出せば王国は無事では済まない・・・そう恐怖したはず・・・なのにこの沸き立つ感情は・・・


「考えていた・・・どうやったら2人まとめて倒せるかを」


「こいつ・・・まだ寝ぼけてんのか?」


「サキにはやられたが私達にやられた訳では無い・・・そういう事だろう・・・面白い」


面白い・・・か


未だダメージが抜けず震える手を地面につきゆっくりと体を起こす


すると2人はニヤニヤとしながら私に背を向け定位置へと戻った・・・戦いが始まる定位置へと


「どうする?俺か?レオンか?それとも・・・」


「まとめてかかって来い・・・『王国の剣』は決して折れぬ事を見せてやろう」


「さっきまで折れてたじゃねえか」


「よせ。的確な指摘は心を抉る」


好き放題言って・・・そんな風に言われると更に沸き立つではないか


「無駄口はそこまでだ・・・かかって来い──────」





ここはリガルデル王国王都サーテルデール・・・の路地裏だ


訓練所から帰った後、まだ公爵とサシャの話は終わっておらず私だけが王国へと強制的に帰らされた


今までの私ならたった2人の護衛しか従えてないサシャを残して戻りはしなかっただろう・・・だが強制的とはいえ心配は全くしていない私がいた


わざと城ではなく王都の人目のつかない場所に送ってもらったのには理由がある・・・私は連れ去られた身であるから一度見つかれば質問攻めの嵐に合いしばらく身動きが取れなくなるからだ


今の私は無性に行きたい場所があった


本来納まるべき場所ではなく行きたい場所が・・・あるのだ


だから私は人目のつかない路地裏にいる・・・そして見つからないよう借りたフードをかぶり行きたい場所を目指した



行きたい場所?違うな・・・戻るべき場所・・・か



誰に見つかることもなく辿り着いて見上げるはほとんど来ることのない我が屋敷。久しぶりに見るせいか何故だか違う建物に見えた


「止まれ!」


フードを深くかぶり屋敷を見上げる私を不審に思ったか門番が槍を構え近付こうとする私を制止する


「ご苦労・・・私が戻って来た事は内密にしてくれ」


「っ!?・・・失礼致しました!」


すぐに槍を収めた門番の肩をポンと叩きその足で裏庭へと向かう


そこは私も使っていた修練場・・・今は我が子がその場を使用しているはずだ


「・・・ハアハアハア・・・?・・・父上?」


「シオン・・・息災か?」


「はい!」


息子のシオンは私と気付くなり上がった息を整え満面の笑みで答えた


木剣を握る手からは血が滴る。私も何度豆が出来てそれが潰れそれでも振り続けた事か・・・懐かしいな


「もしかして御指南を頂けるのですか?」


「指南か・・・指南と言えば指南かもな・・・ついてこい」


「はい!」


「木剣を置いてな」


「?・・・はい!」


剣の指南を受けれると思っていたからか一瞬不思議そうな表情を浮かべた後、返事をして木剣を壁に立て掛け私の傍に駆け寄って来る


まだ幼いのに利発的な子だ・・・私の教育の賜物と言いたいが育児にはほとんど手を出してはいない・・・教えたのは剣の握り方くらいなものだ


「では行くぞ」


私はフードをかぶったままシオンの手を引き裏口から屋敷の外へ


屋敷の辺りは閑静な住宅街であり貴族達が住む屋敷が並ぶがしばらく歩くと商店や市井の者達が住む区域へと続いている。ほとんどこの付近には来た事がないのだろう・・・シオンは物珍しそうに辺りを見ては感嘆の声を上げていた


普通の子ならあれこれ質問するのだろうか・・・だがシオンら声は上げるが私には何も聞いてこない。気になるが見たままを受け入れる・・・そんなところかもしれない


更に歩くと少し開けた場所でシオンと同じくらいの子供達が走り回り遊んでいた


その様子を見てどんな表情を浮かべるか見てみるが物珍しい建物を見ていた表情とは打って変わって冷めた表情・・・まあ想像通りだ


「シオン・・・あの子達とお前は同じくらいだが・・・お前の目にはどう映る?」


「どう・・・ですか?修練もせず遊び呆けて・・・国にとって何の価値もない人達に見えます」


()()か・・・


「私にもそう見える・・・いや、見えていた」


「?・・・見えていた・・・ですか?」


「ああ・・・だがあの子達は遊ぶ事によって友情を育み体力をつけ豊かな感情を身に付けている」


「それのどこが・・・」


「必要不可欠なものだ、全てな・・・行って来なさい」


「え?」


「あの輪に入り遊んで来るのだ・・・そして感じろ・・・道は決して真っ直ぐではなく無限に広がっているということを」


「・・・は、はい・・・し、しかし何と言えば・・・」


「・・・そうだな・・・」


私も経験がない為に答えに窮してしまう


あの輪に入るに最適な言葉は・・・




2人で悩んだ挙句出した答えを持ってシオンはまるで戦場に初めて向かう新兵のようにカチカチになりながら進み出る


そして彼らの傍で立ち止まると声を振り絞り出した


「い、いーれーて──────」


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