557階 リガルデル王国からのお客様
ファミリシア王国王都ファミリシア王城内執務室
ファーロンは緊張した面持ちで国王エギド・レーゼン・ファミリシアの前に立っていた
「で?チーがやられ魔族は取り逃した・・・報告はそれだけか?」
「はい・・・幸いチーは怪我はあれど命に別状はなく現在療養中です」
「療養中?ダージスクにはヒーラーが一人もいないのか?」
「回復のギフトはかなり稀でして・・・」
「そんなのは分かっておる。余は『ヒーラーはいないのか』と聞いたのだが?」
「・・・いるにはいるのですがチーが拒否しているそうです」
「・・・ああ、無能嫌いだったなチーは。まあいい・・・それより魔族を相手にするのにアレを持たせてなかったのか?」
「持たせましたが使う間もなくやられたと聞いております」
「嘆かわしいな・・・三能の地位を剥奪したいくらいだ」
「申し訳ありません・・・」
「魔族が観光で来た訳でもないだろう・・・目的は何なのか・・・今分かっているのは友好的ではないということだけか」
「はい・・・取り逃した魔族の行方は継続して追っていますが現在まで見つかっておらず街を離れた可能性も・・・念の為メターニアも向かわせましたが捕らえるのは困難かも知れません」
「目的も不明、足取りも不明、相手の名すら不明か・・・逆に聞きたい何なら分かるのだ?」
「・・・魔族の情報と異なるかも知れませんがフェルカトのギルド長より連絡が入りました」
「フェルカト?ダージスクではなく?」
「はい。ギフト無しがギフト持ち相手に暴れておりしかも制圧してしまったようです。フェルカトを管理しているフェルノは当時不在だったようなのですがそれでも異例の事なのでギルド長が知らせて来たようです」
「その能無しの人数は?」
「2人です」
「・・・なるほどな・・・ダージスクは確か魔族ともう1人・・・王都に進入しようとしていた人数は4人・・・数は合うな」
「はい・・・ですので私が行こうかと思っております」
「そうか・・・行くのは勝手だが行かずともよいぞ」
「はい?陛下それは・・・」
「話は以上だ。他変わった事があれば報告せよ」
「・・・ハッ」
ファーロンは疑問を抱えながらも王に従い頭を下げ退室した
魔族が王都への進入を試みた
その理由は定かではないが逃げたということはあまりいい理由ではないのは明白
それなのになぜ・・・王から焦燥感が感じられないのか
違和感が不安となって押し寄せる
考え事をしながら歩いていたせいかいつの間にか城から出ていたファーロンは振り返り城を見上げた
「空は晴れているな・・・魔力も薄い・・・このまま平和な時が続けばいいが──────」
粗方話を聞いて何となく事情は分かった
まあ要するにコイツらはギフトというエサに食いつき言う事を聞かなきゃならなくなった哀れな冒険者・・・ただそれは国が予め食いつくよう仕向けた感はあるけどね
んで、エサに釣られた冒険者が何をするかって言うと王都の周辺の東西南北に位置する街に滞在し外敵から王都を守る、だ
外敵ってどこまで含むか何とも言えないが、まあ要するにファミリシア王国に仇なすもの・・・魔物然り俺達みたいなの然り
そんな事がいつから行われて来たのか・・・少なくともエドバンの爺さんの頃からやってたのは間違いない・・・彼の爺さんもギフトを持ってたって言ってたし
けどエドバンの爺さんもそのギフトを受け継いだ親も農夫をしていた・・・必ずしもギフトを貰ったからと言って冒険者になる訳じゃないのかそれとも・・・
「い、以上が俺達が知っている事の全てだ・・・後は何も・・・」
「ん?ああ、そうなんだな。俺達がフェルカトに居る事を国には?」
「言ってない・・・本当は俺一人でって思ったけど人相書き見た時に俺が反応しているのをロアが目ざとく見ていて共闘する事になったが上には何も・・・」
「じゃあこれから報告するか?『見つけたけど返り討ちにあっちゃいました』って」
「そ、そんな事はしねえ!・・・したら降格されちまう・・・」
降格・・・降格もあれば昇格もある・・・フェルノが降格すれば誰かがフェルノの地位になるって事だよな。って事は・・・
「ひぃ!わ、私達はフェルノに付いてここまで来たので裏切るような事は・・・」
「お、俺達もロア姉を慕ってて・・・」
俺の視線で察したのかフェルノが連れて来た冒険者とロアが連れて来た冒険者が必死になって告げ口はしないと約束する
信じていいものかどうか怪しいところだが・・・ま、いっか
「別に話したければ話して構わない・・・どうせ俺は困らないしな」
一度エモーンズに戻り作戦を立て直す・・・と言うかほぼ作戦なんてない状態から今度はきっちりと考えてから行動する・・・その時には俺達の事がバレていると想定しようと思っているから報告されたところで痛くも痒くもないってのが本音だ
けどどういう訳か彼らには違うように伝わったようで・・・何故か俺の事を見てガタガタと震えていた
「おっかねえな・・・報告して困るのは俺らって事か・・・」
「報告する前に殺られるのかしら?それとも報告した後にいたぶられて・・・」
違うし!
俺をなんだと思ってるんだ!
「とにかくコイツらの事なら心配要らねえよ。一蓮托生ってやつで俺が降格すればコイツらも・・・チクるとしたら今ギルドに残ってる連中だな。アイツらは従ってるように見せかけて虎視眈々と俺の地位を狙ってやがるからな」
「残ってる連中か・・・それなら大丈夫だ」
「あん?なんで・・・」
「お前が不在の時にきっちり教育したから」
「・・・その教育ってのの中身を聞いてもいいか?」
「聞くより簡単な方法があるけど?」
「・・・遠慮しとく・・・」
「それは残念」
と、まあこんな感じで身バレする事なく情報提供者を手に入れた
と言っても持ってる情報はかなり限られている・・・もっと情報を得るにはやはり王都に行くしかないか・・・
秘密裏に調べて企みを潰すつもりだったけどそうも言ってられない・・・戦争を起こさせないように上手くコントロール出来れば大丈夫な気もしないでもないけど・・・
大量の魔力・・・それこそ戦争でも起きなきゃアバドンが必要な量は確保出来ない。もしくは魔王が勇者に勝ち人間が恐怖のどん底に陥らなければ・・・
今の状況でその二つが起きる可能性はゼロに近い。戦争もファミリシア王国が起こさなければ多分起きないだろう・・・もういっその事ファミリシア王国を乗っ取るか?その方が手っ取り早いような気がしてきた
〘思考が物騒ね〙
悪いか?
〘いいえ・・・いい傾向よ──────〙
森から街に戻りベル達と連絡を取った
向こうは向こうで三能の一人に襲われたらしく返り討ちにしたはいいが更に動きづらくなってしまいどうしようか悩んでいたらしい
ちょうどいいので合流しエモーンズに戻る事に・・・戻った頃には日は暮れており屋敷は静寂に包まれていた
「あっ・・・お帰りなさいませ!」
「仮面外すの忘れてた・・・ただいま」
1人2人ならまだしも4人がいきなり屋敷の中に現れると迷惑かと思い屋敷の外にゲートを開いた
ずっとロウハーのままだった為にすっかり仮面を外すのを忘れ、戸惑う門番を見てようやく自分がロウハーの姿のままだった事に気付く
変身を解いて仮面を外し畏まる門番の横を通り過ぎると中庭を通り屋敷へと向かった
その際に仮設魔王城を建てた跡がそのままだった事に今更ながら気付き、後で花でも植えようと考えながらふと屋敷を見上げる
普段ならサラの部屋の明かりはついてるはず・・・なのに部屋は暗くなっていた
もう寝た?いやそれほど遅い時間でも無いはずだけど・・・
気になりながら屋敷の中へ
すると待ってましたと言わんばかりにサーテンとメイド達がズラリと並び迎えてくれた
「お帰りなさいませ旦那様」
「よく帰って来るって分かったな」
「偶然です。ちょうどお客様をお迎えしておりましたので・・・」
「お客様?この時間に?」
「随分お急ぎだったようなのでお通しして今は奥様が御対応されております」
「サラが?・・・それだけの人物って訳か。一体誰が・・・」
俺が居ない間のこの屋敷の主人はサラになる。その主人であるサラが対応・・・しかもこんな夜更けにとなるとかなりの大物って事になる
「はい・・・リガルデル王国の王女様です」
「へぇ・・・・・・なんだって?」
リガルデル王国の・・・王女?
面識あったっけ?・・・いやないはずだ・・・てかそもそも王女いたのかよ・・・
「何処で対応している?」
「急遽でしたのでサロンにて・・・」
「なんで急遽だからってサロンで?応接室は空いてなかったのか?」
「応接室は狭く適切ではないと判断しました」
「そんなに狭いか?」
「部屋自体は広いのですがお客様との距離が・・・」
客との距離?・・・あ、そういう事か
旧知の仲ならいざ知らず相手は俺も知らないリガルデル王国の王女・・・当然サラも知らないだろうし他の人も知らないだろう・・・何しに来たかも不明だし万が一何かあれば・・・
「さすがサーテン・・・同席は誰が?」
「キース様とレオン様にお願いしております」
万全だな・・・その2人が付いていれば安心だ
「すぐに行く。3人には・・・と、2人には何か食事を。モッツさんには俺も後で食べると伝えといてくれ」
「かしこまりました」
ベルは食事がいらないことを忘れてた。食べる事は出来るけど外で人間のフリをする時くらいしか食べない・・・てかサキは好き好んで食べるけどなんでだ?同じ魔族なのに・・・
そんなくだらない事を考えながら1階にあるサロンに向かう
この時間にリガルデル王国の王女の来訪・・・あまりいい予感はしないな
サロンの扉の前に着き悪い予感を頭を振って散らすと扉に手をかけ一気に開いた
こちらに背を向け座っている女性が王女か?正面にはサラが・・・
「あ・・・ロウ・・・ちょ」
サラの姿が見えた瞬間、周りが見えなくなりいつもの行動に出てしまう
少し膨らんできたお腹に顔を埋めちゃんとお腹の中に聞こえるように呟く
「パパでちゅよ~聞こえまちゅか~?」
「大丈夫?この人・・・」
「多分ダメ」
聞き慣れない声がした
我に返り顔を上げると呆れるサラともう1人・・・見知らぬ女性が顔を引き攣らせ俺を見る
「・・・ロウニール・ローグ・ハーベスです・・・初めまして」
「ガーハッハッハッ!おいレオン聞いたか!?『パパでちゅよ~』って!俺を笑い死にさせる気かロウニール!」
「・・・」
顔から火が出そうだ・・・いつもサラの部屋に入ったら決まり事のようにやってたからつい・・・
「お、お初目にかかる・・・リガルデル王国王女サシャ・マージナル・リーブルだ・・・」
超引いてる王女様・・・一体何しに来たのやら・・・ってそれよりもこのまま話が出来るのか?俺
「ず、随分と子煩悩なのだな・・・ははっ・・・」
気を使う王女
この出会いが何をもたらすかはさておき未だに収まらぬキースの笑い声が響くサロンから消えてしまいたいと思う今日この頃だった──────




