554階 三能チー
ファミリシア王国王都ファミリシア
その王都にある王城の地下に訪れたフェルノは先にテーブルに着いていた2人を見てため息を漏らす
「遅いじゃねえかフェルノ・・・まあ毎度のことだがな」
「貴方も移動系のギフト持ちを探したら?便利よ?戦闘では全く役に立たないけど」
「毎度毎度ヤーヤー言うな。そう簡単に移動系のギフト持ちが見つかるわけねえだろ?」
テーブルには四つ席があり空いている二つの席の内の一つに座るフェルノ。その目はからかってきた2人にではなく空いているもう一つの席に向けられていた
「・・・情報は?」
「報告を受けた以上の情報はねえな」
「私もよ」
「・・・インドゥは死んだのか?」
「だから知らねえって言ってんだろ!」
「チッ・・・早く着いたならボサっとしてねえでそれくらい調べやがれ」
「遅れて来て偉そうに・・・便所に押し込んで流すぞコラ」
「なに?てめえが流したところで詰まるだけだろ?」
「・・・押し込まれはするのね・・・とにかく喧嘩はやめて。もう少ししたら・・・っ!」
一触即発の2人をなだめている最中に部屋のドアが開け放たれ新たな来訪者が部屋に入って来た
三能の一人ファーロン・バレク・アスターニアだ
3人はその姿を見た瞬間立ち上がるとファーロンに向き直り頭を下げる。その姿を横目にファーロンは部屋の中に入ると空いている席には座らずに部屋の奥へと進むと壁にもたれ掛かり3人を見下ろした
「以前ここでは騒ぐなと言ったはずだが?」
「え、ええ・・・確か脆いから・・・でしたっけ?すいません騒ぐつもりは・・・」
フェルノと喧嘩しそうになっていた男、プラッシュが少し顔を上げ答えるとファーロンは呆れたようにため息をつく
「・・・まあいい。集まってもらったのは他でもない・・・ダージスクの件だ」
「インドゥの奴は殺られちまったんで?」
「死んではないが回復しても当分は使い物にならないだろうな」
「しぶとい奴だ・・・それで誰が行きやすか?」
「?インドゥと貴様らはほぼ同等の力・・・インドゥがやられたのに貴様らが行ってなんになる?」
「え?じゃあ集められたのは・・・」
「数日前に魔族が王都に進入しようとしていた。その時の数が4・・・今回のインドゥの件が2人組のようなので残りの2人がどこかにいると思われる。ダージスクにいればいいが他の街に潜伏している可能性もある」
「そいつらを探せ、と?そいつらも魔族なんですかい?」
「『目』の話では4人の内魔族は1人・・・その魔族もダージスクの2人組の1人である可能性が高いから残り2人は人間だろう」
「・・・何が目的なんです?王都に乗り込もうとしたりインドゥをやったり・・・」
「さあな。王都を訪れようとした目的とインドゥをやった理由が必ずしも同じとは限らないから今はなんとも言えん。王都には遊びで来て追い返され近くの街でくつろいでたらインドゥに喧嘩を売られて返り討ちにした・・・そんなくだらない事かも知れん」
「魔族が観光?なかなか面白い冗談を・・・っ!」
「何事も決めつけは良くない。そう言いたかっただけだが・・・冗談に聞こえたか?」
壁に寄りかかるファーロンから発せられる圧にプラッシュは言葉を詰まらせる
街ではまるで王のように君臨する3人だがファーロンは格が違う・・・改めて痛感させられる程の差に3人は口をつぐみその圧が消えるのを必死に耐える
「・・・貴様らは手を出さず探す事に集中しろ。4人の人相書きは後で渡す・・・見つけたら連絡せよ。話は以上だ」
そう言って立ち去ろうとする
「あ、あの・・・ダージスクには・・・」
部屋を出ようとドアを開けた背中に向かいプラッシュが声をかけるとファーロンは立ち止まり振り向き答えた
「ダージスクにはチーが向かった。間もなくその2人の処理は終わるだろう──────」
「ふー・・・やっぱ慣れねえな・・・猛獣の檻の中かって」
ファーロンが去りどっと疲れたのか椅子にもたれ掛かるプラッシュ
他の2人も緊張が解けたのか同じように座り嵐が過ぎ去ったのを実感する
「手を出すな、か・・・これじゃあ宝の持ち腐れだな」
「・・・まあな。インドゥがやられて慎重になってんだろ・・・まさか三能が動くとは・・・」
「プラッシュにフェルノ・・・アンタ達は探し出したら素直に報告する気かい?」
「お前はしないのか?ロア」
ロアと呼ばれた紅一点の女性は質問を質問で返され少しムッとするが文句を言っては面倒になると喉まで出かかった言葉を飲み込んだ
「・・・出世するヤツは従順なヤツ?それとも期待以上の成果を上げるヤツ?」
「そりゃあ成果を上げるヤツかもしれねえが言う事聞かねえ時点で切られてもおかしくねえんじゃねえか?」
「失敗したらね・・・けど成功すれば何とでもなる。やむを得ず戦闘になり捕まえたとでも言えばいいし・・・だろ?」
「確かにな・・・人相書きに似ているからと言って近付き戦闘になった・・・魔族は1人って話だからダージスクにいる2人と別行動のヤツは魔族じゃない可能性が高い・・・インドゥが魔族以外に負けるとは思えねえしな」
「そういうこと。厄介な魔族はチー様に任せて私達は不明の2人を捕まえる・・・まあどこに潜んでいるか分からないから運頼りだけど結果を残すチャンス・・・」
「だな・・・これで横並びだった4人の内1人が頭一個抜け出す・・・インドゥは早々に脱落とは運がなかったけどな」
「結局ダージスクに4人居たってオチじゃねえのか?まあどっちにしろ運任せ・・・」
「あん?どうしたフェルノ」
「いや・・・なんか声が・・・」
「声?何も聞こえなかったぞ?」
「・・・空耳か・・・そういやここで暴れるなって理由も分からねえよな・・・脆いってそんなに壁脆そうか?地下だから生き埋めになる的な意味で言ってんのか?」
立ち上がり部屋の壁に近付きコンコンと音を鳴らす
とても薄い壁には思えず首を捻るとまた何かが聞こえた
「おいやっぱり・・・」
2人にまた聞こえた事を伝えようとした時、タイミングよく部屋のドアがノックされる
プラッシュが返事をするとドアが開き書類を抱えた兵士が入って来た
「ご苦労様です!以前魔族と共にいた者達の人相書きを持ってまいりました」
そう言って机の上に4枚の紙を置いた
すかさず3人はテーブルに集まりその紙に描かれた人相書きを見つめる
「へぇ・・・なかなかイケメンじゃん・・・ちょっと怖いけど」
「絵のタッチのせいじゃねえか?次は?」
そう言って1枚目をめくると2枚目の人物が
「・・・ジジイ?」
「さっきのイケメンのお爺さん・・・って訳じゃないわよね?」
「特徴のないその辺にいるジジイだな・・・髭が長いくらいか?特徴的なのは」
「そうね・・・んで次は、と」
「っ!」
2枚目がめくられた瞬間にフェルノが目を細める。その変化に目ざとく気付いたロアが人相書きではなくフェルノを見つめる
「あれれ?もしかして心当たり・・・ある?」
「・・・ああ・・・日に四度はすれ違う顔だ」
「・・・」
「確かにそうだな!平凡な顔してやがる・・・んで最後は?」
そう言ってプラッシュがめくるとこれまで見た中で一番若い顔が描かれていた
「統一性のない連中だな・・・何の目的で王都に?しかもインドゥをやりやがったんだ?」
「さあな・・・捕まえて聞けば分かるんじゃないか?・・・生きてれば、な──────」
ファミリシア王国ダージスクの街
「運が良いのか悪いのか・・・たまたま声をかけた相手がこの街の主だったとは・・・」
「偉そうにしておったからのう・・・色々と知っているかと思い尋ねたらこのザマよ・・・ロウニールには申し訳ないことをした」
路地裏から街を行き交う人々を見つめながらベルフェゴールとハクシは息を潜め身を隠していた
見つめている先の路地には様々な人が通り、その中で息遣い荒くキョロキョロと辺りを見回しながら早足で通り過ぎて行く者達がチラホラと見受けられた
「まだ探しておるのう・・・冒険者風の者から兵士まで・・・もっとすべき事があるじゃろうに」
「魔力を増やす事ですか?」
「違う違う・・・別に何でもいいわい・・・恋人と語り合ったり友と笑い合ったり・・・他人から見たら無駄な時間かも知れんが後になって貴重な時間と気付く事をじゃよ」
「なるほど・・・私達を探す事より話したり笑ったりする事が大事・・・理解に苦しみますがそうなのですね」
「・・・逆に魔族は何が楽しみで生きておるのじゃ?」
「?・・・それはそれぞれだと思いますが?人間も同じでは?」
「まあのう・・・じゃが広い意味でじゃ。個人的には色々楽しみはあろう・・・そうではなく魔族としての楽しみというか生きる意味とは何なのかを知りたいのじゃ」
「魔族は人間に比べて圧倒的に数が少ないのでそのような広い意味での生きる意味となるとやはり様々としか・・・逆に人間は何なのか興味ありますね。個人を調べてもそのようなものは知る事が出来ないので」
「・・・なんじゃろうな。ワシも分から・・・」
会話に夢中になっていた・・・とはいえ接近してくればすぐに反応する自信はあった
それなのにこちらを見る目に気付いたのは路地裏の道を半分ほど進んだ後だった
「見ぃーつけた。良かったまだ街に居たんだね」
少女のようなあどけない顔に服装・・・だが背格好は大人のそれで雰囲気もどこか大人びている
顔と服装とのギャップに混乱するハクシを横目にベルフェゴールは警戒しながらも自分達を見つけた人間に対して敬意を表し頭を下げた
「私達をお探しのようで・・・御用をお聞きしても?」
「アンタが魔族・・・で、そっちのジイサンは何?」
「・・・こちらの質問にはお答え頂けないのですか?」
「質問の権利を持ってるのは勝者だけだよ」
「なら私達に権利がありそうですね」
「チーを前にしてそれ言う?・・・あーそう言えば名乗ってなかったか・・・三能の一人チー・・・素直に話してくれたら苦しまないで殺してあげるよ」
「それはお優しい事で・・・では私も・・・あるお方の配下で名は故あって名乗れません。そして貴女に質問する者です」
「アハハ・・・今の名乗りのつもり?面白いねアンタ・・・久しぶりに笑えた気がする・・・もしかして期待していいのかな?もう一つの久しぶり・・・一分くらいは保ってよね──────」




