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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
556/856

552階 深まる謎

教会でセシーヌと話しているとエドバンが思いもよらぬ宣言をした


リスクを承知で貰う?話聞いてんのかコイツは・・・


「失敗すれば死ぬかもしれないんだぞ?それに成功したとしてもいずれ魔人になる・・・魔人になれば我を失い自分の意思と関係なく周りを傷付けるかも知れないんだぞ?その中には親兄弟や恋人だって含まれるかも知れない・・・それでも・・・」


「ああ」


エドバンは迷うことなく答えた


そして俺が何故そこまでしてと質問する前に『クソッタレな人生』について語ってくれた


ファミリシア王国・・・表向きは農王国と呼ばれ農業が盛んな平和でほのぼのとした王国・・・けど実際は違った


肥沃な大地に恵まれ気候も作物が育つのに適しており必然的に農業が盛んになった。自国だけでは消費が追い付かず過剰に取れた作物も買い叩かれることなく他国に売ることにより金も手に入る・・・理想的な国・・・外から見たらそう思えた


だが、裕福になるのは土地持ちの一部の者だけで他の人達は安い賃金で過酷な労働を強いられているのだとか


エドバンの両親もそういった土地持ちに雇われ過酷な労働を強いられた者達の一人・・・働けど働けど楽にならない環境に業を煮やしたエドバンは一念発起し村を出た


エドバンにはギフトがあったから


俺達が思うよりもずっとギフトは国から優遇されていた。いや、逆か・・・ギフトを持っていない者が冷遇されていた、か


ノーギフトと言われるならまだしも『無能』『能無し』と呼ばれる事もあるらしく、いくら強かったり賢かったりしようともギフトを持っていなければある程度の立場にしかなれないのだとか・・・以前ファミリシア王国で俺に絡んで来た連中も冒険者にならず仕方なく盗賊まがいの事をしていたかもしれないな


「俺様の親父は一応ギフト持ちだ・・・もちろん俺様と同じ爪が伸びるギフト・・・そりゃあ剣ほど頑丈で鋭いけどそれだけだ・・・他のギフトに比べるといまいちパッとしねえ。だから親父やじいちゃんは冒険者にならず農夫の道を選んだ・・・けど土地持ちにこき使われ『モグラ』と呼ばれて土を耕させられる毎日・・・金も全然貰えねえし土まみれにはなるし・・・そんな姿を見て育った俺様はぜってえ同じようにはならねえぞと村を出て冒険者になったんだが・・・まあその後は知っての通りだ」


たとえギフトを持っていたとしてもギフトの中にも格差がある・・・フェルノやザードに比べてエドバンのギフトは価値が低いと判断され小間使い扱いされていたって訳か


「それでもギフト持ちの方がだいぶマシだ・・・無能に上がり目なんてねえからな。もし無能だったとしたらたとえ命が懸かってようと俺様は貰いに行く・・・それは俺様だけじゃねえ・・・国民全員の考え方だ」


なるほど・・・おそらくだが国がそう仕向けたのだろう


ギフトを持っていれば優遇され持ってなければ冷遇される・・・となればリスクがあったとしてもギフトを欲しがる人は出てくるはずだ。エドバンのように


でもそうやってギフトを持つ者を増やして何がしたいんだ?確かに強くはなる可能性もあるけどリスクを考えるとそこまでして増やす理由が分からない


エドバンの祖父がギフト持ちって事はかなり前からギフトは存在していたのだろう。つまり国が主導していたのならかなり前からの政策・・・一体何を企んでいる?


「分かったろ?地べたを這いつくばって上を見上げることすら許されずに生きていくのと僅かでも可能性があるのとじゃ雲泥の差だ。誰しも賭けに出る・・・賭けるものが命だったとしてもな」


俺ならどうするだろう・・・もし今を知りながらダンコを飲み込む前に戻ったとして飲み込む事を止める事が出来るだろうか?


飲み込まなかったら俺は・・・


「それは間違ってます」


セシーヌ?


エドバンを真っ直ぐに見つめ言い放つセシーヌ。それを聞いてエドバンは片眉を上げる


「あん?人の話聞いてたか?それとも何か?・・・地面に這いつくばって生きろってか?」


「いえ・・・私が言いたいのはなぜご自分の可能性を否定されるのかと・・・そう言いたいのです」


「自分の可能性?だからその可能性すらないんだって言ってんだよ・・・ギフトがあって初めて・・・」


「そうでしょうか?私にはただ自らの可能性を否定しているようにしか思えません」


「だぁから・・・」


「貴方自身で試されたのですか?周りから聞いてただ諦めてしまっただけでは?」


「いや俺様はギフト持ってっし・・・なかったら命を懸けてでも貰うだろうな、と・・・」


「その考えに至るのはただの逃げです。たとえギフトを持っていたとしても支配されています・・・心も・・・体も」


「・・・嬢ちゃん・・・あんまし焚き付けんなよ?」


「焚き付けても燃え上がらないのでは?」


「・・・ハッ!なるほど・・・見ただけで体の中の核の状態が分かるんだ・・・何かしらのギフトを持っている・・・しかも強力な。だから分かんねえんだろ?底辺の気持ちなんか・・・」


「底辺と思っておられるのはご自分では?」


「嬢ちゃん・・・焚き付けんなって言ったよな?」


殺気立つエドバン・・・何かあったら俺が止めるからいいとしてもなぜセシーヌはそこまで・・・あ、そうか・・・セシーヌだって順風満帆な人生を歩んで来たわけじゃない。今でこそマナは多くなったけど以前は少なくて悩んでいたしそれを改善しようと俺なんかと結婚しようとしてたくらいだし・・・自分はともかく子供はマナが多くなるようにって・・・だから・・・


「・・・貴方のお隣の方は足掻き苦しみ運命に抗いましたよ?」


貴方の隣って・・・俺!?


「ロウハーが?コイツも強力なギフトを持ってるじゃねえか」


「ギフトの有無ではなく運命に抗ったのです。誰しもが諦めていた状況の中、一人抗い打ち勝った・・・」


そんな事したっけ?運命・・・運命?


「へぇ・・・それもギフトがあったからじゃねえのか?」


「いえ。ロウニール様は・・・勇者様しか勝てないと言われていた魔王に挑みました。ほんの少しの希望にすがりダメだと分かって絶望していた私達・・・その中で足掻き苦しみ不可能と思われていたことを可能にしたのです」


「・・・」


「『魔王は勇者様しか倒せない』のと『ギフトがなければダメ』と思う気持ち・・・どちらが上かは分かりませんが私には貴方がロウニール様ほど努力したようには見えません」


「くっ・・・知ったような口利きやがって・・・」


「それは貴方ですエドバンさん!軽々しく命を懸けるなど言わないで下さい!魔人になるかもしれないと聞いてもやるなどと言わないで下さい!私達はそれに抗う為に戦っているのです!常日頃命を脅かす怪我や病気と・・・戦ってるのです!それを・・・」


ここは教会・・・熱心な信者も来れば怪我や病気になって訪れる者もいる。セシーヌはそんな人達を相手に()()()()()・・・失敗すれば自分ではなく相手が死ぬ・・・そんな中で戦っているんだ


エドバンも命を軽んじている訳では無いだろう。ただ何をしても無駄だと諦めているだけ・・・けどセシーヌは許せなかった・・・誰よりも命を重んじているからこそ許せなかったんだ


「なら・・・ならどうしろってんだ!国に逆らえって言うのか?この爪で何が出来る?王の喉元に爪を突き立てやり方を変えろとでも言えってか?んなもん喉元に届く前に消されるに決まってる・・・それこそ犬死じゃねえか!何も知らねえクセに簡単にホゲッ!」


「夜中にギャーギャーうるさいな・・・ここは音が響くんだよ!」


興奮したエドバンの頭に踵が突き刺さる


振り返ると不機嫌そうな顔したシークスがかかと落としを食らわせた後、回転し地面に着地していた


「目の前の弱ぇ女に吠えるくらいなら国にも同じように吠えてみろよ。出来ないなら吠えるな・・・雑魚が」


「・・・シークスさん・・・気絶されてて聞こえてないと思いますが・・・」


突然背後から脳天にかかと落としを食らったエドバンは白目を向いて気絶していた。それを冷静に突っ込まれるとシークスは顔を真っ赤にして眉を顰める


「うるさいな!分かってるよ!・・・ロウニール!こんなやつを教会に入れるな!鬱陶しい!」


「はいはい・・・ってお前風呂に行ったんじゃ?」


「・・・いいから黙って連れて帰れ!」


怒鳴られた


セシーヌは微笑み隣に立つエミリはクスクスと笑っているところを見るともしかしてシークスがここに残っていた事を知っていた?・・・もしかして・・・いやそんな事はないか


「ったく気絶させておいて連れて帰れって・・・」


置いて帰るわけにもいかず背負って帰る気もない・・・なのでゲートを開き気絶しているエドバンをその中に放り投げた


「おい」


「俺の屋敷だ。誰か手当してくれるだろう・・・多分」


ここまで歩いて来たのもあまり外に出歩けないサラの為・・・帰りも歩いて帰る予定だったからエドバンだけ先に帰らせた


どうやら妊娠中も適度な運動はした方がいいらしい・・・けど外を出歩いて何かあってはまずいしかと言って屋敷の中で運動と言ってもたかが知れてる。だからこうして定期健診の時くらい俺が一緒に行って外を歩かないと・・・サラの気晴らしにもなるし俺も楽しいし運動にもなるし・・・


「じゃあまた来るよ」


「はい。お気を付けて」


笑顔のセシーヌ都エミリ・・・そしてそっぽを向いたシークスに見送られて教会を出た



「・・・なんだか複雑ね」


夜の街を2人で歩いているとサラがポツリと言った


「複雑?」


「セシーヌの言い分も分かるけどエドバンの言い分も分かる・・・命は大事にしないとダメだけど国に逆らうのはそう簡単な事じゃない」


「まあね・・・ギフト持ちのエドバンが言うくらいだ・・・持ってない人達は言うだろうね・・・『命を賭してもギフトは欲しい』と」


賭けるのは命・・・それでも欲しがるように仕向けているのは国だ


ギフトを優遇し持たざる者を冷遇したのは欲しがるよう仕向けた結果・・・でも分からない・・・国はどうしてギフト持ちを優遇するんだ?強くなるかどうかは元の魔物次第・・・それなら下級の魔物は使わず上級の魔物の核だけを使えば・・・もしかして能力を与えるのが目的じゃないのか?ならどんな目的が・・・


「ロウ?」


「あ、ああ、すまない考え事をしていた。ファミリシア王国はなんでギフトを与えているか・・・その理由が何なのかを」


もしファミリシア王国がアドバンをどうにかしようとしているのなら必要なのは魔力だ。ギフトを与えれば魔力が増えるかと言われれば否・・・となると・・・うーん・・・


ギフトを与えているのが冒険者ってのも気になる


一体何をしようとしているんだ?ファミリシア王国の王様は──────


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