548階 雑用係
くっそ・・・なんで俺がゴミ拾いなんか・・・
「おっ兄ちゃん偉いねえ。ゴミ拾いしてくれてんのかい?」
「・・・まあ」
「あんた達のような人がいると私も嬉しいよ。ありがとね」
「・・・」
通りすがりの婆さんに褒められた・・・けど嬉しくもなんともねえ!俺はゴミを拾う為に冒険者になった訳じゃねえしそれにギフト持ちだ・・・底辺の仕事をする必要がねえ約束された人生を送るはずだったのに・・・
コン
「ストラーイク!ゴミ集めてんだろ?感謝しろよな」
どっかのクソガキが俺に向けてゴミを投げてきやがった
そのゴミは俺の頭に当たり見事背中に背負っていたゴミ袋の中へ
クソガキを睨んだ後でゴミ袋の中を確認すると・・・石・・・ガキが投げたのはゴミでもなんでもねえ石だった
「こんの・・・あ、待てこのガキ!」
石とバレた事に気付いたガキはツレと思われるガキと共に走って逃げて行く
一瞬追いかけようかと思ったが・・・諦めた。追い付いたところでどうするって話だ・・・懲らしめている最中に親でも出て来たらめんどくせえ
とにかくゴミ拾いだ
まだ全然拾えてねえ・・・このまま帰ったら・・・・・・・・・うん?何が問題なんだ?
別にゴミが落ちてようが落ちてなかろうがゴミがなかったと言えば済む問題じゃねえか?
そうだよ・・・無いものは無い・・・アイツらだって街を見て回ってるはずだ・・・つまりゴミが落ちてないのを知ってるはず
何を気にしてたんだか俺らしくもねえ
堂々と言えばいいだけだ・・・俺が見て回った所にゃゴミはなかった、と
気が楽になった俺は適当にぶらついて日没を待った
どうせ中途半端に拾って来てもフェルノの奴に難癖つけられるに決まってる・・・アイツらも拾えてないだろうし今日でこの街での活動は終わりを迎えるだろう
ここに来る前はでかい事言って出て来たけど・・・結局出戻りか・・・ハア・・・あんな事言うんじゃなかった・・・
「何ため息ついてんだ?」
「あん?・・・ああ、いつの間にか着いてたか・・・」
コイツの名前はケン
ギフト持ちで短剣を自由自在に操れるっていうレアギフトの持ち主だ
武器を操れるなんて聞いた事ねえ・・・確か十二傑のエメンケは『神の手』とか言われてて見えない手で殴ったり掴んだり出来るとか・・・そのギフトに匹敵すんじゃねえのか?
「てかなんだそのゴミの量は?やる気あんのか?」
「無かったんだよ!お前だって俺様と大差ねえじゃねえか!」
「なんだと?・・・お前をゴミとしてこの袋の中に入れてやろうか?」
「あんだと!?・・・てかもう日没だぞ?一番意気込んでた奴はまだ帰って来てねえのか?」
「まだ街を駆けずり回ってるかもな・・・アイツ諦め悪いし・・・」
『アイツ』か・・・どうもこの2人の関係が分からない
圧倒的にロウハーの方が強いはず・・・コイツもあのギフトで動けなくなってたからそこは間違いねえ
けど対等に話してるし・・・友達にも見えないから尚更関係が不明だ
「・・・なんだ?」
「いや・・・お前らってどんな関係かと思ってな」
「関係?俺らの?・・・・・・・・・」
おいおいそんな考え込むような事か?
もしかしてそれだけ複雑な関係とか?何となくだが立場はロウハーの方が上に見えるが・・・
「改めて聞かれると答えに困るな・・・同僚って訳でもないし・・・立場的にみれば・・・いやでも・・・」
立場的・・・ね
やはり何かしらの立場にある奴か・・・その立場のある奴が情報を集めてる・・・きな臭くて仕方ねえな
どんなド田舎に住んでたらギフトの事を知らねえで過ごせるって話だよ。確かにギフトは国に管理されているから好き勝手使えるもんじゃねえ・・・だが逆を言えばギフト有る無しはどんなド田舎でも調査されているはずだ。それなのに知らねえってのはどうも怪しい・・・考えられるとしたら他国の間者か・・・しかもそれなりの地位のある奴・・・あーくそヤバいな・・・隙を見て逃げねえと巻き込まれちまう・・・けど逃げられるか?言葉だけで相手を意のままにするような奴だ・・・逃げたところで・・・
「お、やっと来たか・・・ゲッ!」
来たのか・・・このまま来なきゃ良かったのに・・・まあでも来るだろうな。もし奴がフェルノより弱けりゃ逃げるって選択枠もあったかもしれねえが俺の見立てならおそらく・・・っ!?
「おっ・・・こっ・・・」
ケンの奴が驚いた顔をしているから何事かと思い見てみると・・・大きなゴミ袋を四つ抱えたロウハーがこちらに向かって歩いて来ていた
ありえねえ・・・この街のどこにそんなゴミが・・・
「待たせた」
「お前どこでこんな・・・」
「どこでもいいだろ?ほれ」
そう言ってロウハーは俺とケンにパンパンにゴミが詰められた袋を投げて寄越した
これで1人二袋ずつ・・・量的には二袋パンパンのロウハーが1番多い事になるが・・・この為に四袋も担いで来たのか?一袋でも結構重いぞこれ
「さあ日没だ・・・依頼達成の報告に行こうか」
・・・コイツ・・・てか本当にどこから・・・っ!いやこれまずくないか?フェルノは・・・
「お、おいちょっ・・・」
制止しようとしたが間に合わずゴミを担いだ2人はギルドへ入って行く
慌てて俺も中に入ると既に2人は受付カウンターにゴミを乗せていた
「あと二袋・・・これが達成結果です」
遅かったか・・・
ゴミをカウンターに乗せられて困惑する受付嬢は毎度の席に座るフェルノをチラリと見たあとで恐る恐る1ゴールドを差し出した
「あ・・・これが達成報酬・・・です」
「量によって報酬が増えると聞いていたのですが・・・」
俺が止める間もなく言っちまいやがった!
受付嬢はその問いに当然依頼主であるフェルノを見て指示を仰ごうとする。そして・・・
「・・・確かに言った・・・だが俺はこう言ったはずだぞ?『街の清掃』と。そのゴミの量・・・本当に街の清掃の結果か?」
当然そう来るよな・・・だから止めようとしたのによぉ
フェルノは街の清掃と言ったのにあのゴミの量・・・奴だって街がどんな状態かは知ってるはずだ。ゴミはそんなに落ちてない・・・なのにこんなゴミの量はありえない
少ないゴミの量で難癖つけられた方がマシだった・・・これじゃあ不正しましたって言ってるようなもんだ・・・フェルノはそれを見逃すはずは・・・ない
くそっ・・・フェルノは答えによっては俺達を・・・
「違います」
ほぁ!?・・・今なんて言った?・・・『違います』?
「・・・それで報酬の増額を求めるか・・・図々しい奴だな・・・それとも俺を・・・舐めてるのか?」
そ、そうなるよな
いや『そうです』と言っても嘘をつけと言われておしまいだった。正解は少ないゴミを持って行って『これしか集められませんでした』と正直に言って謝る・・・それしかなかったんだ・・・それを・・・
「そうですね・・・確かにフェルノさんは『街の清掃』と言いました」
や、やめろ・・・これ以上フェルノに逆らうな
間に入り何とか取り繕おうと考えたが何も思い浮かばない・・・どうすりゃ・・・
「ほう?覚えててなぜ更に金を受け取ろうと?」
「・・・フェルノさんはこの街に住んでおられてご存知のはずです・・・街にゴミが少ない事を。なのに街の清掃を依頼されゴミの量で増額すると仰った・・・なので私は考えました・・・フェルノさんの期待に添えるにはどうすればいいか、と」
「・・・続けろ」
「ゴミが少ないという事をご存知のフェルノさんが『ゴミの量』によって報酬を倍額にすると仰った・・・つまりそれは少ないゴミをどうにか調達して来い・・・そういう意味と受け取ったのです。街中にはゴミはほとんど落ちていない・・・それでもゴミを確保しなくてはならない・・・そこで私は考えました。落ちてなければゴミがある場所に行って貰えばいい、と」
「なに?」
「生活していたらゴミは必ず出ます。だから貰って来ました・・・各家庭を訪ねてゴミはありませんか?と言って・・・」
コイツ・・・色んな家を訪ねてゴミを貰って来たのかよ!?
「・・・それで量を稼いだとして街の清掃になるとでも?」
「いえ・・・フェルノさんが望んだ『街の清掃』と追加で依頼された『ゴミの量』・・・両方を達成する為の単なる苦肉の策です」
「なるほど弁は立つようだな。気に入った・・・ほら追加報酬だ」
そう言うとフェルノは追加報酬である1ゴールドを指で弾きロウハーに渡した
一日働いて2ゴールド・・・ガキの使いでももう少し稼げるってもんだ。だけど今回はそれ以上に価値がある・・・フェルノから『気に入った』という言葉を出させた事により今後他の奴らは俺達に手を出せなくなった・・・手を出せばフェルノが黙ってないだろうからな
まあぶっちゃけ飼い主が他の奴らからフェルノに代わったってだけなんだが・・・奴らの悔しそうな顔を見れただけでもヨシとするか
「・・・ありがとうございます」
「ふっ・・・明日から毎日ギルドに来い。やる気次第で依頼を分けてやるよ」
よし!これで首の皮一枚繋がった・・・このまま雑用ばっか押し付けられて稼げなかったら文無しになって野宿する羽目になるとこだったぜ
なんだかんだロウハーについて来て良かった・・・まあ無理矢理だったが・・・うぉっ!?
何気なくロウハーを見るとフェルノに返事をする代わりに頭を下げているところだった
その表情はフェルノには見えていない・・・今にも目の前のフェルノを食い殺さんとしようと企んでいる野獣のような表情は
コイツはギフトを隠しているだけだった・・・しかもかなり強力なギフトを
コイツは俺も違って我慢しているだけだ
いや、俺も我慢はしている・・・仕事を貰う為に
だがコイツの我慢とは違う・・・コイツの我慢は・・・フェルノを殺さないようにするっていう我慢だ
どっちにも勝てない俺がどっちが強いかなんて判断出来ないがどっちに逆らっちゃならないかくらいは分かる
ロウハー・・・コイツには逆らっちゃならねえ・・・何があっても
「では明日より来させて頂きます・・・フェルノさん」
「ああ・・・遅刻すんなよ?」
「・・・はい」
もし俺がフェルノと仲が良かったら忠告していただろう
『この男には逆らっちゃダメだ』と
けど生憎フェルノは俺がザード達にやられているのを座りながらニヤニヤして見ていただけだった・・・だから助ける義理はねえ
いずれこの野獣は解き放たれる・・・そんな予感をヒシヒシと感じながら俺はロウハー達とギルドを後にした──────




