547階 フェルノ
冒険者ギルドへリベンジ
と言っても特に何かをするつもりはない
昨日はいきなり喧嘩を売られケンがすっ転んで面を食らって帰ってしまったが今日は違う・・・今日は頼もしい新たな仲間エドバンがいる!
「はぁ~くそ・・・なんでこんな事に・・・」
「まだ言ってんのか・・・女々しいぞ?」
「うるせぇ!くそ・・・いいか?くどいようだが絶対に喧嘩は買うなよ?」
「安いものには目がないんだが・・・」
「たとえ大安売りしててもだ!生きてギルドから出たかったら大人しくしてろ!」
「おぉ・・・さすが『ツメノビール』のリーダー・・・」
「リーダーはお前だろ!」
渋々(強制)で仲間になったエドバンだが夜逃げしようとすれば出来たのに逃げなかったのは諦めたかそれとも少しは友情が芽生えたか・・・散々逃げたらどうなるか分かってるな?って脅したから逃げなかった線が濃厚だけど・・・
まあ仲間になったからにはちゃんと面倒を見るつもりだ
望むならエモーンズに連れて帰ってもいい・・・エモーンズならダンジョンもあるし冒険者として生活するのに何の苦もない。天涯孤独と言ってたからファミリシア王国に拘りもなさそうだし・・・
「・・・何見てやがる」
この性格を直さないと色々問題が起きそうだな・・・どっかのタンカーに性格が似てる気がする
宿を出てしばらく歩き冒険者ギルドに辿り着く
緊張した面持ちのエドバンがこちらを振り返り何故か頷くから頷き返すと彼は扉をゆっくりと押し開けた
「・・・んん?おいおい・・・マジかよ」
開けた瞬間ギルド内にいた全員が振り返りこちらを見た
その中の一人・・・昨日の先輩冒険者は新しい玩具でも買って貰った少年のごとく目を輝かせ近付いて来る
「昨日の坊や達じゃないか・・・それにエドバンまで・・・どういう組み合わせだ?」
「・・・パーティーを組んだ」
「パーティー?・・・お前と・・・コイツらで?」
コクンとエドバンが頷くと一瞬目をまん丸にして固まった後、頬を膨らませ限界まで膨らむと耐え切れず吹き出し腹を抱え笑い出す
それにつられてギルド内は笑いの渦に包まれた
「エドバンよぉ・・・俺らが組んでくれないからってそんな・・・・・・・・・まさか珍しいギフトを持ってる・・・とかじゃないよな?」
さっきまで大笑いしていたのに最後は鋭い視線をエドバンに向けた。本当ギフトギフトってコイツらはそれしか脳がないのか?
「ち、違ぇよ・・・コイツらはノーギフトだ」
「ノーギフト?無能って言えよ・・・てか無能?・・・本気で言ってんのか?」
「あ、ああ・・・雑用でもさせようかと・・・」
ギフト・・・じゃないけど力は隠す事にした
バレても問題なさそうだけど有用な力と判断されて仕事させられても困るし・・・目的はあくまでも情報収集・・・冒険者として活躍するのが目的じゃないからね
「雑用が雑用させようってか?くっ・・・笑い死にさせる気かよエドバン!」
雑用?
「コ、コイツらはギフトは持ってねえけどそれなりに使え・・・」
「おい!ふざけたこと抜かしてんじゃねえ・・・無能は何しても無能なんだよ・・・まっ有能な奴の中にもお前みたいな無能はいるが、な」
「お、俺様だって・・・」
「まーだ『俺様』とか言ってんのか?どこぞの村じゃ『俺様』だったかも知らないがここじゃお前はただのギフト持ち・・・しかも最低ランクの、な」
「っ!・・・」
言い返そうとしたけど言葉を飲み込むエドバン・・・もしかしたらエドバンもコイツにやられたとか?喧嘩を売られてギフトを出したはいいもののコテンパにされた・・・そんな感じかな?
「エドバンさんは強いですよ」
何となく仲間が貶された気がして思わず口出ししてしまった。すると今度は俺を標的に定めたのかギロリと睨みにじり寄る
「ほう・・・どう強いんだ?」
「・・・爪が・・・伸びます」
「・・・」「・・・」「・・・」
「・・・お前・・・」
俺が答えると辺りはシーンとし、頭を抱えたエドバンの声だけが響き渡る
するとギルドはまたもや笑いの渦に・・・てかどう強いかって聞かれてどう答えろって言うんだか
「な、なんだお前・・・笑いのセンスがあるじゃねえか・・・も、もしかしてそれがお前のギフトか?ぷっ・・・いいぜ俺が3人まとめて飼ってやるよ・・・飼育しがいがありそうだしな」
飼ってやる・・・まるでギフトなしは人間以下のような言い方だな
笑われちゃったし扱いも人間以下だし・・・そろそろキレても誰も文句は言わ・・・
「勝手に決めるなザード」
奥の方から声がした
ザードと呼ばれた男は顔を引き攣らせ振り向くと声がした方に向けて口を開く
「フ、フェルノ・・・い、いや別に俺は・・・」
「飼ってやる・・・か。お前も偉くなったもんだ。それで・・・どうする?」
「あ・・・お、お前ら3人とも挨拶しろ!ここを仕切ってるフェルノだ!」
そう言って唾氷男・・・ザードは俺達は3人を連れて奥へ・・・そこはこのギルドの一番奥・・・少し薄暗い場所でふんぞり返りテーブルに足を乗せる男の前に立たされた
歳はキースやレオンと同じくらいか?短髪で顎髭を生やしているから若く見えるだけかも・・・とにかく偉そうってことだけは分かった
「3人でパーティーを組んだ・・・か。徒党を組んで俺達の為に雑用でもしてくれるのか?まさか・・・依頼を受ける為・・・じゃないよな?」
フェルノは目を細め俺達を見ると脅しに近い感じで問い質す
尋ねられたのは3人の中で唯一ギフトを持っているエドバン・・・そのエドバンは返答に困りチラリと俺を見た
「・・・雑用でも何でも・・・とにかく稼ぐ為に何でもするつもりです」
エドバンが答えにくそうなので代わりに俺が答えるとフェルノは怪訝そうな顔して俺とエドバンを交互に見る
「俺はエドバンに・・・まさかパーティーリーダーはエドバンじゃなくお前?・・・ギフトもないのに?」
「はい・・・私達2人はここに来て間もなく何も分からないのでたまたま同じ宿だったエドバンさんにご指導頂きまして・・・その後意気投合しましてパーティーを組む事に・・・当然エドバンさんがリーダーとなると思っていたのですが『何事も経験だ』とリーダーは私がやる事に・・・」
やめろエドバン・・・そんな話してねえよって顔して俺を見るな
「ふーん・・・なかなか後輩思いじゃねえかエドバン。自分も田舎から出て来て生活もままならねえって言うのにな・・・感動したよ」
「い、いや・・・」
「そんな心優しいエドバンに仕事をやろう・・・おい受付嬢!」
「は、はい!」
フェルノはカウンターの奥にいるギルドの受付嬢を呼ぶと金貨を一枚投げ渡す
「指名依頼だ。この街の清掃・・・指名はもちろんこの3人で時間は日没まで・・・報酬は1ゴールド」
うわぁ・・・3人で1ゴールドの依頼だと?そんなのただの嫌がらせだろ
「どうする?受けなくても構わねえぞ?」
よく言うよ・・・わざわざみんなの前で指名依頼をして断れば今後仕事を回さない・・・多分そんな感じにするつもりだろう
後で仕事くれと言っても『あの時断った』とか難癖つけて
まあ俺達は仕事もらえなくても食って行けるけどエドバンはそうもいかない。エモーンズに来ると決まっているなら話は別だがエドバンにも事情があったりしてここを離れる訳にはいかないかもしれないし・・・
だけどまだエドバンに俺達の正体を話すつもりはない。話しても大丈夫だとは思うがまだ信用するには早いしな
「・・・ありがたく受けさせて頂きます」
「そうか・・・日没になったら成果報告に来い・・・量によっては報酬を倍にしてやってもいいぞ?」
わーいって2ゴールドかよ!
「では行って参ります」
俺は頭を下げると2人を引き連れてギルドを出た
その時の他の冒険者のニヤニヤ顔ときたらもう・・・全員ぶっ飛ばしてやろうか?
「・・・で?本当に掃除するのか?」
「もちろん・・・大量にゴミを持って行って報酬を2倍にしてもらおう!」
「・・・」
ケンは不服っぽいけどここは我慢だ
「俺様も?」
「やらないでいいと言われるとでも?まあここで待ってても良いけど『待ってる間息をするな』って言ってしまうかも・・・」
「死ぬわ!・・・ハア・・・やればいいんだろやれば」
「よし!そうと決まれば競争だ。誰が一番この街に落ちているゴミを拾い集めて来るか・・・よーいドン!」
「はあ?マジかよ」
「なんで俺様が・・・ちくしょう!」
なんだか楽しくなってきたぞ?やってやろうじゃないか・・・ゴミ拾い!
秒で飽きた
いや、始めは大きなゴミ袋を用意して意気込んだよ?でも縁もゆかりも無いこの街が綺麗になろうがなかろうが興味無いしそもそもそんなに汚れてない・・・紙切れとか拾ったけど大きなゴミ袋が虚しく感じるくらいしか落ちてないし・・・
「あーこちらロウハー・・・ケンそっちはどうだ?ドウゾ」
〘ゴミなんて落ちてねえよ!ただただ歩き疲れるだけだ!〙
「了解・・・こちらも同じ状況ですドウゾ」
〘ギルド内にはゴミは沢山落ちてたがな・・・掃除しちまうか?〙
「ゴミなんて酷いじゃないか・・・宝の山かもしれないのに・・・」
〘宝?あんなのが?〙
「情報という宝を持ってるかもしれないだろ?まあ持ってなくても目立たないに越したことはない・・・しばらくは我慢だ」
〘しばらくっていつまでだよ〙
「王都が動き出すかもしくは・・・」
〘もしくは?〙
「俺の我慢が限界に達するまで」
〘・・・今回ばかりはその限界が近い事を祈っとく〙
「意外と我慢強いぞ?俺は」
〘・・・そうだな・・・サラ姐さんと結婚出来るくらいだもんな〙
「おいそれはどういう意味・・・あ、切りやがった!」
通信道具に遮断効果を付け足した・・・話せない状況の時に受け側がマナを流すと声が遮断出来るように
それを発揮して遮断しやがった
あの野郎・・・なんでサラとの結婚が我慢強くないと出来ないんだよ
サラは優しくて強くて綺麗で・・・ちょっと嫉妬深くて少しでも他の女性に目移りしているとボコボコにされて・・・・・・・・・さあ、掃除しよう!
ゴミなんて探せばあるはずだ
生活してたら絶対に出るし
どこかに溜めてるかも・・・その溜めてる場所を探せば2ゴールドゲットだぜ!
俺は街を駆ける
まだ見ぬ大量のゴミを探して
日没まであと1時間くらいだろうか・・・それまで全力で走り続けた結果を見た
チマッ
大きな袋の中に申し訳なさそうに入ってるゴミ・・・何故かそのゴミに哀愁を感じて解き放ちそうになるが首を振り我慢する
「・・・いい度胸だ・・・この俺を本気にさせたな?魔王を倒し勇者を圧倒したこの俺の実力・・・見せてやる──────」




