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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
三部
550/856

546階 ツメノビール

「俺様の名前は・・・」


「『私の名前は』?」


「・・・私の名前はエドバンだ」


「です」


「・・・です」


「冒険者か?」


「そうだ・・・です」


「この街出身・・・じゃないよな?」


「あ、はい・・・でもどうして?」


「安い宿屋とはいえ連泊しているようだったからな・・・この街出身なら自分の家を持っている可能性が高いからわざわざ金を使ってまで宿に泊まったりはしないと思ったからだ。それに装備も・・・無駄に金を使えるような装備には見えないしな」


「・・・お前結構やな奴って言われないか?」


「そんな事ないぞ?今生きている人でそんな事言う人はいないと思う」


「・・・『今生きている人』・・・か」


「ああ。死んだ奴がどう思っていたかは知ったこっちゃない・・・だろ?」


「・・・そうだ・・・な・・・です」



それから何故か素直になったエドバンは色々と教えてくれた


ギフトの事を中心に聞いたけど実際エドバンも分かってないみたいだ


代々その家に伝わる神様からの贈り物・・・それがギフト


魔物の力なんてこれっぽっちも思っていない。どうやって手に入れたかもいつからその力が手に入ったかも・・・


となるとかなり昔から付与は行われていた事になる


王族が主導で行われていたのは間違いないだろう・・・もしこれで王族が知らないと言ったらとんだ無能だ


「少なくとも俺様・・・私の爺さん・・・祖父はギフトを持っていたので祖父の時代にはギフトはあったと思います・・・はい。・・・てかなんでそんな事も知らないんだ・・・ですか?」


「余計な詮索はするな・・・アバドン」


「誰がアバドンだ・・・ですか。エドバンだってぇの」


「そうだったな」


やっぱり知らないか・・・わざと間違えて反応見たけどこの感じじゃ聞いた事もないって感じだな


「てかこんなすげぇギフト持ってるのにギフトを知らねえってのもおかしな話だな・・・です」


「もう普通に話していいぞ」


「・・・殺さないか?」


「多分」


「・・・」


「冗談だ殺さない殺さない・・・そんな殺人鬼みたいに見えるか?」


「殺人鬼には見えねえが怪し過ぎんだよ・・・さっき言ったようにギフトの事知らねえし何か探ってるみたいだしよぉ」


「田舎から出て来たばかりだからな・・・何もないド田舎から」


「・・・なんて村だ?」


「聞いてどうする?お前はこの国の村を全て知ってるのか?まさか『知らねえよそんな村!』とか言ってバカにするつもりとか・・・」


「そ、そうじゃねえよ!・・・ただ流れで聞いてみただけだ」


「あっそ・・・で?俺のギフトなら冒険者としてやっていけそうか?」


「あ、ああ・・・充分だ。パーティーを組みてえって奴はゴロゴロいるだろうよ。相方は・・・」


「ケン?ケンは・・・」


そう言えばケンのギフトの事を考えてなかった


ジークのお陰でダンジョンはほとんど無くなった。代わりに魔物がダンジョンの外を闊歩するようになったのだがここファミリシア王国は他国より魔物の数は少ない


出発の地って事もありやる気も漲っていたのだろう・・・他国より多くダンジョンを潰し歩いた結果らしい


この国で普通に暮らす人にはありがたい話だが冒険者だと話は別だ。ほとんどが魔物相手を生業にする冒険者にとって魔物の減少はそのまま稼ぎの減少に繋がる・・・そうなると始まるのが独占だ


上位の冒険者が依頼を独占する・・・そうなると下位の冒険者は生活がままならなくなり廃業となってしまう


上位の冒険者・・・フーリシア王国ではランクがものを言っていたがファミリシア王国ではギフトがものを言う。つまりギフト持ち・・・更に有用なギフトでなければ冒険者としては認められないし依頼が回って来ない


「ケンは・・・短剣を自由に操るギフトだ」


「お、おいロウハー!」


「へぇそりゃすげぇ・・・言葉で相手を制するギフトに短剣を自由に操るギフトのコンビか・・・」


まああの短剣があれば何とか誤魔化せるだろう


「てか人の事は聞いといてお前はどうなんだ?冒険者やってるって事はギフト持ちなんだろ?」


「ギフトは簡単に人には言わない主義でな・・・って待て待て!その拳はなんだ!?ち、近寄るな・・・くっ!動け・・・動けぇ!ガッ!」


「・・・もしかしてギフトはあまりひけらかすものじゃないのか?」


「当たり前・・・お、おい・・・もうやめっ!」


ふむ・・・なるほど


ギルドであの冒険者が喧嘩を売って来たのはギフトを出させる為か・・・それで有用なギフトだったらスカウトする、と


「イテテテ・・・動けねえのをいい事に2回も殴りやがって・・・ギフトを隠すなんて常識じゃねえか!」


「悪かったな常識がなくて」


あまりに自然に質問して来るから答えてしまったじゃないか。こっちが情報提供してどうすんだよ


「いいか?ギフトは味方にすらどこまで出来るか隠すもんだ!いざって時に頼れるのは自分のギフトだけだからな・・・覚えとけ!」


「分かった分かったそう怒るなよ・・・少し殴っただけじゃないか」


「少しだと?めっちゃ痛かったぞ!」


「悪かったって・・・拘束も解くから許してくれ」


そう言って拘束していた言霊を解いた・・・その瞬間エドバンの目がキランと光る


「バカが!」


「お前がな」


拘束が解けた瞬間に突進して来るエドバン


腰に差した得物を抜くかと思いきやそのまま突っ込んで来た・・・そして拳を握るのではなく開くと爪が勢いよく鋭く伸びる


「これが俺様のギフッ・・・」


「爪が伸びる・・・か。なかなか面白いな」


爪を伸ばす為に手を広げて突進して来るもんだから顔面がお留守になっていた。そこに前蹴りを食らわすとエドバンの突進は呆気なく止まる


「んが・・・この・・・先ずはこの癖の悪い足から切り刻んでやる!」


「それは困る・・・{動くな}」


「あがっ!・・・き、汚ぇぞ・・・」


「汚いのはお前の長く伸びた爪だろ?にしても爪を伸ばすギフトか・・・他には伸ばせないのか?」


「・・・」


「黙りか・・・ケン、エドバンの長く伸びた爪を切ってくれないか?・・・間違っても指は切るなよ?伸びないかも知れないから」


「ちょ・・・マジで伸びないからヤメロ!・・・わ、分かった!正直に話す!それにもう襲わねえから・・・」


「いや話さなくていい・・・それにただ伸びた爪を切ってやるだけだ。・・・ケン?」


「・・・切ってやるからその前に・・・俺の拘束を解いてくれ──────」




すっかりケンを拘束していた事を忘れていた


拘束を解くと始まるチョキチョキタイム・・・身動きが取れないエドバンがケンに爪を切られ顔を青ざめさせる様は何とも言える楽しさがあった


「あ」


「『あ』じゃねえよ!『あ』じゃ!い、痛え・・・この野郎肉を切りやがった・・・」


「それくらいで騒ぐなよ・・・そんなんじゃ耐えられないぞ?」


「・・・これ以上何するつもりだ?」


「殺されかけたんだ・・・何されても文句は言えないよな?」


「そ、それはお前が・・・」


「俺が?」


「いや・・・悪かったよ・・・俺様だって必死だったんだ・・・このままじゃ殺されると思って仕方なく・・・」


爪を伸ばして襲って来た時はそんな風には見えなかったけどな


本当なら襲って来た時点で敵とみなすところだが先に手を出したのはこっちだし・・・


「もうしないか?」


「しないしない・・・もう懲り懲りだよ」


「なら知ってる事を全て話せ・・・さっきみたいに出し惜しみはなしだ」


「出し惜しんだ訳じゃねえよ・・・お前達が知ってる事なんて俺様が知る由もないだろ?知ってると思ったら知らなかった・・・ただそれだけだ」


言われてみればそうか・・・エドバンにとっては常識的な話は当然俺達も知ってると思ったから省いた・・・当然ちゃ当然だな


かと言って俺達が知ってる事を全て話すのも面倒だ・・・ぶっちゃけどこまで話していいのかも分からないし・・・となると・・・


「エドバン」


「なんだよ」


「お前は俺達より色々と知っている」


「お前らが知らないだけだろ?・・・で?」


「俺達はお前より強い」


「だから何だよ!」


「パーティーを組もう」


「・・・は?」


「お前と俺・・・それにケンの3人パーティーだ。知識はお前が担当し武力は俺とケンが・・・悪い話じゃないだろ?」


ギルドのあの様子だとギフトをさらけ出して上位冒険者に気に入られないと情報を引き出せそうもない。まあ冒険者が知る情報なんてエドバンと大差ないだろうから適当に冒険者をやりつつ王都の動向に目を向けていた方が良さそうだ


エドバンにとっても仕事を求めて住んでいた街を飛び出して王都近くのこの街に来たみたいだから俺達と組むのは悪い話ではないはず・・・


「断る」


おおぅ


「理由を聞いても?」


「確かにいいギフトを持ってる・・・けどこの街のギルドを仕切ってる奴に気に入られねえといくら強くたって仕事は入って来ねえ。強引に取ろうとしたら奴らと揉める事になる・・・そうなったらもうこの街には居られなくなるんだよ。だから・・・」


「遺言はそれだけか?」


「遺言っ!・・・お前は何も分かっちゃいねえ!ギルドでお前達に喧嘩を吹っ掛けて来ただろ?それはお前達がどんなギフトを持っているか確かめる為だ・・・そしてそれが出来るのはどんなギフトを持ってても負けない自信があるって事だ・・・悪いことは言わねえ・・・豪に入れば郷に従え・・・新参のパーティーが付け入る隙なんてねえんだよ!」


「パーティー名は俺が決めていいか?」


エドバンの長い遺言を聞いた後でケンに聞くとケンは興味無さそうにエドバンの爪を切っていた剣をしまう


「好きにしろよ・・・パーティーか・・・久しぶりだな・・・」


そっか・・・ケンはあれからパーティーを組んでなかったな・・・


「てめえらっ!・・・人の話を聞け!」


騒ぐエドバンを無視してパーティー名を考え始める


そう言えばあまりパーティー名とか付けてなかったな・・・冒険者もそんなしてなかったしこういうの考えるのって少し楽しい


「どうしようかな・・・おっ、そうだパーティー名『爪伸びーる』は?」


「・・・」「・・・」


結構いい名前だと思ったのに・・・何故か2人とも固まってしまった・・・言い方か?


「・・・『ツメノビール』


「言い方じゃねえよ!なんだよ『ツメノビール』って!俺様がリーダーか!?」


「いや俺だ」


「尚更意味分かんねえよ!おいケンっつたか?コイツの暴走止めろよ!てか俺様はパーティーに入らねえって言ったよな!?」


「・・・語感はいいけどちょっと変えれば光るものがあるような気がする・・・『シルノビール』はどうだ?」


「お前もそっち側かよ!?語感良くねえよ!なんだよ『シルノビール』って!もっと意味分かんねえよ!」


「シルが伸びてどうする」


「ツッコミどころはそこじゃねえ!てか、誰だよシルって!」


「シルを知らない?・・・舐めてんのかお前」


「知る訳ねえだろ!なんで知らなきゃ舐めてる事になんだよ!」


「シルをシル訳無い・・・か・・・やるなエドバン」


なかなかのセンス・・・もしかしてコイツにパーティー名を決めさせた方が?・・・いやどうせなら俺が付けたい・・・かっこいいパーティー名を!


「・・・もうヤダコイツら・・・」


身動きが取れないまま絶望するエドバン


結局この後揉めに揉めてパーティー名は『ツメノビール』に決定した──────

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