表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
55/856

52階 組合長

「組合の創設・・・ですか?」


新たに鍵が取り付けられたドアを案の定こじ開けようとしたフリップを睨みながら彼が言い出した言葉を繰り返す


「ああ。ダンジョンナイトも暇じゃねえのか最近冒険者の被害が多くなっている。まあボスは仕方ねえにしても途中の階層でボロボロになって帰って来る冒険者が多過ぎだ。このままだと死者が増える一方・・・それは避けたい」


その理由は分かっている


この街のダンジョンは()()()()()


各階にゲートがあり、いつでも戻って来れる安心感、加えてダンジョンからドロップする簡易ゲートもある。それにローグ様の存在も大きい・・・ピンチになればダンジョンナイトが助けてくれる・・・なんて甘い考えの冒険者が増えたのも確かだ


「それで組合を創設して情報共有と戦力安定を図ると?」


「だな。組合があれば情報も多く入るし足りない戦力を補える。そうすれば無茶をする奴は少しは減るだろう」


「それはそうですが組合は冒険者が設立するもの・・・代表者も冒険者となるはずですがその器になる者が居ないのでは?」


ギルド主導で組合を設立する話はどこの街でもある話だ。だがギルドはあくまでも中立・・・組合を運営するのは禁止されているはず。だからギルド主導でも結局は冒険者が運営する事になる


「・・・誰か居ないか?適任者は」


「ランクで言えばシークスですが・・・」


「おいおい、やめてくれ。『ダンジョンキラー』が組合長なんてシャレにならんぞ?」


「分かってます。ランクで言えば、です。組合長ともなればCランク以上が適任・・・しかしこの街にはCランク以上は私とシークスのパーティーのみです。現状ですと外部から呼び寄せるしか・・・」


出来たばかりのダンジョンに好き好んで来る高ランクの冒険者は少ない。高ランクであれば既に拠点としている場所もあるはずだし、出来たばかりのダンジョンではランクに見合った報酬が得られないからだ


「現在は27階か?それならCランクくらいなら来ても良さそうなんだが・・・」


「そうは言っても慣れ親しんだ場所を離れる理由にはならないでしょう?私みたいな根無し草ならともかく・・・」


「だよな・・・ハア・・・」


フリップはどうやらマーベリルに居た頃のツテを使い何人かの冒険者に声を掛けたらしいが軒並み断れたとか・・・流石にマーベリルのダンジョンを拠点にしている冒険者にとってここのダンジョンが旨味があるかと問われれば全くない。強いて言うなら成長速度が早いので将来性を加味すれば何とかってところか


「いっそうのこと誰かを無理矢理Cランクにしちまうか?お前さんが前に加入してたパーティーの連中は将来性はあるんだろ?」


「ケン達の事です?確かに将来性はありますけどCランクには早過ぎます。それにCランクとなると実績が必要・・・30階が出来てそのボスを倒したとなれば実績も十分ですしCランクに推薦すれば通ると思いますが・・・」


Dランクまではギルド長権限でどうにかなるが、Cランクとなると国の許可が必要だ。今のケン達がCランクの許可が下りるとは到底思えない


「・・・お前さん・・・やらないか?」


「やりません。もしやれと言うなら街を出て行きます」


まあ出て行かないけど・・・組合長なんて面倒なものは引き受けたくない


「それは困る・・・参ったな・・・お手上げだ」


一番いいのはエモーンズに今居る冒険者のランクが上がって組合長になること。やはり外部から来てくれたとしても元から居た冒険者が反発して組合に加入しない可能性もあるからだ。だがランクが上がるのを待っていたら何時になる事やら・・・ダンジョンの成長待ちほど不確かなものはないしな


シークス達は論外、私も無理となると・・・確かにお手上げだな


「なんかいい案ないか?こう・・・ほら、画期的なアイデアみたいな・・・」


「それを考えるのがギルド長でしょ?何の為に居るんですか」


「だからない頭を絞って考えてんだろ?」


「ギルド長の考えるは他人に聞くことですか?」


「・・・冷たいな・・・」


「こうして親身に話を聞いているだけでも十分暖かい対応かと・・・いっそう組合作って組合長を設けなければ?」


「誰がまとめるんだよ」


「持ち回りでやるとか・・・」


「誰もやりたがらねえよ!それに変な奴が組合長になったらそれこそ俺の仕事が増える」


「あれもダメこれもダメ・・・ならギルド長が兼任すればいいじゃないですか・・・暇なんだし」


「暇じゃねえしギルド長が組合長なんて出来るわけねえだろ!冒険者でもねえんだし・・・まあ必ずしも組合長が冒険者である必要はないんだが・・・それでも俺は無理っつーの!」


冒険者でなくてもいい?そういうものなのか・・・うん?


「ギルド長・・・本当に冒険者ではなくても組合長になれるのか?」


「ああ、その辺に決まりはねえ。他の街だと商会の奴が仕切ってる場合もあるしな・・・ただ組合長の役割を考えるとそれなりの奴じゃないと無理だがな」


「そう言えば役割を聞いていませんでした。組合長は何をするのです?」


「お前なぁ・・・知ってから断れよ。組合長は主な役割は組合員のまとめだ。組合員を管理し戦力を把握、そして適材適所に振り分ける。組合員のパーティーがタンカーを貸して欲しと言ってきたらそのパーティーに見合った人材を派遣するみたいな感じだ。その為には全ての組合員を把握する必要があるだろ?ランクだけじゃ分からねえ力もある・・・その辺が一番難しいところだな。それと罪を犯した組合の拿捕だったり、組合員同士のいざこざも止めなきゃなんねえ・・・発言力と実力も必要だ。もっと大きくなって組合が増えたら組合同士のいざこざなんかもあるし・・・まあやる事は山ほどある」


「・・・それに見合った報酬は?」


「そんなもん組合長の匙加減一つだ。会費を多く取ればそれだけ報酬も跳ね上がるし、組合員が増えても当然・・・だがあまり高くすると組合に入らない奴が増えるからな・・・その辺も含めて組合長の能力になるな」


なかなか厳しいな


実力がなくともカリスマ性があればやれそうではあるが・・・そう言った意味では冒険者以外だと商会などになるのか?カリスマ性と言うより金にものを言わすやり方になるが・・・


他にカリスマ性があるもしくは実力があり冒険者でない人物など皆無・・・新たに来た騎士団の連中は実力は申し分ないが引き受けてはくれないだろうし・・・あっ


「ギルド長・・・私に1人心当たりがある」


「なに!?どいつだ?やはり他の街の奴か?」


「いえ・・・組合とは冒険者の集まり・・・となると関係してくるのは主にダンジョン・・・つまり・・・」


「お前さん・・・もしかしてその心当たりがある奴って・・・」


「ええ。ダンジョンナイトことローグ様に聞いてみます──────」




フリップに聞いてみますと言って勇んでダンジョンに来たものの・・・どうやって逢えるかが問題だ


それに聞いてみたところで果たしてローグ様は引き受けてくれるか・・・私としては引き受けてくれてローグ様とのパイプ役を私がやればしょっちゅうローグ様に逢えて嬉しいことこの上ないのだが・・・


とりあえず・・・叫んでみるか


「ローグ様!お話ししたいことがありますのでどうかお姿をお見せ下さい!!」


何となく来た25階


そこで魔物が現れない小部屋を見つけ叫んでみた


私の予想ではローグ様は何かしらの道具か能力を使用しダンジョン内を常に監視している


でないと私や他の冒険者のピンチに駆けつけるなど無理な話だ・・・まあローグ様は冒険者を助けているのではなくあくまでダンジョンを穢さない為と仰ってたが・・・


「ローグ様!サラです!!どうか私の話を聞いて下さい!」


聞こえているかどうか分からないが何度も叫ぶ


他の冒険者が聞いたら気でも狂ったのかと思われそうだが、幸い25階まで来れる冒険者は少ない・・・まあシークス辺りは余裕で来れると思うが・・・



小一時間ほど叫んでみたが一向に現れる気配はなかった


もしかしたら常に監視しているなど私の妄想・・・いやしかしあのタイミングで偶然現れるのは流石におかしい・・・もし私だけなら運命で片付ける事も出来るが他の有象無象の冒険者のピンチを嗅ぎつけるなど不可能・・・もしかしたら今向かって来てくれてるかも知れない・・・そう思い再び叫ぶ


「ロー・・・」


「人の名をダンジョン内で叫ばないでくれるか?喧しくて適わん」


「!・・・ローグ様!!」


部屋のドアが開いた音がし振り返るとそこには待ち焦がれたローグ様のお姿が・・・と、尊い・・・


やはりローグ様は何かしらの手段を使い監視されているのだろう・・・いや、今はそれどころでは無い・・・こうして来て下さったのだ・・・すぐに本題に入らねば・・・


「お元気でしょうか?その後お変わりは?もし何か不都合がありましたら私めに・・・」


「言いたいことはそれだけか?私も暇ではない・・・用がないのなら・・・」


「あっ!お待ち下さい!申し訳ありません・・・溢れる想いが止まらずに・・・今回お呼び立てしたのは他でもありません・・・ローグ様にお願いがありまして・・・」


「私に?」


「はい!・・・ローグ様に・・・差し支えなければ組合長になってもらいたいと・・・」


「・・・はい!?・・・い、いや、すまない・・・言ってる意味がよく分からないのだが・・・」


素っ頓狂なローグ様の声を聞けて少し幸せ


実は結構若い?最初の裏返った声が実は地声だったりして・・・っと、そんな事を考えている場合じゃない。私はローグ様に承諾してもらうべく丁寧に説明した



「・・・エモーンズに組合を作り、その組合に組合長が必要なのはよく分かった。だがその組合長に私が相応しいとはまったくこれっぽっちも思わないのだが・・・」


「形だけで良いんです!ローグ様が組合長に・・・それだけで組合はまとまると思います!組合長はその組合の顔・・・誰でもなれるものではありません。私はエモーンズに組合を作るならローグ様が組合長に最も相応しいと思います!」


二つ返事で断られると思ったが意外と話を聞いてくれる・・・もしかしたら組合長に興味があったり・・・いやそれはないか・・・とにかくローグ様が組合長になってくれれば繋がりが出来る!ここは何とか無理矢理にでも承諾を勝ち得なければ・・・


「・・・」


「無理言っているのは承知しています。ですがローグ様と願いと組合長の仕事は通じるものがあると思います!」


「そうかな?私にはそうは思えないが・・・」


「ローグ様は私にダンジョンの守護者であると言いましたよね?そしてダンジョンが汚れて欲しくないとも・・・だから無謀な冒険者を助けたり冒険者同士の争いを止めたりしている・・・そうですよね?」


「・・・ああ・・・そうだ。・・・なるほど・・・私がやっている事は組合長のやるべき事と同じか」


「はい・・・組合長の手腕次第で無謀な冒険者もいなくなりますし冒険者同士の争いを起こさないようにする事も・・・ローグ様が組合長になって頂ければ私はローグ様の手足となって働きます!決してお手を煩わせたりしません!なんならお名前だけでもお借り出来れば後は全て私がやります!ですので・・・」


「・・・なら君がやれば済む話では?」


「ローグ様が組合長である事が大前提なのです!私では務まりません!」


「・・・よく分からないが必死さは伝わった。私としても無謀な冒険者が減り冒険者同士の争いが無くなれば助かるのも事実・・・少し考えさせてくれないか?」


「も、もちろんです!いつまでも・・・いつまでも待ってます!」


「あ、ああ」


凄い!考えてくれるなんて・・・あ、そうだ!


「あのっ!・・・考えて頂けるのは大変嬉しく、いつまでも待っていると言うのは本音です・・・ですが・・・その・・・お返事を頂くにはどうしたらよろしいでしょうか?またこの部屋で叫べば来て下さいますか?」


連絡手段を確保したい!ん?しまった!今の聞き方だと返事をする時にローグ様から訪ねると言われたらお終いだ!くっ・・・もっと良い言い方はなかったか・・・


「・・・叫ぶのは勘弁してくれ。そうだな・・・」


「あ、あの・・・王都まで行けば通信道具があります!私も聞いた事があるだけですが・・・魔核を使った魔道具で離れた場所の人と会話出来る道具らしくて・・・私がそれを買って来ますのでそれで・・・」


しまった・・・用意してから来るべきだった・・・そうすれば今後いつでもローグ様と会話出来たのに・・・


もしローグ様が組合長を断るつもりなら私と通信道具を共有する意味が今のところない・・・なので王都まで買いに行く必要がないと言われればそれまでだ・・・どうして私は・・・こう・・・


「・・・作れるか?」


「・・・え?」


「いや、こっちの話だ」


どっちの話!?


今聞き間違いでなければ『作れるか?』と私に聞いた?何を?・・・通信道具?


「あの・・・」


「あー、少しここで待っててくれ」


「は、はい」


そう言ってローグ様は部屋を出て行ってしまった


もしかして怒らせてしまったか?仮面を付けているから表情が分からない・・・そう言えばローグ様はどんな顔をしているのだろうか・・・いや、別に顔がどうとかで気持ちが変わる事はないが・・・気にはなる


もしかしたら顔に傷があり、それを気にして仮面を・・・もしそうなら見せて欲しい・・・そして私がその傷を見ても変わらないということを知って欲しい・・・・・・な、何を考えているんだ私は・・・まだ気持ちも伝えてないのに・・・


「・・・なぜ体をよじってクネクネしているんだ?」


「ハッ!・・・いや、何でもありません!」


いつの間に!・・・妄想している所を見られてしまった・・・ううっ・・・恥ずかしくてまともに見れない・・・


「これを使え」


ローグ様が私に何かを投げて寄越す


これは・・・石?


「さっき言っていた通信道具だ」


「えっ!?」


「その道具にマナを流せばもう一方・・・つまり私の持つ道具と繋がり会話することが出来る。ただし私にも事情があってな・・・君からの連絡は控えて欲しい。連絡をする時は私からする」


うぐっ!


通信道具と聞いた瞬間にテンションが最高潮に達したがすぐに落とされてしまった・・・そうか・・・私からはダメなのか・・・いや、それでも一歩前進だ・・・贅沢は言うまい!


「あの・・・もし緊急時にどうしても連絡を取りたい場合は・・・」


「マナを流せば道具が反応するから連絡を取りたい場合はマナを流してくれ。くれぐれもそのまま話し掛けないように」


「は、はい!」


よしっ!これは一歩どころか三歩くらい前進だ


「・・・それでは私は戻るとしよう。組合長の事は近日中に連絡する」


あ・・・行ってしまう・・・何か・・・何か話さないと・・・


「あのっ!・・・今度食事でもしませんか!?」


思わず食事に誘ってしまった


変な女と思われないだろうか・・・いや、食事くらいなら誰でも誘ったりするはず・・・


ローグ様は足を止め振り返ると自らの仮面を指さしてこう言った


「これでか?」


「・・・あ、いえ・・・すみません・・・」


そうか・・・私の前では仮面を外すつもりはないって事か・・・


何を浮かれてたんだか・・・彼はただ組合長の事を考えてくれると言っただけ・・・別に私と仲良くするつもりなんか・・・


「・・・いずれな」


「!?・・・あ、ロー・・・」


行ってしまった・・・今確かに『いずれ』と・・・そっか・・・いずれ私と・・・


ここがダンジョンで助かった・・・ダンジョンであるお陰で今の私を見られる心配はない・・・こんな姿・・・他の冒険者に見せられるか


私は今・・・過去類を見ないほど締りのない顔をしているはずだから──────

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >ダンジョンマスターことローグ様 いやナイトじゃない? バレてるよw...
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ