544階 決意
「・・・ギフトを持つ者が『有能』で持たない者は『無能』か・・・なかなか分かりやすい差別だな」
〘だろ?僕達の為にパーティーを開いてくれたんだけどそこでもギフトギフトギフト・・・『勇者様はどのようなギフト何ですか?』とか『ラナ殿はギフトをお持ちで?』とか『私の娘はこのようなギフトを・・・』とか・・・会話の中に一回はギフトって入れないといけない決まりでもあるのかよって感じだよ〙
ギフト・・・ファミリシア王国では魔族の能力をギフトと呼んでそれを持つ人を重宝している。もちろん他の国でもその傾向はある・・・例えばフーリシア王国なら『真実の眼』を持つ人達を聖者聖女と呼んだり・・・けどファミリシア王国はそれに輪をかけてって感じだな
俺とケンはフェルカトの街に辿り着くとこの日は調査はせず食事をした後で宿を取りこれからどうするか具体的な話をしていた
そんな時に王都にいるジークから通信が入り現在そのジークと話している最中だ
「いいなぁ・・・そっちは城で贅沢三昧・・・こっちは安宿屋で男と二人っきり・・・なんなんだこの差は」
「悪かったな安宿屋で・・・あまり目立たないようにと手頃な宿屋を選んだ結果だっつーの。それにケン・・・話を聞いてたか?今の城はジークにとってはここより居心地が悪そうだぞ?」
「聞いてたけど・・・どんな場所でも好きな・・・」
〘ケン!!〙
「うおっ・・・ビックリした・・・急に大きな声出すなよ」
〘・・・ゴホン・・・と、ともかく僕達は何をすればいい?〙
ああ、なるほど・・・いるな・・・ケンは未だに気付いてないみたいだけど
「・・・何もしなくていい」
〘けど!〙
「『三能』って奴らの実力も不明だしそこは敵地のど真ん中だぞ?いくらお前が強いとはいえ何をされるか分からない・・・下手すりゃ食事に毒を入れられてもおかしくない状況なんだ。妙な事して目をつけられる前にそこを出ろ・・・守りたいなら、な」
〘・・・〙
ジークがやられる事はないとは思うけど奴らはジークの弱味を知っている。ラナ・・・彼女を人質に取ればジークは手も足も出なくなるだろう
アバドンの事はさておきエメンケにラナを人質に取るよう指示したのは間違いなく王様だ・・・何の為に勇者であるジークを殺そうとしたかは分からないけど・・・
「何か口実を見つけて早急にそこを出た方がいい・・・分かるだろ?ジーク」
〘・・・口実ならある・・・〙
「うん?どんな?」
〘調査しろって言うなら残るつもりだったけどひとつ気になることがあるんだ・・・ウルティアの姿が見えない〙
「ウルティアの?」
〘うん・・・王様に聞いたら家に帰ったとだけ言われたけどどうも腑に落ちない・・・以前はウルティアのことをかなり大事にしてるって感じだったけど今はまるで・・・ウルティアの存在自体に興味がないって感じなんだ〙
ウルティアか・・・エメンケが受けていた依頼『ラナを人質に取り勇者ジークを・・・』ってやつは多分ウルティアも受けているはず。何せ直前までエメンケとウルティアのどちらが魔王討伐パーティーに選ばれるか分からないからな。つまり王様にとって帰って来たウルティアは『魔王討伐に貢献した十二傑の一人』ではなく『指示した事も出来ない無能』って評価になるわけか・・・
〘ウルティアもエメンケと同じかもしれない・・・けど長い間一緒に旅をして来た仲間だ・・・何度も助けてくれたしいろいろ教えてくれた・・・もちろんエメンケも同じように助けてくれたし今でも信じられない気持ちで・・・その・・・ウルティアも疑わしいのは分かってるけど・・・だから・・・〙
「ウルティアの様子を見に行きたい・・・って事か?たとえ裏切ろうとしていたとしても?」
〘うん・・・それで聞きたいんだ・・・ウルティアの口から直接・・・僕のことをどう思ってたかを〙
「利用するだけして裏切るつもりだったと言われたら?」
〘どうだろうな・・・あの日々が全て嘘だとは思えない・・・エメンケは許せないけどウルティアは・・・〙
実際どうなんだろうな
もし討伐パーティーにエメンケが選ばれていたとしたらウルティアがエメンケと同じような事を?・・・まあ襲いはしないまでも人質としてラナを拘束していたかもしれない。そうなればジークは手も足も出ず・・・
ウルティアを訪ねるのは危険かもしれない・・・けど王都にいるよりは・・・
「・・・ウルティアを訪ねると言って街を出るのは避けた方がいいかもな」
〘なんで?〙
「なんでも。他に何か城を離れる理由はないか?」
〘うーん・・・あ、孤児院に行くって言えば怪しまれないかも・・・あんまりいい思い出ないけど僕とラナが物心ついた時から過ごして来た場所だし・・・〙
「そうか・・・じゃあそう言って城を離れるんだ。何も余計な事しなくていいからな?」
〘分かったよ・・・とりあえずウルティアに会って何か分かったら連絡する〙
「ああ、気をつけてな。あっそれと城を出るまでラナから離れるな」
〘え!?〙〘ふぇ!?あ・・・〙
「忘れたのか?そこはエメンケにラナを人質にするよう指示した奴がいる場所だぞ?少しでも離れ離れになればどうなるか・・・分かるだろ?」
〘あ、ああそうだねうん・・・だよね!〙
何か勘違いしているみたいだ・・・別に二人の仲を進展させようと言ってる訳じゃないのだが・・・まいっか
ジークとの通信を終えてひと息つく
すると何故かケンが頭を抱えた
「?どうした?」
「・・・あの少年に毛が生えたようなジークすら彼女とイチャイチャしようとしているのに俺はなぜっ!」
「・・・」
シルはかなりドライな性格だ
四六時中のべつまくなしにシルの事を追っかけるケンに対しては殊更ドライ・・・もはや無視してんじゃないかってレベルだ
なので2人の進展は一切ない・・・ファミリシア王国に来たがらなかったのもその為だ
「実は嫌われているとか?」
「言うな!薄々そうじゃないかなって思ってしまう俺もいる・・・けどそうじゃないと信じたい!信じたいんだ!」
切実だな・・・ふむ・・・
「ケンだけ帰るか?王都は広いしやる事沢山あるから人手が必要だったけどこの街でやる事なんてそう大してないし帰っても・・・」
「え?・・・ばっ馬鹿野郎!仕事を放り出して帰れるかってんだ!」
一瞬『マジで?』みたいな顔して凄い嬉しそうだったのに・・・ぶっちゃけ俺1人の方が気楽なんだよな・・・守る必要ないし・・・
「そっか・・・ちなみに俺は宿に泊まるフリをして屋敷に帰るけど?」
「お前ふざけんなよ!それはズルだろ!帰って何するつもりだコノヤロウ!」
「ナニをするつもりだが?」
「・・・そういやお前とやり合った事なかったよな?」
「俺に勝てるとでも?」
「一度俺に腹をぶっ刺されて寝込んでたヤツのセリフには思えんな」
「忘れてやろうとしてたのに自分から思い出させるか・・・なら容赦しねえ・・・サラとイチャイチャする前の準備運動がてら相手してやるよ」
「じょ、上等だコノヤロウ!あんまりこのケン様を舐めんじゃ・・・」
「うるせえぞテメエら!痴話喧嘩なら外でやれ!」
怒られた
突然壁からドンと音がしたと思ったら怒鳴り声が響く
さすが安宿屋・・・壁が薄いのは定番なのか?今回はサラと泊まる訳じゃないから気にしてなかったけどまさかケンといて怒鳴られるとは・・・しかも痴話喧嘩って!
「あー・・・もう寝るか・・・」
「・・・そうだな・・・お前・・・屋敷に帰るなよ?」
「・・・」
なんでケンが帰らないからといって俺が帰っては駄目なんだ?という意思を込めて黙って舌を出した
「このっ・・・ハア・・・か、帰るなら俺も連れて行ってくれ・・・」
「ヤダ・・・と言ったら?」
「ぐっ・・・た、頼む・・・一生のお願いだ」
おぉ・・・青春だな・・・ってこんな事している場合じゃないんだけどな実際
アバドンが動き出したら終わり・・・それは分かっているけどどうも気を許した相手と話しているとその事を忘れてしまう
それでもこういう時間は何故か大事なような気がして・・・ああそうか・・・アバドンが必要なのは魔力・・・魔力は負の感情で生まれるから──────
結局2人して屋敷に戻った
次の日の朝ケンと合流し再びファミリシア王国のフェルカトの街の宿屋に戻る。顔から察するに進展はなしか・・・残念
サラが言うにはシルも満更ではないらしいのだけど・・・傍から見るとシルはケンに興味無さそうに見えるのだけど・・・そんなものなのかな?
けどその事はケンに言ってはダメなんだとか・・・シルも考えがあってケンにドライな対応をしているかららしい。サラがシルみたいな性格じゃなくて本当に良かった
「流れとしてはこの街で冒険者としてこの街で過ごしながら情報を集めていく・・・でいいのか?」
「そうだな・・・この街でどこまで情報を得られるかは分からないけど大体そんな感じ・・・まあメインは王都に動きがないか探る事かな?」
この街の冒険者ギルドに向かいながらケンと今後の流れをおさらいする
ケンに言ったようにメインは王都の動向を把握する事だ
味方してくれている三ヶ国が派手に情報収集をしてくれるはず。当然それは王都にいる王様達にも伝わるはずだ。んでその動きを伝え聞いた奴らがどう動くか・・・問題はここにいて王都の動きが把握出来るかだよな・・・
「なあ・・・ちょっと思ったんだけどゲートで城内を見張っとく方が確実じゃないのか?」
「それを試さないと思ったか?」
「え?ダメだったのか?」
「ああ・・・ダンコ・・・俺の中のコアが言うには『魔力を反射する結界が張られている』だってさ。王都には普通にゲートを繋げられるからおそらく城だけにな」
何の為・・・普通に魔物や魔族からの攻撃から守る為・・・それかもしくは俺のゲートを警戒して?
だとしたらしくったな・・・前国王の策に乗って『抑止力』としてゲートがどんな能力か教えてしまったからな・・・そりゃ知ってれば対策もするわな
「・・・俺の中のコア・・・本当にあるんだな・・・お前の中にダンジョンコアが・・・」
「そこかよ・・・ああ、ある。なければ俺は何をしてたのやら・・・公爵どころか貴族にもなってないだろうな」
今でも門番していたかも・・・いやマナを使えてたからもしかしたら冒険者にでもなって・・・
「そうか?意外とダンジョンコアがなくてもいいとこいってたかも知れねえぞ?」
「んな訳・・・」
「あるだろ。だって他の奴・・・もちろん俺も含めてロウニールと同じ状況になって同じ事出来るかって言ったら・・・多分無理だと思うぞ?つまりお前は元々特別な人間だったんだよ・・・ダンジョンコアを飲み込まなくてもな」
そうなのかな・・・けどまあそう言われると嬉しいような・・・
「まっ、普通は飲み込まねえけどな。飲み込んだ時点で普通じゃねえだろ?」
「うるさい!あの時は気が動転して・・・」
でも実際どうなんだろうな・・・ダンコを飲み込まなかった時の俺は・・・もしそんな俺がいたとしたら今頃何をしていたんだろう・・・
そんな事を考えていると改めて思った
もしダンコを飲み込まなければ普通に勇者は魔王を倒し平和な世が訪れていたかもしれない、と
そしてケンは・・・仲間を失わずに・・・
「おいおい・・・何暗い顔してんだ?・・・少なくとも俺は感謝・・・って言ったら語弊があるかもしれないけど今の俺があるのはお前のお陰だと思ってる。シルに生きて再会出来たのも含めてな」
「・・・ケン・・・」
「だからあれだ・・・全部背負い込むなよ?冒険者は死と隣り合わせだし覚悟はしてた・・・あの時は誰かに行かされた訳じゃなく自ら進んで・・・」
それでもあのダンジョンは俺のせいだ・・・俺があの時余計な事を言わなければ・・・3人は生きていたかもしれない
それどころか誰かの運命だけではなくこの世界の運命すら変えてしまうかもしれない・・・俺が余計な事をしてしまったばっかりに・・・
アバドンの活動は阻止しよう
改めて心に決めフェルカトの街中を進み冒険者ギルドを目指した──────




