543階 三能
人生とは上手くいかない事の連続であるbyロウニール・ローグ・ハーベス
当初の予定を話そう
全員でファミリシア王国王都ファミリシアに乗り込み、手紙を見たファミリシア国王が動くのを待つ・・・手っ取り早く確実だった予定は出鼻をくじかれ脆くも崩れ去った
それは王都ファミリシアの手前にゲートで移動し歩いて門まで歩いていた時の事だ
「あの人魔族です!」
その声に反応し見ると俺達の方を指差す少年・・・後ろを振り返るが誰もおらず近くにいた兵士達は俺達に歩み寄って来る
どうやらセシーヌが持っている『真実の眼』と同じかそれに近い能力を持った少年らしい・・・念の為に全員変身させていたが無駄だったようだ
入口で騒ぎを起こせば次々に兵士がやって来るだろうから倒しても倒してもキリがないだろう。それに調査どころではなくなるのは目に見えている
俺はゲートを使ったらバレると思い3人にこの場を離れるよう指示した
不幸中の幸いだったのはジークとラナの2人とは離れていた事・・・俺達が立ち去ってもジーク達は王都へと入ることは出来そうだった
ジークには通信道具を渡しているしアバドン調査に協力すると言ってくれていた・・・あまり無理はさせたくなかったけどしばらく王都内の状況を確認するのはジークに頼るしないかも・・・ベルを見破った少年に俺達の顔は見られている可能性は高いから
『大陸の守護者』としての権限を使ったら入れるかも知れないけど今はその時ではない気がする・・・手紙が届き焦って動くとしてもさすがに俺が王都にいると分かれば動かないかもしれないし・・・にしてもまさか入口にベルを魔族と見破れる者を配置しているとは思わなかった。それだけ警戒しているって事は後ろめたいからか?・・・いや魔族を街に入れないようにするのは普通だし考え過ぎか・・・
「これからどうするのじゃ?ゲートがあれば街中に忍び込むのは容易いと思うが・・・」
「いえ・・・中にも同じように見破れる人がいるかもしれません。不本意ではありますが中の状況が分かるまで王都は諦めましょう」
「ふむ・・・とすると?」
「・・・二手に分かれましょう。王都周辺の街で二手に分かれて情報収集しながら様子を見る・・・これが最善だと思います」
「二手・・・4人だから・・・」
「2人1組だな」
「・・・だよな」
割り込んで来たケンの気持ち・・・分かる気がする
「俺は誰と・・・」
と言いながらチラリとベルを見る
「魔族です。人間を屁とも思ってません。俺の言う事には従います。怒ると変身します。魔法みたいなのが得意です」
「・・・」
次に目を向けたのは師匠ハクシ
「意外と好戦的です。人間壊すの得意です。たまに仲間も壊します。修行をつけてくれと頼むと地獄を見ます」
そして最後に俺を見た
「天使です。屋敷に自由に戻れます。刺された事を恨んでません」
「嘘つけ!・・・あー嘘ついてございます?」
ケンの鋭いツッコミにベルガッ反応すると途端に借りてきた猫のようになるケン。そのケンが組むのは当然・・・
「あの3人の中ならお前しかいない・・・消去法だからな!」
まあ当然俺と組む事に
「ベル、決して人を殺すなよ?あくまで調査だ。1日1回は報告するように」
「畏まりました」
「師匠・・・殺さないで下さい」
「・・・お主はワシを何だと思っておる・・・」
魔族に育てられた最も魔族に近い人間・・・と言うかほぼ魔族?
「心の中で何を思っておるか何となく分かるぞ?どうやら修行が足りんと見える・・・」
足りとる足りとる。自分から望んだこととはいえベリトも参加して散々な目に・・・もうあの修行は懲り懲りだ
やる気になってる師匠をなだめてここからほど近い場所にある街・・・ダージスクという街に行ってもらった
そして俺達は・・・
「俺達も行こう。ここから西に進むとフェルカトって街がある。そこそこ大きいし情報を得るにはもってこいの場所だ」
「・・・どうやって情報を?」
「それはもちろん・・・俺達の得意分野で、だ──────」
ファミリシア王国王都ファミリシア
ロウニール達は逃げ切れただろうか
まさか変装が見破られるなんて思いもしなかった
一応は魔王討伐後の凱旋って事になるんだけどその割には何事もなく王都に入り馬車に案内され王城へと向かっていた
勇者となりこの国を出て行く時は大声援の中だった・・・魔王討伐を果たし戻って来た時はその何倍もの喝采の中王都を練り歩くものと思っていたのに・・・実際はまるで人目につかないように馬車の中に押し込められラナと案内役と思われる兵士の3人きりでの寂しい凱旋となっていた
「あの・・・」
「はい勇者様」
「街の人達・・・いや、国の人達は魔王討伐の事を知って・・・」
「勿論です。ウルティア侯爵様の報告を受けた後、全国民に大々的に・・・それが何か?」
「そう・・・ならいいけど・・・」
じゃあ凱旋パレードでもしたらどうなんだ?この兵士も妙に素っ気ないし・・・
「それでしたら聞いた時はさぞかし大騒ぎでしたでしょうね」
「ええそれはもう・・・今でこそ普通に過ごしてますが連日祭りのような騒ぎでしてた」
あ・・・そういうこと?
盛り上がりの熱はもう冷めた・・・そういうことなの?
ま、まあずっと喜んでもいられないしそういうことなら仕方ない・・・のか?
別に魔王を討伐した僕を褒め称えてくれとは言わない・・・実際には討伐してないし・・・けどちょっとはなんかあってもよくないか?実際に数多くの魔族や魔物は倒しているんだしちょっとくらいは・・・
「勇者様ラナ様到着しました」
くっ・・・結局まるで護送されているような形で誰の目にも触れられないまま城に着いてしまった
『勇者様ぁー!』という黄色い声援を浴びるはずだったのに・・・
「ジーク?」
「え?あ、うん・・・行こう・・・送り出してくれた王様に直接報告しないとね・・・魔王討伐の!」
僕の顔を覗き込むラナに考えていたことがバレないように慌てて立ち上がり馬車の外に出た
ロウニールの話だとこのファミリシア王国の王様は何か企んでいる可能性があるとか・・・ラナが襲われたのもその企みに関係しているかもと言ってた
だとしたら許せない・・・虫も殺せないような顔して裏では悪いことを企みラナを傷つけようとしたのなら・・・絶対に許せない!
ロウニールは危ないから何もしなくていいって言ってたけど何をしようとしているのかしっぽを掴んでやる!・・・まあ凱旋パレードをするって言うならそれには参加してやるけどな!
もう何度も通っている廊下を通過しいざ王様の待つ謁見の間へ
玉座に座る王様と多分僕が帰って来た事を知って慌てて駆けつけた自称僕の父親・・・この2人がいるのはいつも通りだ。まあ王様はいて当たり前だけど・・・今日はその他に2人・・・初めて見る人がいる
玉座の横に小さい椅子を置いてちょこんと座る少女・・・それとその反対側に立ついけ好かない顔をした男・・・魔王を演じていたロウニールみたいだ・・・雰囲気も・・・強い奴が出すオーラも
「よくぞ戻った勇者よ!話は共に偉業を成し遂げたレベン卿から聞いておる・・・我が国代表としてではなかったのがそれも仕方あるまい。大義であった」
「・・・これも陛下の支援による賜物・・・この御恩は一生忘れません」
エメンケを襲わせたのなら恨みもな
「勇者を支援するのは人間として当たり前のこと・・・エメンケは残念であったが彼の家族には見合ったものを授けよう」
何が家族だ・・・王様だってエメンケは天涯孤独って知ってるはずなのに・・・それにエメンケはまだ生きている・・・誰も訪れないダンジョンの部屋で鎖に繋がれて
本当は殺したかった・・・けど多分アイツも操られていたに過ぎない・・・この優しそうな微笑みを浮かべる王様に!
いや待て待て・・・冷静になれ・・・まだそうと決まった訳じゃない。冷静になれ・・・僕は勇者・・・やれば出来る・・・
「・・・惜しい人を亡くしました・・・残念です」
全く惜しくないけど!てか死んでないけど!
「犠牲は我が国のエメンケとリガルデル王国の『猛獅子』オルシア将軍か・・・多少の犠牲は覚悟していたが実際に聞くと魔王が討伐されたとはいえ素直に喜べないのう・・・だがしかし悲しみに暮れてばかりはいられぬ・・・魔王討伐が終着点では無いのだから・・・全員に告ぐ!今日は勇者凱旋の日・・・魔王討伐の報を聞いての宴は終わったが勇者を讃える宴は済んではおらん!故人を偲びつつも明るい未来を語り合おうではないか!急遽のゆえ派手には出来ぬが勇者とラナの2人が満足出来るよう全員で急ぎ準備せよ!勇者凱旋の宴だ!」
「ハッ!!!」
まるで決められていたかのように謁見の間で王様を守護するはずの兵士達が部屋を出て行く
名目上は宴の準備・・・けど本当の理由は人払い・・・だろうな
そう思ったのは出て行く兵士達を見つめる王様の目だ・・・いつも微笑みを絶やさなず優しい目をしていた王様が目を細めてほくそ笑むのを見た時に確信した。これが仮面を脱ぎ捨てた本当の顔・・・ファミリシア王国国王エギド・レーゼン・ファミリシアの本性なのだと
兵士達が退き謁見の間に残ったのは6人・・・僕とラナ、エギドとラージと謎の女の子に・・・
「ラナよく無事であったな」
・・・ラナだと!?
「これもファーロン様のお陰です」
ファーロン様!?
なんだ一体・・・ラナはこの男と知り合い!?でも僕は知らないぞこんな男・・・それってつまり・・・僕のいない時にこの男と会ってたって事!?
「・・・なんて顔しているのよジーク・・・あなたがウルティアさん達に色々教わっている時に私に手取り足取り教えてくれたのよ?ファーロン様は」
て・・・手取り足取り!?
「勇者と行動するということは王侯貴族と会う機会も必ずあるのでその指導を少々したまでですよ・・・勇者殿」
指導!?・・・あ、指導は普通か・・・いやでも・・・なんか・・・2人っきりじゃないよな?
「おおそうか・・・ジークはファーロンと会うのは初めてであるな。こやつはファーロン・・・我が国が誇る『三能』が一人ファーロン・バレク・アスターニアだ」
三能?って事はこんな奴が三人も・・・じゃなくて
「『三能』って何ですか?」
「この国で最も優れた能力を持つ三人を『三能』と呼んでいる。ここにいるファーロンとメターニア・・・そしてチー」
・・・え?てっきり残りの二人はウルティアとエメンケかと・・・『だって最も優れた』だろ?ならあの二人が入ってないのはおかしいよな?
そんな事を考えているとファーロンは僕の考えている事が分かったのかこちらを見て鼻で笑うと冷たく言い放つ
「もしかしてウルティア達と思ったか?エメンケはともかく侯爵は『無能』・・・入るはずもない」
「無能って・・・『天侯爵』と呼ばれる十二傑の一人を無能ってお前・・・」
「十二傑・・・か。国にとって都合のいい人材・・・それに選ばれたからと言って無能に変わりはない」
「都合のいい・・・存在?」
「まさか本当に実力で選ばれたとでも?噂に違わぬ純粋っぷりだな。各国から二人・・・計十二人がどう選ばれたか考えた事はあるか?民が選んだ?それとも試合でもしたか?民はどうやってその者の強さを知る?試合があったとして全ての強者が参加すると思うか?十二傑などでっち上げだ・・・各国が都合のいい二名をそれとなくさも国で一二を争う実力者であるかのように噂を流しそれを民が面白おかしく語り継ぐ・・・それが十二傑の正体だ」
・・・え?
「それを疑いもなく仲間にしていくとは・・・滑稽だが痛快でもあったぞ?勇者よ・・・何せ『無能』を連れて魔族達を倒してしまうのだからな・・・いや中には『有能』な者もいたとか・・・私のように」
このっ・・・謁見の間じゃなきゃ殴ってるところだ。何が『私のように』だスカシやがって・・・
「ファーロン!『無能』って呼び方はオシャレじゃないの。『ノーギフト』と呼ぶの」
うおっ喋った!
置物のように黙って座っているだけだった女の子が喋りだしたので思わずビクッとしてしまった
「それと勇者・・・あんまり好みじゃないの」
よし・・・この2人は僕の中で敵確定だ──────




