541階 大陸の守護者
ラズン王国
「どうでしたか?初めての『王会合』とやらは」
「キッテか・・・胸糞悪いからしばらく放っておいてくれ」
王会合を終えてロウニールに送られて帰って来たワグナはドカドカと足を鳴らし自らの定位置である玉座に座ると肘をつきため息をつく
「胸糞悪い・・・なるほど・・・属国にでもされましたか?」
「んな訳ねえだろ!・・・いやそれに近いもんがあるが・・・」
「・・・たとえ胸糞悪くとも話してもらわねば対策の取りようがありません。この国の軍師として知っておくべきかと・・・なる早で」
「・・・なんだ?『なる早』って・・・」
「『なるべく早く』の略です」
「略すな!・・・詳しく話すのはまた今度だ・・・今は本気でクタクタだから掻い摘んでなら話してやる・・・俺達・・・いやファミリシア王国を除いた国は奴の・・・ロウニの庇護下に入る事になった」
「庇護下・・・ですか?」
「そうだ。一国の公爵には変わりねえが奴に特権を与える事になった。俺は反対したがな」
「なぜそのような・・・」
「それを説明するには酒がいる・・・それとギリスの奴も・・・あいつはどこで何してやがる?」
「部屋で子作り中かと・・・」
「引っぺがして連れて来い!・・・いや今日はやめとこう・・・明日でいい・・・」
「・・・明日まで覚えてられますか?」
「ん?・・・・・・・・・多分な──────」
リガルデル王国
「アルオン!アルオンはおるか!」
時を同じくしてロウニールに送ってもらったフォーデムは城に入るなり最も頼れる男、将軍アルオン・マダスト・エシリスを探した
「陛下!お戻りになりましたか・・・私はここに」
「おおアルオン・・・執務室・・・いや朕の部屋に」
フォーデムはキョロキョロと辺りを見回すと執務室ではなく自室へ来るようアルオンに伝える
それは入室した者以外話を聞く事は許されないという意味を持っていた
「はっ!・・・王会合の事でしょうか?」
「うむ・・・リガルデル王国建国以来の由々しき事態じゃ・・・ファミリシアめ・・・とにかく部屋へ・・・話はそれからだ」
そう言うとフォーデムは自室へと向かいその後をアルオンが続く
由々しき事態・・・それにファミリシアという言葉を口にしたフォーデム・・・アルオンは歩きながらこれまで協力関係にあったファミリシア王国と何かあったのかと考えている内に自室へと辿り着く
共に部屋に入りフォーデムは人払いをすると椅子に深く腰かけ天を仰いだ
「陛下・・・」
「うむ・・・さっさと王位を譲っておけば良かったと後悔したのは初めてだ。まあ誰が王であろうと抗えぬであっただろうが・・・」
「と言うと・・・先程仰っておられたファミリシアが我が国を?」
「裏切った・・・それならば話が早い。捻り潰せばいいだけだからな。いや裏切ったと言えば裏切ったのであろう・・・ただ我が国ではなく人類を・・・だがな」
「人類・・・それは一体どういう意味でしょうか?」
「・・・これから話す事は他言無用だ。と言っても話せる内容は少ないがな。とにかくファミリシアは禁忌を犯そうとしている・・・そのせいで・・・」
「陛下?」
「いやまずは・・・むう・・・どこから話せば良いのやら・・・そうだ・・・アルオンよ・・・魔王を超越した存在がいたとして・・・その者を斬れる自信があるか?」
「は?──────」
フーリシア王国
王都王城内サロン
「なぜ私達3人だけなのだ?」
「それは・・・リガルデル王国はまだ信用ならないしラズン王国は反対したろ?だからだよ」
テーブルに置かれた果実水を飲み話し疲れた喉を癒しながら答えるとフレシアは呆れた様子を見せた
ここには俺以外の3人の王・・・スウ、フレシア、デュランを連れて来た。一応3人の護衛としてシーリス、シャス、ネターナも同席しているがそれ以外は退出してもらった
「信用されているのは喜ばしい事だけどあれ以上何かあるかと思うと素直に喜べないな」
「そう警戒しなくても無理な事は頼もうとは思ってない。無理な事はね」
「それは無理難題を押し付けようとしている者のセリフだ・・・経済的支援なら幾らでもするがこと戦闘に関しては役に立たぬぞ?」
「なるべく事を荒立てずに済ませたいと思っている。まあ少し落ち着いてから話そう・・・飲み物でも飲みながらね」
まだファミリシア王国がアバドンを復活させようとしているかどうか現時点では分からない。いやそもそも復活ではないか・・・アバドンは一度も死んでないのだから・・・
アバドンが動かない理由はただ一つ・・・魔力不足だ
全てを『破壊』するのに充分な魔力がないと活動しないとか・・・働き者なのか怠け者なのか・・・けどその習性?のお陰で時間の猶予はある・・・もしファミリシア王国がアバドンの活動を促そうとしていても必要な魔力を発生させるには時間が掛かるはずだ
ダンコ曰く相当な魔力量が必要らしいし・・・戦争でも起きない限りは大丈夫な・・・はず
「それにしてもファミリシア王国は本当に・・・」
フレシアは言いかけてチラリと俺を見た後でシャスや他の王達の側近を見た
「大丈夫・・・ここに居る人達は信頼出来る」
まだ各国の王しかアバドンやウロボロスの事は知らない。『王会合』で話した内容は一応他言無用とは言ったけど1人で抱え込むには事が事だし各国の王には信頼出来る人には話してもいいと言ってある。ただし国民には知られないようにと念を押したが
国民に知られて不安を煽り魔力を発生させてしまったら元も子もないしね
「・・・そうか。では・・・ファミリシア王国がアバドンを使って何か企んでいるとしよう・・・しかしアバドンは魔王と同等かそれ以上の存在なのだろう?とても人間に制御出来るとは思えないのだが・・・」
「それは我も思った。貴公の話ではアバドンは人間を滅亡させるのであろう?その中にはファミリシア王国も入っているのでは?」
実はそこが謎なんだよな
期せずしてアバドンが動き出すならまだしも狙って動かしても何のメリットもない。下手すりゃ真っ先に滅ぶ可能性もあるくらいだ
ファミリシア王国はアバドンを制御出来ると思っているのか?そうだとしたらアホとしか言いようがない
「その辺は俺がファミリシア王国に行って確かめて来る。何を考えているのか直接聞いたとしても答えてはくれないだろうから時間は掛かるだろうけど・・・」
ダンコすら知らない方法があるのかもしれないけど・・・ないよなぁ
可能性があるとすればウロボロスだ
インキュバスとアバドンと同等であるとされるウロボロスなら可能性がなくもないかも・・・けどそれはあくまでウロボロス主体で行った場合で人間がアバドンを制御するのは無理・・・考えても仕方ないけどモヤモヤするな・・・もしウロボロスが関わってたとしてもなぜ・・・ハア・・・分からないことだらけだ
「ふむ・・・貴公が調査してくれると言うなら安心出来るがそれなら我らは?てっきり調査を頼まれるかと思っていたのだが・・・」
「うん調査を頼みたい」
「?あまり良い策には思えぬが・・・貴公は単独で調査するのであろう?我らが調査に乗り出せばバレる可能性が高くなり警戒されるのでは?」
「逆にそれが狙いだ。フーリシア王国、シャリファ王国、アーキド王国が調査し始めたら否が応にもファミリシア王国も気付くと思う。後ろめたい事がなければ何を調べているのか訝しむ程度・・・けど後ろめたければ何か行動を起こすかもしれない」
「ふむ・・・行動を起こすということは調査が困難になるやもしれぬぞ?」
「構わない。行動を起こしたらこちらは少し大胆な行動に出るだけ・・・その方が早く片付く」
何もないに越した事は無いけど何かやろうとしているなら容赦はしない。王族を滅ぼしてでも止める・・・今の段階だと出来ないけどシッポを出したら力尽くでも・・・
「そうか・・・貴公にはその手があったな。慎重にならざるを得ないのは確証がないから・・・少しでも疑わしければ乗り込めるという訳か」
「え、ええ、まあ・・・」
なんだか傍若無人なイメージが付いてしまっているような・・・そりゃたまには暴れたりもするけども本来は平和を望むごく一般的な青年ですよ?
この後デュラン達をそれぞれの国に送り届け再び王城に戻るとスウとシーリスはまだサロンに残っていた
それにしても様子がおかしい
スウは何やらブツブツ呟きシーリスはその様子を呆れた様子で眺めていた・・・この短時間に一体何があったんだ?
「あ、バカ兄貴!」
「誰がバカ兄貴だ・・・女王陛下はどうしたんだ?」
「どうやら会合で全く発言出来なかった事を悔やんでいるみたいなのよね・・・新人だから舐められないよう気張って行ったのに散々だったって・・・そんなに酷かったの?」
会合はほとんど俺が喋ってたからな・・・質問はフレシアとワグナが・・・足りない部分はデュランが補足してくれて・・・そう言えばリガルデル王国の王様とスウはほとんど口を開いてなかったな・・・
「うぅ・・・国王デビュー失敗したぁー・・・」
なんだその国王デビューって
「別に今回は俺の話を聞いてもらうだけだったし次頑張ればいいんじゃないか?」
「バカ兄貴の話?一体何を話したの?王様達を集めて」
「聞いてないのか?」
「だってスウ・・・女王陛下ずっとこんな状態だし・・・で?何の話?」
「えっと・・・ファミリシア王国に気を付けろって話と少し昔話を少々・・・」
「何よ昔話って・・・まさか自分の暗い過去の話を王様達に?」
「なんで俺の話をするんだ・・・てか暗い過去言うな」
「だって学校でも家でもひとりぼっちだったじゃない・・・今の人達が兄貴の過去を知ったら・・・ププッ」
「うるさいな・・・誰だってそういう過去を経験して大人になっていくんだ」
「アタシはなかったけど?そんな過去」
「だからいつまで経っても子供なんだよ」
「・・・アンタ・・・今どこ見て言った?」
「胸部」
「・・・」
「・・・」
「やめぬか・・・人が落ち込んでいる横で兄妹で殺し合いを始める気か?」
国王デビュー失敗で落ち込んでいたスウが睨み合う俺達を見てため息をつく
「・・・滅相もありません女王陛下。殺し合いなんてそんな・・・一方的にやられるだけです・・・俺が」
「自信満々に言うな『大陸の守護者』よ。そんなんで大陸を守れるのか?」
「大陸の守護者?何よそれ・・・」
「ありとあらゆる者を・・・王族を含む全ての者を罰する事が出来る存在・・・それが『大陸の守護者』・・・そしてお主の兄の肩書きだ──────」




