539階 王会合
準備は全て整った
後はこの会合を成功させるだけ
大きな円卓に集うは六人の王
この時この場所で世界の命運が決まると言っても過言ではない
「これより『王会合』を始めたいと思います」
俺が言うと各国の王は一斉にこちらを向いた
「『王会合』か・・・なかなか面白い試みだな。これまで通信道具を使っての話し合いはあったが面を合わせて話した事は一度もねえ・・・それに護衛も入れねえ徹底ぷり・・・何を話すのやら」
ラズン王国国王ワグナ・ザジ
「皆様のお顔を見られて嬉しく思います。このような機会をくれたローグ卿に感謝を」
シャリファ王国国王フレシア・セレン・シャリファ
「基本商売は相手の顔を見てするようにしている。もし我が国と商売がしたいのなら後ほど直接言ってくれたまえ・・・まあ断る場合もあるが、ね」
アーキド王国国王デュラン・カカルド・ソーネスーネ
「・・・」
リガルデル王国国王フォーデム・サーザント・リーブル
「まだ王位に就いて間もなく知らぬ事も多いが大目に見てくれると助かる。だがこれだけは言うておく・・・王は王だ・・・他と変わりなく接してくれ」
フーリシア王国国王スウ・ナディア・フーリシア
「全員知っていると思いますので自己紹介は省かせてもらいます。それでは・・・」
「待て。二つ疑問がある。一つは一国足りねえってことだ。で、もう一つは・・・なぜお前が仕切ってんだ?ロウニ」
「なぜって・・・魔王ですから。王会合には欠かせない存在と自負しております」
「・・・まだその遊びに付き合えってか?」
「遊びかどうかは話を聞いてからにしてださい。それともう一つの国ファミリシア王国ですが国王が急病の為欠席となりました」
「仮病か」
「さあ・・・どうですかね」
この『王会合』を開くにあたってかなり準備に時間を費やした
まず手紙を出し王会合の開催を伝えると何日か候補日を伝える
そして全員が出席出来る日が決まると会場の建設し当日の段取りを話し合い苦労の末に今日という日を迎えた
頑張った・・・誰も褒めちゃくれないが頑張った・・・なのにゲートを使って迎えに行くとファミリシア王国国王は体調不良で欠席と来たもんだ。滅ぼしたろかあの国
「全員揃わなくても良い話なのか?もし可能ならファミリシア王国国王も揃う日に変更した方が・・・」
「シャリファの・・・お前さんの国は暇かも知れんが俺はこう見えても忙しい・・・その忙しい中わざわざ来たのに別日だと?」
「私の話を聞いていましたか?『もし可能なら』と申し上げたはずですが?ああ、その程度の頭だから事務処理が時間掛かって仕方ないのですね。私のところの人材をお貸ししましょうか?在学中でもかなり助けになるはずです」
「おうコラ乳揉むぞコラ」
「なるほど・・・乳幼児でしたか」
「んだと!?」
勢いよく椅子から立ち上がるワグナ
自分から喧嘩を吹っかけといて返されたら逆ギレ・・・何がしたいんだまったく・・・
「静粛にお願いします。そしてお座り下さいワグナ国王・・・ここでの武力行使は一切禁止させていただきます。破った場合は・・・その国は不要と判断します」
「・・・脅しか?そんな事されたら引くに引けなくなるじゃないか・・・そうなるとどうなるか分かってるのか?ロウニ」
「試してみますか?」
「・・・」
「・・・」
「・・・チッ・・・仕方ねえ。お前さんの顔を立てて大人しくしてやる。で?どうすんだ?ファミリシアが来るまでここで待つか?」
いつまで待つ気だよ
「ファミリシア王国の欠席は残念ですが病気とあれば仕方ありません。なのでファミリシア王国抜きで話を進めたいと思います」
「全ての国が集まる必要がない・・・そういう事か?」
「いえ・・・本当なら集まって頂きたかったのですが欠席が一国なら問題ありません」
「?それは一体・・・」
「これから私が話す内容・・・その内容に対して多数決を取りたいと思います。本当なら私を抜いた6人の国王で多数決を取り賛成が上回れば実行に移したいと考えていました。ですが今は5人・・・6人の時と違い5人なら3人賛成で反対を上回る事になります。それだと私としては不本意なので不参加のファミリシア王国がいると仮定して決を取ります。ファミリシア王国は自動的に『反対』とし残る5人が『賛成』3人『反対』2人なら同数で否決・・・つまり『賛成』が4人以上でないのなら実行には移さない事とします」
「・・・それだけ自信があるって事かい?それとも裏で『賛成』を確保しているとか?」
「デュラン・・・国王。この話をここの方達にするのは誓って初めてです」
「ならそれだけ自信があるってことか・・・興味深いね」
正直自信は・・・ない
けど本来なら全ての国に賛成されないといけないような内容だ。多数決にしたのは必ず反対する国があるから・・・まさにその国がファミリシア王国だったんだけどね
「んで?その提案ってのは?もったいぶらずにさっさと言え」
「・・・提案の前にひとつ皆様に知っておいて欲しい話が・・・これからする話は他言無用でお願いします」
「他言無用?」
「はい。人類の歴史に決して刻まれなかったとある時代の真実です──────」
俺が国王達に話したのは何世代か前の勇者と魔王の物語のその後だ
おそらく最低でも三回・・・三世代は勇者が連続で勝利を収めているはず・・・勇者の物語が三世代分あるからだ
という事は三世代より前に人類の歴史は『破壊』された
『破壊』の魔族アバドン・・・奴の手によって
「・・・勇者を倒した魔王よりも更に強力な魔族であるそのアバドンが復活すると?」
「ええ。本来なら勇者の勝利によりアバドンは復活しない・・・はずでした。でもそれは輪廻という繰り返しがあってこそ・・・輪廻が途切れた今いずれアバドンは復活してしまう可能性があるのです」
「勇者と魔王が繰り返し戦っていた事自体が輪廻・・・それが途切れたからと言ってなぜそのアバドンが?」
「アバドンもまた勇者と魔王の輪廻の内側だからです」
「輪廻の内側?」
「役割とでも言いましょうか・・・勇者と魔王が織り成す物語・・・その物語の中心人物にアバドンはいたのです。魔王が勝利した時のリセット役として」
「だからその輪廻が途切れたのであろう?なら復活はしないのでは?」
「途切れたからこそ、いつ復活してもおかしくないのです。勇者が勝利した輪廻でアバドンが出ない理由・・・その理由は単純に『魔力不足』だからです」
「魔力不足?」
「ええ・・・魔力とは人間が抱く負の感情により発生します。勇者の勝利により負の感情は薄れ大陸中は魔力不足に陥ります。それが勇者の勝利時にアバドンが復活しない理由です」
「じゃあなんで・・・」
「勇者が勝利した後平和な時代が続きます。ですがその時代も短く敵であった魔族や魔物が居なくなった事をいい事に人間は人間同士で争いを始める・・・それにより魔力は溢れ出し・・・」
「ちょい待ち!だったら結局勇者が勝利してもそのアバドンってのは復活してたんじゃねえのか?必要な魔力があれば復活するんだろ?」
「いえ・・・そうはなりません」
「??なんでだよ」
「ダンジョンがあるからです」
「???はあ?なんでそこでダンジョンが・・・」
「ダンジョンが魔力を吸収するからです。魔王を復活させる為に」
「・・・おい・・・誰かコイツの話を俺にも理解出来るように話してくれ」
えぇ・・・そんなに分かりにくいか?どう説明すれば・・・
「単純な話ですよワグナ殿。輪廻が途切れ魔王は復活しなくなった・・・つまりダンジョンが魔力を溜める必要がなくなった。これまで魔力を溜めてたダンジョンが溜めなくなれば自ずと魔力は蔓延する・・・そしてその魔力がある一定量を超えれば・・・」
「アバドンって奴が復活する・・・ってか?」
「そうです」
ありがとうデュラン・・・そう言ったつもりだったけど言葉足らずだったか?
「・・・質問よろしいですか?」
「どうぞ」
「なぜこれまでそのアバドンの存在が知られなかったのですか?ローグ卿の話ではこれまでアバドンが復活した時代があったとの事・・・それなのに誰もその名を知らないのは不自然では?」
「誰が後世に残すと言うのです?誰もいないのに」
「・・・まさか!」
「ええ・・・アバドンは『破壊』の魔族・・・勇者に勝利した魔王よりも強い存在・・・誰がその魔族を止められると?」
止められる者など存在しない。つまり・・・
「生きとし生けるもの全て無に帰る・・・破壊の限りを尽くすアバドンの手によって」
魔族どころか人類も滅亡する。それが魔王が勝利した時の歴史の末路
「待て待て・・・お前は人間が木みたいに何も無い所から生えてくるとでも言いたいのか?絶滅した過去があるってならどうやって俺らが存在してるって言うんだよ」
「仰る通り生えてきませんよ・・・ただ創られただけです」
「創られた?・・・ハッ!まさか神様でもいて人間を創るとでも言いたいのか?」
「髪の存在は分かりませんが人間を創れる存在は知っています」
「ほう・・・そいつは誰だ?もしいるなら宗教を立ち上げて毎日拝んでやるよ」
「なら私に毎日拝んでください」
「あん?」
「人間を創造したのは『創造』のインキュバス・・・今私が演じている魔王です」
「・・・すまん・・・アーキドの・・・解説頼む」
「我も理解が追い付いていない・・・魔王が・・・インキュバスが人間を創造した?疑問は尽きないが最も疑問に思う事はもし魔王が創造主ならばなぜ人間を襲うのだ?」
俺も初めて聞いた時は驚いた
人間はどうやって生まれて来たのか・・・人間が魔族であるインキュバスの創造物であると聞いて耳を疑ったもんだ
けどじゃあ他にどうやって生まれたかなんて思い付かないしインキュバスの力を知っている俺なら分かる・・・インキュバスは人間を創る事が出来る、と
そこで生まれるのが当然の疑問・・・ではなぜインキュバスと人間は争うのか
それを聞いた俺にダンコはこう答えた・・・
「人間もやるだろ?・・・親子喧嘩──────」




