51階 人喰いダンジョンwithゲイル
「本当に俺と2人で良いのか?俺は近接アタッカーだぞ?まあ少しはタンカーっぽい事はしてやれなくもねえが・・・」
「大丈夫です。ボスに挑むわけでもないですしゲイルさんに今の僕の実力を知ってもらうだけなので」
次の日、僕とゲイルさんは冒険者ギルドで落ち合い、共に『人喰いダンジョン』に訪れた
入口に立つギルド職員に入場許可証を見せて中に入るとゲートのある部屋に向かい11階へ
昨日はすぐにゲートで帰ってしまったからまだ11階の様子を見ておらず、少しドキドキしながら11階のゲート部屋から出るとフロアに繋がる扉を開けた
「え?・・・外?」
「なんだ覗いてから戻らなかったのか?外に見えるが当然ダンジョンの中だ。少し光が強くて壁がなくて広大な大地が広がってるだけだ」
いや『だけだ』って・・・天上も高いし何より地面が土だし・・・時折風が吹いてくるように感じるのは錯覚?にしてもダンジョンってこんな風にも作れるんだ・・・凄いな・・・
「初めて見る風景で感動するのは勝手だが気を付けろ・・・来るぞ」
「へ?来るって・・・」
僕がゲイルさんの方を向くと彼は空を指さした
上?
ゲイルさんが指す方向・・・その方向に視線を向けると驚くことに鳥が飛んでいた。ダンジョンに鳥って・・・いや、そう言えば魔物リストに鳥の名前があったような・・・
「人喰い鳥ビークイーグル・・・急降下して鋭いくちばしで突いて来るぞ!ちなみに好物は人間の目ん玉だ」
「・・・目ん玉・・・」
「最初は俺がやる!倒し方をよく見ておけ!」
「いえ・・・今日はゲイルさんに僕の実力を見てもらう為に来たので僕がやります」
「・・・分かった・・・くちばしには気を付けろ!」
「はい!」
やっぱり凄いな・・・こんなに天井が高いから鳥も自由に飛べる。鳥を創れるのもこの広大なフロアがあってこそって感じか
「ロウニール!来るぞ!!」
ビークイーグルが獲物である僕を見て急降下して来る。遠くで飛んでいる時はそこまで大きさは感じなかったけど近付いて来るとその異様な大きさに目がいった
大きい・・・人間と同じくらいかそれ以上・・・
僕は真っ直ぐに降りて来るビークイーグルに向けて剣を抜き構えるとマナを剣に纏わせ魔法を展開する
「・・・魔法剣『風嵐』」
真っ直ぐ急降下して来たことが仇となりビークイーグルは為す術なく僕が放った風の刃に切り刻まれあっさりと絶命した
「なっ・・・ロウニール・・・お前・・・」
「まだまだこれからです・・・行きましょう」
これくらいじゃ2年間待たせる価値はないと思われてしまう。2年間も待たせるのだからもっと可能性を見てもらわないと・・・
それから11階に出て来る魔物を倒しながら進み12階への扉の前まで辿り着いた。今までの階層に比べてかなり広く感じる。けど壁で区切られておらず開放感があるからかサクサクと進むことが出来た・・・こういうフロアも面白いかも知れないな
「・・・ぶっちゃけもう少し弱えと思ってたが・・・いじめてた奴に同情するぜ」
「って事は・・・」
「ああ・・・もう十分見せてもらった。ロウニール・・・お前に賭けてみたい・・・2年後・・・ドラゴニュートとの一戦お願い出来るか?」
「はい!」
どうやらゲイルさんは僕の事を認めてくれたみたい・・・10階をソロでクリアしたって聞いてても実際見てみないと分からないしね。半信半疑から確信に変わったのか目に力が宿る
「俺も2年後にピークを持って行く・・・それとタンカーとヒーラーだな・・・」
近接アタッカーがゲイルさんで僕は近接アタッカー兼後衛、後は僕とゲイルさんを守るというよりヒーラーを守るタンカーとヒーラー
ドラゴニュートの事は昨日の夜にダンコから詳しく聞いた
二足歩行で素早く動くのでアタッカーをタンカーが守る事は出来ないだろう。タンカーは基本装備が重いので素早い動きの魔物は苦手だ・・・素早い魔物相手だとどうしても陣形が崩れてしまい、全員を守ろうとしても無理が生じる・・・けど誰か1人を守るのであれば動く必要がないからタンカーにヒーラーを守ってもらいアタッカーは傷付いたらそのヒーラーに回復してもらいに行く戦法が最も適していると思う
「40階のボス部屋に制限はあるのですか?」
「さあな・・・前に30階で試したら5人までだったから恐らく40階も5人だろう」
ダンジョンのボス部屋には人数制限がある場合が多い
物量作戦で攻略出来ればいいのだけどそうはさせてくれないんだ。大体5人から10人までが相場らしくその制限人数を超えて入ろうとすると扉が勝手に閉まってしまうらしい
ちなみにエモーンズのダンジョンは無制限だけど誰も知らないから大体入るのは5人くらいかな。まあパーティーも基本4人から5人だし2パーティーで入ったとしても報酬で揉める事があるから1パーティーで入る事がほとんどだ
「もう1人アタッカーを入れるか・・・その辺は本番までに考えておくとしよう。今日はもう戻るか?」
「・・・いえ、少し先の階も見たいのでちょっと1人で先に進んでみます」
「・・・そうか。あまり先に進んでおっ死ぬなよ?まっ、お前の実力なら20階までは余裕だろうけど・・・念の為にこれを持って行け」
そう言ってゲイルさんは瓶を手渡してきた
「マナポーション・・・お代は・・・」
「手付金だ・・・師匠が言ってなかったか?ギルドが全力でサポートするって」
確かそんなような事は言ってたけど、それってカルオスに残って冒険者をした場合じゃ・・・
「無茶をするなとは言わねえ・・・ただし死ぬな。餌はもうたっぷりやったんだ・・・今度はその見返りを受ける番だからな」
「・・・はい!」
あの遺体無き墓標の数を見ればどれだけの冒険者がここで命を落としたか分かる・・・かなりの数の冒険者がこのダンジョンに喰われてしまった・・・それはある意味仕方のない事かも知れない・・・ダンジョンは平等・・・得るものがあるのなら失うものもある・・・だから逆も・・・失うものが多ければ得るものも多くないとね
「じゃあな。俺は戻って今後の事を師匠と話してくる・・・久しぶりに血が滾る気分だ・・・」
そう言ってゲイルさんは背中に背負った斧を取り出し手に持つと来た道を戻っていく
僕はその後ろ姿を見えなくなるまで見届けた後、振り返り12階への扉を開けた
《まったく・・・どうなっても知らないからね!》
「ダンコの計算だと2年後ならソロでも倒せる・・・じゃなかったっけ?」
《ええ・・・今のままのドラゴニュートならね》
「経験・・・か」
魔物も経験を積めば強くなる
数多くの冒険者がドラゴニュートに挑み敗れればその分ドラゴニュートは強くなってしまうはずだ・・・僕みたいに魔物を入れ替えたりしなければ
《普通はそのまま同じ魔物に守らせる。となると今いるドラゴニュートはさっきの人間の親を殺したドラゴニュートと同じって事よ?それからどれだけの冒険者が挑んだか知らないけど普通のドラゴニュートと同じ強さとは思わない事ね》
「そして2年の間にどれだけの冒険者が挑むのか・・・」
《それこそ餌となる人間が増えれば増えるほど手が付けられなくなる・・・》
「ねえ・・・ていうか、今でも相当強くなってんじゃない?十数年同じドラゴニュートっぽいし・・・」
《そうね》
「だったら今のドラゴニュートなら2年後勝てる保証も・・・」
《それは大丈夫・・・見れはしないけど何となく分かるの・・・今のドラゴニュートの実力が。もっと詳しく分析するなら直接見ることが1番だけど・・・流石に40階までは厳しいわ・・・今のロウの実力なら30階までが限度ね》
「そこまで分かるんだ・・・どういう仕組み?」
《何となくだから仕組みなんて分からないわよ。でも感じるの・・・奥に潜む魔物の強さ・・・40階の更に奥の魔物も・・・》
「やっぱり40階が最下層じゃないんだ・・・」
《ええ・・・人間は成長が止まったと言ってたけど成長は続いてるわ・・・悔しいけど私達のダンジョンがまだまだって思わせられるほどにね》
エモーンズのダンジョンは現在27階まで作ってある
既に40階があるってことは当然このダンジョンの方が深いのだけど、ダンコの悔しさが滲む声を聞くとかなり深くまでこのダンジョンは作られているのだろう
「まっ、すぐに追いつくよ・・・さっ、じゃあ今日は進められる所まで進んでおこう」
《30階までだからね!30階のボスはアナタにはまだ早い》
「はいはい・・・とりあえず進める所まで進んでお腹が空いたら帰るよ。どうせこのダンジョンのゲートを使わなくても進んだ所まで次来る時は行けるんだし・・・」
普通はボスを倒さないとかなり手前から攻略を再開しないといけない。今の状況だと20階のボスを倒さないとまた11階からやり直しだ。でも僕にはゲートがある・・・15階まで進めばゲートを使って15階から始められるのは凄い利点だ
12階に降り立つと11階と同じようにまるで外に出たような感覚に陥る
未だ慣れない不思議な感覚に戸惑いながらも13階目指して歩き出す
「さあ今日は15階を目指して・・・頑張ってみようか──────」




