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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
537/856

533階 魔王と勇者

「おいジーク!起きろ!」


声が聞こえる・・・この声は・・・ダンテ?


僕は何を・・・僕は・・・・・・・・・


「魔王!?」


「誰が魔王だ!もうとっくに回復してやったんだからとっとと起きろ!シャスだけじゃ保たねえ」


シャスだけ・・・そうか僕は魔王の一撃で気を失って・・・


「しっかりしやがれ・・・お前が魔王の気を引いてくれりゃウルティア達を回復出来る・・・いや、シャスとお前の2人でもいい!とにかくこのままじゃジリ貧だ・・・グースカ寝てる奴らを働かさねえとな」


「だね・・・最初は僕一人でって思いもあったけどやっぱりみんなの力が必要だ・・・何とか気を引くからその間に・・・」


「ああ・・・アイツの言葉にゃ人を従わせる力があるみたいだ・・・けど戦ってる最中ならその力も弱まる・・・いいか?最低でも一人分くらいは耐えろよ?」


「任せろ・・・全員回復するくらいの時間くらい稼いでみせるさ・・・僕は勇者だから・・・」


「おう頼んだぜ・・・じゃあ行くぜ?」


「うん!行こう!」


シャスが何とか魔王を相手に粘ってくれてる


僕は起き上がると自らを奮い立たせ残ったマナを絞り出す


さっきの一撃は防がれた・・・けどまだ諦めない!


僕は・・・勇者だ!


「うおおおおぉ!魔王!!!」


もう何度目の突進だろうか・・・その度に防がれたり躱されてしまった・・・けど諦めない・・・僕が諦めればそこで人類の敗北が決まるから


そして・・・二度とラナに会えなくなるから


だから僕は決して諦め・・・


「やっと起きたか・・・『ゲート』」


ゲ・・・ゲート!?


目の前にゲートが現れる


飛び上がり魔王に向かって落ちて行く最中の僕は為す術なく目の前に開かれたゲートへと吸い込まれてしまった


どこに繋がってる?


まさか僕達を分断して個々にやるつもりか?それとも魔物の巣窟にでも送り込む・・・え?



そこはホコリの匂いがする民家だった


生活感はあまりない・・・けど何故か懐かしくもあり安心出来る・・・そんな家の中に僕は送り込まれた


「どこだここは・・・魔王は?みんなは?」


辺りを見回しながら呟くと誰かが階段を降りてくる音がする


二階建て?二階に誰か住んでたのか?魔王はなぜここに僕を?


次々に疑問が浮かぶ・・・けど誰が降りてくるか気になりひとまず階段がある方を見ていると降りてきたのは・・・


「物騒なものはしまって落ち着けよ・・・勇者」


「っ!・・・魔王!」


降りてきたのは魔王・・・という事は僕から倒した後でみんなを・・・


「何をしてる・・・剣をしまえよ。落ち着いて話も出来ない」


「話?今更何を話すって言うんだ?てかここはどこだ?何を企んでる!」


「色々と、ね。まあいいや・・・とりあえず疑問に答えるとしよう。ここは前に住んでた俺の家でこれから話すのは俺の物語だ」


「魔王の家?・・・この家が?」


「そう・・・さて、どこから話そうか・・・やっぱりあの祭りの時かな──────」





魔王は一人で勝手に話し始めた


この街がまだ村だった頃、当時5歳だった魔王・・・いやロウニールはある不思議な石を見つけた


その石を両親から咄嗟に隠そうとして飲み込んでしまい彼の人生は劇的に変わってしまった


石はダンジョンコアであり魔族のサキュバスだと彼は言う


にわかに信じられないが僕はそのまま話を聞くことにした・・・だって彼には僕を騙す理由がないから・・・


「で?そのサキュバスに騙されてダンジョンを作ったって?」


「騙されたかどうかは意見が分かれるところだな・・・俺は騙されたと思っていない」


「ダンジョンが魔王を復活させる為のものと分かってたらダンジョンなんて作らなかっただろ?だったら騙されたって事じゃないのか?」


「遅かれ早かれ魔王は復活していた・・・ただ早まっただけだ」


「早まったから人類は危機に瀕したんじゃないのか?僕が勇者と自覚する前に魔王が暴れていたらどれだけの犠牲が出ていたことか・・・」


「・・・意外と賢いな」


「バカにしてんのか?」


「いや・・・結果的には魔王を敵に回してまで俺を助けてくれたし強くしてくれたから・・・騙そうとしたのかもしれないけど過ごした日々が全て嘘とは思えないから・・・ほら、終わりよければすべてよしって言うだろ?」


ダンジョンを作り、そして育て魔王を復活する条件を満たしたロウニールは予定より早く魔王を復活させてしまった


そしてこの街で繰り広げられた・・・人知れず人類の存亡を賭けた戦いが


「で、その戦いに勝利した・・・か。もしかして魔王を倒すと魔王になるシステムでも?」


「だったら歴代の勇者は魔王になってないとおかしいだろ?」


「勇者は特別とか・・・まあでも・・・そこはいいや。問題はロウニール・・・お前がなぜ魔王と名乗っていたか、だ。僕の代わりに魔王を倒した英雄なのになぜ・・・」


「別に英雄じゃない。自分で魔王を復活させて自分で倒しただけの事・・・本来勇者の役割を奪うような形でね。魔王を名乗った理由は・・・色々ある。きっかけはくだらない事だ。リガルデル王国の王位継承争いに巻き込まれた・・・それが俺が魔王を名乗る事になったきっかけ・・・」


「??リガルデルの?なんでリガルデルの王位継承争いがお前が魔王を名乗るきっかけになるんだよ」


「うーん・・・これまた複雑でね・・・」


ロウニールの話は初耳だった


リガルデルが以前フーリシアの闇組合と組んでフーリシアに攻め入った


その数10万


当時のフーリシアは兵を掻き集めてもその半分にも満たなかったらしい・・・つまりフーリシアの運命は風前の灯だった・・・が、フーリシアとの国境を越えた辺りで事件が起こる


約5万のリガルデルの兵士達がたった一人の男に殺された・・・その男こそ目の前の男・・・ロウニール・ローグ・ハーベス


「一体どうやって・・・いや、強いのは肌で感じて分かっている・・・けど5万もの人間を殺すなど不可能だ!」


「それが出来るんだな・・・ダンジョンであれば」


「??・・・ダンジョン??」


「俺の中にはダンジョンコアがある。そのコアの力で国境付近を一時的にダンジョン化し大量の魔獣を創り放ったんだ・・・リガルデル王国軍に向けてね」


「それで大量の人達を・・・なんでそんな事をした!」


「・・・リガルデル王国軍総勢10万の兵士達・・・その兵士達が国境を越え進入して来た・・・さて勇者ジーク・・・お前はその兵士達がお行儀よく自分達の国に帰ると思うか?奴らの目的はなんだ?観光か?」


「・・・戦争・・・」


「違う・・・虐殺だよ・・・一方的な、ね」


「なっ!?」


「闇組合の目的は復讐・・・国に村を滅ぼされた者の元に集まった数名の闇組合が国に対して復讐しようとしていた。ただ闇組合だけじゃとてもじゃないけど国に復讐するのは難しい・・・だからリガルデル王国を利用した。闇組合は国に復讐出来ればそれで良かった・・・たとえ復讐を終えた後にフーリシア王国がリガルデル王国に落とされたとしても」


「・・・」


「利害の一致によりリガルデル王国軍は国境を越えた・・・フーリシア王国は当然リガルデル王国軍を迎え撃つ為に軍を出した・・・半分にも満たない寄せ集めの軍をね。第一から第三騎士団・・・そして貴族の私兵が迎え撃つ・・・が結果は散々、第一第二騎士団は敗走し、最前線にいた第三騎士団と貴族私兵達が残り一方的な虐殺が行われようとしていた」


「・・・そこにお前が現れリガルデルの5万の兵を?」


「そういう事・・・そこには俺の知り合いが結構居てね・・・俺の私兵や友人・・・その人達が殺される寸前に俺は到着した」


「それで怒りに任せて・・・」


「怒りもあったがその時は相手の兵士は死んで当然と思っていた」


「なんで?」


「言ったろ?お行儀よく国に帰るとは到底思えなかったからだ。奴らは俺の仲間達を殺した後で国を奪いに進軍する・・・村や街に寄り食料を強奪し逆らう者は皆殺し・・・若い女性は兵士達の慰み者になり老人子供は兵士達が通り過ぎるのを息を潜めて待つしか出来ない・・・たとえ家族が殺されようともね。そんな事をしようとしている奴らを殺しても当然・・・当時はそう思っていた」


「・・・当時って事は今は違うのか?」


「うーん・・・考え方は違くはない。自分がやろうとしている事はやられても仕方ないだろ?って思ってる。けど兵士達も好きでやってる訳ではないかもしれないと考えるようになった・・・だから問題はやらせている奴ら・・・つまり偉そうにふんぞり返る王や将軍・・・それに貴族達だってな」


「確かにそうかも・・・じゃあそいつらを?」


「いや・・・それだと闇組合と変わらない。抑止力って言葉を知ってるか?」


「・・・何となく・・・」


「その抑止力に俺はなろうと思ってる。王や将軍、貴族達のような上に立つ者がしっかりと人々を導くように・・・間違った事をすれば俺が来る・・・だからやめておこうと思えるような・・・」


「・・・ん?まさか僕を使って力を誇示してその抑止力になろうとしたのか?」


「それもあるがそれだけじゃない・・・勇者には人類の希望のままでいて欲しい・・・そう思っているから俺は魔王を演じた」


「・・・どう言う事だ?」


「簡単に言えばどこぞの誰かが魔王を倒したって言うより勇者が倒したって聞いた方が人は喜ぶだろ?」


「そう・・・なのか?」


「そういうもんだ。勇者の物語・・・読んだことあるか?」


「そりゃああるけど・・・」


「もしその本を読んでいて結末が『勇者は魔王城に乗り込んだが既に魔王は倒されていた(完)』だったら?」


「・・・ガッカリだな・・・」


「だろ?人々は期待している・・・勇者が魔王を倒す事を。だったらその期待に応えなくっちゃな」


「つまり・・・お前は僕に倒されるつもり・・・って事か?」


「そそ。そうだな・・・出来れば魔王ロウニールではなくて『実はロウニールは魔王に操られていた!勇者はそれに気付き真の魔王を倒し世界に平和をもたらした!』・・・が、いいかな」


「???」


「まあその辺は任せておけ・・・それとそろそろ動き出すぞ」


「何が?」


「悪い奴ら」


ロウニールはそう言うとニヤリと笑った


彼の言葉を全て信じた訳じゃない


相手が攻め込んで来た兵士とは言え大量虐殺しているのは事実だし魔族を従えてるし


けど僕の直感が叫ぶんだ・・・彼は魔王じゃない、と


彼と友人で建てたという家の中で僕は彼の言う『悪い奴ら』が何をするつもりで誰なのか考えながら待つ事にした


その結果がどうあれもう既に戦う気がないと意思表示する為に聖剣を背中にしまいホコリまみれの床に座りながら・・・待つ事にしたんだ──────

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