532階 因縁
輪廻と言うのが正しいのかそれとも因縁?因果?
本物の魔王と勇者が結んでいた縁・・・僕が断ち切ったはずの縁がまた結ばれようとしている・・・今度は僕と勇者とで
「リンネ?リンネってなんだ!人を裸にして自分も裸になって・・・どんな技だ!?・・・・・・まさか・・・」
「その『まさか』だよ・・・なんて言うとでも思ったか!何が『まさか・・・』だ・・・引きながら下半身を隠すな。疑われるだけで寒気がするわ!」
「・・・ち、違うんだな?」
「違う違う・・・てかぼ・・・俺の技じゃないし・・・なんでこうなったか俺にも分からないが技とかそんな次元のものじゃない」
どう説明したらいいんだ?
僕とお前の間に輪廻が生まれそうですとでも言えばいいのか?・・・また勘違いされること請け合いだな
「・・・よく分からないな・・・てか喋り方変わり過ぎ・・・実は今の感じが本当のお前なのか?」
「・・・」
このまま全て話してしまうか?
いや、ここがどんな場所か分からないし勇者はまだ僕の言葉を信じてはくれないだろう
それに何だか嫌な予感がする・・・ここに長く居てはいけない・・・そんな気がする
かと言ってどうやって出れば・・・入った方法も分からなければ出る方法も分からない。どうやって入ったか・・・確か入る直前は・・・
「おい!聞いてんのか!てかどこを見てやがる!・・・まさかやっぱり・・・」
「やめろやめろ・・・ぼ・・・俺にはちゃんと歴とした奥さんが・・・しかもその奥さんには俺との子供もいるし!」
「奥さん!?子供も!?・・・魔王に子孫・・・聞いたことがない・・・なんなんだお前は・・・本当に魔王なのか?」
「・・・さあな・・・それはお前が確かめろ」
正直に話したところで信用しないくせに聞くなよな
さてどうしたもんか・・・話せないなら出れるまで待つか?それともここで戦いを再開・・・
「・・・魔王に奥さんと子供・・・」
「ん?なんだ悪いか?魔王と名乗る男が奥さんと子供を待っても別にいいだろ?」
「・・・別にいいさ・・・そいつらもまとめて僕が・・・くっ!」
「やめておけ・・・それ以上言わない方がいいぞ」
「ハ、ハッ!何だそれ・・・脅しのつもりかよ?勇者として僕は魔族を根絶やしにする!当然お前の奥さんや子供・・・も・・・」
「やめろと言ったはずだ」
「っ!?」
目の前の者に死を・・・勇者に対して初めて殺意が湧く
その瞬間真っ白な空間を黒が侵食し始めた
「これは・・・」
「こ、今度は何なんだよ!お前は・・・何者なんだ!」
「・・・俺は──────」
「っ!」「っ!」
剣と刀がぶつかり合う
現実に・・・戻って来た?
おそらく勇者も同時に・・・マジで何だったんだ一体・・・
〘戻って来た?ロウ・・・アナタまさか・・・〙
〘ダンコ・・・知ってるのか?ダンコに会った時みたいに真っ白い空間で勇者と・・・〙
〘やっぱり!・・・という事はアナタと勇者は・・・〙
〘ちょ、ちょい待ち!今勇者を・・・跳ね除けるから!〙
魔力を込めて勇者に競り勝つと勇者は壁際まで吹き飛んでいく
コゲツとソワナがそれを見て顔を顰め構えるが僕は一旦その場から離れる
〘で?あの空間は何なんだ?〙
〘魔王と勇者・・・アナタが切ったその輪廻がまた繋がれる・・・アナタと勇者で〙
〘なんで?〙
〘全ての生きとし生ける物を巻き込む輪廻・・・それには膨大な力を要する・・・おそらくアナタの魔力と勇者のマナがぶつかり合い輪廻に必要な力が発生した・・・そしてアナタと勇者は一つとなり二つに分かれ輪廻を生み出してしまった・・・〙
〘・・・その表現何とかならないか?勇者と一つとなりって・・・吐きそうなんですけど〙
〘仕方ないでしょ?そう言うしか・・・まあとにかくこれでアナタが断ち切った魔王と勇者の輪廻はアナタと勇者に変わり紡がれる・・・アナタと勇者に関わりのある魔族は不死となり勇者と関わりのある人間は転生を繰り返す・・・〙
〘マジか・・・解除するにはどうしたら?〙
〘無理よ。当人達にはどうしようもない・・・魔王と勇者の時のアナタのような人が現れない限りね〙
〘・・・やらかした・・・くそっ・・・そうと分かってれば・・・いや、無理か・・・どっちにしろ戦いは避けれなかったはず。勇者は俺の言葉を聞かないだろうし・・・〙
〘俺?〙
〘ん?ああ、クソ勇者が『僕』って言ってるから何か一緒はヤダなって思って・・・〙
〘クソ勇者?随分な言い草ね・・・認めてるんでしょ?勇者のこと〙
〘認めてるさ・・・今戦ってるのも悪い奴らに騙されてるから仕方なくって感じだし・・・ただアイツ・・・俺に奥さんと子供がいるって知ったら2人も殺すみたいな感じで言いやがって・・・あー思い出しただけで腹立ってきた〙
〘・・・それいつの話?〙
〘真っ白の空間の中・・・てか二人とも裸だったんだけど・・・せめて服くらい・・・〙
〘待って!・・・アナタ・・・拒絶したの?〙
〘へ?〙
〘魔王と勇者の間に輪廻が生まれたのは二人が認め合った結果なの。一方的に認めていたとしても輪廻は生まれない・・・互いに認め合い、相手に敬意を表し・・・けどアナタは・・・〙
〘・・・そういやそれまで真っ白だった空間が急に黒く染ったな・・・ちょうど勇者に殺意を覚えた時に・・・もしかしたらそれが拒絶?〙
〘多分〙
〘多分って・・・曖昧だな〙
〘仕方ないじゃない・・・私だって知らないものは知らないわ。輪廻の話だって実際に見聞きしたものではなく本に書かれている事を読み解いた結果よ〙
〘なるほど・・・でもダンコの読みは合ってると思う。実際にあの白い空間に行った時に脳裏に浮かんだのは『輪廻』って言葉だった。意味は分からなかったけどようやく理解出来たよ・・・けどそうなると今回拒絶出来たとしても勇者とぶつかり合う度に白い空間に飛ばされるのか?〙
〘多分それはないと思う。今回は無意識に惹かれ合い輪廻が生み出されようとしたのだと思う・・・まあもしまた飛ばされても拒絶すれば抜けれるって分かったし・・・〙
〘その『惹かれ合う』って表現やめてもらえませんかね?〙
〘事実なんだから仕方ないでしょ?魔王と初代の勇者は互いに認め合い惹かれ合い輪廻を生み出した・・・今回の輪廻を生み出したのは紛れもなくアナタと勇者よ。まあ完全に成る前にアナタが拒絶して事なきを得たけどね〙
〘くっ・・・まあいいや。とにかく認めず惹かれなけりゃ大丈夫って事だな?〙
〘そうなるわね〙
〘なら大丈夫・・・今はクソガキをどう教育してやろうかって気持ちが強いから・・・人様の妻子をどうこうしようなんて考える性根を・・・叩き直してやる〙
ダンコとの会話が終わる頃、ちょうど勇者の治療も終わったらしく立ち上がって僕を睨みつけていた
叩きがいのある顔しやがって・・・いいだろう・・・ここからが本番だ!
「妙な技使いやがって・・・ぶっ殺してやる!!」
「だから技じゃないと言ってるだろう・・・物覚えの悪い子にはお仕置だ」
今度はこちらから・・・魔力を纏い防御を固めるとカミキリマルを手に勇者へと駆け出した
激闘の・・・始まりだ!──────
・・・僕に向かって来た魔王は突如振り返るとコゲツの元へ
多分コゲツが動いたから標的を僕から変えたのだろう
刀を妙な空間に放り込むと素手と素手の戦いに・・・最初は互角だったけど徐々に押され始めとうとうコゲツは腹部に強烈な一撃をくらい吹き飛ばされ壁に激突し気絶してしまった
その激しい戦いを見て足が止まってしまっていた僕達・・・魔王は次の標的にソワナを選ぶ
体から立ちのぼる黒いオーラが魔王が動くと帯状に伸びていく
ソワナは咄嗟に槍を突くが魔王はそれを余裕で躱し槍の柄を掴んだ
槍を引いても押してもビクともしない・・・それでもソワナは槍を離さずコゲツと同じように殴られ気絶・・・これで6人の内2人も・・・だけどさすがウルティア!魔王がソワナとやり合っている隙に魔王の頭上に雷雲を作り出していた
あの雲から放たれる雷を躱すのは僕の知る中で最も速いアッシュでさえ不可能・・・これでようやくダメージを与えられ・・・嘘だろ!?
ソワナが崩れ落ちた瞬間に雷を放ったウルティア・・・タイミングは完璧に思えたけど魔王は雷を躱しウルティアの元へ
ダンテを守る為に少し離れていたシャスは間に合わず魔王の接近を許したウルティアはあえなく3人目の犠牲者となる
あまりの一瞬の出来事で身動きが取れなかったがこれ以上やられたらマズイ・・・特にダンテがやられてしまえば僕達の勝ちは限りなくゼロになる
止まっていた足を無理矢理動かし魔王の元へと向かおうとすると魔王は一言呟いた
「{動くな}」
すると言葉は鎖となり僕に・・・僕達に絡まりその場に縛り付ける
言葉一つでどうやって・・・いや相手は魔王・・・何が出来てもおかしくない!
僕は全身に力を込めて言葉の鎖を断ち切ると雄叫びを上げて魔王に向かって飛びかかった
「やるな・・・でも動きは単調だ」
魔王は僕の一撃を躱し腹に一撃を加えるとそんな事をほざきやがった
単調な動き・・・そんな事は分かってる
旅をしながらみんなに剣技や魔法を教わりながらここまで来たけどこんな短期間じゃものにならないと諦めた
僕は・・・ダメな勇者だ
仲間が居なくちゃ何も出来ないダメ勇者
けど・・・逆を言えば仲間が居れば何でも出来る!
だから僕は頼るんだ・・・僕一人じゃ出来ないから・・・僕は僕の出来る事をするまでだ!
「『氷盾包囲』!」
「こらこら」
ジャズが僕と魔王だけを取り囲む盾の包囲を作り出す
これなら大きく躱す事は出来ないはず・・・これで終わりだ!
「単調な攻撃もこういう場所なら役に立つだろ?受けてみろ!聖剣『魔王殺し』!!」
「いい名前だ」
そう言うと魔王は空間から刀を取り出した
邪悪な気配のする刀・・・またぶつかり合うだろうけど今度は負けたりしない!
「うおおおおぉ!!」
ここで全てを使っても構わない・・・身動きが取れないシャスが技を使って魔王の動きを封じた今が最後のチャンス・・・ここで決める・・・ここで決めて僕はラナと共に国に帰るんだ!
「死ねぇ!魔王!!!」
剣と刀がぶつかり合う
今度はあの妙な空間に飛ばされることなく鍔迫り合いが続いた
マナが魔力を凌駕し徐々に剣は刀を押し始めた
勝てる・・・そう思った瞬間に魔王が呟く
「死なんよ」
何とも気の抜けた台詞・・・だが気の抜けた台詞とは裏腹に魔力はその勢いを増しマナで覆われた剣を押し返す
そして・・・
「これで終わりだ」
その言葉を最後に僕の視界は暗転し世界は黒く染まるのであった──────




