531階 勇者パーティーVS魔王
「・・・行こう」
朝を迎えてまだ間もない頃、ジークはメンバー全員の顔を見た後で静かに言った
物語に比べてあまりにも寂しい出発・・・歓声などひとつもなく野次馬さえ居ない
居るのはこれまで旅を共にして来た者達のみ・・・ジークはその中の一人である少女に視線を送る
少女はそっぽを向いていた・・・しかし視線はジークに向けられていた
今はそれだけで充分とジークは微笑み歩き出す
五人のメンバーと共に
「あ~飲み過ぎたな」
ラズン王国代表、スカウト、『拳豪』コゲツ
「やられた時の言い訳かい?情けないねぇ」
アーキド王国代表、近接アタッカー、『陸将』ソワナ
「酔い覚ましの薬ありますが飲みますか?」
シャリファ王国代表、タンカー、『氷盾』シャス
「おいおい・・・裏切り者の薬なんて怖くて飲めるわけねえだろ?」
リガルデル王国代表、ヒーラー、『不死者』ダンテ
「ダンテ殿!シャス殿は自ら戻って来て下さったのです・・・その言い方はないかと」
ファミリシア王国代表、遠距離アタッカー、『天侯爵』ウルティア
「ウルティアの言う通りだ。シャスは人類の為に戦うと約束してくれた・・・僕はそれを信じる・・・そしてこのメンバーで・・・必ず勝つ!」
フーリシア王国代表、選ばれし者、『勇者』ジーク
この六人で魔王を討つべく向かった先はエモーンズの奥に突然現れた魔王城
その手前には6縛りの結界があり人間が六人通過するとその後から誰も入れなくなる・・・魔王を討伐するまで
「・・・あれは・・・」
「この街の長と冒険者ギルドの長ね・・・まさか邪魔はしないと思うけど・・・」
結界の前の二人を見てジークが呟くとウルティアはその呟きに答えた
ジーク達は警戒しながらも先に進むと意外にも二人は頭を下げて彼等を迎える
「・・・どういう魂胆だ?」
「さあ・・・本人に聞いてみれば?」
エモーンズの住民は魔王の味方・・・そう思っていたジークは二人が頭を下げた事に少しばかり動揺する
「魂胆などありません。私達は人間ですから人間の代表として魔王を討伐に向かおうとされている勇者様に敬意を示しただけです」
「そうですよ勇者殿。ある意味勇者とは冒険者の頂点・・・ギルド長として敬意を示すのは当然です」
「じゃあなんで邪魔をした?」
「その答えは私達は持ち合わせておりません。答え合わせはこの結界の中でお願い致します」
「・・・残っている仲間達に手を出したら絶対に許さないからな」
「承知していますよ・・・安全は保証致します」
「・・・だといいけどね・・・」
ジークは二人を通り過ぎ躊躇なく薄く張られた結界の中へ
続けて仲間達も結界の中へと入って行く
「魔王・・・城・・・だよな?」
「絵本ではそびえ立つ魔王城が描かれている事がほとんどだけど・・・平屋とは思わなかったわ」
「急ごしらえ感満載だね・・・後ろの屋敷が見えてるし」
入口は立派だが想像よりも遥かに小さい魔王城に一瞬気が抜けてしまったジーク達
だが気を取り直して作りだけは立派な魔王城の扉に両手を当てると一気に押し開く
「・・・魔王・・・」
扉を開くとそこはまるで謁見の間
赤い絨毯が階段上の魔王の座る玉座まで敷かれていた
そこに座るは魔王ロウニール・・・肘掛に肘を乗せ足を組みジーク達を見下ろす
「久しぶりだな・・・約束通り来てやったぞ?」
「律儀な奴だ・・・遠路はるばるご苦労さま」
「・・・貴様を倒せば全てが終わる・・・夜が明けまた日が昇るようになる・・・この混沌に満ちた世界が・・・救われるんだ!」
「どうだろうな・・・まあそれはさておきせっかく来てくれたのだから歓迎の挨拶をしないとな・・・ダンジョン都市へようこそ──────」
仕切り直しという僕の言葉をきっちり守りラズン王国で初めて接触してから会ってない体で話す勇者・・・根が真面目なんだろう・・・その辺は好感が持てるな
そもそも勇者は巻き込まれただけだし本当なら違う形で出会って・・・いや、そもそも出会ってすらなかったのかも・・・勇者は物語の主役で僕は脇役ですらなかったのだから・・・
勇者と魔王の物語・・・その物語におそらく名前どころか描写すらなかったはずの僕が今勇者パーティーと対峙する
「歓迎してくれるのはありがたいが・・・速攻で終わらせる!」
いくら一緒に旅をして数多くの魔物を相手にして来たとしても上手く連携が取れるとは限らない。メンバーが決まったのもここ一週間の事だろうからそういった訓練もしてないはず・・・だから多分・・・
「ダァ!」
剣にマナを纏わせ振り上げた剣を真っ直ぐ振り下ろす
大抵の魔物ならこの一撃で片が付きそうな強力な一撃だ
その一撃を半身をずらして躱す・・・が、その方向に待ってましたと言わんばかりに待ち構えていた奴がいた
「ご指名料だ・・・取っとけ」
コゲツは既に回し蹴りを放っていた
慌てて左腕に力を込めてガードするが衝撃は体全体に伝わり体が一瞬硬直する
そこに更にソワナが槍を突いて来た
無言で放たれた槍は寸分違わず心臓へ
タイミングを見計らい槍先を右手で跳ね上げると少し離れた場所で僕に向けて杖を翳すウルティアと目が合った
「食らいなさい『ウィンドアイシクル』」
氷柱!?いや単なる氷柱じゃない!
杖先から先の尖った氷柱を放ち風で螺旋状に回転させ威力を増大させてやがる!
「『ゲート』」
まともに受けたら胸に穴が空いてしまう・・・どこか遠くへ飛ばしてしまおうと考えゲートを開くがその行動は読まれていたみたいだ・・・ウルティアはゲートを見た瞬間に杖を振り氷柱の軌道を変えてゲートを避け僕の元へ
「・・・ふっ(んなろぉ!)」
魔王らしく余裕ぶりながら必死に仰け反り氷柱を躱す
危なくドデカイ穴が空くとこだった・・・容赦ないなコイツら
「上手く躱したな!でも次はないぞ!魔王!!」
上から目線!・・・まあそれは別にいいけどやっぱり予想通りだ
即席の連携なんてたかが知れてる・・・だから連携するのではなく合わせている・・・勇者の動きに
強いとは言っても勇者と自覚してからまだ日が浅く経験不足は否めない。だから熟練者である周りが勇者の動きに合わせることによって連携を取っている
無理に合わせようとすれば攻撃はチグハグになり隙が生じるけど単純な勇者の動きに周りが合わせれば今の流れるような連携攻撃も可能って訳だ
バラバラに攻撃してくるならともかくこれは結構・・・厄介だぞ・・・
〘なに人間っぽく戦ってるのよ・・・この一週間は何だったの?〙
あ・・・僕は・・・魔王だった
この一週間、僕は仮想勇者パーティーと訓練をした
より魔王っぽく戦う為に
「・・・『次』か・・・果たして『次』がないのはどちらかな?勇者よ」
「なに!?」
「『ダークウェーブ』」
という名の魔力を全体に放出するだけ・・・これで全員を吹き飛ばし個別に攻撃・・・
「『氷盾』」
おい友人
勇者達を吹き飛ばそうと放った『ダークウェーブ』はシャスの氷の盾で防がれてしまった。いや普通に戦ってもいいんだけどさ・・・もっとこうなんか・・・
「私が居る限り誰も傷付けさせないぞ!魔王!」
「・・・『ゲート』」
「ん?イタッ!」
調子に乗ってるシャスの後頭部付近にゲートを開き後頭部を小突く
なんかちょっとイラッとした・・・そっちがその気ならこっちも魔王に徹してやろうじゃないか!
〘初めからそうすればいいのに〙
うるさい・・・ちょっと緊張して忘れてただけ・・・ってまたか
「魔王!!!」
勇者がまた性懲りも無く突っ込んで来る
それに合わせてコゲツとソワナ・・・それにウルティアが動き出す
勇者は剣を肩に背負いそのまま間合いを詰めると間合いに入った瞬間に剣を思いっきり振り下ろした
それと同時に動くコゲツとソワナ
左に避ければコゲツが
右に避ければソワナが攻撃を仕掛けるつもりらしい
さっきは左に避けたからコゲツ→ソワナの流れ。右に避けたらその逆の流れになり最後はウルティアって感じだな
なら・・・避けないとどうなる?
魔力を纏い勇者の攻撃を真正面から受け止める
聖剣が肩にくい込み若干痛むがまるでダメージが入っていないフリをする
すると勇者は一瞬驚愕の表情を浮かべるがすぐに気を取り直し更に剣にマナを流し込み強引に押し切ろうと力を込めた
左右の2人は動きを止めて成り行きを見守る。もしかしたらそういう打ち合わせをしていたのかも・・・勇者の邪魔をするな的な
それにしても勇者のこの力・・・どこから湧き出てくるのやら
まだ少年と言われる歳にも関わらず大人顔負けの腕力で自分の身長くらいある剣を振り回し常人では有り得ない程のマナを使いこなす
魔王に対抗出来る唯一の人間・・・強いから対抗出来るのか対抗する為に強いのか・・・どっちなんだろ?
〘戦いながらくだらないこと考えるのね〙
〘気になるだろ?輪廻とか理とか因果とか魔王が消滅した時点で全て終わったんじゃないのか?なのに目の前の少年は勇者としての力を残している・・・魔王を倒す為の力を〙
〘そりゃあ残るでしょ。この人間の力は確かに魔王を倒す為に継承された・・・けど魔王が消滅したからと言ってその力が都合よく失くなる事はないわ。アナタの作った物がアナタが死んだ後でも残っているようにね〙
〘僕を例に出すなよ縁起でもない・・・今都合よくって言った?〙
〘ええ。魔王を倒した勇者の力は行き場を失い人間に利用されるのが相場だからね・・・魔王を討ち滅ぼす程の強大な力・・・その力を巡って人間は争いを始める。自分の欲を満たす為にね〙
〘欲・・・大陸統一とか?〙
〘そうね・・・殆どがそれだったわね。魔王討伐が成功すると人間達は勇者争奪戦を繰り広げる・・・取り入ろうとする人間、情に訴える人間、脅して言う事を聞かせようとする人間・・・欲望が渦巻き勇者はその欲望の渦に巻き込まれ疲弊し最期は非業の死を迎えるか人里離れた場所で余生を過ごすか・・・それがいつものパターンよ〙
〘マルス達は魔王が討伐された事を知っている・・・だからこの茶番は勇者を手に入れる為のもの・・・か。てっきり勇者を利用して僕を亡き者にしようとしているだけかと思ったけどその先があったのか・・・〙
フーリシア王国、リガルデル王国、ファミリシア王国が結託し残りの三ヶ国を先ず潰そうと考えているだけかと思いきや勇者争奪戦までやるつもりかよ
確かに勇者は強いし魔王を倒したという名声を使えば人を集めることも容易い・・・勇者がどの国に肩入れするかで情勢は大きく変わってくるだろう
「いい加減・・・くたばれ!!」
まあ口が悪いこと
大振りの一撃を飛び退いて躱す
すると・・・
「っ!?」
「最初の一撃は頂いたぜ~・・・『打虎陣掌』」
いつの間にか背後に回っていたコゲツが僕の背中に掌底を放つ
ぐっ・・・体がバラバラになりそう・・・
「コゲツ!」
「なんだよウルティ・・・ちゃんとサポートに徹してるぜ?」
コゲツの言葉にはっと顔を上げると目の前に勇者
コゲツの技で身動きが取れない僕に対して再び剣を振り上げ、そしてその勢いで飛び上がる
「これで終わりだー!!」
この一撃は受けたらマズイ
そう直感が働いたとて動けないもんは動けない・・・考え事をしながら戦うもんじゃないなクソッタレ
ゲートを・・・いやゲートごと切られたらおしまいだ。となると受けるしか・・・でも受け切れるのか?勇者の一撃を
ええいままよ!
ゲートを開き手を突っ込むと刀を取り出す
カミキリマル・・・僕の持っている武器の中で唯一勇者の聖剣に対抗出来るであろう刀を鞘から抜くと既に振り下ろしの態勢に入った勇者を睨みつけた
「死ねぇぇ!!」
マナを放つ聖剣と魔力を放つ宝刀
二つがぶつかり合い辺りが真っ白に染まる
そして・・・
「あ、あれ!?『魔王殺し』は?てか服は!?」
素っ裸で動揺する勇者
かく言う僕もさっきまで手にしていたカミキリマルはなくなりすっぽんぽんだ
どういう事だ?これはまるでダンコと会ったあの・・・
「おい魔王!何をした!」
「何も・・・だけど何となくだけどヤバイ事になってるのは分かる」
「ヤバイこと?なんだよそれ!一体何が・・・」
「正直正解か分からないけど多分・・・これ輪廻だ──────」




