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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
534/856

530階 魔王城

「ふぅ・・・こんなもんか?」


《うーん・・・まあこんなもんにゃ》


パーティーから6日が経った日の夜


僕とサキは決戦を行う魔王城を屋敷の中庭に建て内装をそれらしく作り込んでいた


魔王が座る玉座、勇者達を見下ろす為だけに作った階段、それらしい絵画・・・王っぽく見せる為に参考にしたのは各国の謁見の間だ


「床は絨毯でいいのか?」


《あんまり深いと足を取られて面倒にゃ。薄っぺらいものの方が良いかもにゃ》


「それもそうだな・・・見た目重視で構わない、か・・・どうせ終わったら取り壊すしな」


《それにしても・・・わざわざロウ一人で戦う必要があるのかにゃ?》


「?魔王は一人で戦ってたろ?」


《私もいたにゃ》


「・・・確かに」


《まあ勇者の特性と言うか能力と言うか分からにゃいけど壁を乗り越えるほど勇者は強くなるにゃ。だから今の段階で戦うのは賛成にゃんだけど・・・》


人はどんな経験でも積めば積むだけ賢くなったり強くなったりする。勇者はそれが顕著に現れる。普通の人間が到達出来ないであろう魔王の強さにまで至るのはそのお陰だ


限りある時間の中で魔族魔物の王である魔王の強さに至る成長の早さ・・・いやもしかしたら魔王すらも超えられるのかもしれない


魔王もそれが分かっているから勇者が成長する前に叩こうと動き出していたよな・・・けど勇者ではなく僕に倒されてしまった為に早々に退場してしまったけどね


つまり魔王が恐るほど勇者の成長は凄まじく時間が経てば経つほど強くなる・・・今日は勝てるかもしれないけど明日は勝てるか分からない・・・だからこそ勇者に余計なちょっかいはかけずに倒す必要がある


これ以上強くならないようにする為に


《やるなら中途半端はダメにゃ。確実に短時間でやらないと戦っている最中にも勇者は成長するにゃ。だからベルフェゴール達を使って勇者以外を抑え込みロウは勇者を素早く倒す・・・それが唯一の勝ち筋にゃ》


「でもそれだと言い訳するかもしれないだろ?僕の予定では言い訳なんてさせないように完膚なきまでに叩きのめす・・・だからね」


《何が『僕の予定では』にゃ・・・まあいいにゃ、危ないと感じたら投入する・・・それでいいにゃ?》


「ご自由に・・・突入されないよう努力するよ」


しこりなんて残さない・・・誰が見てもどう足掻いても僕の勝ち・・・それでこそ()()()()に移れる


勇者パーティーが各国一人ずつっていうのも都合がいい


勇者パーティーは絶望するだろう・・・けど人々は歓喜する・・・そして勇者パーティーの絶望は平和への足掛かりとなる


〘アナタはどこまで背負うつもりなの?〙


ダンコが僕に問う


それに対して僕はいつもこう答える


「背負うつもりはない・・・敵になるなら容赦しないし味方なら全力で守る・・・ただそれだけだ──────」





明日は約束の日・・・魔王との決戦だ


だと言うのにラナはあれから口を聞いてくれない・・・6人のメンバーを発表したあの時から・・・


物心ついた時からラナとはいつも一緒だった


僕がいじめられているのを助けてくれていたのもラナ、見た事もない両親を想って泣いていた時にそばに居てくれたのもラナ、孤児院の外の世界が知りたくて逃げ出そうとした時に止めてくれたのもラナ・・・僕の人生の半分はラナで出来ている


だから僕が勇者となった時もラナと一緒じゃなきゃイヤだと駄々をこねた。偶然か必然かラナはヒーラーの適性があり王様は用意したヒーラーの代わりに連れて行く事を許可してくれた


駆け出しの勇者になりたてのヒーラー・・・そんな危なっかしい僕達と王様の用意した国一番の魔法使いウルティアと不思議な能力を使うエメンケと共に旅に出た


もちろん目的は魔王討伐


とても順風満帆だったとは言えない・・・けど誰一人欠けることなく仲間を増やしここまで来た・・・ラナと仲間達と共に


本当は最後の戦いもラナと一緒に戦いたい・・・けどラナは僕の支えであると同時に弱点でもある


世界かラナか・・・そう問われたら僕は迷わずラナと答えるだろう・・・その選択はしてはいけないと分かっていても


ラナを選ばないのはラナが悪い訳じゃない・・・僕が弱いからなんだ


だから僕を恨んでくれていい・・・魔王を倒した僕を笑顔で迎えてくれればそれで・・・


「緊張しているの?」


「・・・ウルティア・・・」


僕が宿屋の部屋で一人窓の外を見ているといつの間にかウルティアが部屋に入って来ていた


「・・・初めの頃は『ウルティアさん』って呼んでいたのに・・・あの頃が懐かしいわね」


「そ、それはウルティアがさん付けはやめなさいって言うから・・・てか人の部屋に勝手に入るのってどうかと思うけど?」


「ノックしても反応なかったから仕方ないじゃない・・・もしかして決戦前に勇者が逃げ出した・・・なんて事になったら一大事だし」


「逃げる訳ないだろ!・・・ちょっと考え事していたから気付かなかっただけだ!」


「そう・・・考え事・・・ね。それって明日の魔王の事?それとも・・・ラナの事?」


「・・・どっちでもいいだろ・・・」


「ふうん・・・どっちかなんだ」


しまった!どっちでもないと言うべきだったか・・・いやそれだと嘘になるし・・・


「・・・別にどっちを考えててもいいのよ?ただ最近ラナとあまり上手くいってないみたいだけど・・・その事でお姉さんからアドバイス・・・もし仲直りしようとしているのならやめときなさい」


「なっ、なんでだよ!」


「今の状況の方があなたにとっていいからよ」


「どこが!」


「未練は未来の糧となる・・・ラナと喧嘩状態のまま死にたくないでしょ?それが魔王を討つ力へと変わるのよ」


「・・・」


「ここでラナと仲直りしてみなさい?あなたは何の憂いもなく魔王に挑む事になる・・・おそらく魔王との戦いはギリギリのものになるでしょう・・・もしかしたら全滅スレスレまで苦しめられるかもしれない。そんな時にあなたに何の未練もなかったらあっさりと諦めて地面に這いつくばってしまうかも・・・」


「そんなことはない!僕が負けたら人類の敗北・・・だから僕は・・・」


「石にかじりついてでも立ち上がる?人類の為に?」


「・・・」


「そんな大袈裟に考えても立ち上がる力にはならないわ。身近でいいの・・・『ラナに再び会う』・・・それだけでいい・・・その為に足掻いて足掻いて足掻いて・・・最後に勝って自分の足でラナの元に帰り『ただいま』って言えばいいの・・・他の人にとっては些細なことかもしれないけどあなたにとっては何より重要なことでしょ?人類の為にとかフワッとした考えよりもよっぽど力になると思うわ」


未練が力に・・・そうかもしれないな・・・


もしラナが笑顔で僕を見送ってくれたら・・・僕は魔王との対決で死を簡単に受け入れてしまうかも・・・けどラナと話せないままだったら・・・僕は絶対に死にたくない!


「人類の為にとか世界を救うとか格好つけるんじゃなくてただ一人の女の子の為に・・・か・・・そっちの方が僕らしくていいかもね」


「そうよ・・・気負いすぎずただラナの為に戦いなさい。私達はそのサポートを全力でするわ」


「・・・ありがとう・・・少し気が楽になったよ」


「それなら早く寝なさい。明日は早いわよ?」


「ああ・・・そうだね」


勇者じゃなくジークとして・・・明日勝ってラナと仲直りして平和になった世界で共に・・・暮らす為に──────




「子守りは済んだか?」


ジークの部屋を出たウルティアを待ち構えていたエメンケが話しかけると彼女は急いでドアを閉めエメンケを睨みつける


「黙りなさい・・・何の用?」


「おー、怖い怖い・・・ここではなんだから店で一杯どうだ?」


「・・・ふん!この街はどの店も田舎臭くて・・・いい店知ってるの?」


「ああ・・・歓楽街はそこそこ分かってる・・・商会の奴がやり手なんだろうよ」


そう言ってエメンケが手を差し出すとウルティアは面倒くさそうにその手を握る


「少しでも気に食わなかったら帰るわよ?」


「どうぞどうぞ・・・話はそれほど長くはならないし気に入らなかったらお帰りはご自由に」


エメンケは笑みを浮かべるとウルティアの手を引き宿を出て夜の街へ


夜になると明るさを増す歓楽街に着くと迷わずとある店へと入って行く


そして店の中に入ると一直線に店の奥へと歩を進め一番奥に辿り着くと軽く手を上げた


「待たせた」


「遅いぞ」


「・・・なに?悪巧みでもしようって言うの?オルシア将軍」


店の奥で二人を待ち構えていたのはリガルデル王国将軍オルシア


彼の前には既に空のグラスがいくつか置かれておりその様子からかなり前からここで二人を待っていたと伺えた


「なーに、最終確認だよ・・・悪巧みの、な」


「最終確認も何もやる事は決まってるでしょ?・・・彼は?」


「女を抱きに行った」


「ぶっ・・・彼自覚あるの?一応魔王と戦うメンバーの一人よ?」


「奴はそんなもんさ・・・生まれも育ちも悪いからな。上品な俺達のお話し合いは旗が合わねえんだとよ」


「上品・・・ね・・・」


ウルティアの視線が空いたグラスである事に気付くとオルシアはソファーの背もたれにもたれ掛かりため息をついた


「酒くらいいいだろ?ここで待ち合わせって聞いてからどんだけ待たされたことやら・・・それに俺の仕事はお前らが終わった後だからな・・・少しは余裕があるってもんよ」


「気楽でいいわね・・・それで?最終確認と言ってもやる事は単純・・・今更すり合わせなんている?」


「そんな寂しいこと言うなって。こっちは選ばれなかったせいで小悪党な役割なんだからな・・・愚痴を聞いてもバチは当たらないぞ?」


「こっちは・・・ハア・・・まあいいわ。世に聞こえる天下の将軍様に小娘を人質にとってもらうのだもの・・・それくらい付き合わないと確かにバチが当たりそうね」


店に来てようやくウルティアは席に着く


それを見てエメンケも席に着きオルシアは店員を呼んで酒を注文した


夜は長い・・・そう言わんばかりの大量の酒を──────

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