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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
530/856

526階 仮初の平穏

「・・・調子狂うぜ・・・一体何の冗談だよ」


ダンテがそう言うのも無理はない


大軍を率いて街の前まで来ていざ決戦と意気込んでいたのにその大軍は何もせず国へも帰り僕達と言えば魔王のいる街の中でのんびりと食事をしている


魔王の計らい?で街の人達は特に敵意など向けて来る訳でもなくてごく自然に対応してくれているけど・・・まあ居心地が悪い


これから一週間この街で過ごさなきゃならないと考えると少し憂鬱だ・・・もしかしてこれが魔王の作戦だったり・・・


「お口に合いませんか?勇者様・・・当『ダンジョン亭』の自慢の肉料理だったのですが・・・」


「い、いや美味しいよ!この肉なんて最高で・・・毎日食べたいくらいだよ!」


「それは良かったです。ごゆっくりしていってください」


運ばれて来た料理そっちのけで物思いにふけていると店員が心配そうな顔して尋ねてきた


慌てて切ってあった肉を一切れ口に放り込み美味しいと言うと店員は安心したのか笑顔になり店の奥へと去って行く


「随分と気に入ったようねそのお肉・・・それとも今の店員さんが気に入ったとか?」


「バ、バカ言うなよラナ・・・ほらお前も食ってみろよ!美味しいから」


「・・・美味しいのは匂いを嗅いだだけで分かるわ・・・けどなかなか食が進まないというか・・・色々あり過ぎてお腹が空いてないというか・・・」


「僕も同じだよ・・・けど食べておかないと・・・一週間後にはアイツと戦う事になるんだから・・・」


いまいち強さは分からなかったけど魔王なんだから強いに決まってる。あの『ゲート』って能力も危険だし他にも魔物を操る能力とかあるみたいだし・・・万全な状態で臨まないとやられるのは僕・・・つまりは人類の敗北となってしまう


「・・・そう・・・よね。それで決めたの?連れて行く5人のメンバーは」


「あ、ああ・・・アイツ・・・魔王はルールルールうるさかったろ?だからアイツの好きなルールに則ってちゃんと考えたんだ・・・僕を含めた6縛りの結界を通過し魔王を討伐するメンバーを」


「誰なの?そのメンバーって」


ラナは自分を選んで欲しそうな目で僕を見ているけど・・・ごめんラナ!


勇者の物語は僕も読んだ・・・その中でも特に何度も読み返したのは魔王との最終決戦の場面だ


そこには勇者を含めた6人の人達・・・職業もバラバラでもうひとつバラバラなものがある


「・・・みんな聞いてくれ!一週間後の魔王討伐に僕と共に向かうメンバーを発表する!」


この『ダンジョン亭』には僕達しかいない・・・いわば貸切状態だ


そんな中で僕は立ち上がりみんなの注目を集めた


あれこれ悩んだ結果だ・・・けど悩んだ割にはこのメンバーしかいないと強く思うようになった


そのメンバーは・・・


「ラズン王国代表、スカウト、コゲツ」


魔王からの逆指名・・・まあ僕もコゲツは選ぼうと思っていた


「おう~!」


「シャリファ王国代表、タンカー、シャス」


ざわめきが起きる


それもそのはずシャスは裏切り者だから


でもシャスを選んだのには理由がある


「おいおい・・・また裏切られるかも知れないぞ?」


「仕方ないんだダンテ・・・6人のメンバーは各国の代表者という決まりがある。つまりシャリファ王国から一人選ばなくてはいけないんだ・・・シャスかバウムどちらかを」


「だとしたらバウムだろ?シャスは率先して裏切っていたがバウムは仕方なくって感じだったぞ?」


それは出来ないんだオルシア・・・それぞれの国の代表者・・・そして職業が被らない事が必須・・・となると後衛アタッカーである魔法使いのバウムを選んでしまうとファミリシア王国の代表が()()()()()()()()()


ウルティアもエメンケも後衛アタッカー枠だから・・・


シャリファ王国代表をバウムにするとタンカーは必然的にアーキド王国のバベルに・・・そうなると残りは近接アタッカーかヒーラー・・・リガルデル王国はどちらもいるがファミリシア王国は後衛アタッカー2人とヒーラーのラナのみ・・・という事はファミリシア王国の代表はラナとなりリガルデル王国代表はオルシア・・・って事になってしまう


それを避ける為には後衛アタッカー枠をファミリシア王国の代表にしなくてはならないんだ


「・・・異論はあると思うけどタンカーはシャスがいいって勇者の直感が働いたんだ・・・。必ずシャスを説得してみせるし再び裏切らせはしない・・・みんな僕を信じてくれ」


ラナを連れて行きたくないなんて言えないしこう言うしかない・・・どうかこれで納得してくれ・・・


「・・・勇者の直感なんて言われたら従うしかねえわな・・・6縛りに各国からと職業被りなし・・・か・・・考えたら色々と制約がありやがるな」


「それを破ればどうなるか分からない・・・か・・・賭けに出るくらいならいっそシャスを連れて行って裏切ったら魔王ごと殺っちまった方が手っ取り早いか・・・」


ダンテに続きエメンケが恐ろしい事を言ったけどみんなはその意見に賛同したのかウンウンと頷いた


「大丈夫・・・きっと説得してみせるから」


魔王に勝つ為に・・・そして二度とラナを危険な目に合わせない為にも・・・


「続いて発表する・・・アーキド王国代表、近接アタッカー、ソワナ」


「まっ、そうなるわよね・・・了解」


「ファミリシア王国代表、後衛アタッカー、ウルティア」


「あら?良かったわ選ばれて」


「そしてリガルデル王国代表、ヒーラー、ダンテ」


「ヤダ・・・とは言えねえ雰囲気だな」


ラナの視線が痛いけど・・・これで一週間後に魔王討伐に向かうメンバーが出揃った


後はシャスを探して説得して・・・備えるのみ


一週間が長く感じるか短く感じるか・・・とにかく一週間後に大陸の運命が決まる



首を洗って待ってろよ・・・魔王ロウニール!──────





日もすっかり落ちたエモーンズのロウニール屋敷の中庭で巨大なドラゴンが翼を休めていた


その背中でシクシクと泣く人物が一人・・・この屋敷の主人を刺した張本人ケンである


「・・・大の大人がみっともない」


「っ!?その声は・・・シル!?」


ドラゴンに縛り付けられたままのケンはどうにか声のした方に振り向こうとするが身動きが取れず首を振るだけしか出来なかった。それでも何とか力を振り絞るがどうにもならず諦めるとシルの方からケンの視界に入る為に歩み寄る


「シ・・・その手に持ってる皿は?」


「中で行われているロウニール様の快気祝いパーティーの料理」


「・・・」


「私は屋敷の周辺の警備担当。でもお腹が空いたからテーブルから持って来た」


「へ、へえ・・・美味しそうだな」


「うん、美味しい」


「・・・俺・・・朝から何も食べてなくて・・・」


「さっきも言ったけどこれは『ロウニール様の快気祝いパーティー』の料理・・・快気させた人が食べるならともかく()()が食べるのはどうかと思う」


「そ、そうだよな・・・本当なら首を切られてもおかしくない・・・恩を仇で返して飯を食わせろなんて・・・むぐっ」


「おっと手が滑った」


シルは皿から肉を手に取ると縛られて身動きの取れないケンの口に放り込む


ケンは驚き目を丸くしていたが口の中に広がる肉の旨味に負けて放り込まれた肉を咀嚼しやがて飲み込んだ


「・・・美味い・・・でもどうして・・・」


「勘違いであったとはいえ私の為に動いてくれたのだろう?しかも相手は大貴族・・・上手くいったとしても死は免れないだろう。だからそんなバカへの感謝の印だ」


「バカって・・・でも良かったよ・・・勘違いって言うか嘘に踊らされたって言うか・・・それでも生きてて良かった・・・」


「嘘・・・か・・・あながち嘘ではない。私達が死んだと言うのは」


「?・・・どういう事だ?」


「あの日・・・私達が王都を攻めた日の夜・・・全てを終わらせたのはロウニール様だ。私達『タートル』を全滅させてね」


「・・・そう聞いていた・・・だから俺は・・・」


「私達は王都にいる住民をも巻き込み王都を混乱に陥れその隙をついて国を落とそうと目論んだ・・・が、結果は散々・・・私達の剣は王の喉元には届かなかった。決死の覚悟・・・成功しても失敗しても死は免れなかった・・・はずだった」


「成功しても?」


「そう・・・もし全てが上手くいっていたらフーリシア王国は消滅・・・国の名は消え領土はリガルデル王国のものとなっていた。それがリガルデル王国を動かす為の唯一の方法だったから・・・」


「・・・」


「『タートル』を率いているレオンはリガルデル王国を利用した・・・フーリシア王国を滅ぼす為に。リガルデル王国は利用されていると分かってて話に乗った・・・フーリシア王国の領土を手に入れる為に。レオンはリガルデル王国が成功した後にどう出るか分かっていた・・・国と国ならいざ知らず国と個人の口約束など守られるはずは無い、と。それでもレオンは実行に移した・・・移さざるを得なかったから」


「・・・そのレオンってのが国にどんな恨みを持っているか知らないけどシル・・・お前は命を懸けてまでそんな事をする必要があったのか?」


「確かに恨みはない。あったのは『呆れ』・・・そして『希望』」


「呆れと・・・希望?」


「力というものは厄介だ。腕力しかり権力しかり・・・強きものが虐げ弱きものが割を食らう。そんな世の中に『呆れ』私はレオンの元に辿り着いた。レオンの元には色々な人がいた・・・人と違うからと認められない人、奇異な目で見られていた人、信じていたものを否定された人・・・みんなこの国で生き辛いと感じていた人ばかりだった。けど私を含めたみんなは『希望』を抱いた・・・レオンの作る未来に」


「レオンの作る・・・未来?」


「レオンは私達と同じように『呆れ』ていた。国に対しての『呆れ』・・・だからこそ理想を掲げた。誰もが生きやすい世の中を目指すという途方もない理想を。レオンを知る者なら誰しも『彼なら』と思うだろう。普通の人なら笑われるような事も彼が言うと『彼なら』と・・・ん?どうした?」


「別に・・・で?」


「・・・彼ならやり遂げる・・・そう思うが人の人生は短い。ちんたらやっていては寿命が先に尽きてしまう・・・だから少々強引にことを運んだ」


「それが王都襲撃・・・」


「そう。レオンは焦っていた・・・このままでは何もせず寿命が尽きてしまう、と。以前から強引な手段を用いていたのは知っているだろう?それも全て無駄になってしまうという思いが彼を焦らせていたのだ」


「冒険者の強引な勧誘・・・それに・・・」


「味方でなければ敵とみなしていたから・・・随分と殺してきた」


「・・・」


「その殺してきた者達の命も無駄になる・・・それだけは避けたかったレオンはリガルデル王国を利用し最後の賭けに出た・・・そしてそれは失敗に終わる・・・」


「ちょっと待ってくれ!それはレオンってやつの事情だろ?シルはそこまで・・・」


「私は『タートル』だ。もう後戻り出来ないところまで来ていたのだよ・・・だからもうレオンの『希望』に縋るしかなかった・・・事実それでもいいと思っていた」


「・・・思って()()?」


「話を戻そう。作戦は失敗・・・私達『タートル』は『希望』を失った・・・けど新たな『希望』を提案して来た者がいた」


「・・・それが・・・ロウニール?」


「そう・・・言ってみたら私達は国に『やられた側』・・・その復讐と国を変えるという気持ちで『やり返した』・・・いわゆる負の連鎖と言われるもの。もし成功していたとしても今度は私達が『やり返される』・・・そしてまた・・・」


「負の連鎖・・・確かにそうかもな・・・やったらやり返されてキリがねえ・・・じゃあロウニールは何て言って止めたんだ?その提案ってのは一体・・・」


「私達はやり過ぎた・・・国は決して私達を許さない・・・だけどロウニール様は提案して来た・・・『ここで終わりにしろ』と」


「ここで終わりに?」


「そう・・・国からしてみれば私達は犯罪者・・・しかも凶悪な・・・犯した罪も数知れない・・・殺してしまった人も・・・だけど私達も引けなかった・・・ここで引けば全てが無駄になるから。でも・・・それでもロウニール様はここで終わりにしろと言った・・・そしてこうも言った・・・『力の使い方を見せてやる』と」


「ロウニールが?力の使い方って・・・」


「力は厄介・・・強ければ強いほど人はその力に振り回される。それは力の使い方を知らないから・・・国は権力を使い私達を虐げた。私達は腕力を使い人を殺した。それは力の使い方を知らないから・・・いえ・・・どちらか一方が欠けているから振り回された。権力も腕力も使い方を誤れば暴力となる。暴力を暴力で返しまた暴力を生み出そうとしていたけどロウニール様はその暴力の使い方を見せてやると」


「・・・確かにいい使い方だよな・・・ロウニールの暴力は」


そう言いながらケンは自身を縛り付ける縄を見てため息をついた


「そんなものは序の口・・・ロウニール様は力で私達を止め、力で私達が追い求めていた理想を実現してやると言ってくれた。私達・・・とりわけレオンはそれに興味を示し傍で見続けている。ロウニール様がどのように力を使い私達の追い求めてきた理想を現実に変えるのかを・・・」


「・・・すげえなロウニールは・・・」


「だがどこかの誰かさんがそんな私達の希望の芽を摘もうとした」


「・・・」


「レオンほどではないが私達も期待している。そんな中での凶行・・・断じて許されるものではない」


「あの・・・シルさん?」


「ここに良く切れる短剣がある。不審者を刺し殺すもよし、ぶっとい縄を切ってしまうもよし・・・」


「な、縄を切るのに向いてそうな短剣だね・・・なーんちって・・・」


「・・・最後の晩餐は楽しめた?」


「シルさん!?ちょっと待っ・・・お、俺シルに言わないといけない事が・・・ま、待って・・・ぬわああああ!!」



エモーンズの夜空にケンの悲鳴が鳴り響く


その悲鳴が更なる喜劇を告げるものだとはこの時はまだ誰も知る由もなかった──────

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