523階 主役は誰だ
サラの無事も確認出来たし他の人も大丈夫みたいだし・・・さっさと終わらせよう
ゲートを開きドラゴンの上に戻るととある人物を探した
すると群衆の中で埋もれていたその人物を見つけたが・・・珍しい組み合わせだな
「サキ、ドラゴンの制御とケンを頼む」
《にゃ。あの人間は少し齧っていいかにゃ?》
「齧るな齧るな・・・少しだけだぞ?」
「ロウニール!!」
叫ぶケンを無視してドラゴンに命令しその人物がいる辺りに急降下させると蜘蛛の子を散らすように兵士達が慌てふためき着地する場所が確保された
地面に近付くとゆっくり翼をはためかせ地面に着地したと同時に僕は飛び降りその人物の前に立つ
「やってくれじゃないか・・・アルオン」
「・・・私は忠告したはずですけどね・・・勇者が来る、と」
「勇者がフーリシア王国に来るとは聞いてた・・・僕を魔王と認識しているってのも聞いた。けど大軍を引き連れて来るとは聞いてなかったが?」
「大軍を引き連れて来ないとも言ってませんよ?ロウニール・ローグ・ハーベス公爵閣下・・・いや、魔王ロウニール」
「役作りは万端って訳か・・・けどお呼びでない出演者の対価は命だぞ?もう一度繰り返すか?国境で起きた惨事を」
「起こした人が言うと説得力がありますね。ですが今回の貴方の相手は勇者です・・・勇者と戦っていてそんな余裕が果たしてありますかね?」
「見くびられたもんだ・・・本物の魔王ならいざ知らず僕が勇者と戦っている間何も出来ないと思っているなら大きな間違いだ・・・試してみるか?試すのもお代は命になるけどね」
ダンコの奴かなり怒ってるからな・・・この地をダンジョン化させたら速攻この地は魔物で溢れ返るだろう・・・味方に被害が及ばないかそれだけが心配だ
「あの時の光景はもう見たくはありませんね・・・たとえ敵だとしても」
「確かに気持ちいいものじゃないよな・・・人間が生きたまま喰われる姿は・・・ってそれよりも今までどこに行ってたんだ?ディーン」
「ちょっと野暮用を頼まれまして・・・詳しくは終わってから話します。それでその『終わり』の決定権はアルオン将軍に?」
「違うのか?てっきり中心にいたからそうだと・・・まさかマルスじゃないだろうし・・・」
向かい合う大軍同士・・・各国から集めたと聞いてるから半分に分かれているのも見ると三ヶ国が連合軍を裏切ったみたいだ。ここにはシャリファ王国・・・で、あとはラズン王国とアーキド王国か・・・フーリシア王国とファミリシア王国は敵のまま・・・当然アルオン率いるリガルデル王国も
その敵の中で指揮しているのがアルオンだと思ったけど・・・
「『終わり』を決めるのは他ならぬ閣下ですよ。そこのドラゴンの存在で戦争は止まった・・・あとは一言・・・終戦宣言をすれば戦争は終わりです。そうでしょう?アルオン将軍」
「・・・」
「いや分からないぞ?あの国境の事を知ってて大軍を引き連れて来たんだ・・・それなりの対策はしているだろうし僕が何を言っても続けようとするかも・・・まあ何をしても皆殺しにするけどね」
「怖いですな・・・閣下は。と、いう事らしいのですがどうされます?アルオン将軍・・・貴殿次第みたいですよ?」
上手いなディーン・・・僕から言葉を引き出し間に入ったように見せかけてアルオンを追い込んでいく
これでアルオンが続けると言えば皆殺しになった場合アルオンに責任がのしかかる・・・しかも同じ轍を踏む間抜けな将軍って後世に語り継がれるおまけ付きだ。オルシアは知らなかった・・・けどアルオンは知っている・・・僕が何を出来るのか、を
「・・・撤退します・・・そもそも魔王は勇者パーティーのみで当たるのが常識・・・大軍を用いたのは少し考えが浅はかだったようです」
「さすがアルオン将軍・・・聡明な判断だ。そうと決まればさっさと軍を退け・・・お礼は後日たっぷりとしてやるから覚悟しておけよ?」
「・・・無罪放免とはいきませんか?」
「アホか・・・命があるだけ感謝しろ。お前らが何をしようとしていたかはあえて聞かないでいてやる・・・聞いたら全滅させなきゃならなくなるからな。だから最後まで敵でいたお前らは僕に敵対した償いをすればいい・・・寛大だろ?」
勇者は魔王と思っている僕を・・・だけど大軍を率いて来たコイツらは何を企んでたのやら・・・まあ多分想像通りの事を企んでいたのだろう・・・それを聞いたら引き返せなくなる・・・そして大陸は魔力で覆われ奴が出て来てしまう事になる
アバドン
人間同士が争って人間を滅ぼすであろう奴を起こすなんて目も当てられない
報いは受けさせるが争いが起きない程度に留めておかないとな
「分かったら早く退け・・・じゃないと何人かドラゴンの腹の中に・・・」
まだ煮え切らないアルオンに脅しをかけた時、とある人物がこちらに向かって馬を走らせて来た
「ロウニール!!」
「・・・マルス・・・王子・・・」
何をしに来たんだか・・・おそらく今回の首謀者の一人であるマルスは近くまで馬で来ると勢いよく降りて僕の元へ
「ド派手な登場だな裏切り者!」
「・・・どっちが裏切り者なんだか・・・何の用だ?」
「俺が国だ!俺を裏切れば国を裏切るも同義!何の用だ、と?決まっている・・・お前に引導を渡しに来た!」
「へぇ・・・そんなにやれるとは知らなかったな」
「はっ!魔王役を担うからと生かしてやっていただけなのに調子に乗りやがって・・・死ね!『発動』!!」
・・・
これは『うっ苦しい』とか演技した方がいいのか?
どうやら屋敷のお披露目パーティーの時に仕込んだ毒がまだ残っていると勘違いしているらしい・・・あんなもん入り込んで来た時点で浄化したっていうのに・・・
「・・・『発動』!・・・くっ『発動』!!」
更に繰り返すマルス
片手を突き出して言ってみたり両手を突き出したりと色々工夫している・・・徐々におかしな行動を取るようになり最終的には体を捻り前屈みになって・・・
「『はつ・・・どう!』」
「ぷっ・・・ぷはははっ!『はつ・・・どう!』って・・・ナハハハハッ・・・・・・笑い死にさせる気か?殺すぞ」
「なっ!?」
懇切丁寧に毒はもうないよと説明してあげてもいいけど面倒だ・・・ちょうど背後にドラゴンがいるのでオヤツとしてあげてみよう
「喰らえ」
顔を真っ赤にして怒るマルスを無視してドラゴンに命令すると長い首を伸ばしてパクリとマルスを食べてしまった
「・・・飲み込むなよ?ちょっと咀嚼して吐き出せ」
ドラゴンは頷くと口の中でマルスを転がし何度か咀嚼するとぺっと外へ・・・ドラゴンのヨダレと噛み砕かれて出た血が入り交じりなかなか汚い物体となって排出された
「生きてる・・・よな?」
「あがっ・・・ヒィ・・・な・・・」
おぉ・・・どうやら辛うじて生きているみたいだ
けど手足はあらぬ方向に曲がり目は虚ろ・・・精神も肉体も結構イカれてしまったようだった
「・・・まあいいや。さて、次に食われたいのはどいつだ?」
言って視線を周囲に向けると兵士達は一斉に後退る
その状況を見かねてか一歩前に出る人物が一人
「立候補か?・・・アルオン」
「まさか・・・しかしやり過ぎでは?一国の王子をドラゴンに食わせるとは・・・」
「そうか?魔王ならこれくらいやるだろ?てか文句があるなら聞こうか・・・お前達が大軍でエモーンズに押し寄せた理由も含めて、な」
理由を聞いたらやらなきゃいけなくなる・・・国境の戦いの時と同じように
「・・・どうやら出番を間違えたようです・・・酷い演出のせいで」
「それは災難だったな。間抜けな演出家がいたもんだ・・・出番のない役者を送り込むなんてな。じゃあ大人しく帰れ・・・途中街に寄ることは許さないからな」
「・・・餓死せよと?」
「空気が吸えるだけありがたく思え・・・それとも腹が減らないようにしてやろうか?」
「・・・」
「お前が責任をもって徹底させろ。異論があるなら聞くが?」
「ここに来た理由も含めて・・・ですか?」
「分かってるじゃないか・・・じゃあよろしく」
「・・・」
通り過ぎ様に肩をポンと叩くと歯軋りの音がアルオンから発せられた
意気揚々と国から出て来て何も手柄なく帰らされるんだ・・・そりゃ悔しくもあるわな
「私達も街に寄らない方が?」
そう尋ねてきたのはシャス・・・どうやらシャリファ王国は僕の味方であってくれたらしい
「とんでもない・・・もう少し待ってくれたらゲートでシャリファ王国まで送ってあげるよ。それくらいじゃ返そうにないけどな・・・今回受けた恩は」
「恩なんてとんでもない・・・私達は恩を返さないといけない立場・・・なのに私は最初我が身可愛さに逃げようと・・・」
「我が身じゃなくて兵士大事さに、だろ?感謝すれこそあれ恨みなんてこれっぽっちもない・・・つーか正直助かった・・・ありがとう」
「いえ!・・・それに私達だけではなくラズン王国とアーキド王国が動いてくれたので・・・もし我が国だけだったら五万の軍に一瞬で潰されていたことでしょう」
「て事はシャリファ王国が初めに動いてくれたって事だろ?まあいい・・・その事は後で話そう。まだ演目が残ってるからな」
「演目?」
「勇者と魔王が揃ったんだ・・・残っているのは決着しかないだろ?」
「ロウニール様!まだ魔王を演じられるつもりですか?軍を退けたのなら勇者殿に言葉で説明すれば・・・」
シャスの隣で話を聞いていたディーンが慌てて割り込んできた。そりゃ本当は魔王じゃないし戦う必要なんて無いかもしれないけど・・・
「魔族を味方にしてドラゴンに乗って来た僕が『実は魔王じゃないんですぅ』って言って通じるとでも?」
「・・・それは・・・というかそれが分かっていながら何故ドラゴンに?」
「演出としては最高だったでしょう?ドラゴンを見上げる人達の顔ときたら・・・それに今は魔王と勘違いしてもらっても構わないので。初めからそうするつもりだったし」
「初めから?そうするってつまり・・・」
「題して『勇者をボコボコにしてその上で僕は魔王じゃないよと言う』作戦!」
「・・・」
「言葉じゃ信じてもらえないからとりあえずボコボコにして魔王じゃないって言えば信じてくれるでしょ?多分」
「・・・作戦名と内容がほぼ同じなのですが・・・まあ確かに勝利してなお魔王ではないと否定すれば聞いてくれるかもしれませんが・・・その作戦はロウニール様が勝つ前提では?」
「僕が負けるとでも?」
「相手は勇者ですよ?」
「あら?ご存知ない?僕って魔王に勝った男なんですけど・・・」
「その場にいたので誰よりもご存知ですよ・・・魔王を討伐に来た勇者です」
「魔王より強いかも・・・と?」
「はい。魔王を倒したロウニール様の一撃は見事でした・・・おそらく人類であの一撃を防げる者はいないでしょう。たとえ勇者といえど不可能かと・・・ですが勇者は真っ二つになったら死にますよ?」
「知ってるわ!・・・別にあの一撃を出さないでも勝てるし・・・多分」
「そこかしこに散りばめられている『多分』が不安を煽るのですが・・・ここでロウニール様に死なれては困りますので私もお供します」
「困らんだろ別に」
「困りますよ・・・スウ王女様が。それに私も友人を一人失う事になりますし」
「憧れの『剣聖』様に友人と言ってもらえるなんて光栄の極みですなぁ」
「身分は違いますが、ね。いつの間にか逆転されてしまいましたし・・・出会った頃は目をキラキラさせて私を見ていたものです・・・おっと、そう言えばまだ約束を果たしてませんでしたね」
「キラキラ言うな・・・って約束?」
「五年は過ぎてしまいましたが・・・エモーンズダンジョンの奥底で待っている方がいましてね」
ああ・・・そう言えばそんな約束したな
その約束を果たす為に頑張ってダンジョンを作って・・・結局ディーンが来る寸前で魔王が復活して約束は果たせなかった・・・覚えていてくれたのか
「大量の魔物と罠を準備して待ってるよ」
「手加減してくれるとありがたいのですが・・・」
ディーンは到達するだろう・・・未だ誰も到達していない最深部に・・・そんな気がする
「あのっ!」
今度はシャスが僕とディーンの会話に割り込むと何故か真剣な目で僕を見つめてきた
「私も!・・・ロウニール様の『友』という事でよろしいでしょうか!?」
「何を興奮して・・・い、いいんじゃないの?」
「では是非友人枠で私とマーナの結婚式に出席・・・」
「あー、その前にこっちの結婚式の方が先かも」
「?」「?」
「言って・・・なかったよな。僕とサラは結婚したからさ・・・ちょっと前に」
「!?」「!?」
「この件が終わったら結婚式を開くつもりだ・・・ってお前ら驚き過ぎだろ・・・」
何気にドラゴンを見た時より驚いた顔してやがる・・・そんなに驚くことか?ま、まあ僕とサラじゃ釣り合いが取れてないかもしれないけど僕だってそれなりに・・・っていかんいかん、今は卑屈になってる場合じゃなかった
驚きのあまり呆ける2人を放っておき僕はある場所に視線を向けた
その視線の先にいるのは・・・勇者
この物語の主役だ──────




