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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
526/856

522階 ある猫の決断

「うーん、絶景絶景・・・よくまあここまで人を集めたもんだ。とりあえずドラゴンのブレスで半分くらい減らしてみるか?」


《即席のドラゴンのブレスじゃ精々4分の1くらいにゃ。だから4回くらい吐かせるのを推奨するにゃ》


「4分の4じゃねえか・・・全滅させてどうする・・・」


ドラゴンの背に乗るロウニールとその彼の肩に乗る黒猫姿のサキが下を眺めながら呑気に会話していると背後からか細い声が聞こえてきた


「ロ、ロウニール・・・俺が悪かったから助け・・・」


「ん?何か聞こえたか?サキ」


《にゃにも・・・多分風のイタズラにゃ》


「頼むって!だって仕方ないじゃないか・・・巷の噂ではお前が『タートル』のメンバー全員を・・・」


「噂と言うかそう報告した・・・けどそこは『ロウニールはそんな事しないはず・・・きっと裏があるはずだ』って考えて欲しかったなぁーと思う次第です」


「うぐっ」


「・・・まあ別に恨んじゃいないし僕の方こそちゃんと探して説明するべきだったと反省しているよ・・・だけど一応ほら見ておいた方がいいだろう?自分の仕出かした顛末がどうなるかを」


「自分の仕出かした顛末?」


「僕の場合はケン・・・君への説明を怠った結果、ケンの場合は噂を信じて僕に何も聞かずに行動を起こしてしまった結果・・・どうなってしまったのか見る義務があると思うんだ」


「・・・だからって・・・ドラゴンの背に括り付けるのはどうかと思うけど!」


「それはほら・・・落ちないように、ね」


ドラゴンの背にロープで括り付けられたケンが叫ぶとロウニールは笑顔でそれに応えた


なぜこうなったのか・・・それはベルフェゴールが屋敷に戻って来た時まで遡る──────



《・・・見つけたの?》


《そんな簡単に見つけられたら苦労しませんよ》


屋敷に戻って来たベルフェゴールに気付いたサキが鋭い視線を向けて問い質すとベルフェゴールは肩を竦めて答えた


《何を呑気なことを・・・》


《呑気にもなります。別の手段があるのにわざわざ困難な道を選ぶ必要がありますか?見つけられたら運が良かった・・・その程度なので呑気にもなります》


《・・・》


《まだお悩みですか?ただその身を捧げれば良いだけ・・・それだけなのに躊躇するということはそれなりの忠誠心しか持ち合わせていないと・・・》


《黙れ・・・貴様に何が分かる・・・》


《ええ分かりません。貴女が躊躇する意味など全くもって・・・》


《違う!分かっていないのは私の事ではなくロウの事だ!確かに毒は人間用・・・私がこの身を捧げれば難なく窮地を脱することは出来るだろう・・・だがそうなればロウは・・・》


《人間ではなくなる・・・いいではないですか・・・そんな弱い体は捨てて魔族となれば》


《貴様・・・まさかその為にわざと見つからないフリをして・・・》


《いえ一生懸命探しましたよ?ただ先程も言ったように別の手段がある時点でそこまで見が入らなかったのは事実ですが。でもまあ今のロウニール様も魅力的ではありますし手を抜いた訳ではありません・・・貴女もご存知でしょう?あの方が神出鬼没であることは》


《・・・》


《・・・ベリトとバフォメットが勇者と戦っているようです。ロウニール様が復活される前に彼らを失う訳にはいきませんので助太刀に行ってきます・・・勇者相手ではいつまで持つか分かりませんからお早いご決断を》



ベルフェゴールが去り一人残されたサキはベッドに横たわるロウニールを見つめる


しばらく見つめた後、おもむろに振り返り声を上げた


《誰かいないか!》


「・・・お呼びでしょうか」


《お前は確か・・・》


「サーテンと申します。王都にいては危険と王都の屋敷にいる者達と共にこちらに連れて来て頂きました。何かご入用でしょうか?不慣れながら私めが用意させていただきますが・・・」


軍がエモーンズに攻めて来ると発覚した時点でロウニールは王都の屋敷の使用人達を全てエモーンズへと連れて来ていた


《そうか・・・なら今から言う人間をここに連れて来い・・・その者の名は──────》



更に時が少し経ち、屋敷の中が静まり返っていた頃誰にも気付かれず屋敷の中に侵入した者がいた


その者は広い屋敷の中を迷うことなく突き進みロウニールの部屋の前まで辿り着くとそこで大きく息を吐く


そしてドアノブに手を掛けると一気に開き手に持つ短剣を構えた


「狙いはロウニールただ一人!邪魔をしなければ殺さ・・・」


「殺されようとも邪魔させてもらう」


「あら?見た顔ね」


「お一人様ご来店ー頑張って接待しちゃうぞぉー」


3人のメイドが侵入者の前に立ち塞がる


「そんな・・・なんで・・・」


侵入者はその3人のメイドの1人を見て固まり手に持つ短剣を床に落とした


侵入者の正体はケン・・・そしてそのケンに立ち塞がったメイド達は・・・


「そんな幽霊を見るような目で見ないで」


「やっぱりそうよね・・・貴女の知り合いの・・・ケン・・・だっけ?」


「知り合い?なぁるほど・・・謎は全て解けたぁ!」


小さな盾を二つ構えるシル


侵入者がケンと分かり警戒を解くジーナ


謎が全て解けたニーニャ


その3人がケンの前に立ちはだかっていた


「ロウニールに殺されたって・・・」


「ええ。そう偽装してくれたの・・・じゃないと私達は一生追われる身だから・・・」


「そうそう。だってあれだけ派手なことしちゃったし犠牲者も何人も出てるでしょ?剣奴も逃がしちゃったし城に攻め込んじゃったし・・・捕まれば極刑は確実・・・だからロウニールが機転を効かせて私達を殺した事にして匿ってくれたってわけ・・・って貴方まさか・・・シルがロウニールに殺されたと思って・・・それで?」


「何の話?ねえちょっとぉジーナ何の話してんのぉ?」


ジーナは話している途中で気付いた


広場でロウニールを刺し、今まさにトドメを刺しに侵入して来たケンが『復讐の為』だということに


そしてその復讐はケンの早とちりだということに


「そんな・・・俺は・・・とんでもないことを・・・」


「なにやってやがるケン・・・さっさとトドメを刺せ。それで依頼は完了だろ?」


「っ!」


ケンの背後に突然人の気配が


気付かなかったメイド3人が警戒を強めるとそんな事は意に返さずその気配の主はゆっくりとケンの前に出て落ちていた短剣を拾い上げる


「何者だ!」


「・・・ケンの依頼を受けた者・・・ロウニール・ローグ・ハーベスの暗殺の、ね」


「師匠待っ・・・」


「だから師匠じゃないって・・・言ってるだろ?」


拾った短剣にマナを込める


その短剣はスカットの忘れ形見・・・マナを流せば使用者の思い通りに動く短剣


その短剣にマナを込め、男はあらぬ方向へと投げ放つ


「何を・・・っ!?」


短剣は部屋の壁へと一直線に向かったと思いきや孤を描き壁に突き刺さることなくロウニールが眠るベッドへ


気付いた時には遅くシル達が駆け寄ろうとする前に盛り上がった布団へと吸い込まれていく


「普通なら一刺しで死ぬって言われてる呪毒士の特製毒だ・・・一度で死なねえなら二度刺しゃいい・・・これで依頼は達成・・・晴れて短剣は俺の物に・・・あん?」


既に依頼は完遂したかのように喜ぶ男の目に不思議な光景が浮かぶ


布団に包まるロウニールに突き刺さるはずだった短剣はその直前で姿を消した


そして次にその短剣が出て来たのは見覚えのある者の手の中にある状態であった


「・・・危ないですね。突然短剣を投げ込んだのはどこの誰ですか?」


「・・・エミリ・・・なんでお前がここに・・・」


「・・・ジャック・・・あなたでしたか・・・淑女の寝室に毒の付いた短剣など投げ込んだのは」


「淑女?いつからロウニールは女になったんだ?」


「・・・ああ、なるほど。ジャック・・・あなたは意図して投げ込んだ訳ではないのですね・・・聖女セシーヌ様の寝室に」


「は?・・・なっ・・・聖女!?まさかロウニールを・・・」


短剣が突如として消えたのはゲートを通ったから


そしてそのゲートの先は王都にある教会の一室・・・聖女セシーヌの寝所であった


《やっぱり来たにゃ・・・そこそこ使える人間を置いてったつもりだったけど状況を見る限り危なかったようだにゃ》


ゲートから続けて現れたのはサキ・・・そしてその背後からセシーヌが現れる


「まあロウニール様!・・・これはキ、キスでお目覚めになるって状況でしょうか?」


《そんな事したらサラにぶっ飛ばされるにゃ・・・いいから早くその目で見て治すにゃ》


すぐさま寝ているロウニールの姿を見て顔を真っ赤にして口を近付けようとするセシーヌに対しサキは呆れながら冷静に突っ込む


「・・・チッ・・・」


ゲートを通り現れた3人を見て舌打ちしたジャックは自らの武器である湾曲した短剣を腰から取り出し構える


「師匠!もういいんですって!俺が勘違いして・・・」


「黙れ小僧・・・依頼をそう簡単に取り消せると思うなよ?依頼は継続だ・・・ロウニールは殺す・・・邪魔をするならてめえも一緒に殺ってやる」


「・・・師匠・・・」


部屋の中にジャックの殺気が充満する


エミリが無言で3人のメイドの前に立ち短剣を構えると更に殺気が濃くなりその部屋にいる者は息苦しくなり顔を歪めた


現役最強の暗殺者と元最強の暗殺者の戦いが始まる・・・緊張の糸が張り詰めた瞬間にあえなくその糸は切られる


「・・・人の部屋で・・・何やってんだ?」


声がした


あまりにもこの場の雰囲気にそぐわない気の抜けたあくび混じりの声


だがその気の抜けた声を聞いた瞬間にジャックは扉の前まで飛び退いた


「ああ・・・ケン・・・それにジャックか・・・目を覚ましたらセシーヌのドアップだしサキは何だか機嫌悪そうだし体の節々が痛いし頭が妙に重いし・・・」


《何日も寝てたんだし当然にゃ・・・にしても意外と簡単に治ったにゃ》


「結構厄介な毒でしたが見えてしまえば治療は簡単でした。どうやら魔蝕を誘発する毒のようで核にまとわりつき侵食しているみたいで・・・普通に治療しようとしても核から溢れ出る魔力が邪魔してダメだったので毒自体に回復魔法を当てて浄化したらあっさり・・・もし放置していたら毒が核を溶かし魔力が体を蝕み魔人と化していたかもしれません・・・ロウニール様が無事だったのは核が毒に抵抗していたからかと」


「なるほど・・・ダンコが毒に抵抗していてくれたから無事だった訳か・・・なかなか危険な贈り物をくれるじゃないか・・・ケン・・・それにジャック・・・」


ジャックが放っていた殺気が上塗りされる


部屋にいる全てを包む殺気ではなく対象者に限定された殺気・・・それがケンとジャックに突き刺さり冷や汗をかかせ足を後退させる


「・・・化け物め・・・本当に魔王なんじゃねえのか?」


「試してみるか?」


「遠慮しとくぜ・・・得体の知れねえ化け物とやるには短剣ごときじゃ割に合わねえ・・・依頼は保留だ・・・継続したきゃ追加の報酬を準備して連絡を寄越せ・・・じゃあな」


そう言うとジャックは目にも留まらぬ速さでドアを開け部屋を出て行った


「・・・なあエミリ・・・暗殺者ってのは誰でもあんなに早く部屋を出る事が出来るのか?」


「逃げ足が早いのも必要なスキルです」


「なるほどね・・・さて、ジャックは去ったけど続けるか?・・・ケン」


「いや続けない・・・それと勘違いとはいえ刺したのは事実・・・黙って処分を受けるよ・・・」


降参を表すようにケンは両手を上げた


それを見たシルが何かを訴えるようにロウニールを見つめ、その視線を受けたロウニールは頭を掻きながら苦笑する


「処分・・・ね。とりあえずそれについては後回しにして今どうなっている?サラは?他のみんなは?」


《現状なら実際見た方が早いにゃ・・・街の外にゲートを繋げば見れるはずにゃ》


「つまり軍がもう街に迫っているってわけか・・・どれどれ・・・・・・・・・うわ・・・マジか・・・」


小さくゲートを開き覗き込むと人人人・・・人が街に大挙しているのを見てロウニールは絶句した


「もしかしてここに居ない人達が対応しているのか?」


《そうなるにゃ・・・どうやってか知らにゃいけど》


「・・・ハア・・・こうなる前に止めたかったが・・・仕方ない・・・止めに行くか」


《どうやって?またダンジョンを?》


「いや・・・そうだな・・・なるべく目立つように登場して演者以外には退場願おうか・・・一番目立つとしたら──────」




そしてロウニールが考え付いたのが『ドラゴンに乗って現れる』だった


「ロ、ロウニール・・・何を見てんだ?」


ゲートではなく直に戦場を見て何かを探すロウニールに縛り付けられているケンが尋ねる


「ん?そりゃあもちろん・・・あっ、いた!」


「誰が?・・・ちょ、どこに行く気だ?俺はこのままかよ!?」


「まだ僕を刺した処分が終わってないからな・・・屋敷にも置いておけないしかと言ってそのまま放置も出来ないだろ?落ちないように括り付けてるだけありがたいと思ってくれ・・・じゃ」


「ちょ待っ・・・」


そう言ってロウニールはゲートを開き行ってしまった


行先は・・・




目の前にゲートが開く


そして現れたのは久しぶりに起きた愛しい人


「お待たせ・・・遅くなった」


「どれだけ寝坊助なのよ・・・始まった時はどうしようかと・・・」


「ごめんごめん・・・すぐ終わらせるよ」


「・・・どうやって?」


「そうだな・・・空から見回して何となく状況は分かった・・・とりあえず邪魔者には退場願おうかと」


「この世から?」


「この()から・・・ヒール」


彼は近付き私に回復魔法をかける


そして私は見た


振り返る時、私に微笑みかけていた表情から一変させ鬼の形相になっていくのを


「サラ・・・どいつだ?もしかして・・・シークス?」


「お、おい!ボクは助けた方だぞ!おいてけぼりにされた恨みをそっちのけで助けたのにそんな殺気を向けるな!」


慌てるシークス・・・そりゃあそうよね・・・私に向けられたものではないのに寒気すらするし・・・


「彼よ・・・ラズン王国の『拳豪』コゲツ・・・でも彼も自らの役目を全うしただけだから怒らないで」


「・・・分かった」


本当に分かったのかしら?


彼は私が戦っていた相手・・・コゲツに向けて歩くと通りすがりざまに何かを呟く


そして・・・


「じゃあサラ・・・終わらせてくる!ここで待っててくれ」


「分かった・・・気を付けてね」


「うん!じゃまた!」


そう言って彼は再びゲートを開き行ってしまった


残された3人・・・私は興味本位にコゲツに聞いてみた・・・彼が何を言って去ったのかを


「・・・『6人の中に入れ』だとよ・・・面白いねえ~・・・この俺が動けないなんて・・・アンタの旦那は化け物か?」


「酷い言い草ね・・・自慢の旦那様よ」


これで終わる・・・その安心感からか力が抜けて地面に座り込む



空を見上げた


彼が乗ってきたドラゴンはまだ空を飛び回っている


この戦いを終わらせる為に──────

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