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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
525/856

521階 降臨

戦争が始まる少し前


マルスはアルオンの元から戻ると通信道具に反応があった事を知らされた


その通信道具の相手は『内通者』ジェイズ


ロウニールの容体に変化があったかと思いすぐに通信道具にマナを流し話し掛けるとジェイズは予想だにしなかった事をマルスに告げた



裏切り者の存在



その言葉の真偽よりも先にマルスの脳裏に浮かんだのは『失態』の二文字


もしフーリシア王国内で裏切り者など出そうものなら取り分は限りなく減らせれる・・・焦りが怒りとなりマルスはジェイズが告げた裏切り者を即座に呼び出した



補給部隊として活躍し戦争にも参戦している侯爵ファゼン・グルニアス・トークスを



「で、殿下・・・これは・・・」


「身に覚えがないとは言わせないぞグルニアス卿」


マルスに呼び出されたファゼンは数名の兵を連れすぐにマルスの元へ


しかしマルスの元へ着いた矢先に兵士に拘束されマルスの前で膝をつかされる


「身に覚えなど・・・何か誤解が・・・」


「誤解?ではロウニールと同盟を結んでいたというのも誤解と言うのか?」


「そ、それは・・・」


「同盟の件を黙っていたのはバレると思ったからであろう?裏切りを画策している事が」


「ちっ違います!私は決して・・・」


「黙れ!俺がロウニールに送り込んでいる者からの確かな情報だ!ファゼン・グルニアス・トークスはロウニールと手を組み俺を出し抜こうとしている・・・まんまと騙されたわ・・・補給をそつなくこなしたのも信を得る為か?それとも物資の中に遅効性の毒でも入れたか?グルニアス卿・・・いやファゼン!!」


「とんでも御座いません!私はフーリシア王国に報いる一心で・・・」


「潔白と申すか・・・ならばそれを証明して見せよ・・・今すぐに!」


「そんな無茶な・・・証明せよと申されましてもどうすれば良いか・・・」


「つまり証明が出来ないという事だな?そうか・・・それは残念だ。疑わしきは罰せよというのが俺の信条だ・・・ファゼン・グルニアス・トークスに処分を下す!背任罪で死刑・・・戦時中ゆえ即刻刑に処す!引立てろ!」


「殿下!」


有無も言わさぬ勢いで兵士達に指示をしファゼンを拘束し刑を実行しようとするマルス。その時になりようやくファゼンは元からマルスは弁明など聞く気がなかったことに気付いた


それでもなおマルスに縋ろうとするファゼンを容赦なく兵士達は拘束しその場から強引に連れ出そうとする・・・が


「あっはー!そうはさせませんわ!」


ファゼンを拘束していた兵士達がハンマーで殴り倒される


拘束が解けたファゼンはそのハンマーの持ち主を見上げて呟いた


「・・・カレン・・・何故ここに・・・」


「あっはー!今はそんな事を気にしている場合ではありませんわ!」


ファゼンの娘であるカレン・グルニアス・トークスが柄の長い小さなハンマーを肩に乗せ叫んだ


すると二つの影がファゼンを兵士達から守るように立ち各々の武具を構える


「・・・ダハット・・・アンガー・・・お前らまでどうしてここに・・・カレンを閉じ込めておけと・・・」


「お嬢様を閉じ込めておけなかった時点でクビ・・・ですな?ならばこの場にいるのも自由・・・ではありませんか?」


「・・・ダハット・・・」


「クビになった私達を心優しいどこかの貴族のお嬢様に拾われまして・・・そのお嬢様は意外と味方が多くてですね・・・旦那様にバレずに兵に紛れここまで来た次第です」


「・・・アンガー・・・」


「アンガー!『意外と』は余計ですわ!御父様に言われるがまま大人しく部屋に閉じ籠っていると思ったら大間違い・・・ロウニール様を・・・御父様を助ける為ならたとえ火の中水の中!潜入しておいて正解でしたわ!ダハット!アンガー!御父様を連れてここから脱出しますわよ!」


「はっ!」「承知致しました!」


未だ状況を上手く飲み込めないファゼンをダハットが立たせアンガーは取り囲もうとする兵士達との間に土の壁を作り出す


「ファゼン!貴様・・・俺を・・・我が国を裏切る気か!」


「異なことを・・・先に裏切ったのはそちらの方でしょう!御父様を・・・そしてロウニール様を!」


「小娘が・・・知ったような口を・・・何をしている!さっさと殺せ!」


ファゼンの代わりに答えたカレンに対して怒り狂うマルス


兵士達に指示をしながら自らも剣を抜いた


その時


「マルス様!」


「なんだ!」


「ラ、ラズン王国軍が反旗を翻しました!」


「なに!?そんなバカな!」


ラズン王国の裏切り・・・その報が入るとマルスは振り返る


その隙を見逃さずカレンはアンガーに向けて叫んだ


「アンガー!派手にやりなさい!」


「承知致しました!マナを使い切るので後はお願いします・・・荒ぶる砂の守護者よ!その身をこの場にて撒き散らせ!『サンドストーム』!」


アンガーが魔法を唱えると彼を中心に砂嵐が巻き起こる


砂嵐は取り囲んでいた兵士達の視界を奪い出来た隙をつきカレン達は囲みから突破を試みる


「こっちですわ!・・・アンガー・・・さっきの詠唱なんですの?荒ぶる砂の・・・守護者?その身を撒き散らせ??」


「サンドゴーレムという魔物が砂で出来ていると知りその体が風で飛ばされている風景を想像したら面白かったので詠唱に組み込んでみました」


「・・・あっそ・・・」


この局面で遊び心を発揮するアンガーに呆れながらカレンはダハットとアンガー・・・父であるファゼンと共にグルニアス侯爵軍のいる場所へと走り続けた


この脱出劇がある国を動かす事になろうとは知らずに



そのある国とはアーキド王国軍


シャリファ王国軍に続きラズン王国軍が反旗を翻したのを見てもアーキド王国軍は動かなかった


もしここでアーキド王国軍がその二ヶ国と同様に反旗を翻したとしても三万対三万という構図が出来上がるだけ


国王であるデュランから借り受けた兵の位置を賭ける訳にはいかない・・・そう考えていたアーキド王国代表シュベルツはたとえ後で非難されても静観を貫き通すつもりだった


しかしフーリシア王国軍からまるで狼煙のような砂嵐が巻き起こっている光景を目の当たりにした時、シュベルツはアーキド王国がある方向の空を見つめ呟いた


「陛下・・・天秤は傾きました・・・これより我が国は・・・陛下の友であられるロウニール・ローグ・ハーベス卿の剣となります・・・全軍聞け!敵は魔王ロウニール・ローグ・ハーベスにあらず!我らを欺き攻め落とさんとする三ヶ国・・・リガルデル王国!ファミリシア王国!そして・・・フーリシア王国である!先に動きしシャリファ王国に続き我が国を狙う不届き者を討つぞ!全軍進軍開始!」


シュベルツの言葉に動揺を見せる兵士達であったが先頭で勇ましくフーリシア王国軍を指差し歩みを進めるシュベルツの姿を見てその言葉を信じ応えた


「おおっー!!」


その声は周辺各国の軍にも響き渡り進む方向がアーキド王国軍がどこの味方でどこの敵かを知らしめる



魔王討伐の為に集められた各国一万の兵士・・・合計六万にも上る数はとうとう半数が袂を分かち対峙する


初めは六万の軍勢がひとつの街を蹂躙しようとしていた


それが三万対三万の戦いへと変わる


エモーンズとしては救いのある話になったはずだがある者はその状況を見て眉をひそめ歯噛みしていた


「・・・どうして・・・」


サラ・セームン・・・いや、サラ・ローグ・ハーベスの狙いとは全く違う方向へと物語が進んで行く


彼女は()()ならないようにことを進めていた


彼が不在の間、エモーンズを・・・全てを守る為に


彼ならそれが出来ると信じていた。だから彼女は彼が来るまでの間の時間稼ぎを目論んだ


人の命が・・・消えゆくのを防ぐ為に


向かい合う軍と軍の歩み寄る速度が上がる度に物語が加速する



また人が・・・死んで行く──────




「ディーン殿!本当に任せても?」


「はい!その為に私は旅をしながら鍛え続けたのですから!」


背後にいるシャス殿にそう答える


スウ王女に秘密裏に依頼された内容は各国の説得


御自分の支持母体である第三騎士団を解散せざるを得ない状況に陥ると分かっていても彼女は私に命令を下した


私はその期待に応えるべくマルス王子達の企みに加担していない三ヶ国を説得する為に旅に出た・・・ジャンヌとある人物と共に


そして旅をしながら自らを鍛え続けた・・・彼女が今回の企みの要となると睨んでいた人物に勝利する為に


その人物とは・・・


「ディーン・クジャタ・アンキネス!十二傑であり勇者パーティーに加わるべき貴方がなぜ逆賊を率いてここにいる!」


「逆賊とは異なことを・・・私は主に従っているだけです。それと・・・」


剣と剣がぶつかり合う


この一合で分かる・・・この男・・・強い!


「それと?」


「私がここにいる理由はただひとつ・・・偽りの正義を掲げる集団の要である貴公を仕留める為です・・・アルオン・マダスト・エシリス殿!」


スウ王女は『猛獅子』と呼ばれるオルシア将軍よりも表舞台になかなか出て来ないアルオン将軍を危険視していた


十二傑は作られた英傑


真に強い人物ではなく国が予め決めた人物をそう呼ばれるよう情報操作していた


なぜなら十二傑となれば勇者に連れて行かれてしまう事になるからだ


各国は考える・・・勇者に連れて行かれたらその間誰が国を守るのか、と


勇者が訪れた国は魔族や魔物が討伐された後になり平和を取り戻している場合が多い・・・だがそれでも全ての魔族魔物が消え去る訳ではない。その事が分かっているので国は連れて行かれても良い人物を十二傑に仕立て上げる


私が十二傑に選ばれたのもそういった理由からだ


万が一魔王に殺されても惜しくない人物・・・他の国がそう考えているかは定かではないが少なくともフーリシア王国ではそう考えて私とキースさんが十二傑として選ばれた


そしてその事を知っていたスウ王女だからこそ十二傑以外の人物を警戒していた


その中で特に警戒していたのがアルオン


覇王国リガルデルにおいて度々名は挙がるもオルシア将軍のように具体的な逸話がある訳でもなく実力は未知数なのによく事にスウ王女はかなり警戒なされていた


オルシア将軍と戦った事のある私だから分かる・・・この男アルオン将軍はオルシア将軍よりかなり強い・・・だが私も・・・ただ遊んでいた訳ではない!


「っ!・・・『剣聖』と呼ばれている割にはなかなか荒々しい剣だな」


「私が名乗った訳ではない・・・それにこっちの方が性に合っているみたいで、ね!」


基本に忠実に・・・そう心掛けて来た


背筋を伸ばし真正面に構え真っ直ぐ振り下ろす・・・何千何万と繰り返して来た基本は決して裏切らなかった・・・が、私は『剣聖』の器ではない。もし本当に『剣聖』であれば基本を昇華し何者にも負けない剣技を身に付けられていただろう。努力が足りないだけかもしれない・・・そう思う日々もあった。だが魔王と対峙した時・・・私は無意識に基本を捨て我武者羅に剣を振るっていた


そしてその方がなぜだがしっくり来た


やがて時が経ち、また基本に戻るが連戦連敗・・・オルシア将軍に負け、ロウニール様にも・・・そんな時にある出会いがあった


その出会いが転機となる


「『剣聖』の名に縛られていたのかもしれません・・・『剣聖』ならこうするべきだ・・・そう思う心が私を縛り付けていた・・・けど気付かせてもらいました・・・私は『剣聖』なのではない・・・なぜなら私には・・・『剣聖』とは真反対な人の血を受け継いでいた・・・」


「『剣聖』と真反対?」


「戦う為だけに生きる剣奴・・・その剣奴の中で長い間君臨していた王がいる・・・『剣聖』とはかけ離れた存在でありながら無敗を誇っていた人・・・粗暴にして最強・・・『剣奴王』ジルバ・・・その人が私の父です」


「剣奴・・・王・・・ジルバ・・・なるほど・・・王とは名ばかりの卑しい身の存在・・・その血を引いているか」


「卑しい身・・・そうかもしれませんね。ですが強さに身分は関係ありません・・・勝ってそれを証明してみせましょう」


「ふっ・・・やってみろ!『剣奴王の子』よ!──────」




始まってしまった


最も恐れていた事が


こうなってしまったらもう私にはどうする事も出来ない・・・ただ人の命が消えゆくのを眺めている事しか・・・


「おい!そこで呆けているなら邪魔だ!とっととどっか行け!」


コゲツに殴り飛ばされ私の足元まで転がって来たシークスが私を睨み八つ当たりのように吠える


「もういいの・・・この戦いは無駄・・・もう誰にも止められない・・・」


「はあ?じゃあなんで戦ってたんだよ!」


「戦争を起こしてはいけなかった・・・勇者達を足止めし時間を稼げば彼が・・・でももう・・・」


「彼?・・・そいつはアレの事か?」


「え?」


シークスが細い目を片方だけ見開き何かを見ていた


私は咄嗟にその方向を見る為に振り返ると巨大な影が私の真上を通過する


それは誰しもが知っているにも関わらずほとんどの人が見たことないモノ


全ての人が()()を見上げる


敵も味方も剣を持つ者も持たない者も・・・空を我が物顔で飛ぶその姿を見上げていた



ドラゴン



おそらくほとんどの人が見ることなく一生を終えるであろう最強の魔物が何万もの人の前で悠然と空を飛ぶ


「で?『でももう』なんだって?」


「・・・私達の勝ちよ」


「文脈滅茶苦茶じゃねえか・・・まあでも・・・そうなんだろうな。とりあえず降りて来たら殴りに行っていいか?」


「ダメ・・・私が先よ」


「あっそ・・・色々やらかしてそうだもんな・・・ アイ ツ。もしかして行列になるか?・・・まっ、気長に待つか・・・とっととこのバカ騒ぎを終わらせてボクに殴られろ──────」




街の入口で戦争が始まったのを複雑な心境で見つめていた住民達だったが彼らもまたサラとシークスが見上げていたモノを同じように見上げる


「ヘクトさん・・・あれは・・・」


フリップが声を掛けるとヘクトは目を細め呟く


「歳はとりたくないのう・・・すっかり忘れておったわい・・・この街にはもう一人門番がおった事を──────」




ドラゴンの背に乗る青年は肩に黒猫を乗せて人でごった返す地上を見下ろしていた


そしてドラゴンを旋回させ全てを見渡し終えると誰にともなく呟く


「さあて・・・魔王様の降臨だ──────」

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