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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
520/856

516階 親子

ダメだ・・・勝てない・・・


ソニアさんと私の魔法は全て弾かれる


どれだけマナがあるのか分からないけどずっと彼女の周りを渦巻く風によって・・・


彼女・・・ウルティアは暇を持て余し自分の手の爪を眺めているくらい・・・


「あら?終わり?」


「誰が終わりと言った?もう少し爪でも眺めておきな」


「もう飽きてきたのよ・・・ところで一つ聞いてもいいかしら?」


「いやだね」


「貴女じゃないわ・・・そこの貴女に、よ」


私??


「な、何でしょうか」


「なぜここにいるの?」


え・・・どう言う意味?


ここにいる理由?そんなの・・・


「不思議なのよね・・・威力は申し分ないけどまるで教科書通りの魔法・・・工夫もへったくれもないただ魔法を唱えるだけ。上級魔法も使えるみたいだけどただ使えるだけ。ぶっちゃけ何の面白味もない魔法使い・・・それが貴女よ。だから疑問に思ったの・・・『なんでここにいるの?』って」


そう言われて彼女がどんな意図で聞いたのか理解した


何故ここにいるか・・・この場に相応しくない私が何故ここに立ってソニアさんと共に彼女と戦っているのか疑問に思っているんだ


「彼女はここに立つ資格があるわ。マナ量の調整や伏せがれた時の臨機応変さや技術も高い水準にある・・・わたしが魔法部隊を編成するなら必ずその部隊に入れたいと思う程の逸材・・・けど貴女は真っ先に落とすわ・・・だってつまらないもの」


「・・・」


「あら?怒った?でも仕方ないじゃない・・・事実なんですもの」


そう・・・彼女の言う通りだ


私には圧倒的に足りないものがある・・・それは『経験』


ダンジョンに潜った事もあるし当然魔物と戦った事もある。けど冒険者が毎日足繁く通っている間、私はギルドの受付カウンターで座っているだけ・・・冒険者と私とでは経験の差は歴然だ


それにマナ量が少なくて魔法使い自体を諦めていた時期もある・・・そんな私はこの場には相応しくないのは重々承知


それでも私は・・・


「これだけ言っても分からない?じゃあはっきり言うわね・・・この場から立ち去りなさい・・・命を無駄にしたくなければね」


「断る・・・と言ったら?」


「?そんなの決まっているでしょう?命を無駄にするだけよ」


彼女の周りの風が消えた


今なら!そう思い急いでロウニール君から貰った魔本を開こうとすると横から鋭い声が飛んで来る


「ペギー!逃げなさい!」


「え?」


ソニアさんは空を見上げていた


何から逃げるのか疑問に思いながらも空を見上げるとその時初めて私の真上の黒い雲の存在に気付いた


「わたしがただ爪を眺めているだけだと本気で思ってた?その雲は『雷雲』・・・貴女に死をもたらす雲よ」


雷・・・雲?


そんな!まさか!?


黒い雲の中が光るとバチバチと音が聞こえた


その『まさか』だった・・・黒い雲は雷を私へと吐き出す準備をしていた


逃げなきゃ・・・だが体が動かない


今から逃げても無駄だと本能的に悟ったのかそれとも体が竦んでしまったのか・・・足の裏が地面に吸い付くようにピッタリとついて離れない


「さあそろそろ充填完了ね・・・無駄にしちゃったわね・・・命」


目に光が差し込み何も見えなくなる


これが私の最期


そう思った瞬間に体が突き飛ばされた


雷に打たれたのではなく・・・突き飛ばされたのだ


続いて耳を劈くような轟音


そして徐々に視力が戻り何が起こったのか目の前の光景が物語る


「ソ・・・ソニアさん!!」


雷雲は私の真上にあった


だから雷が直撃するのは私だったはず・・・なのに私は突き飛ばされソニアさんが雷を受けたって事は・・・


「あーら、やっぱり優秀ね・・・咄嗟の動きは・・・でもその判断はいただけないわ・・・自分より弱い者を庇うなんて・・・」


ソニアさんは・・・私を庇って・・・


「ソニア・・・さん・・・」


ピクリとも動かない


まさか・・・死・・・


「痛いじゃない・・・これはお返しさね!ファイヤースピア!」


「っ!このっ!」


ソニアさんは突然起き上がると手のひらをウルティアに向けて魔法を放つ


良かった・・・生きて・・・


「・・・あーもう限界・・・後は任せたよ・・・ペギー」


「え!?ソ、ソニアさん!?」


「慣れない事をするもんじゃないね・・・マナを体全体に覆って何とか生きてるけど全ては防げなかったしマナも余分に消費した・・・ったく・・・天侯爵ってのは伊達じゃないね」


ウルティアはソニアさんのファイヤスピアで・・・


死んではないにしてもかなりのダメージを負っていると思っていた・・・けど実際は・・・


魔法の影響で発生した煙が晴れてくる


その煙の中に無傷のウルティアが仁王立ちしこちらを睨みつけていた


効いてない・・・そんな・・・風の防壁もなく不意打ちだったのに・・・どうして・・・


「イヤな奴だね本当・・・でもアンタならやれるさ・・・天才魔法少女・・・なんだろ?」


「ちがっ・・・私は・・・」


「教科書通り?・・・いいじゃないか・・・その教科書には書かれてないのかい?・・・敵の倒し方」


「私は・・・」


「勉強嫌いの私に見せておくれよ・・・優等生の戦い方を・・・頼んだよ」


そう言ってソニアさんは再び地面に伏した


私が・・・1人でウルティアを?


無理・・・だって私は・・・


「最後っ屁にしてはなかなか強力な一撃じゃない・・・お陰でとっておきの魔道具が壊れちゃったわ・・・お礼に細切れにしてあげる・・・ん?どきなさい・・・貴女じゃわたしに勝てないのはもう分かってるでしょ?」


ウルティアがソニアさんに歩み寄る


咄嗟に私はソニアさんの前に立ちウルティアに向けて構えた


私を庇って倒れたソニアさんに触れさせはしない・・・けど私に何が出来る?一発逆転を狙ってフェニックスを出す?でも防がれたら後がなくなる・・・これだけの魔法使いだフェニックスが二度翔ぶ事なんて当然知ってるはず・・・そして私のフェニックスは彼女の風の防壁を超える事は・・・出来ない


「貴女じゃ何をしても無駄よ。観念してそこを・・・」


いや・・・ある!自分の持つ最高の魔法が効かなくても相手を倒す方法は・・・


「・・・ロウニール君・・・力を貸して・・・」


魔本を開く


これまでコツコツとストックしてきた魔法が刻まれた魔本・・・なんだか勿体なくて使ってこなかったけど・・・


「なに?教科書持ち歩いてる・・・訳じゃなさそうね」


「・・・私の勉強方法は・・・」


「は?何を突然・・・別に貴女の勉強方法なんて興味は・・・」


「覚えたところを破るんです・・・もう二度と読まないくらい読み込んで、ね」


一気に破れるか心配だったけどどうやら破ろうとすれば簡単に破れるようになっているみたい


私は()()のページを破り宙へと放り投げた


「ちょっと・・・頭おかしくなっ・・・」


「死なないで下さいね・・・『殺されず殺さず』って言われてますから」


「何を・・・は?・・・はぁ!?」


ファイヤーブレッド、ファイヤーボール、ファイヤースピア、フレイム・・・ありとあらゆる火魔法が自らを封じていた紙を燃やし現れる


その数・・・100


さすがに100の魔法を同時に受けた事はないはず・・・威力が届かないなら数で勝負!


次々とウルティアに向けて放たれる小中級の火魔法・・・中にはファイヤーウォールが空中で展開し霧散しているけど・・・選んでいる暇はなかったから仕方ない


やっぱりさすがと言うべきか・・・ウルティアは魔法が届く前に風の防壁を展開し防いでいた


このまま防がれ続ける?・・・いや大丈夫・・・きっと何発かは通るはず


しばらく轟音が鳴り続け煙が立ち込める


音は魔法と魔法の衝突音・・・その音が鳴り続けているって事は・・・


100あった全ての魔法が私の頭上から消えた


ウルティアを包み込む煙の量が魔法の多さを物語る


一発でもいい・・・通ってくれてれば・・・


そう願いながら煙が晴れるのを待っていると煙は自然に晴れず人為的に振り払われた


「・・・やってくれるじゃない・・・魔法をストック?一つの魔法をストックする魔道具は聞いた事があるけどあんなに沢山の魔法をストックする魔道具なんて聞いた事がないわ・・・ちょっと貴女に興味が湧いたかも」


「・・・防いだんですか?・・・全ての魔法を・・・」


「ええ。それくらいわたしにとっては造作もないこと・・・それよりもその魔道具について・・・」


「実は私・・・勘違いしてたんです」


「?何の話?」


「絵本の中で勇者と共に行動する魔法使いが言うセリフ・・・『私の魔法は二度翔ぶ』・・・このセリフってフェニックスだから・・・そう勘違いしてたんです」


「だから何の話よ」


「別にフェニックスじゃなくても・・・火種さえ残っていれば・・・」


そしてその火種と繋がっていれば・・・


ウルティアに弾かれた数々の魔法の中でまだ火種を残した魔法が存在していた


私はその火種に命を注ぎ込む・・・再び翔べるように



「私の魔法は二度翔ぶ」



火種にマナを注ぎ込む


すると消えかけた魔法は再びその姿を戻しウルティアの元へ


「なっ!?」


「絵本ではフェニックスばかりが取りたざされていましたけど多分細かい描写を省いたのかと・・・セリフが『|()()()()』となっている時点で気付くべきでした」


「くっ!・・・間に合わ・・・キャア!!」


全て弾き返したと油断していたウルティア・・・突然息を吹き返した魔法に為す術なく初めて魔法を受けた


複数の魔法を同時に受け倒れるウルティア・・・死んで・・・ないよね?


いや、この際死んでしまっても仕方ない・・・今はソニアさんを早くヒーラーの元に・・・・・・ぐっ!


振り返りソニアさんの元に行こうとした瞬間、背中に痛みが走った


「やってくれるじゃない・・・2個しかない魔道具を2つも・・・しかも1つを貴女に使わされるなんてね」


そんな・・・防がれた?


「認識を改めるわ・・・貴女なかなかやるじゃない。本当は生かしてその魔道具の事聞きたいけど・・・今はそんな気分じゃなくなっちゃった。もう面倒だから2人共殺してあげるわ」


背中が熱い・・・魔法で斬られたのかも・・・


足に力が入らず地面に膝をつく


「上を見て。可愛いでしょ?今度は2人仲良く味わってもらう為に少し大きめに作ったの」


見上げるとそこにはウルティアの言う通り先程より少し大きい雷雲が


せめてソニアさんだけでも逃がさないと・・・でも足に力が・・・入らない・・・


「あー、動かない方がいいわよ?結構強めに斬ったから動くと大量出血で死んじゃうかも・・・まあどっちにしろ死ぬんだけどね」


ダメ・・・私はいい・・・けどソニアさんは・・・ソニアさんだけは・・・


「さよならエモーンズの魔法使い・・・楽しかったわ」


もう・・・間に合わない


「ごめんなさい・・・ソニア・・・さん・・・」


また光が視界を奪う


もう助けてくれる人はいない・・・本当は私がソニアさんを助ける番なのに・・・ごめんなさいソニアさん・・・ごめんロウニール君・・・私・・・



目を閉じても光が辺りを包み込むのが分かった


光に遅れて聞こえる轟音・・・私はそれを聞くこともなく死・・・・・・あれ?なんで音が・・・聞こえるの?


《なるほど・・・確かにこちらも子守りが必要だな》


・・・誰?聞き覚えのない声・・・一体誰が・・・


目を開け顔を上げて確認するもやはり知らない人・・・だけど分かる・・・この人が私達を・・・守ってくれた・・・


「また?今度は誰よ・・・てかなんで雷を防げるのよ!」


《確か目的は・・・ワタシにとっては造作もないがそうも言ってはられないな・・・そこの人間、動けるか?》


「私?・・・ちょっと厳しいです・・・」


《そうか・・・ならば早々に片付けて人間の元に送り届けるしか・・・いやしかし殺すなと・・・》


顎に手を当て何かを考える素振りを見せる


もしかして私達の身を案じてくれてるの?


「ちょっと!聞いてるの?一体何なのよ!」


《何なの・・・か。ワタシも最近自分が何なのか分からなくなってきたところだ。勢力を伸ばすつもりがいつの間にか四天王と呼ばれ6縛りの結界を作らされて・・・終いには『あたしがシシリアを見ておくからアンタは孫じゃなく実の子を見てきな』と言われる始末・・・ワタシは一体何なのだろう》


「知らないよ!・・・もういい・・・3人まとめてあの世に送ってあげるわ!」


《・・・それは困るな。魔王様とラディルに怒られてしまう。人間、少しの間我慢出来るか?》


「え、あ、はい・・・多分・・・」


「うむ・・・ならば身を寄せて待ってるのだ。もう魔法を受ける心配はない・・・ワタシの結界の中にいる限り、な」



『結界』シュルガット・・・参戦──────

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