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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
一部
52/856

49階 VSツチグモ

「あの・・・クモってお尻から糸出さなかったっけ?」


《ツチグモは口からも出すわ・・・言ってなかったっけ?》


「言ってない言ってない・・・どうすんのこれ?・・・ぐるぐる巻きなんですが・・・」


意気揚々と10階ボス部屋のツチグモに向かって行ったはいいものの、いきなり口から糸を吹きかけられてしまった。しかも粘着力のある糸で振り解こうとしても解けずいつの間にか簀巻き状態に・・・手に持ってた剣を糸の中で上下に動かしても切れやしない


糸を巻き付けながら僕を手繰り寄せるツチグモ


このままエサになってたまるかと動こうとすると余計に糸は体に巻きついてくる


「顔まで巻き付かれたら窒息・・・いや、その前に全身ぐるぐる巻きにされ生きたまま齧られて・・・」


自分で言ってて恐ろしくなり身震いする。本気で抜け出さないと本当にやられてしまいそうだ


《ロウ?》


「分かってる・・・十分()()()()()()・・・今から本気でやる!」


ツチグモの出した糸から脱出するには糸を切り裂けばいい。粘着力はあるものの、剣で斬れなくても魔法で簡単に切れるだろう。けど離れた場所でただ魔法で糸を切り裂いただけではまた糸を出されるだけなのでわざと糸を喰らい()()()()()()()


「宣言通り燃え散らかしてやる・・・魔法剣『炎舞』」


糸の中で剣にマナを纏い更にそのマナを炎へと変化させる


すると糸は一瞬で溶け体は自由を取り戻す


そしてそのまま燃え盛る剣を振り抜くと炎の斬撃はツチグモを両断した



魔法剣・・・相変わらず凄まじい威力だ



学校で習うのは基本職のみ・・・剣士なら剣技という魔技を覚え、魔法使いは魔法を覚える。自分の適性さえ分かれば基本職になるのは簡単だ・・・けど、冒険者となりダンジョンを攻略するにはそこからどう自分を鍛えるかが重要になっていく。もちろん『至高の騎士』であるディーン様のように剣士を突き詰めるのも一つの手だが適性が他の職にもあるのなら2つの職を鍛えて合わせる事も出来る


僕の場合は全てに適性があるのだが、主に2つの職に力を入れて鍛えてみた


それが剣士と魔法使い・・・つまり魔法剣士だ


ただ魔法を撃つよりも鋭く、ただ剣技を使うよりも威力の高い攻撃を繰り出す事の出来る魔法剣士・・・マナの消費は多いけどそれだけの威力はある


《これならわざわざ捕まる必要なかったんじゃないの?》


「そうでもないよ。近付かないと躱されちゃうかもしれないし、糸を躱しながら近付けば無駄なマナを消費してしまうだろうし・・・捕まって引き寄せてもらった方がより確実に近付けるだろ?」


《アナタ・・・人間相手には臆病なくせに魔物相手だと大胆になったわよね・・・》


「そりゃあ・・・慣れたからね」


散々エモーンズのダンジョンで魔物と戦いまくったからなぁ・・・慣れもする


自分で創った魔物を自分で倒す事に最初は違和感を覚えたけど仮面を付けて別の自分・・・ローグとして対峙すると不思議とその違和感は消え去った。ただダンジョンを守る魔物とダンジョンの侵入者の戦い・・・そう割り切ることが出来たんだ


スラミと模擬戦を繰り返し、ダンジョンに侵入者として入り魔物と戦う・・・その繰り返しが僕を慣れさせた


《じゃあさっさと人間にも慣れなさい。強くなっても手も足も出ないようじゃ話にならないわ》


「別に僕が人と戦う事なんてそんなないだろ?」


《どうだか・・・また人間同士の戦いがあるかもよ?いざとなった時に力を発揮出来なくて後悔しなければ良いけどね》


「・・・」


そうなんだよな・・・ダンジョンは決して人間と魔物の戦いだけじゃない・・・もしかしたらダンジョンマスターの立場だと本来なら魔物より人間と戦う機会の方が多いのかも・・・僕が特殊なだけで


《まっ、私はアナタが無事でいるのなら戦って勝とうが逃げようがどっちでも良い・・・けど、もし引けない状況の時にアナタは果たして自分の命を優先するかしら?何度も言うようだけどアナタと私は一心同体・・・アナタが死ねば私も死ぬ・・・アナタだけの命じゃないことだけは忘れないでね》


「・・・肝に銘じておく」


僕だけの命ならまだしもダンコの命もダンジョンの存在も僕に懸かってる。やられる前に逃げる・・・もしそれが出来ないようならやられないよう強くなる・・・いずれ訪れるかもしれない引くに引けない状況を想定するならばダンコの言う通り対人戦も慣れておく必要があるかも・・・


《あっ、ほら、魔核と宝が出たわよ》


ツチグモの残骸が溶けるように消えていき、地面にはツチグモの魔核と宝箱が地面に残る


僕は近寄ると魔核を拾い上げ、宝箱に手をかけた


「まさかボスドロップの宝箱に罠を仕掛けたりは・・・しないよね?」


《もし仕掛けてたら相当性格悪いコアね・・・まあないとは思うけど一応は調べた方が良いんじゃない?》


慌てて手を引き宝箱から少し離れるとマナを目に集めて宝箱を隅々まで『視る』


「・・・大丈夫みたい・・・ってか、中身も一緒に見ちゃったけど・・・腕輪みたいだな」


《別に要らないんじゃない?作ればいくらでも手に入るし・・・》


「うーん・・・とりあえず記念に貰っておこう・・・使わなきゃ売ればいいし」


《売る必要ある?お金なら作れば良いでしょ?》


「身も蓋もないことを・・・てか、あまりお金を作るのも良くないと思うんだけど・・・」


《なんで?》


「なんでってほら・・・労働に対する対価って事でお金を貰うのはありがた味があるけど作ってお金を得ちゃうとなんだか堕落してしまいそうで・・・」


《よく分からない言い分ね。働いて得ようが作って得ようがお金はお金でしょ?価値は変わらないわ。ロウは考え過ぎなのよ》


考え過ぎなのかな・・・確かにお金はお金・・・働いたお金の方がいい物買えるって訳でもないし、逆も然り・・・ただの気持ちの問題なんだけど、どうしても罪悪感が・・・


《それよりも早く11階に降りてゲートを使ってダンジョンを出ない?もう結構いい時間よ?》


「・・・そうだね。そろそろ戻るとしよう」


1階から10階まで・・・そこまで長い階層はなかったけど初めての場所で初めての魔物と戦い精神的にも疲れた。まだ1日目だし成果は十分だし・・・帰るとするか


僕は宝箱を開けると中に入っている腕輪を取り出し奥へと突き進む


そして11階への扉を開くと下へと降りて行く


「作りは一緒なんだね」


11階に降り立つと左側にゲートがあった。このゲートを通れば1階に戻る事が出来るはず


《この辺で個性出してもね・・・もし今度から直接来たいのなら壁に印でも付けとけば?》


「・・・いや、正規のルートで入るようにするよ」


この場所にゲートを繋げばエモーンズのダンジョンから直接ここに来れる・・・楽だけどそれだと冒険者として『人喰いダンジョン』を見れなくなりそう


「冒険者目線で見た方が参考になりそうだしね」


そう言って僕はゲートを通ると一瞬で11階から1階まで戻って来れた


「ご苦労様です」


「お、無事に帰って来たか。お疲れさん」


ダンジョンの前に立つギルド職員に挨拶し、カルオスに戻ると真っ先に冒険者ギルドへ


中に入るとダンジョンから戻って来た人なのか暇を持て余してる人なのか知らないけど備え付けのテーブルを囲い談笑している姿が見て取れた


気にせず僕は真っ直ぐに受付に向かうと朝対応してくれた受付の子の前に袋を置いた。1階から10階の道中で倒した魔物の魔核だ


「あ、えっと・・・お帰りなさい。これは・・・」


「買い取りお願いします」


「魔核ですね。では拝見させて頂きます」


そう言い受付の子が袋をひっくり返すと大量の魔核がカウンターを埋め尽くす


低層階の魔物の魔核だから小ぶりな物ばかりだけど数はかなり多い。それなりの金額にはなるはず


「一日でこれだけの数を・・・!?これ・・・ツチグモの・・・」


「はい。キリのいい所まで行きたかったので・・・」


「ひ、1人でツチグモに挑んで倒したのですか!?」


「は・・・はい・・・」


突然カウンターを叩き叫ぶ受付の子・・・ボスとはいえ下級だしソロで討伐してもそんなに珍しくもないだろうに・・・


「・・・ロウニールさん・・・貴方のギルドカードには討伐記録はありません・・・つまり初めてのダンジョンで・・・しかもソロで10階のボスであるツチグモを倒したのですか?」


あ・・・そう言えばギルドカードの裏には討伐した魔物が記録されてるって聞いた事がある。エモーンズのダンジョンに何度も潜ってるから初ダンジョンってわけじゃないけど他の人から見たら彼女の言うように初めてのダンジョンでボスを攻略した事になる・・・それってもしかして・・・やり過ぎ?


「えっと・・・運良く・・・」


「・・・少々お待ち下さい!」


何故か睨まれ待つように言われてしまった。彼女は他のギルド職員に何か話し掛けると奥の部屋へと消えて行き、彼女の声が大きくてどうやら暇を持て余していた冒険者達にも聞こえてしまったようだ・・・僕を見てヒソヒソ話をしている


居心地の悪さを感じつつ待つこと数分・・・受付の子が戻って来たと思ったらその後ろに大柄な男性を連れて来た


隻腕の男・・・傷だらけの顔にムキムキの右腕・・・左腕は肘の下からなく顔のシワから初老に足を突っ込んでいるように思えるが体だけ見ると30代前半にも見える不思議な男・・・その男が受付の子に耳打ちされると何を聞いたか知らないが僕を見てニヤリと笑った


「ロウニール・ハーベス・・・Gランクで人喰いダンジョンを喰いやがったか・・・」


いや、別に食べてないです


「俺ァここのギルド長でダズー・オケルスってもんだ。ちぃとツラ貸せや」


顎をクイッと動かし僕の返答を聞かずにダズーさんは奥の部屋へと歩き出す


仕方なく僕はカウンターの横を通り抜けダズーさんの後を追い奥の部屋へ


中に入るとダズーさんはソファーに座り、僕にテーブルを挟んだ反対側のソファーに座るように言った


「そう畏まんな。別に取って食おうって訳じゃねえ」


「・・・では何の用ですか?」


「・・・ロウニール・・・出身は何処だ?」


「エモーンズです」


「新しく出来たダンジョンの村か・・・なぜエモーンズで冒険者やらずにカルオスに来た?」


「えっと・・・それは・・・」


「まあ理由なんて何でもいいか・・・ロウニール・・・ずっとカルオスで冒険者する気はないか?」


「え?」


「国はダンジョンで儲けようと躍起になってやがる・・・で、ギルド職員である俺らにプレッシャーをかけてきやがって・・・やれ売上をもっと出せだのダンジョンを成長させろだの・・・うるせえったらありゃしねえ」


「は、はあ・・・それと僕がこの街の冒険者になるのと関係が?」


「大ありだ。この街のダンジョンである『人喰いダンジョン』・・・そのダンジョンの成長がここ10年以上止まっちまってる・・・ダンジョンを成長させるには人材が必要なんだよ・・・とびっきりの人材が、な」


成長が止まってる?


ダンジョンコアが作動してないのか?


「その・・・人材?が集まればダンジョンは成長するんですか?」


「ああ・・・多分な。全てが動き出すはずだ・・・40階のボスである『ドラゴニュート』を倒せば、な──────」

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