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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
519/856

515階 蠢く

ブラッドミスト・・・血煙が舞う中シアは悠然と歩き目標に近付いていた


2人の視界は奪った・・・後は気絶させるだけ


のはずだった


「っ!くっ!・・・なんじゃ!?」


「惜しい・・・外れか・・・」


血煙で見えないはずが正確にシアを狙い飛んで来た刃


それをすんでのところで躱すと飛んで来た刃は地面に落ちズルズルと引っ張られ回収される


先端に刃が付いた鞭・・・それがバベルの武器だった


「珍しい得物じゃのう・・・なぜワシの位置が分かったか知らぬがその得物でワシを狙ったのはミスじゃ」


鞭が引っ張られる方向にバベルが居る


シアは長く伸びた爪で指を引っ掻くと垂れた血をナイフに変えて鞭が引っ張られる方向に放つ


殺されず殺さず・・・それを守る為には急所に当たるのは避けなくてはならない。なので居る場所を予測し足を狙って放つが・・・


「・・・残念・・・もう少し上だ」


「余裕じゃのう・・・ならば少し上を狙ってみるとするか」


ブラッドミストは相手の視界を奪うが使った本人も視界が万全ではない。近くなら見えるがある程度離れれば見えなくなる。なので近付き2人より先に姿を捉え気絶させようとしたがバベルが中距離の攻撃手段を持っていると分かった以上無闇に近付くのは危険と判断し投擲に切り替えた


再び血をナイフに変え三本を連続して放つ


「惜しい!もう少し」


「このっ・・・死んでも知らぬぞ!」


更に三本を角度を変えて放つシア


だが・・・


「本気で狙ってんのか?全然だぞ?」


「埒が明かん!・・・・・・・・・は?」


シアは全く当たる気配がない為にブラッドミストを解除すると衝撃の光景を目の当たりにした


投げたナイフは全てバベルに突き刺さっている・・・だがバベルは痛がるどころか恍惚の表情を浮かべていた


「なんだもう終わりなのか?これからって時に・・・血の煙幕に血のナイフ・・・最高じゃないかお前」


「・・・な、なんじゃお主は・・・」


「・・・ハア・・・どうやらアタシの出番はないみたいね・・・ご愁傷さま」


ソワナがバベルの姿を見てため息をつく


「当たり前だ・・・邪魔したらソワナと言えど許さないからな。さあお嬢ちゃん・・・俺と楽しく遊ぼうぜ!」


そう言うと体に巻き付けていた鞭を引っ張りシアに向けて振るう


バベルの姿に若干引いていたシアだったが平静を取り戻すと先端に付いている刃を慌てて躱す


「逃げるなよ」


バベルは鞭を持つ手を横に振ると真っ直ぐに伸びていた鞭は手の動きに合わせて動き、躱したシアを取り囲むように巻かれていく


「このような鞭など叩き斬ってやる!」


叫び爪で鞭を切り裂こうとするシア・・・が、鞭はシアの爪を弾く


「なっ!?」


「あー言ってなかったか・・・俺タンカーなんだよね・・・だから硬くするのはお手の物・・・ってね」


爪を弾いた鞭はそのままシアの体に巻き付き拘束する。シアは咄嗟に両腕を広げて脱しようとするが鞭は再び硬くなりシアの小さい体を締め付けた


「ぐっあぁ・・・おのれ・・・」


「うわぁこの背徳感・・・やべぇな。よし決めた!連れて帰ろう」


「コラコラ。陛下がお許しになる訳ないだろう?さっさと殺っちまいなよ・・・見てるこっちは背徳感じゃなくて罪悪感塗れなんだからさ」


敵・・・しかも普通ではないのは明らかとは言え見た目は少女。苦しむ姿は見ていて楽しいものじゃないとソワナは言うがバベルはそれを拒否する


「連れて帰れねえならせめてこの場で楽しませろよ・・・おい、さっきの血の煙とかぶわーっとやれよ。なあおい」


「・・・望み通り・・・楽しませてやろう・・・」


シアは鞭で締め付けられながら苦しそうに呟くと最後に苦しそうな表情一転微笑んだ


するとシア自体が血の霧と化し鞭の拘束を抜けるとそのままバベルに向かって風に吹かれたかのように飛んでいく


そして・・・


「ゴッ・・・フ」


「あーらごめんなさい・・・つい、ね」


霧と化しバベルに攻撃を仕掛けようと霧化を解除したその瞬間無数の槍がシアを貫く


油断していた


ソワナはずっと動かなかった為に意識はバベルへと集中してしまっていた


「余計なことを・・・って思ったが・・・いい!やはり持ち帰って・・・」


「ダメよ。すぐに始末して他を手伝いに行かないと・・・まあ見る限り必要はなさそうだけどね」


「・・・あーあ、逸材だったのに・・・しゃーないか」


槍に突かれ血塗れで膝をつくシアに対しバベルは距離を取り鞭を構えた


「血を使うなんてなんだか怪しいから確実に首を飛ばした方がいいわよ?もしかしたら魔族かも」


「へいへい・・・こんな大勢の前で少女の首を飛ばす羽目になるとは・・・サイン攻めにあったらどうしよう」


「ならないからさっさとやって」


「・・・はいはい・・・分かりましたよっと!」


もう少し時間があれば・・・塞がりかけた傷口を押さえながらうねりを上げて飛んで来る鞭の先端の刃を睨むシア


ここまでか・・・と目を閉じ死を受け入れるが一向に来るはずの痛みは来なかった


「・・・首は・・・あるな・・・一体何が・・・」


首を触り繋がっているのを確認して目をゆっくり開けると目の前に見覚えのある者が立っていた


《血の匂いに誘われて来てみれば・・・なるほど・・・これも因果か・・・》


「誰だてめぇ!血の祭典を邪魔すんじゃねえ!」


《血の祭典・・・なかなか良い響きだ。それにそこそこやるようだ・・・新たな魔王様の供物として捧げるにはちょうどいい》


「あ?新たな魔王?」


《今回は量ではなく質を・・・まあ数もあそこに揃っているか・・・悩ましいな》


シアの首を落とさんと放たれた鞭はシアの前に突然現れた男が掴み止めてしまう


すぐに鞭を手から離すとバベル、ソワナと見て最後に2人の背後で待機する軍勢を見て笑みを浮かべた


「っ!?・・・牙?・・・魔族・・・か」


「牙が生えてる魔族ってワタシ1人しか知らないけど・・・」


「ああ・・・俺もだ・・・ぶっちゃけ子供の頃はなりたい魔族No.1だった・・・」


「なりたい魔族なんて考える子供時代って何なのよ・・・血を使う少女にそれを守る牙の生えた魔族・・・色々と納得だわ」


「だな・・・保護者の登場って訳か・・・娘さんを虐めて悪かったな!ヴァンパイア!」


《娘・・・まあそうなのだろうな。さして興味もないが》


「ムッ」


《・・・そう睨むな。ふむ・・・あの数を眷属にするのは少々骨が折れるか・・・いいだろう我の血を受け継いでいるのならば我と共に来るがいい・・・少しばかり手ほどきをしてやろう・・・人間共を使うというのがどういうものなのかその目で見よ・・・あの人間が言う・・・血の祭典とはどういうものか見せてやろう》



『魔眼』ヴァンパイア・・・参戦──────





エモーンズ内某所



「まだトドメを刺しに行かないのか?」


「・・・」


「まさか後悔してるのか?」


「・・・後悔はしてないっす・・・けど・・・」


「けど?」


「刺す前は復讐する事だけを考えてたっすけど今になって・・・本当はどうすればよかったのか分かんなくなってきて・・・」


「???意味分かんねえな。女を殺した相手を殺す・・・それだけだろ?他に何かあるか?」


「シルが!・・・彼女が王都で何をしようとしていたのか・・・何をしたのか知っている・・・決して許される事ではないっす・・・彼女のした事もしようとした事も・・・誰かが止めなきゃいけなかった・・・それがたまたまロウニールだっただけで・・・」


「おいおい・・・物事を複雑に考えて明後日の方向に行ってんじゃねえよ。シンプルに考えろ・・・てめえの女を殺した男に復讐する・・・それだけだろ?てめえは肉を食う時に『この肉はどんな生活を送って来たんだろう』って考えるのか?考えないよな?美味いから食う・・・それと同じだ。ムカついたから殺るってのはよ」


「食べ物と同じっていうのはどうもピンと来ないって言うか・・・」


「ウダウダうるせぇなぁ・・・いいから殺って来い!今なら兵士達は海の方に何かあったのか出張ってるし厄介そうな奴らも街から出て行った・・・今が千載一遇のチャンスだ。毒で死なねえのにな驚いたが身動きは取れないはず・・・今度は確実に息の根を止めて来い!」


「・・・分かりました・・・師匠」


「師匠じゃねえ!何度言ったら分かんだよ!」


「だって暗殺術教えてくれたじゃないっすか!もうそれって師匠でしょ!?」


「殺気を消すなんざ初歩も初歩!赤子でも出来るってんだ!いいからさっさと殺って来い!」


「いやさすがに赤子は無理っす!」


「ツッコんでんじゃねえ!いいから行け!」


「はい!師匠!」


「・・・てめえいつか殺す──────」






エモーンズ内ローグ邸地下



「・・・何やら騒がしいのですがここにいていいのですか?・・・団長」


「将軍だ」


「私にとっては団長は隊長でも将軍でもなく団長なんです・・・そうでしょ?ケイン団長」


「・・・」


「ところで本当に行かなくていいので?私は逃げも隠れもしないので行ってもいいですよ?」


「それはお前が決める事じゃない・・・ジェイズ」


「決めるなんてそんな・・・私はただみんなが心配なだけです。ケイン団長がいないと何も出来ない連中ですし・・・」


「お前が心配する事じゃない」


「ケイン団長!」


「裏切り者のお前の言葉に何の意味もない。俺を団長と呼ぶのも皆を心配する言葉も・・・何を言おうが俺には響かない」


「・・・そんな・・・私はケイン団長の・・・」


「全ては俺の為にやった事?誰が頼んだそんな事をしてくれと・・・お前はただ独りよがりな考えで暴走し裏切った」


「っ!私は決して!・・・決してケイン団長を裏切ったりなど・・・」


「結果的にそうなっただけ・・・か」


「そう・・・いえ違います!結果的にケイン団長はフーリシア王国の騎士団団長となるのです!こんな辺境の地の将軍ではなく・・・王都にて国を守護する騎士団団長に・・・」


「それもいいな」


「で、でしたら・・・」


「フーリシア王国を知りエモーンズという街を知る前ならそこが俺の目指す場所だった。数年前の俺ならお前のやった事を褒めていたかもしれん・・・だが今の俺はお前を褒めるどころかどう処分するか頭を悩ましている」


「・・・団長・・・変わってしまった・・・という事ですか?」


「お前は俺の隣で何を見てきた?変わってしまった?そうじゃない・・・理想と現実が違った・・・ただそれだけだ。フーリシア王国は腐っている・・・少しばかりの正義感を振りかざしたところでどうしようもないくらいにな。つまり俺がフーリシア王国の騎士団団長になったところで同じように腐っていくだけだ」


「・・・」


「俺がなりたいのは聖王国フーリシアの騎士団団長であって腐敗した国の騎士団団長ではない。・・・まあだからと言って夢を諦めた訳ではない」


「・・・え?」


「ロウニール・ローグ・ハーベス・・・俺の部下だった男が今や王位継承権を持つ大貴族だ。そして生意気にも俺を配下にしやがった・・・一時的に、な」


「一時的・・・一体それは・・・」


「一時的は一時的だ。あいつは想像よりも大物だぞ?何せ『大陸から争いをなくす』とかほざきやがるからな。その為に力を貸せ、と言ってきやがった。辺境の地を治めた程度の奴が何言ってんだとも思ったが事実魔王を討伐し世界を救ってるからな・・・あいつならやりかねない」


「じゃ、じゃあその『大陸から争いをなくす』が実現したら・・・」


「俺は晴れてフーリシア王国の騎士団団長だな。しかも今の腐ったフーリシア王国ではなく聖王国フーリシアの、な」


「そんな・・・」


「お前に話さなかった俺が悪い・・・お前なら黙って付いてきてくれると勝手に思ってた・・・まさかこんな大胆な行動に移るとは夢にも思わなかった」


「・・・」


「まあ・・・お前は俺を裏切った訳じゃないからな・・・だからお前の処分は『一生黙って俺に付いてくる事』で、どうだ?」


「・・・なんですかそれ・・・まるでプロポーズじゃないですか・・・」


「・・・嫌なら一生ここで暮らすか?」


「嫌なんてとんでもない!・・・一生付いて行きますよ・・・団長が拒絶してもね」


「なら出て来い・・・そして見せてやる・・・俺が団長となり騎士団を引き連れる様をな・・・ジェイズ副団長」


「副・・・はい!どこまでもお供します!」


「・・・それはそれで気持ち悪いな」


「・・・団長・・・」


「まあいい・・・とりあえず街に連合軍が押し寄せて来たり港に船が入って来たりと何かと忙しいが今はやる事をやるぞ」


「やる事・・・ですか?」


「まだお前の裏切りがバレた事を奴らは知らない・・・だからお前の言うことは信じる・・・だろ?」


「二重スパイ・・・って事ですか?」


「ああ・・・さすがに何万もの軍勢とまともに戦って勝てるほどエモーンズに兵力はないからな・・・なら頭を使うしかないだろ?」


「ケイン団長が・・・頭を?」


「・・・やはり裏切り者は死刑に処すべきか・・・」


「あ、いや・・・分かりました!ではどのような嘘の報告をすればいいでしょうか?」


「そうだな・・・・・・・・・そこはお前が考えろ」


「・・・団長・・・」


「牢屋から独断で出すのは二度目だな。一度目のロウニールは魔王を討伐し二度目のジェイズ・・・お前は何をもたらすか・・・楽しみだ──────」

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