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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
512/856

508階 青天の霹靂

勇者と大軍が迫り来る中、ようやく方針が決まった


あとはみんなに説明するのみ・・・いや、説明と言うより説得の方が正しいか


「ちゃんと話す内容覚えてる?緊張してない?」


僕よりも緊張した様子で僕の後ろをうろちょろするサラ


未だにメイド服なのが謎だ・・・まあ人前に出る訳でもないから服は着慣れた服を選んだのかも


「全て・・・とは言えませんがほとんどの住民が集まったようです」


「分かった・・・じゃあ行ってくるよ」


ナージの言葉に頷き心配そうに見つめるサラに微笑み歩いてみんなが待つ広場へと歩き出す


これから僕が話す内容を聞いたらみんなはどんな反応を示すだろうか・・・素直に従ってくれる人もいれば呆れて出て行く人もいるかもしれない・・・いや、もしかしたら大多数は出て行ってしまうかも


相手を殺さずこちらの犠牲も出さず勝ちもせず負けもしない・・・なんで僕がここまでしないといけないのか甚だ疑問だ


いっその事アバドンの事をみんなに伝えて『争いはやめよう』って訴えかけるか?


〘恐怖を煽ってどうすんのよ〙


ですよね


勇者に勝った魔王にすら勝つ魔族アバドン・・・そんな奴がどこかに潜んでいると知ったら気が気でないしイタズラに恐怖するだけ・・・それこそ奴の思うつぼとなってしまう


不安や恐怖は魔力の元・・・たとえ戦争が起きず平和な世の中でも不安や恐怖が高まればアバドンは出て来てしまう・・・全てを破壊する為に


だからみんなは知らなくていい


僕だけが知り僕が止めればそれでいい・・・今日はその一歩となるはずだ



広場に出ると静かに僕を待っていたみんなが一斉にざわつき始める


睨んできたり僕を見て唾を吐く奴もいる・・・だけど最も多い顔は不安な顔・・・これからどうなるのか不安で仕方ないって顔だ


僕の言葉がみんなに届くのか・・・その言葉の意味を理解してくれるのか・・・この期に及んで不安になってきた・・・不安が伝染するって本当なんだな



・・・落ち着け・・・きっと大丈夫・・・僕がみんなを守る・・・



ザワ


大きく息を吐き、これからって時に一際ざわつき始める


それもそのはず集まった人の中から突然フラフラと一人の人が僕の元へと向かって来たからだ


警備をしていたケインがその人物を後ろに下げようと兵士達に指示を出すが僕はその人物が誰か分かりケインの指示を手を上げて制す


「久しぶり・・・どこに居たんだ?」


「・・・ずっと訓練をしていた」


「訓練?」


「ああ・・・溢れ出ようとする殺気を抑える訓練だ」


「・・・殺気?・・・グッ・・・ケ・・・」


「この毒は特別製だ・・・たとえお前でも死は免れない・・・シルの仇・・・苦しんで死ね・・・ロウニール」


その目は憎しみに満ちていた


よく見るとこれは僕がスカットにあげた・・・



悲鳴が聞こえる


目が霞み朧気ながら血だらけになったサラの姿が見えた


一瞬起き上がろうとするがすぐにその血が僕の血である事に気付き起きるのをやめた


スカットにあげた短剣は僕の胸に深く突き刺さりその剣先から体内へと異物が流れ込んで来る


僕はこうしてみんなの前でサラに抱かれたまま眠りについた


抗う事の出来ない深い眠りに──────





突然の出来事だった


民衆の前で彼らの領主であり魔王と言われ勇者の目的である人物が大量の血を滲ませ目の前で倒れる


その衝撃は瞬く間に民衆の心を蝕み負の感情が噴出し始める



エモーンズという街は光を失い闇に覆われた



「くだらねえ・・・何を期待してたんだか」


一人の男性が呟く


『期待』


民衆が勇者が大軍が押し寄せているにも関わらず街に残っていたのはロウニールへの『期待』がそうさせていた


彼なら何とかしてくれる・・・その淡い期待も彼が目の前で倒れる事により簡単に崩れ去った


「てかさ・・・アイツ何言おうとしてたんだろうな」


「さあな・・・待てよ・・・アイツもしかして自作自演なんじゃね?ほら同情を引こうとしてさ・・・わざと刺されて・・・」


「んなもん逆効果だろ。てか実は魔王を倒したのは嘘だったんじゃねえの?だってよ・・・魔王倒した奴があんな簡単にくたばるか?」


「おぉ確かに。しかも刺した奴って以前この街で・・・」


冒険者ギルドに隣接するダンジョン亭


その店で昼間の事件を目撃した冒険者達が好き勝手の言い放題・・・だが店には客が多くいてその会話が聞こえているにも関わらず否定する者はいなかった


「なんだか考えれば考えるほど怪しいよな」


「そういやダンジョンを作ったのも魔王を復活させたのもアイツなんだろ?これってもう答え出てんじゃね?」


「けど魔王討伐には剣聖も参加してたぞ?自作自演なんてしてたらバレるだろ」


「ところがどっこいその剣聖が行方不明らしいぜ?」


「あの剣聖ディーンが?なんでまた・・・」


「たとえばだ・・・あの魔王討伐の嘘がバレて秘密裏に処刑された・・・なんて事もあるんじゃね?」


「なんで秘密裏なんだよ。もし本当に嘘だったとしたら剣聖が裏切った、魔王討伐は嘘だったって公表した方がよくね?」


「国としても引っ込みが付かなくなったんじゃ?で、とうとうバレたから今回の侵攻になったとか・・・」


「辻褄は・・・合うな。結局アイツは殺られるべくして殺られたって訳か」


「だな。呼ばれたヒーラーに話を聞いたけど結構ヤバいらしいぜ?回復しても回復しても治る気配がないんだと。多分だけど『呪毒』じゃないかって・・・」


「これでこの街もおしまいか・・・呆気ないもんだな・・・」


「まっ勇者が真っ直ぐここに向かってるって事はこの国のダンジョンは攻略しないって事だろ?ならここがダメでも当分は稼げるさ・・・他の国は結構攻略されちまってるらしいし運がいいのかもな」


話している冒険者達にとってエモーンズは稼げるダンジョンがある街でしかなかった


だからこそ好き勝手言える・・・エモーンズがダメなら他の街があるから


「フン・・・だったらさっさとこの街から出て行けばいい・・・お前らのような奴らがいるとメシが不味くなるだけだ」


冒険者達の隣のテーブルで1人食事をしていた男、アブナが鼻を鳴らし肉にフォークを突き刺しながら呟いた


それを聞いた冒険者達は互いに顔を見合わせると何故か笑い出す


「聞いたかよ・・・散々『大都市はんたーい!』とか『ロウニールは領主の器じゃなーい!』とか言いまくってた奴が何か言ってやがるぜ?」


「もしかして死にそうな領主に同情でもしたのか?今更だよな・・・邪魔ばっかしてやがったくせして」


「・・・だったらなんだ?俺は苦しんでいる奴をバカにして笑いながらメシを食うほど腐っちゃいねえだけだ」


「なんだとテメェ!」


冒険者達は立ち上がると隣のテーブルにいるアブナに詰め寄る


それでもアブナは気にすることなく言葉を続けた


「腐ってても人の言葉は理解出来るみたいだな。ならその腐った脳みそに叩き込んでおけ・・・俺が大都市計画に反対してんのはお前らみたいな奴らがエモーンズに入り込んで来るのが嫌だからなんだよ。お前らが生まれる前からここに住んでいた・・・ほのぼのして時間がゆっくり過ぎていく何の変哲もねえ村だった・・・俺はそんな場所で酒でも飲みながらだらけていたかっただけだ」


「はあ?だったらなんだってんだ?意味分かんねこと口走ってんじゃねえぞオッサン!」


「ああ、意味は分からんよな・・・俺だって無意味なのは分かってんだ・・・大多数の奴らが大都市化に賛成している・・・だから俺なんかが吠えたって意味はねえ・・・けどな・・・けど・・・アイツが・・・あの何にも出来なかったロウニールが真剣に取り組んでんだ・・・だったら俺だって真剣に返してやらねえといけねえだろうが!厄介な野郎と思われたっていい!けど数は少ねえけどこう考えてる奴もいるんだって伝えるべきだろうよ!お前らみたいに陰口叩くかずによぉ!アイツはエモーンズの為に色々やって来たんだ!お前らみたいのがバカにしていい奴じゃねえ!真剣に向き合ってこそだろうが!ここが好きでもなく稼ぎに来ただけならとっとと出て行け!俺達のエモーンズから出て行けってんだ!」


「んだとオッサン・・・いいぜ出て行ってやるよ・・・ただしオッサン・・・テメェをぶっ飛ばした後にだ!」


掴みかかろうとする冒険者・・・アブナは身動きひとつせず掴まれそうになったその時、冒険者の腕を掴み阻む者が現れた


「・・・遅いぞ・・・危うく死ぬところだったじゃねえか」


「アブナのオッチャンよぉ・・・その人の神経を逆撫でする癖治せよな」


「ハッ!俺は変わる気はねえよ・・・エモーンズが変わろうとな・・・お前の親父はその事をよく知ってるはずだが聞いてないのか?ダン」


ダン・フォロー・・・町長であるダナス・フォローの息子にしてA級冒険者である彼の出現に冒険者達は顔を青ざめさせる


「っ!・・・ダン・・・くっ離せ!」


()()?いつから呼び捨てするようになったんだ?・・・ああ、組合が解散になったからもう関係ない、と・・・そういう事か?」


「ぐっ・・・当然だろ?組合がなけりゃ上下関係もなくなる・・・俺とお前は・・・おなじ冒険者ってだけだ!」


「俺様がお前らと同じ?一緒にすんな。こちとら生まれも育ちもこの街だ。途中で他の街に行ったのも金の為じゃねえ・・・この街を守る力を付けに行っただけ・・・稼げるからってこの街に寄生するお前らなんかと一緒にすんじゃねえ!」


「・・・ハッ、だったら守ってみろよ・・・国が勇者が押し寄せて来るぞ?守る力を身に付けたってんならそいつらから守ってみろよ!」


「ああそのつもりだ。その前に害虫を駆除しないとな」


ダンが握り潰さんとばかりに力を込めると掴まれている冒険者が苦悶の表情を浮かべる。冒険者の仲間達が腕を掴まれた男を助けようと動こうとするがダンはその者達をひと睨みで制し更に力を込めた


「があぁぁぁ!や、やめっ・・・」


腕が潰れる寸前、ダンはパッと手を離し冒険者を解放する。そして尻もちをついた冒険者を睨み口を開いた


「・・・逃げたきゃ逃げろ邪魔くせえ・・・ここにいる奴らも聞け!聞けば国だけじゃなくて勇者が大軍を連れてここに向かってるらしい・・・この街にある戦力じゃ話にならねえほどの大軍だ!逃げたきゃ逃げろ!誰も責めはしねえ!だが・・・少しでもこのエモーンズに愛着があんなら残って力を貸してくれ!国が敵なら従う必要はねえ・・・ここに宣言する・・・『エモーンズシールダー』復活だ!冒険者だけじゃねえ・・・老若男女誰でも歓迎する・・・みんなで守ろうぜ・・・この街を!」


ダンの声は店全体に響き渡る


各々が様々な反応を見せる中、アブナがテーブルに肘をつき苦笑する


「守るだと?・・・正気か?ダン」


「ああ、正気だ。それと新生『エモーンズシールダー』の組合員一号はアブナのオッチャン・・・あんただ」


「・・・はあ?お、お前何言って・・・俺は別に・・・」


「なーに、別に武器持って闘えなんて言わねえさ・・・大軍相手にするには色々準備が必要だ・・・その辺を手伝ってくれればいいからよ」


「いやいや待て!て言うか誰も組合に入るなんか言ってな・・・」


「さあ忙しくなるぞ!我こそはって奴はどんどん来てくれ!一緒に守ろうぜ!この街エモーンズを!」


聞いている者達の反応は薄い


それでもダンはまるで勝利を確信しているかのように笑みを浮かべ拳を天井に突き上げた


「・・・おいコラダン・・・人の話を聞け・・・俺は生まれてこの方ケンカすら・・・」


「明日から人集め頑張ろうな!オッチャン!」


「だから人の話を聞けー!」



勇者率いる大軍と数年前まで村だった街の無謀な戦いが始まろうとしていた──────





「ええ・・・魔王ロウニールはどこぞの暗殺者の凶刃に倒れ昏睡状態です・・・今のところ起きる気配は・・・いえそこまでは・・・はい・・・また状況が変わりましたら連絡致します・・・ですのであの件は・・・はい・・・よろしくお願い致します・・・・・・・・・っ!?」


「随分と長い時間話し込んでいたな・・・女の影がないと思ったが実は隠れてどこぞの女と付き合っていたのか?」


「・・・どこまで聞いていたのですか?」


「全部だ」


「っ!・・・これは・・・私はずっと・・・」


「言い訳は牢屋の中で聞こうか・・・ジェイズ──────」

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