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ダンジョン都市へようこそ  作者: しう
二部
511/856

507階 女達の戦い2

「とりあえず全ての街を周り食料を買い集めろ!保存が効くものを優先に多少傷んでも食べれる物もありったけ買うのだ!出し惜しみはするな!」


フーリシア王国侯爵ファゼン・グルニアス・トークスに同国第一王子であるマルス・オギナ・フーリシアよりある任務が下された


連合軍の補給・・・主に食料の調達である


各国の軍が集まった連合軍の侵攻において最も懸念されるものは食料であった。短い期間ならともかく長期間の食料の調達は非常に困難・・・その為補給は連合軍の生命線でありそれを担う者の責任は重大となる


その責任重大な補給を任されたファゼンが寝る間も惜しみ食料調達に奔走している姿を見つめる者がいた・・・ファゼンの娘カレン・グルニアス・トークスである


「御父様!」


「・・・カレンか・・・今は忙しい。急ぎでないのなら後にしてくれ」


「御父様は命の恩人に対して恩を仇で返すおつもりですか?」


「・・・しばし休憩としよう。カレン以外は部屋から出て行け」


執務室の中で忙しなく動いていた者達はその言葉に従い出て行くと部屋はファゼンとカレンの2人きりとなった


「フゥ・・・この任務の重要性がいまいち分かっていないようだな」


「分かっておりますわ・・・ローグ公爵様を討つべく集められた大軍の補給活動・・・どれだけ重要かなど当然・・・だからこそ御父様の行為はあの方への仇となる」


「仇?恩?・・・笑わせる・・・あの時は確かにローグきょ・・・ロウニール・ローグ・ハーベスの助力がなければ危なかったであろう。だがそれは私がカレン・・・娘であるお前を差し出したから・・・」


「違います!わたくしの婚約はあくまでローグ公爵様の部隊と手を組む為のもの・・・ローグ公爵様はわたくし達を助ける為に単身戦場へ来てくださりリガルデル王国軍を追い返してくれたのですわ!」


「フーリシア王国の国民として貴族としての義務を果たしただけであろう。それを言うなら我々も命を賭してあの場に居たではないか」


「ですが・・・わたくし達は公爵様が駆け付けてくださらなければあの場で・・・」


「責務を果たした結果そうなっただけ・・・それに当時辺境伯であった奴は功績により公爵となったではないか」


「それは魔蝕の治療に対しての・・・」


「リガルデル王国が我が国に攻め込んで来たという事実を隠す為に表立って恩賞を与えられなかっただけだ。公爵になった経緯には国境での活躍も含まれている。奴は国に貢献した分それなりの対価は受け取っているのだ・・・我々が恩義を感じる必要はない」


「ですが恩義を感じるのも自由ですわ!わたくしはあの時死を覚悟いたしました!公爵様が来てくださらなければ確実に命を落としていた事でしょう・・・御父様も同じはず!確かに責務かもしれませんがあの場にいた全員の命が救われたのです!」


「魔物を使って人を食い殺して、な」


「なっ!?それは・・・」


「あの時はお前のように助けてもらったという事を優先し深く考えなんだ・・・だが今はあのような悪魔の所業を用いて助けられたとて恩義を感じる必要もないと思っている。もしかしたら人間に恩を売る為にわざとリガルデル王国に攻めさせたやも知れんな・・・計算通り奴は地位を得て勢力を拡大し・・・」


「っ!・・・御父様!彼はそのような・・・」


「彼?さっきから公爵様だの彼だの・・・伝えたはずだぞ?奴は魔王だと。もはや公爵でもなければ人間でもない。味方と疑われただけで厄介な事になるのだ・・・その辺を理解し・・・」


「彼は人間です!わたくしを何度も助けてくれた・・・命の恩人であり・・・」


「だからなんだと言うのだ!!国に反旗を翻し奴に味方しろと?そんな事をすればどうなるか想像もつかぬのか!私達だけではない・・・我が領地の者達にも被害が及ぶ・・・もし私が奴の味方をし補給を土壇場で断ったりしてみろ・・・食料不足に陥った大軍は難癖をつけ我が領地から力づくで奪い取って行くだろう・・・いや断らずとも足りなければ充分起こる可能性がある事だ・・・大軍は正義の名のもとに集まっておる・・・多少の犠牲など厭わない・・・それが下々の者なら特にな。だから私は必死になって食料を・・・なのにお前ときたら・・・」


「・・・いや・・・その・・・」


「考えなしに行動するな!貴族として恥じない言動をしろ!領地を守り潤わす事を常に考えよ!」


「・・・」


「自分勝手に生きる時期などとうに過ぎているであろう・・・もう少し周りに目を向け自重したらどうだ?」


「・・・領地を守る為なら・・・恩人に背を向けるのも厭わない、と?」


「それが貴族だ」


「ならば貴族など・・・」


「それ以上何も言うな・・・私はお前を拘束したりしたくはない」


「いえ・・・言わせてもらいますわ・・・わたくしは一度はお慕いした方を信じております・・・だから・・・」


「もういい・・・ダハット!アンガー!そこにいるのであろう?とっとと連れて行き部屋に閉じ込めておけ!部屋から出したら貴様らはクビだ!」


「御父様!」


「勘当しないだけマシだと思え・・・今回の件が終わったら嫁ぎ先に迷惑かけぬよう貴族というものを叩き込んでやるから覚悟しておけ」


カレンの未来は決まっていた


冒険者になり何かを成し遂げようがいずれはトークス家の為になるようどこかに嫁ぐだけ


その流れを変えようとした時期もあった


がむしゃらに足掻いて変えようと・・・しかし理想は時間と共に現実へと変わっていく


ただひたすらにひたむきに理想に向かって歩いていたはずが近付いたのは現実であった


部屋に入って来たダハットとアンガーはファゼンに頭を下げるとカレンの腕を掴み部屋の外へと連れ出そうとする



いつものパターン



父には逆らえず敷かれたレールを歩くだけの人生


逆らっても結局は強引に戻されまた同じ道を歩く


ただ・・・たった一度だけ違うレールに乗った気がした時があった


それは・・・


「・・・っ・・・御父様!」


振り返り父を見るカレン


だがファゼンは既に話に興味はなく机の上に山ほど載せられている書類に目を通し始めていた


それでもカレンは連れ出そうとするダハットとアンガーに逆らい心の奥底から言葉を絞り出す


「ぁ・・・・・・わ、わたくしは・・・それでもロウニール様を信じております!貴族の娘としての勘が『ロウニール様を信じよ』と告げるのです!・・・再考してくださいとは言いません・・・ですがもしほんの少しでも迷いが出た時はわたくしの言葉を思い出して下さい・・・勇者は人類の希望かもしれませんが・・・ロウニール様は間違いなくわたくしの希望でした・・・だからその」


ファゼンは無言で手にしていた書類を机の上に叩き付けカレンを睨むとカレンは言葉を止めてしまう・・・が、一瞬怯んだもののファゼンを睨み返すと止めた言葉を続けた


「迷ったら・・・思い出して下さい・・・ロウニール様は・・・あっはー!?ちょ、あなた達!空気を読みなさい!今大事な・・・」


「失礼しました!」


結局最後まで言えずカレンは2人に抱えられ部屋の外へと連れ出されてしまった


呆気にとられたファゼンはしばらく立ち尽くし我に返ると最後まで言えずに連れ去られる娘の姿を思い出し鼻で笑う


そして・・・


「誰か!誰かいないか!」


「はっ!お呼びでしょうか?」


「・・・購入するリストにこれも追加しておけ・・・これもできる限り多く集めよ」


そう言うとファゼンは何かをメモして入って来た者に手渡す


「畏まりました・・・これは・・・」


「単なる保険だ・・・もし使う時があったとしたら・・・私は引退・・・だな──────」





エモーンズは揺れていた


大都市としてようやく機能して来た時に突然の国からの宣戦布告


その揺れは冒険者ギルドも例外ではなかった


「ダメだ話にならねえ・・・街を出ろの一点張りで聞く耳なんてありゃしねえ」


「そう・・・ですか・・・」


冒険者ギルドギルド長のフリップ・レノス・サムスがボヤくとそれを聞いていたペギーはうわの空で返事をする


「・・・安心しろ。何かの間違いだろ?公爵まで上り詰めた奴を簡単に切る真似なんてしないはず・・・せめて何がどうなってこうなったか聞ければ反論も出来るんだが・・・」


「そう・・・ですね・・・」


「・・・ったく・・・どうした?ウチの自慢の受付嬢は・・・これくらいの事でビビっちまったか?」


「これくらいの・・・勇者が大軍が・・・ロウニール君を魔王と思って攻めて来るんですよ!?」


「だから?」


「だっ・・・ギルド長!」


「そう喚くな。何かの間違いであって欲しいとは思ってるがもし間違いでなくともロウニールなら何とかしちまうとも思ってる・・・お前さんは違うのか?」


「・・・」


「安心しろ・・・とは言わねえがもうちっとロウニールを信じてやれ。で、だ・・・誤解が解けりゃ御の字だがどうもこのまま向かって来るような気がする。そこで冒険者ギルドとしてどう動くか決めないとならん」


「冒険者ギルドとして・・・ですか?」


「冒険者ギルドは国の機関だ。つまり俺達はロウニールの敵・・・って事になる」


「なっ・・・」


「だからギルド長として最後の命令を下さなければならない・・・この街から撤退せよ、とな」


「・・・」


「ギルド職員はその命令に従わなければならない・・・さもなくば除名され宣戦布告を受けた側になるだろう。今なら宣戦布告した側だ・・・他の街に行っても手厚い歓迎を受け仕事も継続する事が出来る。転勤という形でな。もちろん家族も一緒・・・さてどうする?」


「・・・家族・・・」


「俺にもまだまだ小さい娘と愛する嫁さんがいる・・・家族の事を思えばぶっちゃけ一択だ・・・お前さんにも家族はいるだろう?だから悩め・・・悩んで決めるんだ・・・ここに残るか街を出るか・・・」


「ギルド長は?」


「俺は・・・エモーンズの冒険者ギルドのギルド長だ。それ以上でも以下でもない」


「答えになってな・・・そっか・・・()()()()()の・・・」


「そういう事だ。家族は・・・まあ何とかする・・・元々俺は国のやり方が気に食わなくて王都から最も遠いこの街に来た・・・それなのにこれまた気に食わない国の指示を聞いてここで逃げて生き長らえても・・・この先お天道様の顔をまともに見れそうにないからな」


「ギルド長・・・わ、私も・・・同じです!」


「フッ・・・なら考えるか・・・どうやったらこの状況から大事な人を守るか・・・俺達に出来る事は何かを、な」


「はい!」


残ったとしても出来る事は限られている


更には守るべきものが2人にはある


だが2人は茨の道を選んだ・・・自分の意志を貫く為に



「・・・なあ、お前さんが俺と同じって事はねえんじゃねえか?別に今まで国に不満を感じたりしなかっただろう?」


「いえ、あります」


「あんのかよ・・・どんな不満だ?」


「女性を道具のように使うやり方が気に入りません!女性というだけで受付嬢やらされたり・・・そもそも『受付嬢』ではなく『受付』でいいのでは?まるで男性はそんな仕事やりませんと言っているようで不愉快です。それに聞いた話ですと貴族の女性はもっと酷い扱いを受けているとか・・・そういった話を聞く度にその場しのぎで解決するのではなく根本・・・つまり国を変えなければならないのでは?と思っていました。いい機会です・・・この機会に国の考え方を諫め変えてやりたいと思います!」


「お、おう・・・なんかすまんな・・・」



スウ、セシーヌ、カレン、ペギー・・・ロウニールと勇者の対決をよそに女達の戦いが始まろうとしていた──────

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