504階 追い詰められたニセ魔王
青い空、広い海・・・潮の香りを多分に含んだジットリとした風が鼻腔をくすぐる
遂に・・・港が完成した
屈折2年・・・長いようで短いのかもしれないけど僕としては大都市計画を打ち出してから今か今かと完成を待っていたので感動もひとしおであり長い間待たされたような気がしてしまう
色々あった・・・作り途中の桟橋が波にさらわれてしまったりここまで海水は来ないだろうとタカをくくってたら予想以上に海面の水位が上がって水没してしまったり・・・アキード王国の人に言わせると潮の満ち引きは未だ解明されてない事も多く完全に水位を計算するのは難しいのだとか
かと言って高く作ってしまうと引いた時に海水と地面とが離れてしまうし低く作ると水没する・・・桟橋は海面の水位によって上昇したり下降したりするから船に乗り込むのは可能だが接岸するのは難しい
港自体も水位に合わせて上昇したり下降したりするべきかも・・・でもそうなると陸地との行き来が難しくなるし・・・
「どうしました?せっかく完成した港を前に難しい顔をされて・・・」
「完成と言っても改良の余地はありそうだなって考えていただけだ」
最終確認の為に僕とナージで港を歩いていると僕の顔を見てナージが問う。これでアーキド王国との交易が始められるはずだから喜んでいるであろうと思ったのに晴れない顔してたから疑問に思ったみたいだ
「・・・完成とは単なる目処かもしれませんね街もそうですし港も完成という形となりますがどちらも改良の余地はあります。本当の意味での完成はないのかもしれません」
「かもな。日々進歩もしてるしもっといい考えが浮かぶかもしれないし・・・ここで完成って止めちゃうとそれ以上は望めないもんな」
「ですが目処は必要かと・・・目標があってこそ人は働く意欲が出るというものです。エンドレスに続けさせていたらやる気も失せてしまうでしょう」
「目処か・・・そうだな。アーキド王国からの船を迎え入れる事が出来そうだし一旦目処が立ったって事での完成でいいかもな」
「はい・・・ところで妙に街の方が騒がしいような・・・」
そう言って港に向けていた視線を街に向けると確かに騒がしいような気がする・・・ん?
街の方から港へ兵士が1人・・・慌ててこちらに向かって走って来る
その姿を見てようやく街に何かがあって騒がしくなっているのだと気付いた
「申し上げます!王都より使者が参りまして・・・その・・・」
「王都から使者が?私に用事か?」
「いえ・・・その・・・」
「なんだハッキリ言え」
ナージが急かすと兵士は唾を飲み込み想像だにしなかった言葉を僕達に告げる
「フーリシア王国から・・・宣戦布告されました──────」
港から戻り緊急会議・・・集まったのはエモーンズの主要メンバー全員だ。何故かキース家族もいるが・・・シュルガットを改心させた後もここに住んでいるから戦力と見ていいのかな?まあ逃げたきゃ勝手に逃げるだろう
「国がその国の公爵に宣戦布告ってのはどういう訳だ?何かしたのか?ロウニール」
「こっちが知りたいくらいだケイン将軍・・・最近は王都に顔出てないし街の事で精一杯だったから・・・」
心当たりがあるとすれば『魔王』の件・・・だけどフーリシア王国は事実を知っているはずだ・・・だからたとえ僕が魔王を演じていようとそれに乗っかることはないと思ったけど・・・
「閣下は勇者が来ると仰ってましたがそれ関連でしょうか?」
「うん、その可能性が・・・その可能性しかないな。けどここにいるみんなも知っている通り勇者が来る理由は僕を魔王に仕立て上げているリガルデル王国の第二王子のせい・・・フーリシア王国は魔王が既に討伐されている事を知っているし勇者が来るのに合わせて戦争を仕掛ける理由がない」
「使者は何と言っていたのですか?」
「聞いた話では『フーリシア王国軍はエモーンズに侵攻を開始した。罪なき者に害を与えるつもりはないのでエモーンズの住民は速やかにエモーンズより離れよ』みたいな事を言っていたらしいです」
罪なき者ねえ・・・それを言ったら全員罪なき者なんですが・・・
僕とナージが港から街に戻った時には王都から来た使者は既にエモーンズから立ち去っていた
追う事も考えたが言葉を伝えに来ただけだろうし何も得られないと思い断念し主要メンバーを集めて緊急会議を開く事にした・・・が、はっきり言って現状だとどうする事も出来ない
「王都に行って問い詰めればいいんじゃねえか?」
「宣戦布告して来た相手の所に行けと?」
「お前なら余裕だろ?」
「出来なくはないが何人か死ぬぞ?」
「・・・そこをなんとかしろよ」
無理だろ
ゲートを使えば難なく王様の所には辿り着けるだろうけど話す事は出来ない・・・僕が現れた瞬間に護衛が襲って来るはずだ
いや待てよ・・・目立たずゲートを開いて王様に近付けば周りに気付かれずに話くらいなら・・・
でも何を話す?『宣戦布告をしたのは何故か』と聞いて素直に答えてくれるか?僕は最近何もしていないし王都にすら行ってない・・・となると理由はやっぱり・・・まさか!
小さくゲートを開く
王都にではなく国境付近に
そして視線の先にゲートを開き徐々に進んで行くと・・・
「・・・やってくれる・・・」
「どうされましたか?」
「フーリシア王国は同調しただけだ・・・エモーンズに攻め込もうとしている勇者にな」
そういう事か・・・てっきり勇者は自分のパーティーのみを連れてここに来るとばかり・・・まさか大軍を率いて来るなんて思いもしなかった
このタイミングでフーリシア王国が宣戦布告をして来たって事は既に話がついているのだろう・・・共に魔王を倒すべし・・・ってか?
「勇者に同調して?それは一体・・・」
「魔王を討伐すべく動き始めた勇者・・・その後ろに大軍を引連れて、な。目指すはエモーンズ・・・その大軍をどう使おうとしているか分からないがフーリシア王国はその大軍に加わるつもりなんだろう」
「・・・そうなると事前に話を通していたという事になりますね。そうでなければ使者をこのタイミングで送る事は不可能・・・そしてフーリシア王国軍が加わるという事は他の国も・・・もしかすると全ての国の連合軍やもしれません」
「かもしれないな・・・最悪だ・・・なぜこうなると予想出来なかった・・・」
6縛りの結界があると勇者も当然考えるだろうから大軍で攻めるはずないと考えてしまっていた・・・待てよ・・・まさかフーリシア王国が魔王討伐の事を話したとか?・・・いや、それなら勇者がここに来る理由がなくなるはず・・・ならどうして結界があると分かっているのに大軍を率いて?
「もしや閣下が魔獣を喚び出し勇者を攻撃すると警戒して?」
あーそういう事か・・・僕は勇者を迎えて戦う気満々だったけど向こうにはその意思は伝えてない・・・ならそれなりの準備はして来るはずだ・・・5万の兵士を虐殺されたのなら数を増やして対抗する・・・で、その隙に勇者は僕を討つ作戦か・・・相手の立場になれば分かりそうなものを・・・やってしまったな・・・
《では・・・んん!では我々で有象無象の人間共を始末すればよろしいのでは?ものの数十秒で瓦解させてみせましょう」
何の解決にもなってない!
まあ途中から魔力を込めなかったのは偉いけども!
「ベル・・・それから他の者にも伝えておく・・・今回は誰も死なせたらダメだ」
「お待ち下さい閣下!それはあまりにも・・・」
「ナージ・・・前回はリガルデル王国がフーリシア王国に戦争を仕掛けて来た。フーリシア王国を数の力で蹂躙しようとしたから先にこちらから仕掛けたまで・・・でも今回は違う・・・上の連中はどういう腹積もりか知らないけど魔王を倒すという名目で兵を起こしエモーンズへと向かっているんだ・・・向こうには『魔王討伐』という大義名分がありそれを迎え撃つ僕達には大義名分なんてありはしない・・・その状態で誰かを傷付けてしまったら・・・僕は本当の魔王になってしまう」
少なくとも兵士達の大半は『魔王を倒す為に勇者に協力する』と思っているはずだ。決して私利私欲の為に好んで攻めて来ている訳じゃない
「しかしそれでは・・・」
「なーに、向こうも無実の住民に危害を加えたりしないさ。何なら僕が住民達を人質にしていると思わせてもいい・・・結局6縛りの結界の中に入れるのは6人だけ・・・その結界の中で誤解を解けば・・・」
「その考えは甘いと思われます。扇動したのがリガルデル王国の第二王子だと言うなら特に」
「なに?」
「考えてもみてください。第二王子は実績を作り王となる為に勇者を利用するような方・・・その方が各国から大軍を集め何の成果もなく引き下がると思いますか?」
「いやでも・・・勇者が僕を魔王じゃないと分かり引き下がれば否応なしに引き下がるしか・・・」
「フーリシア王国が絡んでなければそうなる可能性が高かったかもしれません。ですが魔王討伐済みという事実を知るフーリシア王国が加担しているとあれば話は別です。例えば第二王子が既に閣下が魔王ではないと知りながら軍を出していたとしたらどうなると思いますか?」
第二王子が?つまりフーリシア王国の誰かが魔王討伐の件を漏らしたと?・・・もし第二王子が知ってて軍を向かわせているのなら・・・どうなるんだ?
「まさか第二王子は端から勇者を騙して・・・邪魔になりそうなロウを消すつもり!?」
え?そうなの?
「おそらくは。魔王亡き後邪魔になるのは魔物と魔族の生き残りと強き者・・・今現在ですとその強き者とは・・・5万の軍に匹敵する力を持つ閣下と魔王を討伐する力を持つ勇者・・・邪魔な魔物と魔族は勇者に討伐させ最終的に閣下と戦わせ両方を仕留める・・・突出した強さを持つ者がいなくなった後ゆっくりと始めるのでしょう・・・大陸統一に向けた戦争を。作戦としては理にかなっていますし見事だと思います」
「勇者は利用されてた?そして最後に僕と戦わせて・・・けどもし勇者が僕を倒したらどうするつもりなんだ?」
「当然始末するかと・・・もしかしたらその為の軍かも知れませんね・・・それとエモーンズの住民は魔王討伐の件を知っていますので生かす気はないと思います・・・無抵抗でも『魔王の手先』と決め付ければ始末する理由にはなるでしょうし」
「・・・僕が勝ったらどうするつもりだ?」
「同じ事です。勇者と戦い手負いになった閣下にトドメを刺しに来るでしょう。魔王は勇者しか対応出来ませんが閣下は魔王ではありませんので」
そんな事するか?勇者を利用して僕までも・・・その理由が強くて邪魔だから?それだけの理由で無実の住民まで巻き込んで?
てかそもそもフーリシア王国が僕を裏切るか?公爵にまでして抱え込もうとしていたくらいだし・・・確かに宣戦布告されたけどそれはリガルデル王国から来る大軍を目の前にして同調しているフリをしているんじゃ・・・けどそれなら事前に裏で話があってもおかしくない・・・じゃあやっぱりフーリシア王国が僕を裏切った?それでリガルデル王国の第二王子と企み僕の元に勇者を?
「提案ですがこうなった以上独立宣言をするべきです。そして今奴らが行っている進軍を侵攻と断じて抵抗するべきです。幸い抵抗する術はあります・・・閣下のお力・・・それに魔族の方々の力を合わせれば何万といようと軍を追い返す事が出来るはず・・・それから勇者の誤解を解いても遅くはないかと・・・」
ナージが言うように何人来ようが追い返せる自信はある・・・けどまた何千何万の人を・・・しかも今度は戦争をしに来た訳じゃない人を・・・
「でもそれって全部ナージの憶測じゃねえか?そりゃあ宣戦布告とかして来てるしロウニールが見たっていう軍も本物だろうけどよ・・・」
「はいあくまで憶測です。しかも最悪の事態を想定したものですので今言った限りではないと思われます。が、事態は急を要します・・・フーリシア王国からの宣戦布告・・・そしてフーリシア王国に向けて進軍する勇者率いる大軍・・・時間はあまりありません・・・真実が別にあるにしても早めに決めなければならないかと」
「・・・決める?」
「撤退か徹底抗戦かです」
撤退って言ったってどこに・・・てか徹底抗戦だと多くの人が・・・なんだよそのふたつしか道がないって事か?いやもっと何かあるはずだ・・・きっと何か手が・・・
「・・・まだ時間はあるだろう?・・・少し考えさせてくれ」
「はっ」
なんでこんな事に・・・魔王のフリをしたからか?それともその前・・・5万の兵士を・・・いや違うな・・・あの時か・・・
屋敷のお披露目パーティーの時・・・マルスの協力してくれって言った言葉に頷かなかった・・・あの時から・・・
こうなる事は決まっていた・・・そんな気がする──────




