503階 選ばれし者
「くそっ!あの王様・・・こっちの意見なんて聞きやしねえ!」
「ちょっとジーク!外に兵士の人がいるのに・・・聞こえちゃうよ!」
「構わないさ!何が『フーリシア王国には話は通している』だ!勝手な事を言いやがって・・・」
リガルデル王国の王都サーテルデールに来た僕達を迎えた王は突然僕達にこう告げた
『各国の軍を率いてフーリシア王国に攻め込んで欲しい』と
僕だって予習じゃないけど勇者の物語は読んだ事がある・・・けどそんな事をした勇者なんてこれまでいなかった・・・勇者の物語はあくまで勇者と魔王の戦いを描いたもの・・・決して人類と魔族の戦争を描いたものじゃない
もし軍を率いてフーリシアに攻め込んだら向こうも魔物を大量に出して来る可能性が高まる・・・そうなれば犠牲は増える一方・・・断らなきゃいけないのにここの王は人の話を聞きやしない
「エモーンズにいる魔王を刺激しちゃダメなのに・・・大軍で動けば向こうも大軍を出すに決まってる!それなのに・・・」
「けど王様の言ってることも分かる気がする・・・ほら、魔王がリガルデル王国軍を・・・」
「だからそれはリガルデルが刺激したからだろ?同じ事を繰り返そうとしてるだけじゃないか!」
「でも・・・私達で守れる?5万の兵士を一瞬で虐殺してしまった魔物の大群が出て来た時に・・・私達だけで守り切れる?」
「・・・」
ラナの言う通りだ・・・みんなは強い・・・けどあくまでも魔王に対抗する為に集めた少数精鋭の仲間達・・・もし魔物の大群が各地で暴れたら対処は難しいだろう
その時の為に軍を率いるのは一見正しいように思えるけど・・・
「あくまでも何かあった時の為だって言ってたし・・・あまり事を荒立てるのも・・・」
「・・・分かってる・・・」
厚意で言ってくれてる事なのは分かってるし断る理由もない・・・けど本能がそれを拒んでる・・・連れて行くなと・・・
「他の国も納得しているみたいだしもう集まっているとか・・・今更断れそうな雰囲気じゃないし・・・ね?」
「・・・一言くらい相談してからでも遅くはないのに・・・」
各国から既に出す予定の軍はリガルデルに向けて出発しているらしい。その軍が揃い次第僕達は進軍する・・・フーリシアのエモーンズを目指して
軍を率いてとは言うもののただ先頭に立つだけで指揮は別の人がするらしい。各国の将軍や軍団長が各々の軍を率い総大将としてリガルデルの将軍の・・・
「あれ?誰か来たみたい」
ノックの音が鳴り響きラナがドアの近くに行き返事をすると鎧姿の人が現れた
「お初目にかかります勇者殿。今回の総大将の地位を任せられたアルオン・マダスト・エシリスと申します」
そうそうアルオン!この人が軍の指揮を執るらしい
にしても・・・カッコイイな・・・姿勢も立ち振る舞いも・・・顔も背の高さも・・・まるで絵本から出て来たような『騎士』って感じがする
「あ、ど、どうも・・・ラナです」
「よろしくお願いしますラナさん」
・・・チッ・・・
「顔合わせは後日と聞いてたけど?こっちはラナと大事な話をしてたんだ・・・いきなり来られても困るんだけど?」
「ちょっとジーク!失礼だよ」
「いえラナさん予告なしに訪ねて来た私が悪いので・・・それではまた折を見て訪ねます」
コイツ~・・・このまま帰すと僕が悪者みたいじゃないか!
「別にいいよ!話は終わったから。で、何の用?」
「ジ~ク」
「ははっ、ありがとうございます。大した用ではないのですが・・・勇者ジーク殿にご挨拶と聞きたいことがありまして」
「・・・聞きたいこと?」
「はい。魔王に挑まれる際に今のお仲間から5人選ばれると思います。『6縛りの結界』・・・その結界に勇者殿と挑む5人はもうお決まりなのかと・・・」
「・・・まだだよ。てか決まってたら何なの?」
「ジーク!」
「・・・選ばれなかったとしても皆さんかなりの実力者です。結界の外で魔族や魔物との戦闘も考えられますので選ばれなかった方々にお手伝い願えないかと思いまして」
くっマジか・・・って事はラナを選ばなかったとしても魔族や魔物と戦う羽目になるって事?
僕以外の5人はとっくに決まってる・・・けどラナは反対するだろうからギリギリまで決まってないフリをしようとしてた。ギリギリならラナも諦めてくれると・・・
危険な場所にラナを連れては行けない・・・まあ散々ダンジョンとか行っといて今更だけど・・・ぶっちゃけあの魔王と戦ってどうなるか分からないんだ・・・
これまで多くの強敵に出会った
魔物も強かったけどそれ以上に厄介なのが魔族・・・それでも勝てないと思ったのはファミリシアで見たあの魔族達だけ
その魔族達にも今は勝てると思う・・・ただあの魔王だけは分からない
勝てるのか負けるのか・・・やってみなくちゃ分からないという不安がラナを連れて行けない理由だ
でもどうしよう・・・コイツにラナを任せるなら僕が一緒にいて守った方が・・・でも相手はあの魔王だ何があるか・・・
「・・・大分お悩みのようですね。まあでも確かに決戦を挑む仲間を決めるのは簡単には出来ないのは分かります。それでも何人かはお決めになっておられるのでは?」
「・・・まあね」
「差し支えなければ何人かでもお教え願えませんか?」
グイグイ来るなコイツ・・・ラナも何故かコイツの味方して教えてやれと顔で訴えてくるし・・・ううっ・・・
「・・・シャスとコゲツは決まってる・・・後は未定だ」
あんまり言うとバレるからな
特にラナと同じヒーラーのダンテは言えない
「・・・そうですか・・・シャス殿とコゲツ殿・・・ふむ・・・」
「なんだよ・・・何かおかしな事言ったか?」
「いえ・・・やはり数が合わないと・・・」
「数?」
「これまでの勇者殿はご自分の出身地から選びません。ジーク殿も同じように選ぶとしたらタンカーであるシャス殿を選ぶとしたら後衛アタッカーである魔法使いはウルティア殿だけに・・・ですがジーク殿はファミリシア王国出身であり・・・」
「そっか・・・ジークがファミリシア出身だからファミリシアからは選ばれない・・・かと言って魔法使いはバウムさんとウルティアさんだけ・・・同じ国からは1人しか選ばないとしたらシャスさんを選んだ時点でバウムさんは・・・」
「・・・それは僕がファミリシア出身だったらの話だろ?」
そう・・・アルオンとラナの言う通り僕がファミリシア出身なら数が合わない
シャスの他にもタンカーはいる・・・けど魔法使いはバウムとウルティアしかおらず僕がファミリシア出身ならウルティアではなくバウムを選ぶ事になる
同じ国からは1人、僕の出身地からは選ばれない、同じ職業は被らないって法則から言うとシャスは選ばれないはずだった
けど・・・
「何を言ってるの?ジークは私と同じ孤児院で・・・」
「うん・・・生まれも育ちもファミリシア・・・ラナと同じね。でも・・・」
この事はラナにさえ話してない
あまりにも強烈で・・・歪で・・・恐ろしくて・・・話せなかったんだ
でも・・・
「・・・僕が勇者となった後、ファミリシアの王様に呼ばれた時の事を覚えてる?」
「え、ええ・・・」
「その後に僕は親に会った・・・ラナは気を利かせてくれて僕とその親だけで会ったでしょ?」
「うん・・・確かあの方は・・・」
「そう・・・アイツは聖者・・・いや、元聖者か・・・」
「アイツなんて・・・いい人そうだったしジークに会えて喜んで・・・」
「うん・・・喜んでいた・・・僕が勇者と知りフーリシアに帰るコマとして使えそうだったから・・・」
「え?」
「ラナと同じようにみんな気を利かせて僕とアイツを2人っきりにした・・・そしたらすぐに正体を現したよ・・・僕が孤児院にいた理由もクソだけど一番のクソはアイツだ・・・」
「ジーク・・・一体・・・」
「・・・あの時はラナには黙ってようと思ったけど・・・話すよ・・・それに僕がファミリシア出身と思われてたらいざ魔王の前でウルティアを選んだら混乱するだろうし・・・総大将のアルオンも聞いてくれ・・・僕がファミリシア出身ではない理由を──────」
それは2人きりになった後だった
僕の父親だと名乗り出たのは先代の聖者としてファミリシアで活躍していたラージ・アン・メリアその人だった
僕はそんな人の子供だったんだと少しだけ舞い上がった・・・けどすぐに疑問が浮かんだ・・・なぜ僕は孤児として孤児院で暮らす事になったのだろう、と
その事を問い質すとラージは言い訳を始めた
フーリシアに訪れる機会があったラージ・・・そこでとある女性に手を出した。当時のラージには妻と子供がファミリシアにいた状態にも関わらずだ。ラージはそのままその女性と別れファミリシアに戻るがその女性は子供を身篭っていた・・・それがどうやら僕だったらしい
だがファミリシアにいるラージはそれを知らず何年かしてその女性がファミリシアにいるラージを訪ねて来た時に初めて知った
けどラージはその女性に『自分の子かどうか分からない』と女性を突っ返し途方に暮れた女性は死を選ぶ・・・幼い子を残して
そして僕は拾われ孤児院へと連れて行かれたのだとか
「そう・・・だったの・・・」
「・・・おかしいですね。その状況ですとラージ殿はジーク殿が自分の子だと分からないのでは?」
「あっ・・・そう言われてみればそうかも・・・なんでラージ様はジークが自分の子だと分かったの?」
「・・・僕もそれは疑問に思った・・・だから問い詰めたんだ・・・なぜ僕がその女性の子だと分かったのかと・・・そしたら白状したよ・・・どうやらアイツは恐れていたらしいんだ・・・僕の事が発覚するのを」
「え?どういう事?」
「・・・死んだ女性は当時フーリシアの聖者の侍女だったらしい・・・その侍女に手を出したのが発覚すればたとえアイツの息子が優れた力を持ちフーリシアの聖者に選ばれる資格があったとしても選ばれなくなるのでは、と」
「なるほど・・・確かフーリシア王国はその世代の最も優れている聖者聖女の中から自国の聖者聖女を決める風習が・・・もしラージ殿がフーリシア王国に戻りたいと願っているとしたら・・・」
「問題を起こしたくないって訳ね・・・あ、ごめん・・・別にジークが問題って訳じゃ・・・」
「気にしてないよ・・・で、その話を聞いた時に色々察した・・・侍女であったその女性をラージは監視していた・・・いや、もしかしたら自らの手で殺したのかもしれない。それで僕を孤児院に・・・だから僕が勇者と分かった時点で手の平を返して名乗り出たのだと」
「でもラージ様は自分の子じゃないかもって言ってたのよね?」
「いや・・・ラージ殿なら自分の子かどうか分かっていたはずです」
「え?それは・・・」
「・・・『真実の眼』・・・それを使えばその女性が嘘をついているかどうか分かったはず・・・」
「あ・・・」
「もし仮に僕がラージの子じゃなければ『分からない』なんて曖昧にせず否定したはず。それを『自分の子かどうか分からない』と言ったのは確信があったからだ・・・自分の子である、と」
「・・・」
「ここで話を戻そう・・・出身地とはどこを指すのか・・・育った場所は間違いなくファミリシア・・・けど産まれてどれくらいまでか分からないけど少しの間育ったはずの場所は・・・」
「フーリシア王国・・・ですね」
「うん。だから僕の出身地はファミリシアではなくフーリシア・・・」
「え、ちょっと待って!それなら私もジークと行けるじゃん!」
「・・・え?」
「だってほら同じ国の人は行けないのでしょ?それを知った時にあー私は最後まで一緒に行けないのかーって思ってたけど・・・」
ん?んん?・・・そうだ・・・そう言えばそうだ・・・僕がファミリシア出身だったらラナは・・・しまった!僕はなんで・・・
「各国から勇士を、各職業から光を、さすれば闇を葬り去らん・・・私も勇者の物語は好きでしてね・・・いつの時代の勇者が言った言葉か忘れましたがこの言葉になぞらえるなら確かにラナさんはジーク殿と共に行く資格はあるかと」
「ですよね!良かった・・・もちろん選んでくれるよね?」
アルオン!余計な事を!
どうしよう・・・めっちゃ期待した目で見てるし・・・
まさかラナが諦めかけていたのを僕が復活させてしまうなんて・・・これもそれもアルオンのせいだ
コイツ・・・見た目からして好きになれそうになかったけど・・・大っ嫌いだ──────




